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2019年7月7日〜7月10日まで開催された企画「魔法譚」のまとめ。 今回は期間外に投稿された作品のまとめです。 タグ「魔法譚」がついている書き込みをまとめました。 一応投稿順に並べてあります。

田中の日常 1

 「田中ぁ、またなあ」
 「おー、元気でな、平田ぁ」
 駅前のロータリー、久々に会った友人と別れた田中は、ポケットに手を突っ込みながらいそいそと帰路に着いた。
 桐崎町は不思議な町だ。確か町のキャッチコピーは「1日に四季のある町、桐崎町」みたいなだったか。何となく聞こえはいいが、よく良く考えればそんな町誰も住みたがるわけが無い。だから住民はみんなこの町に住み慣れた人達ばかりだ。こんな変な町に住み慣れたら、逆に他の町に慣れないのだ。出ていくのは友人の平田くらいのものだ。なんでもバンドを組んでよろしくやっているらしい。この間テレビにも出たらしいが田中の家にはテレビがなかった。
 「……ん?」
 いつも駅から帰る同じ道だが、行きつけのコンビニの斜向かいに見慣れない建物があった。
 「喫茶パ〜プル」
 看板にはそう書いてあった。こんな所にカフェが、いつの間に?あからさまに胡散臭すぎる。そう思いはしたが、田中は試しに入ってみることにした。
 ドアを開けると、小気味良いベルの音と共にコーヒーのいい匂いが漂ってきた。サングラスを外してドア近くのカウンター席に座る。店内には誰もいない、と思ったらカウンターの奥から店員らしき人が……。
 「……あ。」
 忘れもしない、その顔だ。長い金髪にいつもの青いエプロン。
 「やあ、田中。久しぶりだね」
 「なんだお前かよ。通りで胡散臭い外観だと思った」
 「なんだとはご挨拶だね。こんな美人が君との旧交を温めようと言うんだ、素直に喜び給えよ」
 「なんだよその話し方、ますます胡散臭いぞ。しばらく会わないからもう死んじまったのかと思ってたぜ」
 「ひどいなあ、勝手に殺さないでくれよ」
 大賢者。初めて会った時こいつはそう名乗った。大賢者なんて言うと白ひげのローブに三角帽子、なんてのを思い浮かべるかもしれないがこいつはどう見てもそんな大賢者には見えなかった。グラビア雑誌ぐらいでしか見かけないような外国人女性みたいな風貌(しかしどの国かと言われるとさっぱり分からないのだ)で、それでいて母国語のように日本語を話す。名前も年齢も分からない。つまりとにかく胡散臭い。

白昼夢見人
男性/20歳/兵庫県
2020-07-14 23:04

田中の日常 2

 「で、何の用だよ。わざわざこんな場所拵えるんには、俺に何か用があったんだろ?」
 「ちゃんと生きてるかなって」
 「じゃあその確認も済んだな、帰る」
 「ちょっ、ちょっと待ちなよせっかちだな。話があるんだよ」
 「……。」
 仕方なく腰を下ろす。ほっとしたような顔をすると、大賢者は手元のコーヒーミルをガリガリやりだした。
 「そういえば君はもう23なんだってね。大きくなったもんだ」
 「昨日で24だ」
 「おっとそれは失敬、なんせ久々だからね、誕生日なんて忘れてしまうよ」
 「失礼なやつだ」
 「20を越えた魔法使いは今のところ君と、あと一人だけだ。それになんだい、わたしがあげたアイテムもさっさと壊してしまったくせに」
 「仕方ないだろ、うっかり踏んじまったんだよ。よくある事じゃないか」
 「君がアレを壊した、と言った時、わたしの方がよっぽど焦ったものだよ」
 「あの時の顔は傑作だったな」
 「うるさい、全く図に乗っちゃって。どうやって君が生きてこられたのか不思議でたまらないんだよ」
 「で、なんだ、今更それを聞きに来たってのか。なんでもないよ、俺はただ普通に生活してただけだ」
 「だからそれがおかしいんだって言ってるじゃないか!あれから7年だよ、7年!一体どうやって……」
 「待った」
 田中は手を上げて大賢者の剣幕を押しとどめた。[いつもの]匂いだ。田中は椅子から静かに立ち上がった。大賢者はカウンターの向こうで何も言わずにまっすぐ立っている。
 田中はドアの方を向いた、途端に窓ガラスをすり抜けて青白い狼のような化け物が店の中に飛び込んでくる。さながらフェンリルだ。

