夏休みがやって来た。
約1か月半の長い時間を皆はどのように使うだろうか。
わたしは、宿題以外の時間を何に使うか悩んでいた。
今年は家族で遠出する予定は立っていないし、毎日遊ぶような友達もあまりいない。
部活はそもそも夏休み中活動しないし。
ずっと家の中にいるワケにもいかないから、わたしはとりあえず外に出るようにしていた。
その結果、いつもの”彼ら”と出会う事も多くなった。
”彼ら”も”彼ら”で、夏休み中は毎日のように会っているそうだ。
そのためか、わたしも”彼ら”と会う回数が普段よりも増えていた。
…今日もわたしは、駅前で”彼ら”に遭遇していた。
「あ、皆」
「よ」
「何だよ」
「暑いな」
レスありがとうございます。
夏休みってだけで特別なことが起こりそうでわくわくしますよね。
新エピソード、どうぞお楽しみに。
ふと見ると、”彼ら”と一緒にコバルトブルーの服を着た少年がいる。
「あれ? 今日はミツルもいるの?」
わたしが思わずそう言うと、ミツルはちょっと手を挙げた。
「よっ」
元気か、とミツルは笑いかける。
「まぁ相変わらず」
「そうかい」
ミツルとそんな会話を交わした時、ふと見慣れない少女と目が合った。
「あら」
明るい茶髪を高い位置で束ねた背の高い少女はそう微笑んだ。
「…久しぶりね」
そう言われて、わたしはポカンとしてしまう。
「え、えーと?」
どちら様でしたっけ…とわたしは尋ねた。
「あら、覚えてないの?」
わたしの様子を見て、少女はふふっと笑う。
「あなた、前に亜理那と一緒にいたじゃない」
5月くらいだったかしら、と少女は首を傾げる。
「…あ、そう言えば」
言われてやっとわたしは思い出した。
5月、亜理那が異能力者である事をカミングアウトした時に出会った背の高い子。
…確かに同一人物だ。
「やっと思い出したようね」
少女はそう言って笑った。
「え、何アンタ、コイツと知り合いなの?」
何で?とネロは少女に尋ねる。
少女はふふふとネロに目を向ける。
「…まぁ、知り合いの知り合いみたいなものよ」
まだ1回位しか会った事ないけど、と少女は続ける。
ネロはふーんとうなずいた。
「あなたが噂の、異能力者を知ってしまった一般人でしょう」
ミツルから聞いているわ、と少女はわたしに向き直って言う。
「まさかとは思ったけど…意外と普通の人みたいね」
「うっ」
彼女にそう言われて、わたしはついうろたえる。
「まぁ良いわ」
そう言って少女はわたしに言った。
「わたしは唯似、一本松 唯似(いっぽんまつ ゆに)」
気軽に唯似と呼んでちょうだいと彼女は笑いかけた。
「…あ、不見崎 清花(みずさき さやか)です」
よろしくって事で良いのかな…とわたしも自己紹介した。
「…それで? 今回はどうするの?」
わたしの自己紹介が済んだ所で、唯似は話を切り出す。
「今日? 今日はね…」
ネロはふっふっふと笑った。
「新寿々谷に行こうと思うのさ」
新寿々谷ね…と唯似はうなずく。
「新寿々谷?」
新寿々谷に用があるの?とわたしはネロ達に尋ねた。
「…え、特にないけど」
「うん、そうだよな」
「だな~」
「うんうん」
他のメンバーもそう言ってうなずいた。
「じゃあ何で…」
わたしが尋ねると、ネロが面倒臭そうに答えた。
「えー良いじゃん、たまには違う所で遊びたいし」
別に良いだろ、とネロはジト目で見る。
「はぁ…」
わたしはそう答える他なかった。
「まぁ良いや」
そろそろ行こうぜ、と耀平がネロに言う。
「いつまでもこんな道端で話してちゃ暑いし」
そう言われたネロはそうだね、と言って駅の入口の方へ歩き出した。
「あ」
わたしは思わず彼らを呼び止める。
