その昔、地上は混沌に満ちておりました。
悪魔達が蔓延り、人間達は苦しい日々を送っておりました。
それを見かねた神は地上に我々天使を差し向けました。
我々は神から与えられた力を以って悪魔達を制圧、地上には希望の光が差しました。
「それでも尚、悪魔達は抵抗を続けております」
美しいブロンドの髪をなびかせた天使は壇上で告げる。
「彼らは今も地上を混沌の渦に陥れようと画策しているのです」
天使は続ける。
「我らが望むのは秩序、秩序を以って地上に救いをもたらしましょう」
そのためには、と天使は言った。
「悪魔を1人残らず駆逐することが必要です」
天使は壇上で微笑んだ。
「さぁ、我らの手で悪魔達を一掃しましょう」
我々には神から与えられた力があるのですから、と天使は言う。
「我々の力で、地上に救いを、秩序をもたらすのです」
天使のその言葉に、演説を聞いていた無数の天使達は鬨の声を上げた。
天使は黙ってその歓声を浴びていた。
演説が終わって暫く、ブロンドの髪の天使は執務の為、仕事場に戻ろうとしていた。
「みーちゃん」
背後から呼び止められて、天使はぴたりと足を止めた。
振り向くと、明るい茶髪の天使と青い目の天使が立っている。
「演説、良かったわ」
さすがは天使長、と茶髪の天使は笑う。
「どうもありがとう」
ブロンドの天使は微笑んだ。
「いつもより盛り上がってたね」
青い目の天使は楽しそうに言った。
「少し前に天界の三分の一がいなくなっちゃったけど、あの頃に戻ったみたい」
その言葉を聞いて、明るい茶髪の天使は微妙な顔をした。
ブロンドの天使も悲しげな顔をする。
「あ、ゴメン、今のはあんまり言わない方が良かったよね…」
青い目の天使は慌てて謝る。
「特にみーちゃんは…」
青い目の天使は申し訳なさそうに俯く。
明るい茶髪の天使も気まずそうな顔をした。
「…大丈夫よガブリエル」
ブロンドの髪の天使は微笑んだ。
「”あの子“はいなくなってしまったけど…私は大丈夫」
ブロンドの天使はそう言ってガブリエルの頭を撫でた。
ガブリエルはうん、と頷いた。
「あの頃に戻ったみたい、ね…」
執務室でみーちゃんことミカエルは呟く。
窓の外には空が見える。
その下には地上、悪魔達がいる世界だ。
「あの頃に戻れたら良いのに」
ミカエルは寂しげにこぼした。
ずっと昔、まだ何も知らなかった頃、愛しい愛しい“あの子”がいた頃…
ミカエルは窓から地上を覗き込む。
この下には”あの子”がいるのだ。
ミカエルは誰に言うまでもなくぽつりと言った。
「いつか会えるわ」
そしてミカエルは微笑んだ。
「南の町でまた襲撃があったんだって」
悪魔が2人もやられたってよ、と古びた屋敷の小さな部屋で金髪の人物は言った。
「ねー聞いてるのー?」
金髪の人物は目の前にいるメガネの人物を揺すった。
メガネの人物はむっくりとテーブルから起き上がる。
「…聞いてる」
ホントにー?と金髪の人物は首を傾げる。
「そう言ってる時に限って聞いてないこと多いじゃんぼすー」
ぼす、と呼ばれてメガネの人物は不機嫌そうにそっぽを向く。
「…ぼすって呼ばないでって前に言ったじゃん」
もうそういう立場じゃないから、とメガネの人物は呟く。
「わたしはもうそういう偉い奴じゃないんだ…天から落とされたダメな奴…」
そう言いつつ、メガネの人物はまたテーブルに伏せようとする。
「…そんなことばっか言ってんじゃねぇ」
不意に部屋の入り口から声が飛んできた。
2人が見ると、帽子を被った人物が立っている。
「あ、アモン」
金髪の人物は呟く。
「そういうことばっか言ってると体に悪いぞ」
ただでさえお前は弱っているのに、と帽子の人物ことアモンはテーブルに近づき席に着いた。
「それでも前天使長か」
「うっ」
メガネの人物はたじろいだ。
「…それ、1番聞きたくない」
