寿々谷市の中心部、寿々谷駅の前にある商店街の裏には駄菓子屋がある。
その名も”ホオジロ商店”。
いつからかはよく知らないけど、この店はかなり昔から存在しているそうだ。
この店の前には多くのコドモ達が集まる。
そのため、ここに行けばそれなりの確率で知っている人に会える、とよく言われている。
まぁ、今のわたしは誰かに会おうという気はないのだけど。
それでも出会ってしまうときは出会ってしまうもので。
「あ、ネロ」
「またアンタか」
駄菓子屋”ホオジロ商店”の前で、わたしはいつもの”彼ら”とばったり会ってしまった。
「何してるの?」
「いや何って…」
駄菓子屋の軒先に座り込むネロは面倒臭そうに答える。
「見りゃ分かるだろ」
適当に答えられてしまって、わたしは苦笑いするしかなかった。
とにかく、駄菓子屋の前で駄弁っているのは分かるんだけど…
…と、わたしはあるものに目が留まった。
「…何それ」
思わずわたしが尋ねると、師郎は手に持っている紙切れに目をやった。
「あーこれ?」
その手に持っている紙には、立派な字で”果たし状”と書いてある。
「果たし状って、まさか…」
嫌な予感がしてわたしが青ざめると、師郎はいや違うから!と立ち上がる。
「お前さんが思う程やばい奴じゃないから」
たまにあることだし、と師郎はわたしをなだめようとする。
「そんなに気にするこたないよ」
てか心配する人初めて見た、とネロは冷ややかな視線を送ってきた。
「いやだって…」
仕方ないじゃん、とわたしは弁明する。
何しろ師郎は見た目がちょっと怖いのだ。
言動などから悪い人ではないと分かっているのだが、こういうのを見てしまうと嫌な予感がしてしまうものだ。
レス、ありがとうございます。
漠然とキラキラした青春を想像して胸を躍らせていたのに、実際に高校生になったら案外そうでもなかったり、ちょっと現実にがっかりしたり…笑
友達と呼べる人はいても、どこか寂しくて、心はいつも一人のような気がして。でも、無理をして周りに合わせるのもなんだか違うよなと思ったり。人間関係って難しいですよね…。
春からは今までとはまた違った生活が始まりますね。これからもきっと色んなことがあると思いますが、頑張っていきましょうね…!
こちらこそレスありがとうございます。
やっぱり現実は想像と何か違いますよね…
お互いに春から頑張りましょう!
「ま、良いんだけどさ」
今回はちょっとアンタも関係あるし、とネロはココアシガレットをくわえた。
「え、関係あるってどういう事?」
わたしは思わず聞き返す。
「まぁ…ちょっと俺達の手伝いをしてもらうだけだ」
とりあえずそこ座れや、と師郎はわたしに促す。
わたしは促されるまま駄菓子屋の店先に座った。
「…それで、手伝いってどういう事なの?」
そもそも果たし状の中身って何?とわたしは尋ねる。
「ちょっとした小競り合いみたいなもんさ」
そう言いながら、師郎は”果たし状”を広げた。
「俺のクラスにとある異能力者がいるんだけど」
師郎はわたしに”果たし状”をわたしに差し出す。
「そいつの異能力は俺のと似たような系統なんだけどな」
へぇとわたしはうなずく。
「よくどちらの異能力が優れているか競争をやっているんだが、今度はそれにお前さんも協力して欲しいって話なんだ」
わたしが?と言いながら、わたしは手渡された”果たし状”に目を落とした。
そこには綺麗な字で最近2人の間にケンカがあった事が書かれており、後半には”直接対決しましょう”と少し物騒な事が書いてあった。
「えーと、『今度化かし合いで本当の決着をつけましょう』って…」
「ま、アイツはわざとらしい所もあるからなぁ」
師郎は苦笑する。
「で、この対決を手伝って欲しいんだけどさ」
今度の土曜ヒマ?と師郎は尋ねる。
「いやそれはともかく」
わたしは気になる事があったので、少し質問する事にした。
「何でわたしに手伝いを?」
ネロ達でも良いんじゃない?とわたしは聞く。
「あーそれは…」
