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「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」11個目のエピソード「ゴブリン」のまとめ。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ①

この街に、夏がやって来た。
学生服は夏服へと切り替わり、商店街の定食屋には”冷やし中華始めました”の張り紙が見られるようになった。
駅の自販機でアイスを買う人も増えたような気がする。
…もうすっかり夏である。
わたしはどうかと言うと、相も変わらずだった。
学校では1人、退屈な時間を過ごすことが多いままだ。
時々数少ない友達と連んだりはするけど、なんだかんだ1人でいる事の方が多い。
でも、それで良かった。
最近は週末に”彼ら”と会う事が楽しみとなっていた。
わたしの知らない世界を生きる”彼ら”と他愛のない時間を過ごす。
それがわたしの数少ない楽しみとなっていた。
…もちろん、毎週のように”彼ら”と会っている訳ではない。
今日のように、会わない日もあるものだ。
今日のわたしは、ショッピングモールではなくいつもの駄菓子屋に向かっていた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-14 00:30
  • そりゃああんな刺激的な知り合いがいたら一般人の友達なんかじゃ物足りないだろうし、孤独な時間を過ごすことで彼らとの再会に備えた方が有意義ですわな。
    そんなことよりゴブリン! 様々な作品において雑魚と見られがちな生き物ですが、どんな能力に昇華されるのか楽しみです。

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2022-06-14 17:45
  • レスありがとうございます。
    ここだけの裏話ですが、このモノローグにおける「友達」というのは、一般人じゃなくて今までのエピソードに登場した同じ学校の異能力者(亜理那や遥)とかのことですね。
    亜理那の一般人の友達も含まれているかもしれませんが…

    新エピソード、楽しみにしていただいて嬉しいです。
    どんな物語になるかお楽しみに。

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2022-06-14 20:07
「11.ゴブリン」開幕。

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ②

別に彼らに会いたくない訳ではなく、たまたま先に駄菓子屋に行きたい気分なのだ。
もちろん、駄菓子屋で用を済ませたら、真っ直ぐショッピングモールへ向かうつもりだ。
さて、何を買おうか…と考えながら歩いていると、不意に目の前に人が現れた。
「!」
わたしは思わず足を止める。
「やぁ」
目の前の少年は気さくに話しかけてきた。
「ちょっと良いかな?」
急に少年がそう尋ねてきたので、わたしははぁ、としか答えられなかった。
「…なぁ、少し俺と話さない?」
「は?」
わたしはついポカンとする。
「は、話すって…」
「まぁちょっとお喋りするだけだよ」
少年はそう言ってわたしに笑いかける。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-15 00:35

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ③

「どうだい?」
ちょっと俺と話さない?と少年はわたしに言った。
「…遠慮させていただきます」
「は? 何で!」
わたしが断ると、少年はそう声を上げた。
「良いじゃんちょっと位…」
何が嫌なのさーと少年は落胆する。
いやだって、とわたしは答える。
「どっからどう見ても怪しい…」
わたしがそう言うと、少年は慌てたように説明する。
「いやいやいや! そんな怪しい者じゃないから!」
見りゃ分かるだろ!と少年は腕を広げた。
「えぇ…」
わたしは思わず困惑する。
怪しくない、と言われても、何だか余計怪しく見えてくる。
何だかこの人とは関わらない方が良いような気がしてきた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-17 00:26

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ④

「あ、あの…わたし行きますね」
相手が怪し過ぎると思ったわたしは、少年の横を通り過ぎる事にした。
「あ、ちょっと~」
少年はわたしを止めようとしたが、わたしは彼を無視して歩き去った。