わたしの黒歴史…とメガネの人物はそっぽを向く。
なんだよ、とアモンは脚を組む。
「お前らしくないな」
「それはもう1人のわたしだよ」
メガネの人物はぽつりと呟く。
「もう一人のわたし、ルシファーじゃない何か…全部、あいつのせいだ」
天界がああなったのも、わたしが堕ちたのも、とメガネの人物はまたテーブルに伏せった。
帽子の人物は呆れた表情をする。
金髪の人物はそんなこと言わないで、とルシファーの頭を撫でた。
ルシファーはされるがままになっていた。
どうも、テトモンよ永遠に!です。
突然ですが企画です。
企画名は「Daemonium Bellum」(読み:デモニウムベルム)
天使と悪魔が果てしない争いを続ける世界の物語を、ポエムでも小説でも何かの形で皆さんに書いてもらおうという企画です。
少し前から温めていた企画で、やっと日の目を見ることができました。
少しでも多くの人の人に楽しんでもらえたら幸いです。
開催期間:5月2日(月)21時〜5月6日(金)24時
準備期間:この書き込みが掲示板に反映された時〜5月2日(月)21時
参加資格:参加しようと思う気持ち
今回の企画は前回開催した企画「魔法譚」の反省を活かし、準備期間を設けることにしました。
参加を迷っている方はこの期間に好きなだけ悩んで欲しいです。
多少のフライング・遅刻も可です(笑)
あ、投稿作品にはタグ「Daemonium Bellum」もしくは「デモニウムベルム」を付けてね。
さぁ次は用語解説です。
なんと、この手の企画がまた催されるとは。
こういったものがあると物語が掲示板に増えて嬉しいものです。
何か思いつき次第参加したいと思います。
レスありがとうございます。
そう、またやるんですよこの手の企画(笑)
ご参加を楽しみに待っています。
創作企画「Daemonium Bellum」の用語解説です。
〈天使:Angelus〉
秩序を以って地上に平和をもたらそうとする勢力。
基本的に人型で背中に羽根がある。
地上に巣食う悪魔とは敵対している。
少し前に全天使の三分の一が反乱、地上に逃亡・追放される事件が起きたせいで人手不足気味。
集団行動が多い。
人間からは崇められたり、迷惑な存在とされたりとさまざまな扱いを受けている。
悪魔と繋がっている者や人間に協力する者、悪魔に宥和的な者もいるらしい。
首と心臓が弱点で、これらを破壊すれば倒せる。
逆に弱点以外に攻撃しても怪我はその場で治ってしまう。
〈悪魔:Diabolus〉
混沌を好む地上の勢力。
本来は異形の姿をしているが、普段はほとんどが人間に近い姿をとっている。
天界に住む天使とは敵対している。
天使のように1つの勢力で動いているのではなく、個人個人で戦っている者がほとんどである。
人間からは崇められたり、迷惑な存在とされていたりと様々な扱いを受けている。
天使と繋がっている者や人間に協力する者、天使に宥和的な者もいるらしい。
首と心臓が弱点で、これらを破壊すれば倒せる。
逆に弱点以外を攻撃しても怪我はその場で治ってしまう。
〈堕天使:Angelus Lapsus〉
天界から諸事情で追放された/逃亡した天使のこと。
追放された者は大抵片方の羽根を切り落とされいる。
天使や悪魔に協力する者、第三勢力として動く者、人間に溶け込む者など様々な者がいる。
〈人間:Human〉
地上に住む無力な存在。
数だけが取り柄。
文明レベルは中途半端で停滞気味。
よく天使と悪魔の戦いに巻き込まれている。
天使や悪魔を崇める者、利用する者、協力する者と様々な者がいる。
以上です。
創作企画「Daemonium Bellum」は5月2日からスタートです!
どうぞお楽しみに。
堕天使もやっぱり首と心臓が弱点なんですかね? それともちょっと弱体化したりしているんでしょうか?