師郎は笑いながら頭をかく。
「ネロ達も審査要員として入るんだけど、アイツが『異能力を知ってしまった一般人に会ってみたい』って言いだしてさ」
本当はいてもいなくても良いんだけど、と師郎は言う。
「別にやりたくなければ断っても良いぞ」
その辺りはお前さんの自由だし、と師郎は続けた。
「うーん」
わたしは少しの間考えた後、こう答えた。
「別に良いよ、手伝っても」
次の土曜日ヒマだし、とわたしは付け足す。
「お、本当に良いのか?」
師郎がそう聞いてきたので、わたしはうんとうなずいた。
「退屈な休日を過ごすよりは良いし」
他に遊ぶ相手もいないからね、とわたしは笑いかけた。
「ふーん」
その様子を見て、ネロは意味ありげに笑った。
「どうかしたの?」
わたしがそう聞くと、ネロは何でもないと返した。
「ま、とりあえずサンキューな」
師郎はそう言うと、わたしの手から”果たし状”を回収した。
「じゃあ次の土曜日の2時、寿々谷公園に集合な」
忘れるなよ、と師郎は念を押す。
うん、分かったとわたしは返した。
それから約1週間後、寿々谷公園にて。
わたしは寿々谷公園の川沿いのエリアにいた。
「それで…”果たし状”を送ってきた子はどこにいるの?」
ネロ達と落ち合った所で、わたしは師郎に尋ねた。
「うーん、もう来てると思うんだけど」
アイツも部活で忙しくしてるし、と師郎は周囲を見渡す。
「さすがに来てないって事は…」
そう師郎が言いかけた所で、どこからか高笑いが聞こえた。
声が聞こえる方を見ると、土手に背の高い少女が立っている。
「ふっふっふ」
少女はわざとらしく笑うと、こちらに目を向けた。
「待たせたわね! アンタ達!」
そう言って少女は目を見開く。
しかしネロ達はのん気そうに、あー来た来たとか言うばかりだ。
「…思ったより反応が薄いわね」
「そりゃそうだ」
ぽかんとする少女に師郎は冷静に突っ込みを入れる。
「ていうか遅いぞ、稲荷」
稲荷、と呼ばれた少女はふてくされたような顔をする。
「だって部活が長引いて…暇な野球部とは違うのよ」
「は⁈ 暇ってテメェ…」
今日はたまたま部活が休みなんだよ、と師郎は言い返す。
「お前が入ってる演劇部は公園が近いから忙しいだけだろ?」
「弱小野球部だって試合の直前だけ頑張ってるクセに?」
いつしか2人の会話は言い合いになってしまった。
どうしたものかと見ていると、黎が黙って師郎の服のすそを引っ張った。
「…お、どうした?」
師郎はすぐに振り向く。
「…ケンカしてる場合じゃない」
黎の一言に、お、そうだったなと師郎は我に返る。
「やっぱり身内には甘いのね」
稲荷と呼ばれた少女はそう言ってため息をついた。
「えーと、あの人は…」
わたしが恐る恐る尋ねると、あぁと師郎は答えた。
「アイツが俺に”果たし状”を突き付けてきた奴、”稲荷 鏡子(いなり きょうこ)”」
俺とは小学校の頃からの付き合いだ、と師郎は紹介する。
「そう、私が稲荷 鏡子…って彼女が噂の?」
稲荷さんが聞くと、そうだなと師郎は答える。
「コイツが今噂の異能力を知ってしまった一般人だ」
「あ、どうも」
急に師郎に紹介されたのでわたしは慌てて自己紹介した。
「不見崎 清花(みずさき さやか)です」
ふーんと稲荷さんは顎をさする。
「…で、誰が異能力の事をバラしてしまったのかしら~?」
稲荷さんがネロの方に目を向けると、ネロは慌てて耀平の陰に隠れた。
「べ、別にわざとじゃないから」
たまたまだし、とネロはそっぽを向く。
稲荷さんはふふふと笑った。
「それにしても稲荷」
師郎が不意に話し出したので、皆の視線が師郎の方に向いた。
「いつまでそこに立っているんだ?」
そろそろこっちに来れば良いのにと師郎は地面を指さす。
「あ…そうね」
そう言いながら稲荷さんは土手からこちらへ降りていった。
「それにしても、彼女が異能力を知ってしまった一般人ね…」
稲荷さんはそう言いながらわたしの顔を覗き込む。
「想像よりも平々凡々ね」
