復讐代行〜第18話 堕天〜

ふざけんなよ、桐谷君
その憤りは暴走するのに十分すぎた。
なぜ喪黒闇子が桐谷青路を好きだなんてシナリオが生まれるのか、今の目的は橘や小橋に対して復讐する道義を作ることだと忘れたのか?それとも…
しかしそれは考えたくなかった。
自分の体に裏切られるなんて馬鹿な話だ。
いくら彼の意思があるとしても…
いやむしろ彼の意志がある以上復讐の達成は最低条件のはずだ。その条件を用意するために体を入れ替えたというのに…

もういい…

私は手に入れたいものをもう我慢しない…

それが…たとえ…

自分の体を捨てることになっても…

いや…はなからあんな体願い下げだ…
そんな思考の果てで気づいた時には橘に話しかけていた。
そこで提案するのはもちろん…

連絡先の交換

正直鬼門ではあるが裏切られるくらいならいっそ壊してしまう方が目的に近いゴールになる。
そう、私はどうなったっていい
ただ私を苦しめた奴らが地獄を堕ちるのが見たいんだ。
それがたとえ自分の体であっても…
私を苦しめるものは許さない!
そう決めたの…

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2022-09-14 09:56
  • こんばんわー!レスありがとうございます!いやいや!尊敬だなんて!!私が未完成の全知全能さんに尊敬してますよ!
    私が工夫しているところやドキドキ感?みたいなところをわかってくださるなんて!
    しかもこんなにスリルがあって面白い作品を作れるのがすごいと思います!尊敬です!!
    また募集するので、募集した時はまたよろしくお願いします!

    からみだいこん
    女性/16歳/宮城県
    2022-09-14 17:56

復讐代行〜第19話 帰宅〜

断り方が分からず、連絡先をの交換を丸め込まれてしまった。これで先の件を早急に解決する理由を失った橘達は時間を置くことを提案してきた。
クラスでの不協和音を思えば正しい判断だ。
“俺”は抵抗しようとしたが、さすがに言い出せなかった様子だ。
2人に送られる形で帰路についた。
闇子の家に着くなり、俺は体を布団に投げ出した。
昨日見た母親はいなかった。
未だ慣れないサテン生地でフリルだらけのベット
落ち着かない…
赤黒く統一された禍々しい部屋は昨日見たよりも闇子の心の闇を感じさせた。
このベットで寝る気にもなれないが、スマホを見るのも余計なことを考えそうで避けた。
いつ彼からメールが来るか、正直怖いのだ。
メールの何がまずいって、客観的に自分が闇子であることを意識できないことだ。
もっと詳しく言えばメール上の「闇子らしさ」を俺は知らないからボロが出かねない…
いや、この部屋のイメージに沿えば「闇子らしさ」は出るのかもしれないが…
「しかし…」
世に言う地雷系というものなのか、ゴスロリなのか、細かい定義が分からないがこのインテリアを見ているだけで闇子の闇に心を喰われそうだ…
肌に擦れるサテンの違和感だけが自分が闇子じゃないと証明してくれた。

しかしなぜ…?“俺”は初日にしてこんな鬼門を選んだのだろうか、いや、理屈では理解できるが…
理解できる故に、信じたくなかった。
最も恐れていた、そして最も有り得ないと高を括っていたこと…

『闇子を餌に「崩壊」という結果を得る』
その切り札を切られたとしたら…それは同時に体を取り返す手段が無くなったことを意味する。
「ハナから闇子はこの体の精算も果たすつもりだったんだろうな」
そう思うとなぜかサテンのベットで寝るのも悪くは感じなかった。

寝てどれくらい時間が経っただろうか…
思えばこの体になってからきちんと休まることはなかったっけ…
そう思いながら癖でスマホを探した。
スマホの画面は19:28分を示していた。
思ったほど時間が経っていないことにはさほど驚かない。
何せ、通知画面のメールの方が驚きだからだ。
「なぁ青路、お前は今何を企んでる?」

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2022-10-10 16:03
  • わーあ!!復讐代行ですね!楽しみにしていました!
    青路さんは何を企んでいるんだろう。。。すっごく楽しみです!
    頑張ってください!