レスありがとうございます。
そうですね、やはり堕天使も首と心臓が弱点です。
ただ羽根を切り落とされている個体は多少の弱体化はあるかもしれません(そうでもない個体は弱体化していないと考えてもらえれば)。
しかし堕天使だとしても、首と心臓以外を破壊してもすぐに治ってしまいますね。
なんだか説明が足りなくてすみません。
参加したいけど勉強が、、、やることが、、、あああ、、、、
なんとか余裕ができたら参加したいと思います、、、。
レスありがとうございます。
無理に参加しなくても大丈夫ですよ。
実は企画者自身も開催期間中はGWなのに予備校があって忙しいのです(笑)
読む専でもOKです。
レス返信ありがとうございます。どちらにせよ楽しませていただく心持ちです。予備校頑張ってください!
レスありがとうございます!!
社会勉強…そうですね、大学生になって高校までとは社会との関わり方が変わったと強く感じます。
だからこそではないですが、障害も高校までほど何もできないとは思わないきっかけになるのかもしれません。(すみません、何の障害かも理解はできていないのでとても無責任ですが)
話は変わりますが、テトモンよ永遠に!さんの小説は度々拝見させてもらってます。
よくそんなにアイデアあるなぁと感心するばかりです。僕もあなたのような小説を目指して今度書いてみようと思います!
その時は評価、レスお願いします!(笑)
こちらこそレスありがとうございます。
なるほど、そういう考え方もアリかもしれませんね。
あといつも小説を見てくれてありがとうね。
クオリティは高くないし、自分の空想をただつらつらと書いてるだけの小説ですが…
これからも頑張ります。
未完成の全知全能さんの作品も待ってますね。
どうも、テトモンよ永遠に!です。
創作企画「Daemonium Bellum」の開催まで、あと3日となりました。
まだ「デモニウムベルムとは何ぞや?」という方もいらっしゃりそうなので、ここで再度企画の概要紹介をしたいと思います。
企画名:Daemonium Bellum
開催期間:5月2日21時~5月6日24時
準備期間:4月25日15時~5月2日21時
作品形式:企画の世界観に沿うものなら何でも
参加資格:参加したいと思う気持ち
タグ:「Daemonium Bellum」もしくは「デモニウムベルム」(スペルミス注意)
詳しい概要・用語解説については、タグ「Daemonium Bellum」から遡って見てね。
あといくつか質問が届いていたのでここで紹介したいと思います。
〈ルールについての設定〉
Q,投稿作品数の上限はありますか?
A,特にありません。好きなだけ投稿していただいて結構です。
〈世界観についての質問〉
Q,堕天使の弱点も首と心臓ですか? それとも多少弱体化はしているんでしょうか?
A,堕天使も首と心臓が弱点です。しかし、羽根を切り落とされた個体は多少弱体化していると思います。それでも首と心臓が弱点であることに変わりありませんが。
さらに補足ですが、用語解説にて天使と悪魔の項目に「首と心臓が弱点が弱点で、これらを破壊すれば倒せる」と書きましたが、意味合い的には首と心臓の”どちらか”を破壊すれば倒せるって意味です(紛らわしくてすまない)。
まぁハッキリしていない設定に関しては個人個人で補って頂いても結構なので。
さぁ、創作企画「Daemonium Bellum」は5月2日から開催です。
まだまだ準備期間は続くので、作品を作っている方は頑張ってほしいし、参加を迷っている方はトコトン悩んでくださいね。
皆さまのご参加を楽しみにしております。
太陽が高く上った昼下がり。
人里離れた森の片隅に小さな屋敷がある。
その屋敷の一角にある部屋で、机に伏している者がいた。
「…おーい」
起きて、と揺すられるが、その人物は顔を上げる気配はない。
「起きないの~?」
暫く揺すって、やっとその人物は顔を上げた。
「何か用?」
無理やり起こされた事に不服そうな顔をしながら、その人物は傍に置いておいた眼鏡を掛ける。
「やっと起きましたね」
ずっと揺すっていた人物はうれしそうな顔をする。