うぐっ、とわたしはうろたえた。
まぁ、そうかもしれないけれど…
「そ、そう言えば、稲荷さんの異能力ってどんなのなんですか?」
師郎の異能力に似てるとは聞いてたけど…とわたしは続けた。
稲荷さんはそうねぇ、と答える。
「私の異能力は…”一定範囲内の人間に見える自らの姿を別のモノにする”能力、と言えば良いかしら」
簡単に言えば、誰かに化ける能力ね、と稲荷さんは微笑んだ。
「俺の異能力との違いは、異能力の効果範囲を指定できるかどうかと、声まで変えられるかどうか、だな」
師郎はそう付け足す。
「俺の異能力は、効果が及ぶ人間を指定する必要があるけど、稲荷のにはその必要がない」
でも効果が及ぶ範囲を広げたり狭めたりはできねえんだ、と師郎は言う。
「あと、私の異能力は日暮のと違って声までは化けられないの」
化けられるのは見た目だけ、と稲荷さんは笑った。
わたしはへぇ、とうなずく。
「この通り、似たような異能力だから、小学生の頃から互いに競り合ってきたの」
「今んとこ5勝5敗だけどな」
稲荷さんの発言に、師郎はそう付け足した。
「とにかく」
ここで耀平は2人の顔を見た。
「対決さっさと始めよーぜ」
それを聞いた2人はそれぞれ、そうねとかそうだなと言った。
テトモンよ永遠に!さんの過去の作品まとめを読みつつ、イービルウルフも更新される度読んでいます!いつも続きが気になるような文章、魅力的な登場人物達、物語の世界観に圧倒されています!これからも頑張ってください、応援しています!
レスありがとうございます!
いつも読んでくれてありがとうございます!
こんな下手くそな文章でも楽しんでくれて嬉しいです!
進行はローペースですが、どうぞ楽しんでってください!
「とりあえずはルール説明だな」
そう言って耀平はウィンドブレーカーのポケットから折り畳まれた紙切れを出して広げた。
「えーと、寿々谷公園の河川敷に2人が化けて隠れ、ターゲットにバレないように接近、バレずにターゲットの背中に所定の紙を貼り付けられた方が勝ちになる」
そしてこれが所定の紙な、と耀平はさっきとは別のポケットから取り出した紙を2枚、ヒラヒラさせる。
そして1枚ずつ師郎と稲荷さんに渡した。
「制限時間は1時間、3時になったらスタートな」
何か質問ある?と耀平は皆に尋ねた。
すかさずわたしは手を挙げる。
「聞きたい事がいくつかあるんだけど…」
はいどーぞ、と耀平はわたしに促した。
「まず1つ目なんだけど」
わたしは少し間を置いて聞いた。
「そもそもわたし達は何をするの?」
そう尋ねると、そう言えばその説明まだだったな、と師郎が呟く。
そう言えば、と耀平も言った。
「まぁ一言で言えば、不正が行われていないか見張る役だな」
遠巻きに見守るだけだけど、と耀平は笑う。
「じゃあ2つ目」
間髪入れずにわたしは質問する。
「ターゲットは誰なの?」
そう聞くと、耀平は公園の人が多くいる方に目を向けた。
「えーとな、あの2人組」
師郎と鏡子の知り合いなんだ、と耀平は向こうにいる2人組を指さした。
わたしはふーんとうなずく。
「んじゃ3つ目」
わたしがそう言うと、今度は何だい?と耀平は答えた。
「なぜ背中に紙…?」
あーそれは…と耀平の目が泳いだ。
「…おれにも分からん」
「何だそりゃ」
わたしは思わず突っ込んだ。
「いや分からんもんは分からんて」
耀平は苦笑いする。
ネロと黎はうんうんとうなずいた。
「ま、それ位しか思いつかなかったって所だな」
そう言って、とりあえず始めよーぜと師郎は続けた。
そうね、と稲荷さんも言う。
「んじゃ、2人は準備に行ってくれ」
耀平がそう言うと、師郎と稲荷さんは手を振ってわたし達の元から離れていった。
「今度こそは負けないからな」
「ふふふ」
2人が去って行くのを見届けた後、耀平は残ったメンバーに向き直った。
「そいじゃ、審査員も行きますか」
そして、んじゃ、と耀平達3人は公園内に散って行った。
わたしも、じゃあまたと言ってその場から離れた。