    からみだいこん
    女性/16歳/宮城県
    2022-10-10 18:32

復讐代行〜第20話 転調〜

俺にはなんだか不気味でならなかった。
あの日、青路が一日だけ休んで復帰した日
えも知れぬ違和感をまとった彼の姿、そして彼の胸ぐらを掴むクラスの女子、喪黒闇子。
全てが自分の理解を越えた世界であることだけが突きつけられた。心は…震えていた。
とにかく止めないと!
体が自然と動き出す。
「まぁまぁ、その辺にしておいてやれよ」
この一言で健太郎が止まるのは予想通りだ。
不安なのは青路と喪黒さんが止まるかどうかだけど…
「蓮もこういってるんだからさ…」
青路が健太郎を制した。その光景が信じられなかった。
別に制したことに驚いてる訳じゃない。その時の青路の表情が何かを企んでいるように見えたことが驚きなのだ。彼が何かを企んでいるのは初めてだったし、それまでその予兆ひとつ見たことがない。
何より、それは喪黒さんに向けられている。
その昼、嫌な予想の一端が当たった。
『青路が屋上で喪黒さんに何かをした』
その何かは分からないが彼女がボロボロで遅れて登場したことを目の当たりにした時は動揺した。
こういう時の健太郎は本当にさすがだ。
すぐに教室を出て、悪口もスラスラ出てくる…
止まらなさそうなので区切る、これが結局いつもの僕の役目だ。とはいえ気まずさを区切ることはできない。仕方なく青路に話を振る。あわよくば青路の違和感の正体に迫れればと思ったが。
青路が何かを隠すように言った(おそらく)悪口に、喪黒さんが泣き出すという展開になってしまった。
“んー…収集がつかん…”
そう思った頃には口が動いていた。
「今度何か奢ってやるよ」
これでひとまず場が落ち着いてホッとした。
教室に戻ってからずっとこの違和感の正体について考えていた。しかし現実的な答えは出なかった。
“できれば…もう少し調べられるといいんだけど…”
そう思っていた目の前で女子のヒステリーが彼女を襲っている。
“チャンスだ、仮説を試してみよう”
そこからは早かった。
ヒステリック女子を健太郎が追い返し、4人でカフェに行く流れになるも、闇子ちゃんの拒否で中止に、代わりに連絡先を交換することができた。
“もし…いやおそらくこの仮説しかない…”
交換した喪黒闇子の連絡先にメールをする。
『なぁ青路、お前は今何を企んでいる?』
これ以上このクラスを乱す真似はさせない

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2022-10-19 18:12

復讐代行〜第21話 変調〜

俺にはなんだが不気味でならなかった
あの日、青路が一日だけ休んで復帰した日
えも知れぬ違和感をまとった奴の姿、そして奴の胸ぐらを掴むクラスの陰キャ、喪黒闇子。
全てが自分の理解を越えた世界であることだけが突きつけられる。心は…楽しみに震えた。
ふふっ、そうだ、こうすればもっと面白い
「おいおい、陰キャが青路に何の用だよ!」
そう言って蹴り飛ばす。
さぁ、何が出る?
「痛…何すんだよ!」
ショックだ…逆上もしない…反撃もない…
しかしその後の言葉は予想外だった。
「健!」
…!?
「あぁ?クソ陰キャが気安く名前で呼んでんじゃねーよ」
あまりの驚きに煽ることも忘れ、怒りを表にしてしまった。呑まれるな…俺は…
高みの見物を許された存在だ…
そう在らなければ…ならない…
「まぁまぁ」
橘のゴングだ。やり足りないが、今の深入りは危険と判断し制止を受け入れた。
その褒美とばかりに昼にチャンスが訪れた。
『青路が喪黒闇子に何かをした』
これほどのチャンスを逃す獣はいない。
ここぞとばかりに悪口でまくし立てる。これは序章だ。
橘が止めてからが本章…
しかし妙なのは青路だ。
橘が俺の悪口を止める。いつもならここで橘と共に相手に寄り添う素振りを見せるのが青路なのだが…
彼は今回、相手に追い打ちをかけた。
さすがの橘も驚き、その場を収めようとした。

なんだ…?何かが…おかしい
俺のシナリオから少しだけズレる。
まるで誰かがこのシナリオを利用してるような…
もし…橘だとしたら…
「ねぇ、闇子ちゃん連絡先交換しようよ」
その矢先で橘が動いた。
なぁ橘、お前は今何を企んでいる?