「ねぇ”ぼす”…外へ出ましょうよ?」
「断る」
”ぼす”と呼ばれた人物は、間髪入れずにそう行った。
「だってめんどくさい」
「そんな事言われても」
ずっと室内にいたら身体に悪いですよ~と金髪の人物は”ぼす”を揺する。
やめなさい、と言いながら”ぼす”と呼ばれた人物は相手を諫めた。
「どーせ、天使共がわたしを探しているから、外に出たって…」
襲撃されるくらいならここにいた方がマシ、と”ぼす”と呼ばれた人物はそっぽを向いた。
えー、と金髪の人物は不満そうな顔をする。
「もし天使に遭遇してもボクやアモンがどうにかするから大丈夫だよー」
だから外に出よーと金髪の人物は”ぼす”の腕を引っ張る。
ちょっとベベ…と”ぼす”は嫌そうな顔をした。
すると部屋の入口から声が飛んできた。
「おい”ルシファー”」
見ると部屋の入口に帽子を被った人物が立っている。
「健康のためにも外へ出た方が良い」
その体はお前1人のものじゃないんだぞ、と帽子の人物は椅子にダン、と足を掛けた。
「アモン…」
ルシファーは微妙な顔をする。
アモンはべべ、と呼ばれた人物にも目を向ける。
「あとベリアル、お前ちょっと強引過ぎ」
もう少し優しくせい、と睨み付けた。
ベリアルはふふふと笑う。
「アモンはぼすの事が好きだねー」
「ちょっ違っ」
アモンはすぐにそっぽを向いた。
「別に好きじゃないから!」
ただ心配してるだけ…とアモンは顔を赤くする。
「うんうん、アモンは好きだもんねー」
ボクも好きだけどね、とベリアルはうなずく。
「と、とりあえず、俺は行くからな!」
アモンは気まずそうに部屋を出ていった。
「じゃあ行こっかー」
ベリアルはルシファーの手を引きながらそれに続く。
「え、ちょっと待ってよ」
ルシファーはそのまま引きずられるように部屋から出ていった。
天使の涙 悪魔の涙 堕天使の涙 人間の涙
それぞれ力や能力の差はあれど
決して無視してはならないだろう
そんなことがあれば 世界は均衡を失う
世界は混沌へ還る 世界は崩れ滅びゆく
その時 涙を拭い笑うのは誰なのだろうね?
今日もまた 高みの見物といこうじゃないか
人気のない野原にぽつんと生える大木の影、3つの人影が立っていた。
その内1つは木の根元で座り込んでいる。
「…」
せっかく外に出たのに日陰にいるルシファーを見ながら、アモンは呆れた顔をした。
「お前いつまでそこに座り込んでるんだよ」
そう言われてルシファーはちらとアモンの方に目を向ける。
「別に良いじゃん」
「ンな事言われても」
アモンはそう返したが、ルシファーは足元で動かない。
「…いくら襲撃が怖いからって、ずっと外に出ないのは問題あるだろ」
アモンにそう言われて、ルシファーはムッとした顔をする。
「わたしの過去なんかよく知らない癖に」
そう言われて、アモンはうぐっとうろたえた。
「どーせわたしが堕ちた経緯ぐらいしか知らないのでしょう」
それ以前にどんな暮らしを天上でしていたかなんてあなたは知らないだろうし、とルシファーは膝に顔を埋める。
アモンは微妙な顔をした。
確かにルシファーの言う通り、アモンはこの堕天使の過去をよく分かっていない。
せいぜい知っててここへやって来るまでのまでの経緯ぐらいだ。
「それでも…」
そう言いかけた時、その場から離れていたベリアルが小走りでこちらに戻ってきた。
「ぼす! ねぇあれ見て!」
ベリアルは慌てた様子で空を指さす。
空には白い鳥が何羽か飛んでいる。
「一体どうしたって言うんだ?」
アモンがそう聞いた時、ルシファーが何やら呟いた。
「…まずい」
「え?」
アモンが思わず聞き返したその時、上空から何かが降ってきた。
「⁈」
すんでの所で避けると、背後の木に無数の矢が刺さっていた。
「…おいおいマジかよ」
アモンは思わず呟く。
「逃げるよ」
いつの間にか立ち上がっていたルシファーはそう言った。
「…だな」
アモンは静かにうなずいた。
襲撃開始から暫く、3人は森の中を走っていた。
空を見上げれば、何人かの天使がこちらを追跡している。
「…アイツら、何で急に襲ってきたんだ?」
「知らない」
「アモンが何かやらかしたからじゃない?」
「うるせぇ!」