「…」
皆が散ってから暫く、わたしは公園の片隅でぼーっとしていた。
と言うのも、対決の見張り役とは言えやる事がないのだ。
あの2人は異能力で化けているし、ほかの3人もどっかに行ってしまったから、どこにいるか分からない。
正直、わたしには手元のスマホを見たり、ぼんやりする事ぐらいしかやる事がないのだ。
退屈だな…と手元のスマホを見ていると、ふと気配を感じた。
ちら、と周囲を見回すが、辺りにはいつもと変わらない公園の風景が広がるだけ。
特におかしい所は見当たらない。
何だろう、と思いながらわたしは歩き出した。
実際、この気配はさっきから何度も経験しているから、少し慣れつつあるのだけど。
それでもこの気配は少し気になった。
「…」
ぱっ、と急に振り返ってみる。
しかし、背後には何の変哲もない公園の風景があるだけ。
特に誰かがつけて来ているという訳でもないみたいだ。
「…」
その後も何度も歩いては振り向き、歩いては振り向き…を繰り返していたが、別に何も起きなかった。
「…」
ずっと何かの気配がついて来るのは、不気味で仕方ない。
わたしは嫌になって思わず走り出した。
すると気配もわたしに合わせてついて来る。
「何なのよ…」
そう呟いた時、背後で誰かが芝生に倒れ込むような音がした。
わたしは思わず振り向く。
「!」
わたしの数メートル後方で、複雑に髪を結った少女が倒れていた。
「…え?」
意外な人物だったので、わたしは近付きながらついそんな声を上げてしまった。
少女はゆっくりと立ち上がる。
「バレてしまったわね」
少女はそう言ってスカートに付いた汚れを払った。
「え、えーと、稲荷さん?」
わたしはビックリし過ぎてそれ位しか言えなかった。
「まぁ稲荷 鏡子だけど…今のわたしは”ヨウコ”」
面倒臭いだろうけどその辺よろしく、とマゼンタ色の目の稲荷さんことヨウコは笑った。
「それはそうとして」
そう言ってヨウコは目を光らせるのをやめた。
「常人だから大丈夫だと思ってたけど…全然だったわね」
正直見くびってた、と稲荷さんは呟く。
「えーと、これはどういう…」
わたしはどういう事なのか聞こうとしたが、すぐに背後に気配を感じて振り向いた。
「!」
真後ろにいる誰かに肘が当たった。
するとその誰かはおっと、と後ろに下がった。
そしてその姿はすぐに見覚えのあるものに変わった。
「え、師郎⁈」
わたしは思わず声を上げた。
「ははは…」
駄目だったか…と目を暗緑色に光らせた彼は言う。
「え、え…これはどういう事なの⁇」
わたしは2人の顔を交互に見ながら言った。
すると、向こうから不意に聞き覚えのある声が飛んできた。
「はーいそこまで‼」
見ると、少し離れた所に耀平とネロと黎が立っていた。
「対決は引き分けだな」
耀平はそう言って笑った。
「…そうだな」
「今回は仕方ない」
師郎と稲荷さんはそう言って耀平達の方へ歩み寄った。
わたしはその場の状況がよく分からなくて、思わず尋ねた。
「ねぇ、これはどういう事?」
対決のターゲットは…とわたしが言いかけると、目を光らせるのをやめた師郎が言った。
「あーそれはな…実はターゲットはお前さんだったんだよ」
え、とわたしは絶句する。
「最初にターゲットはアイツらって言ったのは、実はウソ」
本当は何も関係のない人間だよ、と師郎は笑った。
「最初から俺らが狙っていたのは、お前さんの背中だったのさ」
騙してスマンな、と師郎は謝った。
「じゃあわたしに審査員を頼んだのは…」
「お前さんを確実に呼ぶための口実」
師郎にそう言われて、わたしはえぇ…と呟く。
「まぁ、こっちも騙して申し訳ないとは思ってる」
でも稲荷がお前さんに会ってみたいと聞かなくてなぁ…と師郎は苦笑する。
稲荷さんはちょっと、と言いかけたが、すぐに諦めたような顔をした。
「…まぁ、私がアナタに会ってみたいって言ったのも、アナタを対決に巻き込んだ原因なのだけどね」
だから私からも、ごめんなさい、と稲荷さんは頭を下げた。
