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紡げ、詩。をまとめたものです。 題名は「つむげ、うた。」と読みます。

紡げ、詩。【第1話】

放課後。
私は一人で、いつものようにノートとにらめっこしていた。

「何、詩書いてるん?」
『え、いや、ちょっ、勝手に覗かないでよ』
「さっきから何べんも声かけてたで?
 聞こえてへんかったん?」
”彼”は私の前の席の机にもたれかかった。
まだ”彼”の視線は私の手元のノート─中身は恥ずかしながら自作の詩ばかりである─に向いている。

「はぁ…ついに反抗期が来たんか」
『反抗期?
 私、別にそそそそんな、こ…』
「こ?」
『こ、小林くんの子供じゃないんだから、
 小林くんに対して反抗期なんて無いよ』
「んー…」

”彼”は顎を軽くさすって何かに悩んでいる。

「直らん?その”小林くん”ってやつ」
『直すってどういうこと?』
「もうさ、そろそろ”隼人”で良くない?」
『そろそろって…
 私たち、その…付き合ってるんじゃないし』
「…ふーん。付き合ってない、ねぇ」

”彼”は少し苦しそうな顔で、外を見つめた。
なんとなく気まずくなって、どうしようか迷っていたところで、完全下校15分前のチャイムが鳴った。

帰ろう。
私はノートと鞄を抱えて教室を出た。
”彼”は追って来なかった。

ららいちご
女性/17歳/滋賀県
2021-11-11 17:42

紡げ、詩。【第2話】

昨日は気まずい空気に耐えられず、教室から逃げ出してしまった。
今日、絶対に謝ろう。
そう思っていたのに、”彼”は1日中、私の前に姿を現さなかった。

放課後。
机の上にノートを広げたものの、気持ちはノートに向かない。
いつもなら「何してるん?」と”彼”が声をかけてくるのに、今日はその声もしなければ、気配すらないからかもしれない。

『ごめんって…言おうと思ってたのになぁ』
そんな私の声も、誰もいない教室に空しく響くだけ。

ノートがめくられて、昔書いた詩が姿を現す。
〈蒼い空に天使の落とし物
 白い羽根が空を舞っている〉

《xxxx年11月1日 君と僕との物語の始まりの日。》
おかしいな、と思った。
私はこんな詩を書いた覚えがない。
それにこれは私の字じゃない。
誰が書いたのか…。

しばらくして、この字に見覚えがあるような感じがした。
もしかして。もしかして。

私は机の中から、急いで1通の手紙を取り出した。
この人が書いたのかもしれない。
手紙を開く手が震える。

【続く】

ららいちご
女性/17歳/滋賀県
2021-11-12 19:36
  • あ。タグ間違えた。
    自分の書いてる作品の題名間違えた…

    ららいちご
    女性/17歳/滋賀県
    2021-11-13 22:49

紡げ、詩。【第3話】

手紙を開くと、私の予想していた通りの字が見えた。
そしてその筆跡は、私のノートに書き足された詩の筆跡と同じだった。
『なんでこの人が』
当然、誰も答えてはくれない。

手紙には、以下のように書かれていた。
以前読んだことはあるが、もう一度読むことにする。
《蒼井 詩様
 お誕生日おめでとう!!
 蒼井さんとは結局3年間、クラス一緒だね
 クラスメートの為に毎日色々やってくれてありがとう
 僕にも出来ることあったら言ってな~
 プレゼントは
 この前欲しいって言ってた筆箱と、
 蒼井さんは文芸部やから使うかと思って、
 ノートにしたよ!よかったらどーぞ!》

ここまで読んで、
封筒の中に何か入っていることに気づいた。
一回目に手紙を読んだ時には気づかなかったものだ。
『メモ…』
《蒼井さんへ
 ノートの中のどこかに、僕が書いた詩があるんよ
 その日付に見覚えがあったら、明日の放課後、
 屋上まで来てください
 見覚えなかったら忘れて!  小林 隼人》

