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「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」9つ目のエピソード「エルフ」のまとめ。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ①

寿々谷駅から徒歩10分の所にあるショッピングモールは、いつも多くの人で賑わっている。
20年程前にできたため、建物内は改装中のエリアがあったりもするが、様々なテナントが軒を連ねている。
その影響力は大きく、寿々谷の外からも人々を集める程だ。
特に休日は家族連れや学生でごった返している。
そのため、あえて人の少ない屋上に溜まる者もそれなりにいる。
例えば今のわたし達のように。
…わたしは今、”彼ら”と共にショッピングモールの屋上にいる。
いつものようにショッピングモール内で遭遇し、流れで合流してそのまま行動を共にする。
最近ではこの流れが常態化していた。
…もっぱら、”彼ら”はわたしの観察や監視が目的なのだが。
「でさー、そいつが変な事言うワケー」
「え~まじかー」
「ははは、そりゃ酷い」
”彼ら”はわたしの事など気にせず他愛もない話を続けている。
わたしはあまり会話に参加できていないが、彼らの楽しそうな様子を見ているがだけで気分が明るくなった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-11 22:40
「9.エルフ」開幕。そして早速誤字発見。「見ているがだけ~」ではなく「見ているだけ」だね。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ②

…と、わたしはある事に気付いた。
4人の中で、黎だけがそっぽを向いている。
彼が会話に参加しないのはいつもの事だが、それにしても気になった。
「ねぇ黎」
わたしは思わず話しかける。
黎はちら、とこちらに視線だけ向けた。
「…どうかした?」
わたしが黎に話しかけたからか、残りの3人も会話をとめてこちらに目を向ける。
当の黎は黙ったままだ。
「黎、どうかしたの?」
ネロも気になったのかそう尋ねた。
黎は静かにネロ達に視線を向ける。
「…何でも」
そっかーとネロは答えた。
耀平と師郎は黙って見ていたが、何でもなさそうと分かるとさっきの会話に戻っていった。
わたしもすぐに意識が会話の方に向いて、さっきの事は忘れてしまった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-12 23:46

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ③

夕方、日も暮れかかり辺りがオレンジ色に染まる頃。
わたし達は寿々谷駅前にいた。
ショッピングモールで一通り過ごした後、もう5時を過ぎたので解散しようという事になったのだ。
「んじゃ」
「じゃーなー」
「そいじゃまた」
ネロ達はそれぞれバラバラの方向に散って行く。
わたしもまたね、と言って相場から歩き出した。
…と、視界に映る駅の柱の陰から、誰かがこちらを見ている事に気が付いた。
人影はすぐに柱の陰に隠れてしまったので、姿はよく見えなかったが。
「…」
わたしはそのまま、その柱の近くを通り過ぎようとする。
そしてちょうど柱の横に差し掛かった時、不意に柱の陰にたたずむ人物と目が合った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-13 22:52
9行目 ×相場 〇その場

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ④

わたしは思わず立ち止まる。
相手は咄嗟に目を逸らした。
「…」
わたしは暫く相手の姿を眺めていた。
白いブラウスに黒いスカート、赤い紐リボンと、近くの高校の生徒だろうか。
高校の制服姿の少女は、気まずそうにそっぽを向いている。
あまりにも気になり過ぎて、わたしは思わず声をかけてしまった。
「あの…どうかしました?」
少女はい、いえ、と上ずった声で答える。
「別に…何でも…」
何だか失礼な事をしてしまったな、とわたしは思った。
どう見ても相手はビックリしているし。
「何かすみません…急に話しかけたりして」
わたしはすぐに謝ったが、相手には届いていないようだった。
「何でも…何でもないんです!」
少女はそうとだけ言うと、駅の出入り口の方へ走り去って行った。
…何だったんだろ。
わたしは暫し呆然とその場に立ちすくんでいた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-14 22:45

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑤

それから1週間後。
わたしはまた彼らとショッピングモールにいた。
今回もまたショッピングモールで合流して、そのまま行動を共にする形だ。
「ねーねーゲーセン行こうよー」
「それは良いけどネロ、財布の中身は大丈夫なのか?」
「ぎくっ」
いつものようにネロ、耀平、師郎は楽しそうに過ごしているが、黎だけは違った。
黎はどこか上の空みたいで、時々自分の背後を気にしているみたいだ。
「どうかしたの? 黎」
あまりにも気になり過ぎて、わたしは黎に尋ねてみた。
しかし、当人は沈黙している。
「ねぇ黎…」
「おい」
わたしが言いかけた所を、ネロが遮った。
「黎がどうかしたの?」
ネロはわたしに警戒の目を向ける。
他の2人もわたしに視線を送った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-15 23:16