お互いに言い合ったりしながらも、3人は追跡から逃れようと走っている。
「このままだとラチが明かないな…」
アモンはぽつりと呟く。
「じゃあ、あいつらを撒くために散る?」
「お、そうだな」
ルシファーの提案に、アモンは賛同した。
「ぼすがいいのならボクもそれに従う~」
ベリアルはのん気そうに答えた。
よし、じゃあ…とアモンはうなずく。
「解散!」
ばらっと3人は森の中でそれぞれの方向に散っていった。
だがすぐにひっと誰かの声とドサッという音が聞こえた。
「げっ」
まさか、とアモンは思わず立ち止まる。
「おいルシファー!」
アモンは名前を呼ぶが返事がない。
まずい事になった、とアモンは声がした方へ走り出した。
さっき声がした方へアモンが走ると、そこには2つの人影があった。
1つは眼鏡をかけたルシファー。
もう1つは見慣れないブロンドの髪の人…
いや、その背中には白い羽が生えている。
「うっ…」
アモンは思わず後ずさった。
長いブロンドの髪に立派な服装…何度か聞いたことがある。
ソイツの名前は…
「…みーちゃん」
その場に座り込んだルシファーは震える声で呟く。
みーちゃんと呼ばれた天使はうふふ、と笑った。
「久しぶりね、ルシファー」
そう言ってルシファーに近づこうとしたした。
すると上から誰かがサーベル片手に突っ込んできた。
「うちのぼすに手を出すなぁぁぁぁぁ‼」
すんでの所で”みーちゃん”は回避する。
飛び込んできたベリアルは”みーちゃん”の前に立ちはだかった。
「うちのぼすには指1本触れさせない!」
例え相手が天使長ミカエルであっても!とベリアルは相手を睨みつける。
「あら」
ベリアルじゃない、とミカエルは驚いたような顔をする。
「久しぶりね、どれくらいぶりかしら?」
勝手に堕天して以来ね、とミカエルは微笑む。
「…そんな事はどうでも良い」
とりあえずうちのぼすから離れて!とベリアルは怒鳴る。
「嫌よ、だって…」
ミカエルはニコリと笑う。
「ルシファーを取り返しに来たもの」
その言葉と同時に、ばっとベリアルの周囲に何人かの天使が飛びかかる。
とっさにベリアルは攻撃を避けようとするが、すぐに取り押さえられてしまった。
「ぼす!」
慌てて叫んだがもうすでに遅かった。
ミカエルはほんの一瞬の隙を突いてルシファーに飛びついた。
「ひっ」
ルシファーは後ずさるが、それも虚しくミカエルに抱きしめられてしまった。
「ああわたしの愛しのるし…」
言いかけた所で、ミカエルは背後に気配を感じた。
ぱっと後ろを見ると、剣を持った人影が飛びかかってきている。
「…」
ミカエルはどこからともなく大剣を出し、振り向きざまにそれを振るう。
キーンと剣同士がぶつかり合う高い音が響いた。
「まぁ、悪魔の癖に天使を気に入ってるなんて」
「とりあえずソイツから離れろ」
アモンは目の前の天使を睨みつける。
ミカエルはふふふふふ、と笑うと大剣でアモンを振り払った。
「ぐっ」
アモンは勢いのまま後ずさる。
ミカエルはもう1度ルシファーに向き直る。
「うふふ、もう2度と私は貴方を離さない…」
「待って待ってみーちゃん落ち着いて」
わたしはもう…と言いながらルシファーは後ずさる。
「もう天上には戻れない、だから…」
そう言いかけた所で、ルシファーはぷつんと糸が切れたようにうなだれた。
周囲は一体どうしたと途方に暮れるが、不意にルシファーは顔を上げた。
「…やぁ」
久しぶりだねみーちゃん、とルシファーはゆっくりと立ち上がる。
その右目だけ赤く輝いている。
「貴方は…」
ミカエルはぱっと頬を赤らめる。
「そう”ぼく”だよ」
いつぶりかな?と言いつつ、その人物はミカエルを抱きしめた。
「サタン…」
ミカエルは嬉しそうな顔をする。
「どうしてぼくを迎えに来ようとしたのさ」
サタンが尋ねるとミカエルはだって、と呟く。
「だって貴方がいないと寂しくて寂しくて…」
すべてが色を失ったよう、とミカエルはサタンの頭を撫でた。
サタンはうんうん、とミカエルを慰める。
「…でもさ、好きでいてくれるのは良いんだけどね、ぼくを取り戻すなんてよすべきだと思うんだ」
「どうして?」
ミカエルは思わず聞き返す。
