この世界は非日常に溢れている
誰かのために生き、進んで己を捧ぐような善人には
理解できないようなそんな現実が……
四月の上旬になり桜も吹雪ききり、
葉桜になりつつある麗らかな日中、
奥馬市(おくま)にある私立桜ヶ崎高校
ではまさに入学・進級式が終わり、
クラスでの雑談に花が咲いていた。
個々を大切にするという校風のこの高校は、
体育を除いて服装は基本自由。
髪型や髪色、ピアス、化粧等使用可。
制服指定はされてないが市販の制服
(この場合も私服扱い)を着てきても良い
という感じの学校だった。
「オラァ、お前ら席につけー!」
体育会系を思わせるような如何にもな
ジャージを着用した強面の教師が入ってきたのを
見て、または、野太い威厳のある声を聞いて
クラス中の声がピタリと止まり
全員が席に着いた。
「改めてこのクラスを担任する、山上雅宣だ。
えっと、教科は数学、部活はまぁ知ってるとは思うけど陸上部の顧問だ。よろしく」
マニュアルのような自己紹介をして
各々の自己紹介に移った。
「出席番号1番と40番きりーつじゃん拳して負けた方から自己紹介なー」
「「「え~」」」「「「そりゃないよー」」」
各々不平不満を口にしつつ、じゃん拳を見守った。
最終的に40番の渡貫が勝ち1番からになった。
「じゃあ名前と趣味位かな、はい1番どうぞ」
「はい、1番の相浦叶多です。趣味は読書です」
「相浦、最近のおすすめはなんだ?」
「う~ん、湊ゆらさんですかね」
「先生も学生の頃は読んだなぁ、じゃあ次」
「はい、2番の入山累です。趣味は映画観賞です。」
「……」「……」「……」
と40番まで続いていくはずだった。
「はい、次5番」
「5番、現江凶禍よろしく」
「終わりか?趣味は?」
「…………」
「まぁ、あまり人に接するの得意じゃない奴も
いるからな気を取り直して次、6番」
見た目と性格が全くマッチしていない
紫髪の少女 現江凶禍(うつしえきょうか)
彼女は髪以外はとても地味、服も淡い色合い、
持ち物はモノトーン、そんな地味な風貌も
髪が黒いから地味に感じるらしく、
光るような紫の髪をしている彼女では
地味に感じない。ただ一つ、
紫色のギターケースを除いた持ち物なのだが……
午前中で学校は終わると言っても
退屈でしかたがなかった。
2年C組の神崎永魅理はホームルーム中
ずっと窓の外の空を眺めていた。
正しくは、空の中に浮かぶ『何か』なのだが…
「次は11番か、11番の奴ー。」
「…。」
「おい、神崎、お前の番だ」
「えっ、なにが?、あっ何がですか」
「はぁ、お前は外を見ながら寝れるのか…
器用な奴だな、自己紹介だよ」
「あっ、はい、11番の神崎永魅理です。
元1-Dです。趣味はオカ本漁りです。
これで大丈夫ですか?」
「あぁ、次は12番の北村ー」
「………」
「………」
「………」
また彼女は視線を窓の外に写した。
(あれ、いなくなってる……まぁ常に見かけるけど)
空にはく雲がなん欠けらしかないその虚空を
ただひたすら眺め続ける彼女は学校では不思議ちゃんで有名な人物である。
たまに不可思議、摩訶不思議とも言われている
彼女、神崎永魅理(かんざきえみり)は
全身緋色の格好をしている。
髪やブレザー、スカート、さすがに
ブラウスは白だかほとんどが緋色と
服装自由な桜ヶ崎のなかでも
群を抜いて奇抜な格好をしていた。
奥馬市には様々な建物が存在する。
自然史博物館や、総合公園、歴史館、
勿論図書館やショッピングモールもある。
そのなかでもひときわ異質な場所は、
鞍狩城(くらかるじょう)跡のある
挽袖山(ひきそでさん)だ。そこには以前は
山の中腹に語世神社(かたらせじんじゃ)があった。
そこでは神のなかでも閻魔大王や、
大口真神(おおくちのまかみ)のような
異質な類いの神を祀っていた。
しかし、最近あった、震度がそれほど大きくなく
規模も大きくない地震で建物全てが
倒壊してしまった。市は建物の老朽化として
処理をしたが、極一部の者から、
「戦国の世にその地に封印された
魑魅魍魎の王が復活した。」とか、
「王の祟りだ。」と言う声があがって
町中に広まった。以来誰一人近付かなくなった。
地震の直後あたりから空に「何か」が
飛んでいるのを見たという人物が出てきた。
その神社では、現穿彦命
(うつつうがちひこのみこと)という
存在しない神を祭神として祀っていた。
これは名目で、本当の意味は、
様々な説があるが1番の有力な説は、