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑥

「え、えーとね」
わたしはビックリして言葉に詰まってしまった。
「黎が後ろを気にしているから何かあるのかなって…」
わたしも気になっちゃって…とわたしは付け足す。
「そうなの? 黎」
ネロが尋ねると、暫くの沈黙の後黎はうなずいた。
ふーんとだけネロは言う。
「ま、おれ達にとって誰かにつけられるとかよくある事だからな」
しゃーないしゃーない、と耀平は笑った。
「え、そうなの?」
わたしが驚いて聞くと、耀平はまぁなと答える。
「ネロは異能力者としては強力だからな」
仲間であるおれ達含め、変な異能力者に狙われるのはいつもの事だ、と耀平は続けた。
「それで、後ろには何がいるんだ?」
師郎が聞くと、黎は少し考えた後答えた。
「…分からない」
でも何かの気配は感じる、と黎は言った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-19 23:00

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑦

「異能力者っぽい?」
ネロが聞くと、黎はうなずいた。
「さっきから気配がするの?」
違う、と言わんばかりに黎は首を横に振った。
「少し前から…1人でいる時も」
「1人の時も?」
ネロは驚いたような顔をする。
黎は静かにうなずき返した。
「おっかしーなー」
いつもみたいにボクを狙ってるワケじゃないのか…?とネロは首を傾げる。
「今までに黎を狙ってきた奴なんていたっけ?」
「いないな」
「じゃあ何なんだ…」
彼らはわたしを放置して話し合いを始めた。
わたしも参加したかったが、どこから入れば良いのか分からず途方に暮れるしかなかった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-19 23:08

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑧

暫くの話し合いの後、ネロが呟いた。
「…黎が感じる気配の正体、探しちゃう?」
「お、探す?」
「良いじゃん」
耀平と師郎はそれに賛同する。
黎もこくりとうなずいた。
「んじゃ、謎の気配探し、始めるか!」
ネロはそう言って歩き出す。
「そうだな」
そう言って耀平もネロに続く。
2人の目はそれぞれ赤紫色と黄金色に輝いていた。
「んじゃ、俺達も行くかね」
師郎もネロ達の後を追う。
黎は無言でついて行った。
「あ、待って!」
わたしも彼らに続いて歩き出した。
気付くと、ネロと耀平は少し先を並んで歩いている。
わたし含む残りの3人は、置いて行かれないように2人の後を追った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-20 23:53

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑨

ぽかぽかと辺りを太陽が照らす昼下がり。
足音だけが路地裏に響いている。
わたし達5人は、謎の気配を追っていつの間にか商店街の裏路地に入り込んでいた。
「これ、本当に見つかるのかな…?」
何だか不安になって、わたしは思わず呟く。
「お、ネクロとコマイヌの異能力を疑ってるのか?」
師郎がわたしの顔を覗き込む。
え、いや…とわたしは答える。
「時間がかかってるから…」
「ははは」
しゃーないしゃーない、と師郎は笑った。
「人探しをする時は時間がかかって当然だから」
のんびり待つしかない、と師郎は続けた。
わたしは…そうなの、と答えるしかなかった。
それから暫く歩く内に、ネクロマンサーとコマイヌは立ち止まった。
わたし達も続けて立ち止まる。
見ると路地の行き止まりだった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-21 23:46

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑩

「ここって…」
そうわたしが言いかけたが、ネクロマンサーは不意に何かを呟いた。
「…いるんだろ?」
そう言いながら、ネクロマンサーはどこからともなく具象体の鎌を出す。
「…隠れても無駄だっての‼」
そう叫んでネクロマンサーは何もない所に飛びかかった。
すると、何もない所から誰かが転ぶ物音と共に人が現れた。
「…え?」
わたしは思わず声が出てしまった。
なぜなら、そこに現れたのは…
「いてて…」
先週駅前で出会った高校生が、目の前で転んでいた。
「えっと…どういう事?」
「え、何知り合い?」
わたしの発言に対し、ネクロマンサーは訝し気な顔をする。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-21 23:56

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑪

「いや、知り合いじゃないんだけど…」
この間会ったんだよね、とわたしは説明する。
「この間って何だよ」
耀平はすかさず突っ込みを入れる。
えーとね、とわたしは答える。
「先週駅前でこっちを見てたから、気になって話しかけたんだよね」
でもまさかもう1度出会うなんて…とわたしは呟いた。
「あ、あの…」
高校生が発言したから、皆の視線が彼女に集まる。
「わたしの事、忘れてませんよね…?」
「忘れるも何も」
そう言ってネクロマンサーは彼女に黒鎌を向ける。
「さぁて、この後は事情聴取といきますか」
ネクロマンサーがそう笑うと、高校生はひぃぃぃと後ずさった。
かくして事情聴取が始まった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-22 00:48

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑫

「アンタ、名前何て言うの?」
ネロがそう尋ねると、少女は”風見 恵梨(かざみ えり)”です、と名乗った。
「…異能力者としての名前は?」
「それも言わなきゃいけない?」
恵梨、と名乗った少女はネロにそう聞き返す。
「当たり前だ」
一応、知っている異能力ならどんな異能力か分かるし、と耀平は言う。
「そうですか…」
恵梨さんはそう言って諦めたようにうつむくと、すぐに顔を上げた。
「わたしの異能力者としての名前は”エルフ”と言います」
異能力は、自分の姿を透明に見せる能力です、と彼女は付け足す。
ふーん、とネロはうなずいた。
「制服的にはそこの寿々谷高校の人?」
耀平が聞くと、まぁ、と恵梨さんは答えた。
「んで、本題なんだが…」
そう言って、ネロは恵理さんに向き直る。
「なぜアンタはウチの黎をつけて来たんだ?」