「だってぼく”達”は天界から追放された身、ついでに羽根も切り落とされて昔のようには飛べない」
サタンのその言葉に、それでも、とミカエルは返す。
「いやいや、君がどうやっても無理」
下手すれば君も追放されちゃうよ~とサタンは笑う。
「…」
その言葉にミカエルは何も言えなくなってしまった。
「まぁまぁ、ぼくのことはいいからさ、そろそろ帰りなよ」
他の天使が君のことを探してるかもよ、とサタンは促す。
「…でも」
「でもじゃない」
ミカエルがそう言いかけた所で、背後からアモンが剣を向ける。
「ソイツが言ってるんだ、そろそろ上へ帰れ」
じゃないとこっちも困る、とアモンは言う。
「ていうかさっさとソイツから…」
「…うるさいわね」
アモンの言葉を遮るように、ミカエルは振り向いた。
「嫌なものは嫌なの、分かる?」
そう言ってミカエルはアモンに近づく。
「んなこた知らねぇよ」
とりあえず今すぐ失せろとアモンは言い放った。
「…嫌よ」
そう言ってミカエルはどこからともなく大剣を出した。
「わたしの邪魔をするのなら、誰であっても…」
ミカエルはそう言いながら大剣を高く持ち上げる。
「あ、待って…」
サタンが言いかけたが、ミカエルは気にせずアモンに剣を振りかざそうとした。
「…コラー!!」
不意に上から怒鳴り声が飛んできた。
皆がぱっと上を見ると、明るい茶髪の天使が飛んでいた。
「なーにやってるのよみーちゃん!」
仕事の途中でしょうが!と茶髪の天使は地面に着地する。
「あらラフィ」
来たのねとミカエルは微笑んだ。
「来たのねじゃない!」
どこをほっつき歩いてるのかと思えば…とラフィと呼ばれた天使は呆れた顔をした。
「とりあえず、帰るわよ!」
仕事が溜まってるんだから、とラフィはミカエルの腕を掴む。
「…」
ラフィは黙って目の前の堕天使に目を向けた。
「よーラファエル、久しぶり」
サタンはそう言って笑いかける。
「…そうね、貴方の処刑以来」
ラフィことラファエルは無表情で返した。
スニップ・スナップ・スノーレム。
「おい天使ィ、お前8の札4枚持ちしてんだろ。ズリィなァ」
悪魔が細長い腕で天使を指しケタケタ笑う。
スニップ・スナップ・スノーレム。
「それがどうした?」
天使はそちらに目も向けず答える。
スニップ・スナップ・スノーレム。
「ンだよつまらねえ。もっとノッてこいよォ。そんなつまらない性格してっから万年人材不足なんじゃねえの?」
スニップ・スナップ・スノーレム。
「天使様、剣は使わないルールのはずですが」
場違いに混じる人間が言った時には、悪魔の片腕は既に斬り落とされていた。
スニップ・スナップ・スノーレム。
「イタカ様。しれっと場札からカードを抜き取ろうとしないでください」
「ゲェッ、バレた」
イタカと呼ばれた悪魔の腕を、人間がピシャリと叩く。
スニップ・スナップ・スノーレム。
「イタカ様、それは私の手札です」
「鮮やかなスリの技術だろう?」
「如何様はご法度と最初に申し上げたはずですが……」
スニップ・スナップ・スノーレム。
「……上がり」
「ゲェッ、堕天使ィ!」
「こいつ……注意が向かないように掛け声以外何も言わずに……!」
「堕天使様、おめでとうございます。今回のDaemonium Bellumは、堕天使様の勝利によって、悪魔天使ともに引き分けということで」
「あ、ぼくが起こした大反乱まだ引きずってる?」
サタンにそう聞かれて、ラファエルは微妙な顔をする。
「…貴方さえいなければ、ルシファーはこんなことにならなかった」
「そうだね、でも仕方ない」
ぼくはこうして存在してしまってるんだし、とサタンは言う。
「むしろ今の状態の方が”あの子”も楽でいいんじゃないかな?」
天使長の仕事って重すぎるし~とサタンは笑った。
ラファエルは溜め息をついた。
「とりあえず、行くわよみーちゃん」
「…仕方ないわね」
ミカエルはそう言うと、サタンの方を向いた。
「ごめんね、仕事が入っちゃって」
「別にいいよー」
仕事優先だしね、とサタンは言った。
「んじゃまたねみーちゃん」
「ええ、また会いましょうサタン」
ルシファーにもよろしくと言うと、ミカエルは他の天使たちと共に空へ飛び立った。