白昼夢見人
男性/20歳/兵庫県
2020-07-14 23:06

田中の日常 3

 「おい田中、」
 「うるさい黙ってろ」
 そう言うと田中はフェンリルと目を合わせる。と、今にもこちらに飛びかかってきそうなフェンリルは動きをぴたり、と止めた。
 「…………!!!」
 横で大賢者がオーバーなリアクションをとっているが気にしない。ゆっくりと足をあげると、田中はフェンリルの脳天目掛けて真っ直ぐにかかとを振り下ろした。パァン!という音が響くと、フェンリルは粉が舞い上がるように散った。
 「……で、何の話してたっけ?」
 そう言いながら田中がまた椅子に腰かけると、大賢者は静かに、いつの間にか淹れていたコーヒーを差し出してきた。一口飲む。普通だ。
 「……確かに君の『目を良くして欲しい』って願いは叶えたけどさ……」
 「お陰でサングラスなしじゃ昼間は外歩けないんだぜ、迷惑してらあ」
 「それにしてはそうそうに君のアイテムとしてあげたサングラスは割ってしまったけれどね。全く、私もとんでもない魔法使いを生んでしまったよ」
 大賢者が頭を横に振る。
 「コーヒーごちそうさん。またそのもう1人の20歳越えにも会わせてくれよ」
 「はいはい。とは言っても彼女は最近忙しそうだからね。先になると思うよ」
 「いつでもいいさ。俺は暇だからな」
 そう言うと田中は席を立った。店を出ようとドアに手をかけると、大賢者が声をかけた。
 「サングラス、忘れてるよ」
 「あぁ、ありがと」

 桐崎町は不思議な町だ。青白い化け物はうじゃうじゃいるし、それ以上にヘンテコな金髪の美人がいる。それでも田中は、平和に暮らしているのだった。

白昼夢見人
男性/20歳/兵庫県
2020-07-14 23:08

霧の魔法譚 #1

大賢者がそこに踏み入るのは実におよそ100年ぶりのことであった。
当時辺境だった場所は今は立派な家々が立ち並ぶ住宅街となっていた。土埃の立つ未整備の道は舗装され、空き地ばかりが広がっていた場所にはたくさんの家が建てられている。しかし大賢者にとっては哀愁を誘うものでもなく、淡々と人気のない道を選んで進んでいく。

気が付くと霧の中を進んでいた。
だんだんと煙り始めたのではなく、気が付けば視界が白く染まっていた。まるでそうと気が付かずに神社の鳥居をくぐってしまっていた時のように。或いは迷いの森の深くへと立ち入ってしまっていた時のように。
こんな風に突然現れる霧なんかは、大抵魔法のにおいがするものだ。
そしてその中心にはもちろん、魔法使いが存在するもので。

からり、からり。

聞こえてきた足音に立ち止まる大賢者。下駄の鳴らすその音はだんだんと近づいてきており。
やがて白霧の向こうから、可憐な声を笑わせながら。

「あら、大賢者様。お久しぶり、けらけら」

一人の少女が浮かぶように現れた。


***
先週まで「魔法譚」という素晴らしい企画が開催されており、僕もそこに参加しようと思ったものの、残念な文章力のせいで期間内には完成しないことが発覚。主催者であるテトモンさんに「来週まで待って!」と言ったのが先週の金曜日(つまり締切日)だったと思います。
はい。その「来週」の”最終日”にようやく投稿です。まじでテトモンさん申し訳ございませんでした!
正直言うとまだ完成してません。本作大迷走しており、今の僕には手に負えない大きさになってしまった感を大変感じます。人間が生み出した怪獣に人類滅亡エンドを喰らうみたいな感じです(は?)。
ということで書き込んでいこうと思いますが、如何せんまだ完成してないので来週以降に続きます。学期末というのも重なり途中更新がストップするかもしれませんがご容赦ください。テトモンさんもう少しだけ待って……。いくらでも謝罪しますから……。