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2022-11-09 19:04

復讐代行〜第22話 混沌〜

「企む?どうして?それに私は、青路じゃないよ?」
「お互い、隠し事はなしにしないか?」
“隠し事”
「隠すも何も、私は私だよ?誤送信じゃない?」
「間違ってないよ、喪黒闇子の姿をした桐谷青路に送ってるんだから」
“姿”
「どういうこと?」
そう送りかけたその指は送信ボタンの下、削除ボタンを連打した。

なんて返すのが正解?
まずどこからバレた?
闇子自身か?
いや、この事実を晒すメリットはないはず…

思考はどんどん自分を孤独に追い込んだ。逃げ込むようにスマホを握ったまま布団に潜り込む。
おそらく闇子の方の癖だろう。
サテンの布団が全身を包み込んだ。
違和感が、皮肉にも孤独を埋めていく。
“いっそこのまま…”
思考の到達を妨げるように現実のバイブが布団全体に響く。
「もし、青路が望むなら俺はお前の力になる」
これは罠なのか、それとも確信を持った上での言葉なのか、はっきりとは分からない。それでも今、ここで彼を頼るべきか…
出した答えは否だった。
「嬉しいよ、ほんとに私が桐谷君だったらどんなに良かったか…」
既読はすぐについた。
しかし先程までより返信に時間がかかっている。
仮説が間違っていることに当惑しているのだろう。突拍子もなければ証拠は何もない。ここまで本人にとぼけられたら当然だ。
「わかった。困ったらいつでも言ってくれ、俺はお前を信じてる。」
寒いくらいわざとらしい言葉だ。
橘らしいと言えばらしいのだが、今はそれだけじゃなく感じる。
このまま…橘に…守ってもら…
そのことばが浮かんだ瞬間、かぶりを振った。
まただ…闇子の体の部分が…俺の感情や理性を越えてくる瞬間。やはりこの体に心を許してはならない。

俺はやっぱり桐谷青路として、喪黒闇子を演じきるんだ。そしてやつの復讐を止める。
「ありがとう。なら頼めるかな?俺の復讐代行を」

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2022-11-21 15:19

復讐代行〜第23話 変形〜

橘が企んでいると仮定すると、おそらく青路の違和感はその影響…ならば、あの陰キャは被害者か
『青路と体を入れ替えられた』
“まだ仮説の段階だがカマをかけるには十分か…”
小橋はスマホの黒い画面に映ったその悪魔的な笑みにも気づかないほどに夢中だった。
「なぁ青路、お前は今何を企んでいる?」
まずはゆっくり、“青路”があの陰キャだと断定する。
入れ替わったとすればどう考えてもあの日しかない。
あの日のことを聞き出せれば…
「企む?何を?もしかして闇子ちゃんのこと?」
とぼけやがって、このタイミングでそれ以外に企むことなんて…ない…はず…
ん…?待てよ…何で“青路”がとぼけるんだ…?
自分の考えの根底に揺るぎが生じているのが音を立てているようにわかった。
今、俺の行動はどこまで“青路”の…
ダメだ…
今まで見えていたものが…何も信じられなくなる…
「大方、俺が闇子ちゃんに何をしたのか、そしてそれが何の目的なのか知りたいんだろうけど」
次に続いたLINEはそこで区切りられている。
スマホを握る手にじっとりと汗が滲む。
「そもそもあの罰告まで俺は彼女を知らない」
結局待っていたような答えは来ない。
手に溜まった汗が解放され、急激に手が冷えた。
座っていた椅子で手を拭いてすぐに返信を打ち始める。
「いや、ならなぜお前はあんなに…」
そこまで打ち込んだタイミングで“青路”の返信が続いた。
「と言っても納得しないんだろ?」
…?
完全に踊らされているとわかったが、もう後には引き返せないほどこの状況にハマっていた。
「知りたいなら、少し手伝ってくれ」
そのLINEを返すのにもう迷いはなかった。
「わかった…何をすればいい?」
「喪黒闇子を完全に排除したいんだ」
納得と矛盾と、少しの信頼が俺の抱えた復讐心をかつてなく燃え上がらせていた。