「やぁ」
怪しげな少年から離れて数分後、わたしの目の前にはまたあの少年がいた。
「ちょっと時間ある?」
「え」
わたしはなぜまた彼に遭遇したのか分からず困惑する。
「ちょっと俺と話をしないかい?」
「遠慮させて頂きます」
少年の提案に対し、わたしは即座にそう返答する。
「えー何で~」
ちょっと位良いだろ~と少年はがっかりする。
「…だっても何も」
怪しい人とは話したくないし、とわたしは答えた。
「あ、怪しいって…」
「そろそろ行くね」
少年の話を遮るように、わたしはその場から立ち去った。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-17 00:35

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑤

しかし…
「やぁ、また会ったね」
数分後、わたしの前にはまた彼がいた。
「ちょっと俺と…」
「嫌です」
少年が言い終わる前にわたしはそう答える。
「…まだ言い終わってないんだけど」
「どうせまた話をしないかって言うんでしょ?」
わたしは訝し気な目を彼に向ける。
「…あなたは一体何がしたいの?」
わたしがそう尋ねると、少年はうーんと少し考える。
「…ま、ちょっと君と話がしたいだけさ」
「何それ」
わたしは思わず突っ込んだ。
「怪し過ぎる」
「いや怪しいも何も」
わたしの発言に対し、少年は何もないよと言わんばかりに両手を振る。
「俺はただの通りすがりの中学生ですよ~」
彼の発言に対し、わたしはえぇ…と呟く。
「…と、とにかく、わたしはあなたと関わる気がないので!」
失礼します!とわたしは彼の横を通り過ぎた。
「…関わらずに済むかなぁ」
ぽつっと少年が何かを呟いた気がしたが、わたしの耳には届かなかった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-17 22:49

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑥

それから暫く経った後。
わたしは路地裏を走っていた。
あの後、わたしは何度も何度もあの少年に遭遇していた。
その度に話をしないかと言われ、その都度わたしは断ってきた。
でもだんだんそれが面倒になってきて、わたしは彼に追いつかれないように走る事にしたのだ。
そして彼に追いつかれないようにするため、細かく角を曲がって遠回りをしていた。
そのお陰か、今の所あの少年には遭遇していない。
この調子で駄菓子屋まで辿り着ければ大丈夫だ。
…それにしても、あの少年はなぜわたしに絡もうとするのだろう。
走りながらわたしは考える。
毎度のごとく話がしたい、と言ってくるが、それはどういう事なのだろうか。
単に暇なだけと考えるには、理由が足りない気がする。
やっぱり何か目的があるのだろうか。
…だとすると、その目的は?

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-21 00:55

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑦

色々考えながら走っていると、駄菓子屋の軒先が見えてきた。
もうすぐ目的地だ。
これで安心…と歩みを緩めた時、急に路地の角から人が現れた。
「よっ」
その人物はわたしに気さくに笑いかけてくる。
「え」
わたしは思わず絶句した。
それもそのはず、目の前に現れたのはさっきから度々わたしの前に現れているあの少年だったのだ。
「どこへ行くかと思ったら、駄菓子屋に行こうとしてたんだな」
いや~見失うかと思ったよ、と少年は笑う。
「それにしても随分と逃げるねぇ」
ま、俺からは逃げられないけど、と少年は言った。
「何なのよあなた…」
わたしは思わず呟く。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-22 00:45

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑧

何が起こっているのか分からなくて、わたしはそれ位しか言えなかった。
「え、俺?」
少年はポカンとする。
「まぁ…通りすがりの人間だよ」
そんなに怪しい奴ではないさ、と少年は笑った。
「はぁ…」
呆れ果てたわたしはそれしか言えない。
「…で」
何で君はそんなに逃げるんだい?と少年はわたしに聞いた。
「ちょっと話をしようとしか言ってないのに」
君ちょっとビビり過ぎじゃない?と少年は言った。
「いや、だって…」
わたしは引き気味で呟く。
「…どう見ても怪しい人じゃないあなた」
わたしの発言に対して、少年はうーんと首を傾げた。
「本当に怪しい奴だと思うかい?」
ほぼ初対面なのに、と少年は続ける。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-24 23:02