fLactor
男性/22歳/宮城県
2020-07-17 21:04

霧の魔法譚 #2

「ご無沙汰してるよ、シオン」

濃く立ち込める霧の中、街路灯の橙色の明かりは水に絵の具が溶け込むかのように照らされている。
まっ黒い影が落ちる大賢者の足元にまた一歩近づいて。

「ごきげんよう大賢者様。とても久しく感じるわ」

紫の髪飾りが印象的な着物を着た少女は、いつ以来だったかしらと小首を傾げながらほんのわずかに顔を綻ばせた。

「約百年だ、すまなかったね」
「まあ。どうしてそんなに長い間、会いに来てくれなかったんです?」

少女は大賢者を責めるように唇を尖らせる。

「私は基本的にマジックアイテムを渡すだけで、それ以外は傍観だからさ」
「わたしは会いたかったのですよ?」
「…………」
「それに会いに来るって約束もしました」

今来たからそれはノーカンと言ったら乙女失格なのだろうなと思いつつ、そうだねごめんねと謝った。感情がこもっているかいないか微妙なラインだったが、彼女は赦してくれたようだ。
けらけら、と笑い。

「それで。大賢者様は如何な用事で?」
「久しぶりに君に会いに……と言いたいところだけど、そうじゃなくてね」

大賢者は空中に手を伸ばすと、次の瞬間には水晶の球が収まっていた。
それはなぁにとシオンが尋ねると、大賢者はまあ見ていてくれ給えよと二人の目の前に差し出す。
この水晶は一種の録画再生機器として機能する。
大賢者がパチンと指を鳴らした。

「…………」

映し出されたのはファントムの大群だった。しかし普段見るようなファントムとは何やら違う雰囲気を感じる。
海、それも奇妙に凪いだ水面に影一つ落とすことなく。それはさながら海戦で死んだ兵たちの亡霊のような。
水の上を滑るようにして進むその数、

「推計で3万ほど、だそうだ」

fLactor
男性/22歳/宮城県
2020-07-17 22:19

霧の魔法譚 #3

「推計で3万ほど、だそうだ」

魔法使いの中でも情報収集や分析が得意な者たちに調べてもらった結果だ。
通常ファントムが現れる場合は多くても十数体というところ。魔法使いになりたての、与えられた力をまだ十分に使いこなせない子たちには少々きつい数だろうが、少し慣れればどうということはない。さらに魔法使いが持つ潜在能力はその子の身の丈に合わない大きさに成長するものまであり、百や二百を簡単に蹴散らす魔法使いも少なくはない。
しかし、3万という数は。
「普通に考えて災害だよ、魔法使いにとっては」
いわゆる数十年に一度レベルのこの災害は大攻勢と呼ばれている。
大攻勢の時のファントム一体一体はむしろ通常時より弱く、攻撃パターンも少ない。言ってしまえば大量生産された鋳造品であり、戦術的にも御しやすいのが大攻勢の特徴だ。
異常なのはその数のみだが、これが最も厄介な点だ。早死にしてしまう魔法使いたちは常に人口が少なく、戦力を一定に保つことができない。つまり常に少数精鋭で戦わなければならないということであり、魔法使いが保有する精神力というリソースの限界も相まって、魔法使いは莫大な兵力差で攻めてこられるのを宿命的に最も不得意とするのだ。
津波のような物量でもってすべてを押し流すゆえ、災害。
かつて日本を襲った3度の大攻勢の中には、悲惨な結果に終わったものもあった。

シオンは何の反応も示さず、黙ったまま大賢者の話を聞いていた。
水晶に映し出された3万のファントムの大軍を前に、大賢者は語る。
「さて、本題だが。今まさに日本において4回目の大攻勢が仕掛けられようとしている。3万という阿呆みたいな数のファントムが――」
いつの間にもう片方に握られていた水晶、その内側に過去に類を見ないファントムの大軍を映し出して。

「――同時に、過去最大の5回目の大攻勢を伴う形で、だ」


***
先週ぶりの投稿です。
シオンのもとを訪れた大賢者は、数十年ぶりに”大攻勢”が迫ってきているということを伝えます。ただでさえ3万という桁違いな数の第4回大攻勢は、しかしまだ序の口にすぎませんでした。大賢者は同時に、さらに多くのファントム軍が存在しているとシオンに伝えるのです。

fLactor
男性/22歳/宮城県
2020-07-21 17:39

霧の魔法譚 #4 1/2

とある海岸にて、海上に現れたファントムを迎え撃つために多くの魔法使いたちが準備に追われていた。
ファントムの軍はゆっくりと移動しており、もう間もなくこの岸に到着する。迫る開戦を前に、この場の指揮を任された魔法使い――イツキは最後の作戦確認を終えようとしていた。