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2022-12-21 12:16

復讐代行〜第24話 塑性〜

「排除って…でもどうやって?」
「知らないよ」
「随分雑だな、人に頼むならもう少し具体的なアイデアを出してくれよ」
あえて返信はしなかった。あくまで主導権は私だというのに…どいつもこいつも…
「わかったよ、受けないのはこっちとしても損しかない、その頼みは俺に任せろ」
追ってLINEが届く。小橋はアレで結構素直だ
“ハナからこっちにすれば良かったかなぁ”
そうほくそ笑みながら携帯の画面を閉じ、改めて家を見渡す。
だいぶこいつのこともわかってきた。
世にいう八方美人のサイレントマジョリティー…
まぁそこは薄々、いやかなりわかっていたんだけど。
驚いたのはこいつにはいじめを受けていた過去があるってことだ。私のイメージの中ではそんな素振りは見たことがなかっただけになかなかの衝撃だった。
部屋にある写真から察するに…
人畜無害故にいじめっ子の小手調べ、いや踏み台といった方が正しいか、
それにあてがわれたのだろう。
“私とは違う、全然違う…だけど思いは同じ…”
なんでだろう…なんでこいつの復讐心が…私の中で燃え上がるの…?私の心が彼の体を刺激してるとでもいうのか…
それとも…
それとも私の方が…?
私の中で燃え続ける彼の復讐心は私に小さな疑問と大きな可能性を植え付けた。

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2022-12-23 21:38
  • レス遅れてすみません!!来年もよろしくおねがいします!
    良いお年を!!

    からみだいこん
    女性/16歳/宮城県
    2022-12-28 20:50

復讐代行〜第25話 乗換〜

「…復讐代行を」
あえて一人称は俺にしてみた。
ほんとに気づいているならこれだけで誰への復讐なのか、そして橘なら何をするのか想像がつくかもしれない
「信じてくれたようで嬉しいよ、しかし復讐代行?一体何をする気だ?」
さすがに買いかぶりすぎた。しかし思ったより話は早く進みそうだな…
「ここまでのことどこまで想像がついてる?俺と闇子のことから…あいつの狙いは?わかるか?」
「闇子ちゃんの…狙い?罰告のやり直し?いや、だとしたら俺や小橋を巻き込む理由はない、わからん」
なんだ?まるでとぼけたかのような返信だ。
「わかった、じゃあそこから話そう」
「助かるよ」
即レス…待たれているのか?
疑ってしまうのは悪い癖だ。
「最初に闇子の目的は、ヒエラルキーの崩壊だ。それを踏まえて話を聞いてくれ」
そうして俺の目線でことのあらましを説明した。
「このままじゃ俺は捨て駒にされかねない、そして駒を失えば計画は必ず失敗し、下手をすれば強硬手段に出かねない」
「それは避けたいな」
「だから今のうちに止める」
実際は俺自身が過去にケリをつけたいだけだ。
いじめというものとの自分の繋がりを断ちたい。そういう意味では闇子の計画に乗っているのは悪くなかった。けどそれ以上に橘につく方が分が良い。
「わかった、協力しよう」
橘ならそう言うとわかっていた。
「助かるよ」
これでいい。これで誰も傷つかない。
体に情でも移ったかな…
闇子さえ救いたいと思えてきた。
そう思い右手で体をなぞる。
あの傷が…疼く。
やっぱり俺のとは違う…
こいつはきっと体より、心を壊されたんだ…
そこまで思考が行き着いた途端、体から溢れてくるように頭にひとつの予感がよぎる。
「!?…急がなきゃ…あいつは…死ぬ気だ…」