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑨

「人の本性なんて案外分からないものだろう?」
「そんな事言われても」
わたしは思わず言い返す。
「怪しいと思うものは仕方ないでしょう?」
彼が不気味に思えて来たわたしは、彼の横を通り過ぎようとした。
しかし、彼が立ち塞がって来た。
「おっと」
少年はわざとらしくそう言う。
「こっちの話はまだ終わってないぞ?」
少年はそう言って笑った。
「良い人のように見える奴が案外そうでもなかったり、逆に怪しく見える奴の方が意外と良い奴だったり…そんな事もあるんだぞ」
だから俺も、君が思うより怪しくなかったり…と少年は続ける。
「えぇ…」
わたしにはそれが単なる言い訳のようにしか聞こえなかった。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-24 23:11

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑩

「てなワケでどうだい?」
俺と…と少年が言いかけた所で、わたしはこう言い放った。
「お断りさせて頂きます!」
わたしはそう言って再度彼の横を通り過ぎようとした。
だが彼にまた足止めされてしまった。
「…どうして」
「どうしてそこまでするのか、と聞きたいのだろう?」
少年は不意に呟く。
わたしは驚いた。
というのも、わたしの言おうとした事をそっくりそのまま発したのだ。
「…何?」
どういう事なの?とわたしは困惑する。
「どうしてわたしの言おうとした事が…」
「分かったの、てか?」
少年はそう言って被っていたフードを外した。
わたしは目の前の光景に息をのんだ。
…少年の目が、鮮やかなコバルトブルーに輝いている。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-24 23:21

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑪

「あなた…」
わたしがそう言いかけた時、不意に駄菓子屋の方から声が飛んできた。
「あれ?」
見るとわたしの見知った4人が立っていた。
「ネロ! 皆!」
知り合いが来た事で、わたしは思わず安堵する。
しかしネロは訝し気な顔をした。
「…ゴブリン?」
ネロがぽつりと呟くと、わたしの目の前にいる少年は少し手を挙げる。
「やぁネロ」
何週間かぶり?と少年は笑った。
「え、え?」
わたしは訳が分からなくて。ネロ達と少年の顔を交互に見る。
「どういう事?」
わたしは思わず呟いた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-28 00:58
  • ネロたちが再び出てきましたね!
    この面々が出てきたのを見た時、とても懐かしくなりました。

    ネコ69(ロック)
    ー/18歳/兵庫県
    2022-06-29 17:25
  • レスありがとうございます。
    確かに、普段のエピソードだと序盤から出てくることが多いですもんね。
    久しぶりに思われるのもおかしくないかな。

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2022-06-29 18:54

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑫

「いやどういう事って言われても」
「何とも言えんよなぁ」
ネロと少年はそう言って笑い合う。
「…ま、知り合いみたいなもんさ」
ネロ達とは、ねと少年は言った。
「し、知り合い?」
わたしが聞き返すと、少年はそう、とうなずいた。
「知り合いとも言えるし、顧客、とも言えるな」
え、こきゃ…とわたしが言いかけると、少年はハハハ、と笑う。
「ま、そんなもんだよ」
そう言って、少年は両目を光らせるのをやめた。
そしてこう言った。
「俺は角田 海敦(すみだ みつる)、またの名を…ゴブリン」
よろしくな、異能力を知ってしまった常人、と少年はわたしに笑いかけた。
「ミツルの異能力は人の行動を読む能力なんだ」
だから何をしてもコイツの前ではお見通し、と耀平は説明した。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-06-29 00:25
  • つまり、逃走ルートをその都度サイコロか何かで決めれば、ゴブリンからの逃走は可能なんだろうか。そういうのとはまた違う?