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-22 22:37
  • 誤字。
    下から2行目、×恵理→〇恵梨

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2022-04-23 16:16

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑬

ネロは訝し気な顔を向けた。
「そ、それは…」
恵梨さんの目が泳ぐ。
「それは?」
ずいっとネロは恵梨さんに近付いた。
「…彼とは遠い昔会った気がして、それで仲良くなれたら良いなって」
「何だそりゃ」
その答えを聞いて、ネロは拍子抜けする。
「なぁ黎、こいつと会った記憶ある?」
レイヴンとしての記憶含め、と師郎が黎に尋ねる。
黎はよく分からないとでもいうかのように、首を横に振った。
「えーそんな~…覚えてないんですか~」
たった数百年前の話じゃないですかーと恵梨さんは落胆の声を上げる。
「ずっと前のわたしの異能力の持ち主は大きなお屋敷の使用人で、君は…」
「もうよせよ」
恵梨さんの声を遮るようにネロは言った。
「アンタ、異能力者としての記憶に囚われ過ぎなんだよ」

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-04-23 23:52

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑭

へ…と恵梨さんはぽかんとする。
「あくまで異能力者としての自分は自分の別側面であって、自分じゃない」
”それ”は自分じゃない自分なんだから囚われるのはよくねーんだよ、とネロは続ける。
「過去の自分に囚われるのと同じ位、異能力者としての自分に囚われると面倒な事になるんだ」
分かってんのか、とネロは恵梨さんを睨みつける。
恵梨さんはひぃぃぃ、とうろたえた。
「分かったんなら良いんだけど」
そう言ってネロは恵梨さんに顔を近付ける。
「…お前、友達いないの?」
「え、何でそんな事」
どうして分かるの?と聞かれて、ネロはこう答えた。
「いや、追跡中にアンタの記憶を見て何となく分かった」
友達いなさそうだなって、とネロは笑う。
「…だから黎と接触して友達になろうとしたんだな」
耀平がそう言うと、恵梨さんは気まずそうな顔をした。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-05-09 22:30

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑮

「…別に良いじゃん、一般人の友達でも」
ネロは呆れたように言う。
「いくら寿々谷が異能力者の多い街でも、必ず異能力者の友達ができるわけでもないし」
そもそも常人の方が多いから、普通はそっちと仲良くなることの方が多いもん、とネロは続けた。
「やっぱそうですか…」
恵梨さんはそう言ってうつむく。
「…何? もしかして異能力者の友達が欲しくてここへ来たの?」
「いや違うんです」
ネロに質問されて、すぐに恵梨さんは顔を上げる。
「寿々谷が異能力者の多い街って事は、寿々高に入ってから知ったんです」
わたし、地元に異能力者の仲間がいないから…と恵梨さんは呟く。
「ここでなら異能力者の友達作れるんじゃないかって、何だか思えてきてしまって…」
恵梨さんは恥ずかしそうに目を逸らす。
ネロはふーんとうなずいた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-05-10 22:29

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑯

「…んじゃ、コイツと友達になれば?」
「え」
ネロに突然指をさされてわたしはつい困惑する。
「この人一般人だけど友達ほとんどいないし…」
「いやいやいや」
ちょっと…とわたしはネロに突っ込む。
ネロはえー何だよ、とジト目でわたしの方を見た。
「別に良いじゃん」
アンタも友達全然いないし、とネロは言う。
「この女とお似合いだと思うぞ~」
ネロはそう言ってニヤニヤした。
「…」
わたしは呆れて何も言えなかった。
「ふふふ」
不意に恵梨さんが笑った。
「ん、どうした?」
ネロが尋ねると恵梨さんはこう答えた。
「…いや、仲良さそうで良いなって」
「そうですか」
「そんなワケない」
わたしの言葉を遮るようにネロは否定した。
「…別に、コイツの事なんかどうでも良いし」
ぷい、とネロはそっぽを向いた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-05-12 00:38

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 9.エルフ ⑰

「…まぁ、とりあえず」
話がいったん落ち着いた所で、わたし達の間に耀平が割って入る。
「もう黎のことつけないって事で良いですかね?」
そう聞かれて、恵梨さんははい…とうなずいた。
「すみませんでした」
「分かったんならそれで良いんだよ」
もうつけてくるんじゃねぇぞ、とネロは念押しした。
「…じゃあ、わたしはこの辺で」
恵梨さんはわたし達に一礼すると、駅の方に去って行った。
「これで一件落着かな~」
去って行く彼女を見送りながら、ネロは伸びをする。
「ま、そうだろうな」
あれ程言っといたんだから大丈夫だろ、と耀平はうなずいた。
「んじゃ、俺達も行くかね」
師郎がそう言うと、だなとかだねーと言って、後の3人は同意した。
そして彼らは歩き出した。
「あ」
わたしも…と言って、わたしは彼らの後を追いかけた。

〈9.エルフ おわり〉

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-05-13 00:37
「10.ウロボロス」につづく。