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-01-13 14:39

復讐代行〜第26話 死徒〜

“体が心を支配する”
もしこの仮説が正しいなら
彼のあの行為…もとい、“私”が私にしたハグは…
あれこそが、私の本性なんじゃないのか…

私は所詮復讐に駆られた心
あの時からずっと…消えるべき存在…

しかし引き止めるようにLINEが鳴る。
「ひとまず、この行程でやる」
そして少ししてから
メモのスクショが3枚送られてきた。
私は正直引いた。
こんなのを毎回作っているのかと思うとゾッとする。
「すごいな、さっきの今で作ったのか?」
LINEのメリットはこのリアクションがバレないこと。
いつも作ってるかについて触れなければまず大丈夫なはずだ。
「青路が珍しく、こういう話をしたからな」
なるほど、そこを失念していた。
「そうか?」
ごまかせただろうか…彼とはまた違った乗り気に少し狂気すら感じている。
“何が彼をそこまでさせるのか…”
本来ならそんなことはもうどうでもいいはずなのだが、なぜだか気になってしまった。
彼が動けば動くほど、私はいつでも死ねる。
それが寂しのか…?

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-01-20 20:48

復讐代行〜第27話 回想〜

ひとまずは青路の言う排除をやり通すか
そうすれば自ずと橘は動くだろう。
あいつの重い腰が動くのを待つのはもうやめだ。
ここからは俺の番だ!
決意は固かった。
LINEの通知はさらにその決意を固くさせた。
「まさか、そこまで本気になってくれるなんて、一体何が?」
そういえば今まで誰かに話したことがなかった。
だからこそ孤独だったし、群がってばかりの陰キャが嫌に見えたのかもしれない。
いっそ話してみるのもありかもしれない。
排除なんて言葉を覚えた青路なら理解してくれるだろう。
【俺の大改革】を

全ては橘と行動を共にするようになった小学生の時から始まる。彼は当時からカリスマ性を持っていた。しかしそれを決して攻撃には使わなかった。
俺からすれば煩わしいほどに。
「なぁ、なんで蓮ってあんなウザい奴らとも仲良くできんの?」
「健太郎、ウザいとか言わない」
そう言って蓮は笑う。そのつもりはないだろうけど、嘲笑うようにしか聞こえない。
「別に俺にとっては、平和が楽ってだけだよ」
いつも言ってた。でも必ずその後に
「喧嘩を売られたなら致し方ないけどね」
別人のような蓮の顔もまたセットだ。

“一体どっちがホントの橘蓮なんだ…”

その恐怖からいつしか蓮とは素直には付き合えなくなっていた。それでも高校も同じ所を受験した。
それが最も都合がいいからだ。
そして高校に上がり少し変化が訪れる。それが桐谷青路の登場だ。今まで会ったことのない雰囲気を持った奴だった。そこからはただ楽しかった。
恐怖を中和し、喜びを増幅させた。
しかし、それは目の前で崩れた。
蓮は俺を裏切った。
陰キャごときに味方しだしたんだ。
あの女にも…
「俺の邪魔をするな、陽キャでも陰キャでもない二軍崩れが」
そう言っていた。
あいつは…支配する気だ…このクラスを…
このヒエラルキーを…

そんなことはさせてたまるか…
今の平和は決して失わせない…
やつを…この革命で…
堕とすんだ…!

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-01-27 20:56

復讐代行〜第28話 悔恨〜

寂しいはずがない
私は元々とうの昔に死んでいたはずの人間だ。
どう死のうが、気づかれようが、気づかれまいが
どうだっていい。
ただ…
“私”に向けられた狂気も私が差し向けたにすぎない。
私はまた…逃げるのだ。
誰かに全てを押し付けて…