『何これ…知らなかったよ…』
視界がぼんやり輝いた。
頬にしょっぱい雨が降る。
しばらく一人で雨の中にいた。

「なぁに手紙読んで泣いてんの」
後ろから声がした。

【続く】

ららいちご
女性/17歳/滋賀県
2021-11-19 17:55

紡げ、詩。【第4話】

「なぁに手紙読んで泣いてんの」
後ろから声がした。

『え?小林くん…』

振り返ると、
”彼”がいつもの顔で私を見つめていた。

「いやだからさぁ、隼人でいいやん」
『hhhh...ハヤト』
「そーそー。んで、何で泣いてんの
 僕からの手紙読んでさ」

『これってやっぱり、こ…ハヤトが書いたの?』
ノートに書かれた詩を示す。
「そう…って手紙に書いてたよな?僕」
あっさり肯定した。犯人はこの人だった。

『この日ってさ』
「うん」
『私とハヤトが』
「…うん」
『一年生の頃に、初めて隣になった日?』

夕日が私の影を伸ばす。
教室が紅く染まっていく。

まいったなぁ、と呟いて、
”彼”は頭をかいた。

しばらくしてその頭がこくりと動いた。
「覚えてたんや、そっか…」

【続く】

ららいちご
女性/17歳/滋賀県
2021-11-24 17:25

紡げ、詩。【第5話】

「覚えてたんや、そっか…」
”彼”は私の『一年生の頃に、初めて隣になった日』という返答を予想していなかったのか驚いた様子で、嬉しそうにはにかんだ。

私も自然と微笑んだ。
『覚えてる、んだなぁ、これが不思議なことに』

「理由ってある?」

この際言ってしまうことにした。

『私、隼人のこと好きだったからさ』


静寂。
教室の冷たい空気に飲み込まれそうになりながら、
私は爆発しそうな心臓を抑えていた。

「それってやっぱり─そうか─」
少し躊躇いながら、”彼”は言葉を続ける。
「僕らは…」

『僕らは?』
「詩が、このメモにもっと早く気づいてて、
 この日付覚えてるってなって、
 僕が待ってた屋上に来てたら」

『…うん』

「僕が予定通り告白してさ
 両想いに気づけたんかな」

『……うん
 気づけたんだろうね』

「過去形なのが辛いところやな」
そう言って伸びをする。

そう。過去形。
夕日に伸ばされる、私の影。
影は一本しか伸びていない。
いや、一本しか伸ばせないのだ。

【続く】

ららいちご
女性/17歳/滋賀県
2021-11-25 21:32

紡げ、詩。【第6話】

夕日に伸ばされる、私の影。
影は一本しか伸びていない。

「あ…来たわ…」
”彼”はぽつり、と呟いて、胸を押さえた。

『今日はもう「来た」んだ…早いね』

”彼”は哀しそうに微笑んで、私を見つめた。
「僕が消えるところ、見たくないやろ
 帰った方がいいんちゃう」

『見たくない、けど』

『けど、一緒にいたいから』

私がそう言うと、”彼”は恥ずかしそうに頬を染めた。
…ような気がする。
実際には夕焼けの色と混ざって見えないのだが。

「っ…幸せもんやな、僕は」

最後にふっと笑って、”彼”は夕焼けに完全に溶けていった。

私以外誰もいなくなった教室。
その静けさの中で考えを巡らせる。

あの日、私がメモに気づいて、
屋上に行っていれば─

考えれば考えるほど、
”彼”の存在の大切さが心に染みる。

チャイムが鳴った。

今日も私は、一人で帰る。

【続く】

ららいちご
女性/17歳/滋賀県
2021-12-22 19:50

紡げ、詩。【第7話】

一人の帰り道。
数ヶ月前までは、”彼”も一緒だった。



小林隼人。
コバヤシハヤト。

極度の人見知りの私に毎日飽きることもなく声をかけてくれた人。
大抵の人は、話しかけても反応出来ない私のことを
「つまらない奴」
と判断して離れていくのに、”彼”だけは毎日話しかけてくれた。


”彼”は「モテる」側の人間に入っていた。
”彼”に恋する女子は私のクラスにも数人いた。

優しくて、文武両道で、悪口に乗ることもなく、
顔も整っていて、自分から目立とうとしない人。

私も密かに想いを寄せていた。
3ヶ月くらい前から何となく流れで一緒に帰るようになり
隙あらば告白しようかと考えていた時もあった。

でも出来なかった。
”彼”はお星さまになってしまった。

悲しくて、でも誰にも相談出来ない私が
教室で泣いていた時に、
”彼”はいきなり私の前に姿を現した。

「なに泣いてんの」

ららいちご
女性/17歳/滋賀県
2021-12-30 17:42

紡げ、詩。【第8話】

お星さまになった”彼”が目の前に現れてから、
放課後が楽しみになった。
夕日が沈むまでの間が、私と”彼”が話せる時間だと知らされた。

「なに泣いてんの」
と彼が以前のように話しかけてくれることが
とても嬉しかった。

文芸部の活動も、私だけ教室でするようになった。

始めの頃、”彼”は
「やり残したことがあったから来てん」
と言った。


そして昨日、”彼”は消える前に言った。
「僕もう来れへんかも
 やり残したこと、出来たもん
 詩(うた)に気持ち伝えられたしさぁ」

「まぁ、な、一人で泣いてても似合わんし
 笑ってな、笑顔似合ってるぞ~」


それから一週間経っても、”彼”は現れなかった。

本当に一人になってしまった教室で、
隼人からもらったノートを広げる。

冷たい風が頬を刺す。
今日は何を書こう。そろそろ吹っ切らないとな。
隼人が戻って来る訳でもないんだし、、

また、泣きそうになる。
泣かない。私には笑顔が似合うらしいから。

私は、今日も教室で詩を創る。


紡げ、詩。

【終】

ららいちご
女性/17歳/滋賀県
2022-01-05 14:42
最後まで読んで下さってありがとうございました。