歩き出しかけていた彼らは足を止めた。
「…わたしも、付いて行って良いかな?」
わたしの質問に対し、ネロはえー、と答えた。
「何でお前まで連れてかなきゃいけないんだよ~」
「確かに」
「まぁ…うん」
「ははは」
他の皆も苦笑いする。
「やっぱ無理?」
わたしがそう聞き返すと、皆は微妙な顔をした。
しかし、1人だけ違う者がいた。
「別に良いじゃない」
不意に唯似がそう言ったから、皆の視線が彼女に集まった。
「1人位増えても、ねぇ?」
そう言って彼女はネロに目を向ける。
ネロはえー、とそっぽを向く。
「面倒臭いから嫌なんですケドー」
「そう言わずに少し位付き合っても良いじゃない」
唯似はふふふと微笑む。
ネロは暫くの間不満気な顔をしていたが、やがて諦めたのかため息をついた。
「…仕方ない」
好きにしろ、と言ってネロは歩き出した。
「ちょ、ちょっと待てネロ!」
耀平が慌ててネロを呼び止める。
「一体どうするつもりなんだ?」
ネロはぴたと足を止めて振り向いた。
「…だって唯似には勝てないもん」
無理に抵抗しない方が良いし、とネロは答えて先へ進んだ。
「…」
男性陣は思わず黙り込んでしまったが、すぐに仕方ないな、と歩き出した。
「行くわよ」
唯似にそう言われて、わたしも彼らの後に続いた。
寿々谷市中心部から電車で約15分。
寿々谷駅の隣、新寿々谷駅は寂れている。
一時期は寿々谷駅より栄えていたらしいが、今となってはそうでもない。
駅前は閑散としており、人通りも少なく、商店街はシャッターが目立つ位だ。
駅の利用者数も少なく、あそこを使うのは地元民か近くの高校の生徒位と言われている。
わたし達は今、そんな駅から出た所だ。
「う~暑い~」
「じゃあネロ、そのパーカー脱げば?」
「え、やだ」
暑いのなんのと言いながら人気のない改札を抜けたわたし達は、これまた人気のない通りへと向かって行く。
「…それで、新寿々谷に来たのは良いんだけどさ」
わたしがふと言うと、皆の視線がこちらに集まった。
「結局どこ行くの?」
わたしがそう尋ねると、ネロはう~んと答えた。
「正直どこへ行くかハッキリ決めてないんだよね」
何をするかもあんまり考えてない、とネロは言う。
「…どうする?」
やっぱり”いつもの場所”に行く?と耀平はネロに聞いた。
「あーいつもの場所?」
良いんじゃない?とネロは振り向きざまに言う。
「いつもの場所?」
わたしが思わず尋ねると、ネロはこう答えた。
「…え、墓地」
「え、は?」
思わぬ答えにわたしはポカンとする。
「墓地って…どういう事?」
「いやどういう事も何も」
新寿々谷の墓地だよ、とネロはムスッとした顔で言った。
「何で…」
わたしがそう尋ねると、今度は耀平が答えた。
「…だってさ、新寿々谷にはそれ位しか面白そうな場所がねぇんだもん」
別に良いだろ?と耀平は続ける。
わたしはえぇ…と返すしかなかった。
確かに新寿々谷には何もない。
しかしいくら何でも墓地で遊ぶのはちょっと…
「…バチとか当たったりしない?」
わたしが思わずそう聞くと、ネロはう~んと答えた。
「今の所、バチとかは当たったりしてないかな」
ひどい事はしてないし、とネロは笑う。
「まぁ良いや、とりあえず行こう」
いつまでもここにいちゃ暑いし、とネロは歩き出す。
そうだな、とか言って他の皆も彼女に続いた。
新寿々谷駅から歩いて約10分。
寂れた商店街を抜けた所に今回の目的地はあった。
「着いたぞ」
そう言ってネロは墓地の入り口で立ち止まる。
「ここが…」
わたしは思わず呟いた。
「肝試しスポットとしても有名だよな、ここ」