そんなことを考えてる間に意識は遠のいていった。
“ここは…?”
見覚えがあるが名前が出てこない。
“確か…小学校の…”
「屋上」というワードが浮かんだ途端、記憶が次々に呼び起こされた。すると背後から
「待って!闇子ちゃん!」
懐かしい声がした。私がフェンスに手をかけてもないことに気づいたのかその声の主は足を止めた。
「ごめんね!私…」
上がった息はたまに言葉を途切れさせ、その焦りを私に突きつけてくる。
「私…何もできなくて…気づいてあげられなくて!」
あの時と全く同じセリフ。
「それでいいの!光ちゃんは私なんかに関わらなくていいの!」
私は今の意思とは関係なく記憶通りのセリフを口にする。
そうか、これはただの記憶なんだ。
なのになんでだろう…胸が苦しくなるのは…
「そんなことないよ!人の価値に差なんてない!闇子ちゃんはもっと輝けるんだよ!」
「そういうのがウザいってわかんないの!?」
優しさに素直になれないのはこの時から変わらない。
「…」
右手を伸ばそうとして躊躇する光ちゃんの姿に申し訳なさを感じつつも当時の私は畳み掛ける。
「光ちゃんに私の何がわかるの?あなたみたいな優等生にいじめられる側の気持ちもいじめる側の気持ちも分かるわけない!」
記憶は残酷なほど鮮明にその語気の反動を私に感じさせる。
「…わかんないよ…」
涙声で俯きながら光ちゃんが小さく言った。
「いじめるとかいじめられるとかそういうのじゃなくても人の気持ちなんかわかるわけないよ」
かつての自分の残酷さに打ちひしがれているところに光ちゃんの声はよく響いた。

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-02-20 17:15

復讐代行〜第28.5話 悔恨〜

「でもね」
光ちゃんはさらに続ける。記憶から抜け落ちたその言葉に私は大事なことを思い出させられた。
「わかんないから全力で相手を思いやることができるんだよ」
思い返せば私は最近予測ばかりだ。
相手を、守りたいものを思いやっていただろうか
そんな今の私の逡巡を待ってくれるはずもなく、私の体は逃げるようにフェンスを登り始めた。
「待って!闇子ちゃん!」
「うるさい!光ちゃんの言葉は私を惨めにするだけ!これ以上私を…傷つけないで!」
今になってみれば私はかなり酷いことを言っている。
しかし当時の私にとってはそれだけ憐れまれるのが屈辱だったのだ。
もうすぐ左手がフェンスの上につく。
その時見上げた私の視界に光ちゃんの右手が入り込んでくる。
「なんで…?」
「全力で思いやるって言ったでしょ?あなたが惨めにならずに自殺を踏みとどまってくれる方法を探してる!」
私の死んだ目まで潤さんばかりに目を輝かせて素っ頓狂なテンションで光ちゃんは言った。
「そんなものない、もうすぐ私は飛び降りる」
「ならちょっと強引だけど力ずくで止めるよ」
左手はフェンスの頂点をつかみ、体を引き付ける。
視界から一瞬光ちゃんの右手が消える。
これで死ねる…
辛いだけの現実とはおさらばできる…
「だから、止めるって言ってるでしょ」
光ちゃんは私の足を掴んでいた。
「ウザい!何度も言わせないで!」
私は光ちゃんを何度も蹴る。どんなに心が傷んでもその足が止まることはない。それでも彼女は少しずつ登り、再び私の視界に入り込んできた。
「わかった…そこまで言うなら私も一緒に死ぬよ」
「え?」
私には記憶通りだが当時の私には驚きしかない。
その驚きに思わず、力が抜け、手が滑ってしまった。
「あっ…」
体はフェンスを乗り越え、宙へ投げ出された。
懐かしい感覚だ…気持ちいい…
「闇子ちゃん!」
後ろから聞こえる光ちゃんの声に振り返ると彼女は私の体を抱きかかえた。
そこで視界が途絶え、気がつくと私の体が下敷きになっている。
「え…?」
そうして私は初めて人と体を入れ替えた。
私は光の体を、命を奪ったのだ…

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-02-20 18:33
  • 本をお出しください!絶対購入します。(*^^*)1000万部は行きますよ。