「でも、面白かったわ」
稲荷さんは顔を上げるとぱっと笑顔を見せる。
「だって本当にただの一般人だったもの」
もしかしたらとは思ってたけど…異能力持ってないのね、と稲荷さんは笑った。
「うぐっ」
わたしはついうろたえた。
改めて普通の人、と言われるとなんだか刺さる。
「じゃ、じゃあ、ネロ達は最初からこの事を分かってたの?」
わたしがそう聞くと、ネロはまぁねと言った。
「最初っからアンタがターゲットだって知ってて審査してた」
そうだな、と耀平も同意する。
「それにしても、アンタの逃げ惑う様子、面白かったな~」
ネロはニヤニヤしながら言った。
「確かにな~」
「よく逃げてた」
耀平と黎もうなずく。
「そんなぁ~」
わたしは思わずその場に座り込んだ。
知らない間に騙されていた、という事実はわたしにとって中々のショックだった。
「ま、良いさ」
わたしの様子を見ながら師郎は言った。
「今回は引き分けという事で、これでお開きだ」
もう夕方だし、と師郎は言う。
そうね、と稲荷さんもうなずく。
「今回は引き分けになってしまったけど…次回は負けないわ」
「お。そうかい?」
次は俺が勝ってやるさ、と師郎は笑った。
その様子を見て、ネロは口を開いた。
「ねー2人共、この後どうするー?」
駄菓子屋にでも行く?とベロは尋ねる。
「お、そうだな」
「それは良いかもね」
駄菓子屋で打ち上げなんて、と稲荷さんは言う。
「んじゃ行こーぜー」
耀平はそう言うと歩き出した。
ネロや黎、稲荷さんもそれに続く。
師郎も歩き出したが、不意に足を止めた。
「あ、お前さんはどうする?」
行くか?と師郎は振り返りながら言った。
暫くぼーっとしていたわたしははっと我に返る。
「あ、行く!」
ちょっと待ってと言いながら、わたしは彼らの後を追った。
〈8.イービルウルフ おわり〉
「…いるなぁ」
今日は近所の神社で縁日。つったって小さな小さな稲荷神社の縁日である。夏祭りの縁日に比べれば、ちっぽけでちゃちい。
それでも休日の暇を潰すのにはピッタリだった。
…ここは田舎で、遊べる場所が少ない。
あってショッピングモールくらい。
だからこういう縁日はちょっとでも遊べる良い機会なのだ。
…だが。
「…面倒なアイツらめ」
面倒な事に、クラスの男子たちの姿が見える。
正直言って、学校の外で関わりたくないメンツだ。
ここは田舎だからな~、みんな行くところは一緒なんだよね…
仕方ない、そう思いながら、わたしは狐の面を被った。
「…よぉ」
あぁ、やっぱりか、と心の中で呟いてわたしは振り向く。
そこには、昔から見慣れた男子の姿があった。
「なぁに、それでお前は化けたつもりなのか?」
彼はいつも通り意地悪気に言う。
「フン、あんたみたいなのにはバレるけど、ほとんどの人間にはバレないのよ」
そう言いながら、わたしは仮面を外す。
それと同時に、彼の目に見えるわたしの姿も陽炎のように揺れて変わったことだろう。
「実質この仮面は、わたしの顔を隠すためじゃなくて、うっかり何も知らない人間に、顔を見られないようにするためなのよ。そのためのカモフラージュ」
これは保険なのよ、とわたしは説明する。
それを聞き、ふ~ん、と彼はうなずいて、にやりと笑った。
「…もしや、自分の”力”に自信がないのか⁇」
「ちょっと! 別にそういうわけではないわ…アンタだって、指定した人間以外には化けが通用しないじゃない!」
そう言い放つと、彼は…面白い、と言うような表情をした。
そしてこう聞いてきた。
「…じゃあ、また勝負でもするか?」
「ええ、するわ」
わたしはいつものように答えた。
どっちがより優れてるか…なんて小学生みたいだけど、自分の力をなめられちゃ困る。
…なら。
「あ、でも、また今度機会がある時ね。今日はもう無理があるし…何より、審判がいないわ」
だからまた別の機会に、そう言ってわたしはにやっとした。
ああ、そうだな、そう応える彼の目は暗緑色だった。