    何かが崩壊している者
    男性/21歳/埼玉県
    2022-06-29 16:02
  • レスありがとうございます。
    そこまで考えたことはないですが…その方法なら彼からの逃走も可能かもしれませんね。

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2022-06-29 16:49

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑬

「あー…なるほど」
耀平の説明を受けて、わたしは納得がいった。
さっき彼の横を通り過ぎようとしても必ず足止めされるのも、どれだけ逃げても追いつかれるのも、全ては異能力のせいかもしれない。
そう考えると合点がいく。
「ちなみに俺は寿々谷で異能力者達の情報屋をやっているんだ」
「え情報屋⁈」
わたしは思わず聞き返す。
「情報屋って、あの、寿々谷の異能力者達にわたしの情報を流しているっていう…」
「そう。その情報屋」
ミツルはそう言ってうなずく。
「寿々谷中の異能力者の情報を集めては、必要とする者に融通する」
そんな情報屋さ、とミツルは笑う。
「君も欲しい情報があるなら、ぜひ俺の元に来ると良い」
ただし、とミツルは続ける。
「俺は”等価交換”がモットーだ…俺に情報を融通してもらいたいなら、それ相応の条件を飲んでもらわらないといけない」

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-07-01 23:43

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑭

「つっても条件は大体駄菓子だろ」
師郎にそう突っ込まれて、ミツルはうぐっとうろたえる。
「ま、まぁ…そうだな」
もちろん情報の時もあるけど、とミツルは付け足す。
「と、とにかくだな、何か情報が欲しい時は、ぜひ俺を頼ると良い」
よく駄菓子屋の周りにいるからな、とミツルは笑った。
「…はぁ」
わたしはとりあえずそれ位しか言えなかった。
この人が情報屋なんて、何だか意外だった。
「ちなみに俺を通して嘘の情報を流すのは無理だ…俺の異能力でお見通しだからな」
だから嘘はつかない方が良い、とミツルは両目を青く光らせた。
「それで…ネロ」
話が一旦落ち着いた所で、ミツルがネロに話しかける。
「俺に何か用かい?」
そう聞かれてネロはうーんと答える。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-07-01 23:53

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑮

「別に今回は用がないけど…ただ、何でコイツに絡んでるのかなって気になって」
「あ、それわたしも気になってた」
思わずわたしもうなずく。
「何でわたしに絡んできたの?」
わたしが尋ねると、ミツルはそうだなと答える。
「…君の存在を聞いてから、いずれ何らかの形で接触しようとは思ってたんだよな」
…で、とミツルは続ける。
「たまたま道端でお前を見かけたから、これは接触するチャンスだなと思って」
それで話しかけたのさ、とミツルは笑った。
なるほどね、とわたしはうなずいた。
わたしも、”情報屋”に会ってみたいと思っていたから、こうして出会えたんだし良かったのかもしれない。
でも、ずっと付きまとわれるのは気味が悪かったな…
「ま、ともかく」
これからどうする?とミツルは皆に聞いた。

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-07-02 00:19
  • レスありがとうございます~
    また多分企画すると思うから、
    その時はぜひぜひ参加よろしくね~

    かりんとうといもけんぴ
    女性/21歳/北海道
    2022-07-04 23:43
  • こちらこそレスありがとうございます。
    その時はよろしくお願いします。

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2022-07-05 16:39

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 11.ゴブリン ⑯

「あー駄菓子屋に行く所だったんだよね」
「実はわたしも…」
「へー皆駄菓子屋へ行くつもりだったのか」
一緒か~とミツルはうなずく。
「んじゃ、俺も行こうかな」
暇だし、とミツルは言う。
「そいじゃ行こうかね」
耀平がそう言って歩き出した。
「あ、待ってよー」
ネロは耀平の後を追いかけた。
他の3人も歩き出す。
わたしも彼らに置いてかれないように歩き出した。

〈11.ゴブリン おわり〉

テトモンよ永遠に!
女性/20歳/東京都
2022-07-05 00:34
「12.ユニコーン」につづく。