    大好きっ子
    女性/14歳/埼玉県
    2023-02-20 23:21

復讐代行〜第29話 手掛〜

死ぬ気なのはわかったけど
どこでどう死ぬ気なのか…
分からないこの状況がもどかしい。
「何かないのか?」
一瞬抵抗はあったが俺は部屋を漁った。
「何か…早くしないと…あいつは…」
なぜこんなに焦っているのかは分からない。
小学校の卒アル…
そうだ!ここになら何かあいつの過去について分かるものがあるかもしれない!
さすがにいじめの実態までは載ってないだろうけどこの体でなら多少は感じ取れる自信があった。
卒アルのページを捲る手が震える。
そこにあったのは驚きの事実が載っていた。
「嘘だろ…これが喪黒闇子…?」
そこに喪黒闇子として集合写真の隅に載っていたのは見たことのない人物の顔だった。
しかも…既に亡くなったとされている。
急いで見たことのある顔、正しくは今の自分の顔を探すと、その顔には大橋光という名が書かれていた。
「まさか…この時にも…体を入れ替えていたのか…」
恐る恐る、卒アうルに書いてあった喪黒闇子の亡くなった日付でその事件を検索してみた。
《小6女子児童2人飛び降り、いじめが原因か》
そんな見出しの新聞記事が表示される。
「これか…でもなんで2人…?」
そんな疑問も詳細を読んで納得した。
どうやらこの体の本来の主は世に言う優等生。息をあげて屋上に向かう様子を同級生が目撃していたことや、喪黒闇子に関する目撃証言が付近の時間にないことから、喪黒闇子が自殺しようとしたのを止めようとしたが、なにかのはずみで落下してしまったと考えられている。
ここに矛盾はない。むしろ喪黒闇子のイメージとしてもしっくりくるほどだ。
気になるのはその自殺の動機として挙げられているいじめの内容が予想と違っていたこと。
彼女を襲ったのは想像より残酷な…そして理不尽な犯罪だった。

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-02-27 21:09

復讐代行〜第29.5話 手掛〜

掲示板や記事によると
喪黒闇子はクラス以外では成績優秀で通った大人しい子という印象だったそうだ。しかし同じクラスの子からは
「いつも浮いてるよね」
「理由は忘れたけどいつも1人だった」
「あ、でも赤子ちゃん達とはたまに話してたかも」
赤子とは立花赤子のことだ。
卒アルの日常スナップにも常連で小学生にして陽キャを確立している印象の子。とてもじゃないが喪黒闇子のイメージとは似ても似つかない。
ってことは話してたっていうのもおそらく…
証言から察するに1年はこの状況が続いていただろう
考えるだけでも俺でも吐き気がする。
ここまで事実に触れればいつもなら傷が疼くはず…
おかしい…
何も感じない…
この記事を読んで体は何も感じていない?
だって復讐の目的は…
ヒエラルキーの崩壊のはず…
それはいじめへの抵抗じゃ…
…!!
違う…
全ての根底が違うんだ!
なら…あいつが死のうとする理由は…!!
思考がその答えに行き着くが早いか、走り出すが早いかこの体は、俺の心は闇子のいるであろう場所へ向かった。
「待って!」

to be continued…

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-02-28 22:09

復讐代行 最終回 前編

あの子は…
私を助けて死んだ…
私はその時に入れ替わり方を知った。
それからはこの体の預け先を探す日々だった。
「やっと見つけたんだよ光ちゃん、だからもうすぐ私もそっちに行くね…」
屋上の風が気持ちいい。
同じ場所とは行かなかったけど、高校の屋上、体を預けた場所で私は消える。それで今度こそ儀式は完了する。
「待って!」
“光ちゃん…!!”
でもありえない…彼女のはずがない…
だって今あの体は…!
「なんでここが?」
「お前は最初、ここで俺と体を入れ替えた、そしてもう一度入れ替えろと言うと今すぐは無理だと言った。ここでひとつの仮説が立つ。あの時の体の入れ替わりは…お前の命を賭けたものだったんじゃないのか…」
的を射ていることがバレないようなるべく素知らぬ顔を通す。
「ん?」
「とぼけんなよ、お前は魂を移して体を入れ替える。古くから伝わる物心二元論的考えだ。そしてそれを引き起こすには物体つまり身体から、非物体ここでは魂が分離する必要がある。そこに飛び降りなどの浮遊感はうってつけだ。屋上ならそれに近い感覚を共有できる。どうだ?間違ってないはずだぜ」
完璧で流れるような説明に思わず笑みがこぼれた。
「随分理路整然だね、誰かの入れ知恵?」
「まぁな、でも認めるんだな」
「だってもう死ぬからね」
脅しのようにフェンスに手を掛ける。
「だからそうはさせないって」
“まただ…光ちゃんに見える…”
「俺…何言ってんだ…?」
どういうこと?本人も自覚がない…
まさか…身体の人格…?
「前にも言ったでしょ、全力で思いやるって!」
“やっぱり…でも”
「なんで?」
「身体と魂が同じことを思ってれば…な!」
同じこと…
「今だ!」
その一瞬の逡巡の間に闇子の体は引きずり落とされた。
「なんで邪魔するの!あなたなら…2人ならわかってるでしょ!私は…この命を賭けて…」
「命を賭けて『いじめ』を犯罪として見られるきっかけを作る…ってか?そしてその復讐の相手はいじめを行うやつじゃない、いじめを学校内の揉め事にまとめるカリスマ性を持ったやつだ…この大橋光みたいな」
「そうだよ!こいつらの善意が罪を揉み消すんだ!だからそれを身を持って味合わせる。それがあの時決めた私が下すあなたへの懲役よ!大橋光!」