ばいばーいとサタンはその姿を見送っていたが、不意に糸が切れたように倒れた。
アモンとベリアルは思わず駆け寄る。
「…う」
サタンはむくっと起き上がる。
「あれ、どうなった?」
わたしさっき気を失って…とサタン、もといルシファーは呟く。
「ミカエルなら帰ってったよ」
ベリアルはにこにこしながら言う。
「あ、そうなの」
ルシファーがそう言うと、ベリアルはそうだよ~と嬉しそうに答える。
「とりあえずぼすが無事でよかった!」
「うん、そっか…」
ベリアルの嬉しそうな顔に対し、ルシファーはちょっと寂しげな顔をする。
「ん、どうかしたの?」
やっぱりあのミカエルが恋しいの?とベリアルが訝しげな顔をする。
「そ、そんな訳ないけど…」
ルシファーは恥ずかし気にそっぽを向いた。
「ま、そんなことはいいから」
そろそろ帰る?とアモンが尋ねた。
「…そうだね」
そう言ってルシファーは立ち上がった。
〈おわり〉
どうも、テトモンよ永遠に!です。
企画「Daemonium Bellum」も終了になったので、あとがきを少し。
この企画は「魔法譚」と同じく自分の空想がベースになっています。
ただ「魔法譚」とは違って空想してきた時間が長いので、それなりに世界観が壮大なんですよ。
その世界観を企画に落とし込むために色々設定を削ったりしたんですが…やっぱり凝り過ぎでしたかね?
設定を凝るのは自分の癖なので仕方ないのでしょうが、それにしても細かいなと思います(笑)
とにかく、企画って難しいね!(笑)
今度は皆が参加しやすいように設定は細かくし過ぎないようにしようと思いました。
でも楽しかったです、長い事空想し続けていた物語を形にすることができて。
最後まで付き合ってくれた皆さんありがとうございました。
ちなみに次に企画をする予定はあるんですけど…いつかは未定です。
未定のまま流れる可能性もあります(笑)(だって忙しいし…)
まぁ今回ほど凝った企画にはしないのでご安心ください。
とりあえず、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
まとめはそのうち作ります!
またお会いしましょう!
企画してくださりありがとうございました。
設定があれなもので、投稿したものの消されたり、そもそもこれは流石に掲示板には出せないなと自粛した作品もありましたが、堕天使サイドを除いた各陣営サイド別に個人的に数本書いていました。ベースにできるものがあると書きやすくて楽しかったです。
ファンタジックな世界観は好きなので、今後もこういった企画をまた作っていただけると嬉しいです。
自分でも何かやってみたいとは思っているのですが、この掲示板で企画するのにちょうど良いアイディアに落ち着けるの、なかなか難しいですね。
テトモンさんの長編シリーズの続きも待っています。
レスありがとうございます。
ご参加いただきありがとうございました。
上手くいかなかったところもありますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
ちなみに「ハブ ア ウィル」は企画のためにお休みをいただいておりました。
今日中には再開すると思いますので、お楽しみに。
え、気がついたら終わってた、、、(泣)参加できずすみません、読み手に徹して楽しませていただきました、ありがとうございます。忙しい中ほんとにお疲れ様です。
テトモンよ永遠に!さんのことを応援しています。
レスありがとうございます。
あ、遅刻投稿も可ですよ(笑)
でも楽しんでいただけたならうれしいです。
こんなショボい企画でも…
返信有り難うございます。
ショボいだなんてとんでもない!こんなことができるのか、と驚いた企画でした。遅刻投稿もいいんですね(笑)。ほんとにとてもとても楽しかったです。
では、また〜
テトモンよ永遠に!さんの企画予告に圧倒されています...!
正直、あれを越えるものを作れる気がしませんが頑張って参加しようと思います!
一つ質問なのですが、企画のポエムだったり小説だったりを何個も書き込むのはOKなのでしょうか?