「――……ファントムどもが岸に到着する前に遠距離攻撃で数を減らす。到着したら盾役と近接攻撃で遅延させ、回復と休憩をローテしながら戦う。広域魔法を持っている者はそれぞれの部隊の指示に従って発動する。この作戦でいいな」

ブリーフィングに集まっているすべての魔法使いを見渡す。ここにいるのは少なくない間魔法使いとして生きてきた者たちだ。
魔法使いにとって少なくない間を生き抜くというのはとても難しい。魔法の使い方を心得る前に、または魔法自体が弱すぎてファントムに殺されてしまうものが多いからだ。それゆえ大人の魔法使いは少なく、事実この場にいるのも大半が高校生以下の者たちだ。
イツキは魔法使いになって11年目。今年で21歳となる彼はこの中では間違いなく年長である。

今まで生きてこられたのは頼れる仲間と魔法があったからだが、だからこそ絶対に仲間を守ってみせる。
「じゃあ最後に。これから迎え撃つのは海の上からやってくる3万のファントムだ。数十年に一度の災害ってやつだ。初めての俺らにとっては未知の体験、怖くない奴なんかいない。……正直俺だって怖い。だがお前の手の中を見てみろ。そこにはお前の使いたかった魔法の力がある。お前の隣を見てみろ。ここまで生き残った頼れる仲間がいる。
大丈夫。自分の魔法と仲間を信じろ!」

fLactor
男性/22歳/宮城県
2020-07-24 18:12

霧の魔法譚 #4 2/2

最後に一拍置き、気合を溜めてから言い放つ。
「お前らの本気、奴らに見せつけてこい! では出陣!!」

イツキの号令は魔法使いたちを十分に奮い立たせられたようで。
「「「おおーー!!」」」
魔法使いたちの気合の咆哮がブリーフィングルームに反響し――。
「ストップストップーー!」
明らかにこの空気にそぐわない間抜けた声がそれらすべてをかき消した。

思わず片手を振り上げたまま固まってしまうイツキと、口が開いたままやはり固まってしまう魔法使いたち。
見ると先ほどまで誰もいなかった場所に人が立っていた。
真っ青なエプロンドレスに緩くウェーブのかかった金髪。異国情緒というよりはファンタジーからそのまま引っ張り出してきたような恰好で、現実との乖離が甚だしいというか、コスプレかなと疑いたくなる。
目立つ風体の闖入者に、せっかく高揚していた場の空気が行き場を失う。
誰とか何故とか何をとか知りたいことが多すぎて、誰も何も言えず。
しかしいち早く落ち着いたイツキが誰、と訊くより先に。

「あれ、作戦会議ってもしかしてもう終わっちゃった?」

その声の主――大賢者はまたしても間抜けた声で、今度は間抜けたことを言った。
沈黙が再びその場に落ちる。

***
間が空きました。更新です。
場面は変わり、海上から進軍してくるファントムを迎え撃たんとする魔法使い陣営の最終ミーティング。リーダーであるイツキがその最後に仲間を鼓舞し、魔法使いたちの士気は上がり……かけましたが、大賢者の出現により台無しに。

fLactor
男性/22歳/宮城県
2020-07-24 18:28

霧の魔法譚 #5

「申し訳ない! この通り!」

転移魔法のタイミングが完璧すぎたせいでみんなの気合を根こそぎ刈り取った大賢者は、今はもう解散してイツキしか残っていないブリーフィングルームで平謝りしていた。
「大賢者の存在自体が全力で謝罪から誠意というものを奪っていってる気がする」
「ごめんって! いやこの格好については謝るつもりはないけども!」
「はぁ……、もういいっすよ。それよりこんな時に何の用ですか」
大賢者の中身のない謝罪は適当にぶった切っておいて本題に移る。
「なんだか謝罪を適当に受け流されたような気がするが……。まあ確かに時間を無駄にするわけにはいかないからな。それで今回はイツキに素晴らしい提案をしにやってきた」
「なんすか、それ」
「聞いて驚け、“空の旅”のご案内だ」
「……」
「…………」
「話したいことはそれだけですか? それじゃ僕はいろいろ確認することがあるのでこれで」
イツキが話は終わりとばかりに踵を返す。
「いやいやちょっと待ってくれ! 比喩! ジョーク! 空の旅はほら、あの、例え話だから!」
「ッ」
「舌打ちした!?」
「ふざけた言い回しすっからでしょうが!!」
「大賢者様、出立はまだですか?」
イツキが本気でイラつき始めたその時、大賢者の影から進み出てくる者がいた。
雪のような白い髪に藍色の着物。下駄をカランコロンと鳴らして大賢者の横に並び立つ。
「ちょっとふざけすぎたらイツキが怒っちゃって」
「あら大賢者様。人をからかうのもよろしいのですが、そろそろ話をお決めになられて?」
「うーん正論」
ごめんねと女の子に言うと、イツキのほうに向きなおった。