耀平もふと言う。
「ま、今回の目的は肝試しじゃないんだけどね」
ネロはそう言って笑った。
「え、じゃあ何するの?」
わたしがつい聞くと、ネロはふっふっふと不敵な笑みを浮かべた。
「それはズバリ…かくれんぼさ‼」
「え」
思わぬ返答にわたしはポカンとする。
「かくれんぼ…」
「そうそうかくれんぼ」
ネロは得意気に続ける。
「この広い墓地ぜーんぶを使ってかくれんぼ」
「えぇ…」
わたしは思わずうろたえる。
「…やっぱりバチが当たったりしない?」
そう尋ねると、ネロはえー別に、と答えた。
「悪い事はしてないから大丈夫なハズだよー」
とりあえず始めよ、とネロは言った。
「そうだな」
「だな」
皆はそう言ってうなずく。
「んじゃ、じゃんけんで鬼を決めようぜ」
耀平がそう言って手を出す。
他の皆も輪になるように手を出した。
「んじゃ行くぞ~」
じゃーんけーん。とわたし達は一斉に言う。
「ぽん‼」
そうして、かくれんぼの鬼は決まった。
「…」
わたしは墓地に1人立っていた。
…というのも。
「まさかわたし以外全員がパーを出すとはね」
わたしはかくれんぼの鬼を決めるじゃんけんで、見事に負けて鬼になってしまったのだ。
そしてわたしは、この広大な墓地に隠れている皆を探すハメになったのである。
「…それにしても」
わたしは人気のない墓地でぽつりと呟く。
「”今回は”、異能力を使っても良い、ね…」
わたしはさっき耀平が言った言葉を反芻する。
かくれんぼが始まる前、耀平は異能力禁止縛りはナシな、と言ったのだ。
普段彼らが遊ぶ時、ルールの1つとして”異能力禁止”というのをやっているらしい。
その禁止、というのを今回はナシにしたという事になのだが。
「完全にわたしへの嫌がらせだよね…」
わたしは思わずこぼす。
何しろ、異能力を持たないわたしに対して異能力を使うというのだ。
どう考えてもわたしの方が不利である。
「どうしようか…」
どうやって彼らを探し出そうか、とわたしは悩んでいた。
師郎は化けているだろうし、耀平はわたしの行動の軌跡を見てくるだろうし、ミツルはこちらの行動を読んでくるだろう。
あと他の3人はどうだか知らないが、上手い事隠れているに違いない。
とにかく、わたしにとってはかなり難しい状況になっているのだ。
「とにかく、いつまでもここに立っているワケにはいかないな」
わたしはそう言って歩き出した。
とりあえず、人が隠れられそうな物陰とかを重点的に探すしかない。
そう思いながら墓と墓の間を歩き回っていると、離れた所にある墓石の陰に何か見えた気がした。
「あれ?」
わたしは思わず呟く。
まさか…と思いつつ墓石に近付くと、お墓の陰に少年がしゃがみ込んでいた。
「あ」
少年はポカンとした様子で呟く。
「耀平…」
わたしがついそうこぼすと、耀平は気まずそうな顔をした。
「…見つかったか」
がっくり、と耀平はうなだれる。
わたしは思ったより早く1人目が見つかって唖然としていた。
「やっぱり隠れるのは難しいな~」
そう言って耀平は立ち上がる。
「ま、くそ暑いし」
早めに上がってどこか日陰で休むのもいっか、と耀平は頭を掻いた。
「というワケで残りのメンバーも頑張って探せよ」
んじゃ、おれはこの辺で…と言って耀平は立ち去ろうとした。
「あ、待って」
わたしは思わず呼び止める。
ん?と耀平は立ち止まった。
次の幻獣はユニコーンですか。
角が薬になったり、乙女にしか懐かなかったりと、メジャーながら癖の強い生き物ですが、どのような異能になるのか楽しみです。
それよりも何よりも、夏休み突入という時勢がわくわくさせてくれる。続きを心待ちにしています。