王の封印し続けること。
時は戦国の世に遡る、
昔の奥馬市には、民を苦しめる
魑魅魍魎がたくさん蔓延っていた。
そこに偶然通りかかった人物が
民の苦しみに心を痛め、王の根城に行き
王を封印し、神社が建立された。
その倒壊からは、2年あまり経っていた。
見える者にはそこら中に「何か」が
見えるようになった。そういう人たちは、
山は勿論のこと、路地裏や公園等に
行かなくなり、夜の外出も控えるようになった。
夜な夜な「何か」の嘶きが、囀りが、
そして蠢きが、聞こえるそうだ。
日常と非日常が入れ替わってしまった。
奥馬市は、異形の蠢く非日常に飲み込まれた。
市街地の中にぽつんと茂っている木々から見える
近代的な建築物が点在している場所がある。
私立棚峰大学。理工学部、文芸部、外国語学部
農学部等、様々な学部の校舎が24haの中に
たくさん建っている。
部活動も盛んで地方大会の頂きになった
回数は数知れず、全国大会出場の部活動も
幾つも輩出している。
大学の校舎付近には幾つも喫茶店や、
ファストフード店や、レストランがある。
工学部校舎付近にある純喫茶「常世」。
連日、学生が時間を潰したり、
レポートを書いたり店内は常に賑わっている。
ちょうど正午付近になり、いよいよ満席状態。
その一席の中に黄髪の青年が独りで佇んでいた。
「お待たせしました、常世ランチです。
ごゆっくりどうぞ。」
「はぁ、午後の講義だるいな、あぁかったりぃな」
「お客様すみません、満席状態なので
相席でもよろしいですか?」
「あ、あぁ、はい」
「大変申し訳ありません」
「すみません」
「四人がけだったので申し訳ないなって思ってた
ところだったので」
「あの、お名前聞いても?」
「混村晶沌」
「私は兼崎藍可です」
「校舎はあそこですか?」
「そうです……」
「そうなんですね~そっか~工学部なんだ」
「かくいう貴方は?」
「外語学部です~」
「あっそろそろ講義があるんでどうぞごゆっくり」
「あっ、連絡先を~」
(あぁ、うるさかったなぁ、コーヒーが……)
そう言って席を離れ、会計を済ませ、
喫茶店を後にした、工学部1年
混村晶沌(まぜむらしょうと)は、
黄髪に黄緑のニット帽、そしてオッドアイと
少し派手な格好をした少し根暗な性格をした青年。
彼は工学部校舎の中に入り、
厳重に警備された重厚な鉄の扉の中に
入っていった。その扉付近には立ち入り禁止と
書かれた扉があった。白衣を着た研究員と
おぼしき人物が扉の前で数人が待ち構えていた。
そして彼は鉄の扉の中にあるラボに入っていった……
「お、こkoハ何ナんda?」
「ハッ、ココハ封イnサれタ時
とwoナジ場しョノ1かくデごzaいマす。」
「つマリ奥馬ト?」
「サヨウニ」
「ダいbu変わッたノウ」
ここは奥馬市の一角、波波波き商店街
その路地裏で会話をしていた。
しかし、通行人は全く気にしない。
いや、聞こえないのだ。
「そロsoろ、体オ作ロうkaと思uノだが」
「新なニクタイヲデゴザいますka?」
「あぁ、そういうことだな」
「なれば私もそういたします。私は貴方様のために命をかけた身、おともいたします。」
「そうか。では、景気付けに
ぬしに新たな名をやろう。」
「ははぁ、ありがたき幸せ。」
「ぬしは、今日から狂骨砕だ。」
「さて、では無一では、なにもできぬ、 何かするか。」
「何処へでも。」
かくいうと彼らなぞの人物は、
どこかへ消えてしまった。
(おい、知ってるか、棟梁が復活したらしいぞ)
(そうなのか、でも誰からだ?)
(詳しくは知らんが狂骨砕なるものから)
狂骨砕が所々で口にしたことにより実体を持つ
『何か』達に復活したことが伝わってしまった。 時を同じく、桜ヶ崎高校では昼休みになっていた。 桜ヶ崎高校は、昼休みに校外の
ファミリーレストランや、ファストフード店、
喫茶店に自由に行ってよいということもあり、
付近の飲食店は桜ヶ崎高校の生徒達で
ひしめき合い、店側の嬉しい悲鳴を
作り出していた。
1-Cでも他クラス同様個々のグループ内で
どこに行くかを雑談していた。
「なぁ、どこ行く?」「マイク行かん?」
「いやぁ昨日も行ったやん!」「じゃあガルドは」
「長居したくなるやん!」
「どこ行きたいんだよ!」
彼らは一頻り雑談が住むと教室を後にした。
そして、教室にはいわゆる「陰キャ」と呼ばれる
者たちのなかでも群れないタイプである、
「ボッチ」が残る結果となった。