「すまないイツキ、少し手伝ってほしいことがある」

***
数日空きまして投稿です。
最近ばっちり期末に差し掛かってまして更新だいぶ遅いですが、しっかり完結させるのが誠意かなと思うので頑張ります。

イツキ相手にふざけて怒らせてしまった大賢者ですが、気を取り直してお手伝いを頼みます。

fLactor
男性/22歳/宮城県
2020-07-31 18:37
  • 期末テストか…自分も昨日まで期末テストでした。
    最後まで頑張ってください!
    陰ながら応援してます。

    テトモンよ永遠に!
    女性/21歳/東京都
    2020-07-31 22:54

霧の魔法譚 #6

「……いや、ちょっときついっす」
手伝ってほしいと真剣な面持ちの大賢者に頼まれたイツキは、すがすがしいほど高速で首を横に振った。思わず大賢者が大声で突っ込む。
「なんでだよ! 大賢者がわざわざ頼み込んでんだよ!? ほら君だって私からマジックアイテム貰ったんだからさあ、こういうときはどうすればいいか分かるだろ?」
「『分かるだろ?』じゃねえよ言い方恩着せがましいわ! てか事前にアポも取らずに乗り込んでくるとかお宅のキョーイクどうなってるんですか、キョーイク!」
こうなるともう売り言葉に買い言葉、沈静化に向かいつつあった両者の空気は一瞬にして再加熱し出した。
「仕方ねーだろ緊急性高くてアポ電で確認取ってる暇なんかなかったのこっちは! てかまだ手伝ってほしい内容すら言ってないのになんだその対応! もっと真摯に聞けよ!」
「うっせいきなり転移魔法で場の空気破壊しやがった挙句にふざけた態度ばっか取られてたら聞けるもんも聞けなくなるでしょーが! もうやだ一生手伝ってやらねーからな!」
「ちょっと軽いジョークいくつかぶっこんだだけでしょ!? しかも謝ったし! は? 謝ったんですけど!?」
「謝ったからって何なんだよ! なに、お子様対応でもすればいいの!? ”謝れたねー偉いねー”ってか!? んなもんできるかヴァ―……」

「お二人とも」

過熱しきって頂点を迎える前に呼び止めようとする声。凛として澄んだ声音は、しかし今だけ地獄のそこから這い出でるような緊張感をはらんでいる。
口喧嘩を止めて恐る恐る声の主を見れば、シオンがにっこりと笑んでこちらを見返していた。
「少し頭を冷やされてはいかが?」
顔は可憐に笑っていたが、薄く開いた目だけが笑っていない。
シオンの「さっさとしろ」オーラ全開の冷ややかな視線に二人とも何も言い返すことができず、その後の話の流れで(主にシオンが取り仕切った)結局イツキは大賢者たちを手伝うことになった。

***
お久しぶりです。#6更新です。
ついに大学に一歩も足を踏み入れないまま前期が終わりました。レポートがまだ二つほど終わってませんが締め切りがまだなので大丈夫でしょう←
シオンの圧に負け、イツキは結局お手伝いの話を飲むことに。イツキ君は不憫ですね。かわいそう。

fLactor
男性/22歳/宮城県
2020-08-12 11:43
  • 唯一まだ続いている魔法譚シリーズですよね。続きが楽しみです。

    何かが崩壊している者
    男性/22歳/埼玉県
    2020-08-12 17:57
  • 初めて読んだけどいいですね!
    これはポエムというのかはさておき。

    *・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

    でこぽんず
    女性/19歳/北海道
    2020-08-12 20:11
まとめⅤに続く。