to be continue

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-03-01 16:56

復讐代行 最終回 後編

「うん、そうだね」
俺は…というより身体の主は素直に頷いた。
「え?」
「お…おい…」
「確かにこの身体はあなたが使ってた、ほんとにその全部が罰?私は楽しかったよ?」
「なんで…?なんでそんなこと言うの?」
「だって生きてるんだよ?何度も諦めようとしたこの身体をあなたが生かしてくれた、わがままだけど生きる希望だった。あなたがいるから今の私がいる」
「希望か…」
闇子は涙が溢れた。
「今、この主はあの時の私と同じ過ちを犯そうとしている、だから闇子ちゃん…今度はあなたが変え…」
次第に光の声は小さくなる。
「待って!」
「あとは俺が聞く」
「もういいよ、命を賭けた復讐じゃ意味がないってわかったから…」
少し肩を落とし、ため息気味に言った。
「…ならいいけど…」
「あと、身体もきちんと返す」
そう言って闇子は両腕を広げた。
“そうすればまた話せるよね?”
「え?あ、あぁ」
あっさり返すと言われ、青路は少しリアクションに困りながらも闇子の胸にそっと身体を委ねた。
「ねぇ、最後にひとつ教えてよ…生きる希望って何?」
「希望ってきっと誰かを信じられるってことだ、時にそれは裏切りっていう災いになることもある。でもそれでいい、希望と災いはいつも波みたいに繰り返す。それにどう乗るか、そんな赤ん坊みたいな他力本願を生きる希望って呼ぶんじゃねーの?」
「そうだね…それってもう1人の自分なのかな」
「さぁな…でもそういうのもありなんじゃね?」

fin

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-03-01 16:57

復讐代行 あとがき

復讐代行を読んでくださった皆さん!
本当にありがとうございます!
当初の予定よりも長くなり、更新の空く期間もあり
と散々な形ではありますが
先程の最終話を持って無事に完結しました!
皆さんいかがだったでしょうか?

今作は初め、「宇宙を駆けるよだか」という作品を見てこんな設定の作品を書いてみたいなぁというところから始まりました。
この作品はクラスでブスといじめられる女子と主人公が入れ替わる物語で、ただパクるのもつまらないので、主人公の方を男にしてみました。
ですが
「いじめ」をテーマにするとついつい色々詰め込みたくなるのが悪い癖ですね笑
登場人物それぞれに考えがあるようにして自分の中にある全てを書こうとも思ったのですが長くなるので避けました。なので実はまだ小橋と橘のお話が少し残ってます
もしかしたら来週辺り書くかもしれません。
最終的に書きたかったこととしては
「いじめ」は人を壊してしまう。
それは時に、優しさすら信じられなくなるほどに
でもその優しさを信じることこそが生きる希望
それをどうか自分の中に確かに持っていて欲しい

ちょっと隠しすぎたかな?
あんまりまっすぐだとクサくなっちゃうから
少し遠回しにしたり、素直な言い方をしなかったり
そんな僕の小説…に限らず詩も
これからも楽しんで頂けたら幸いです

未完成の全知全能
男性/20歳/東京都
2023-03-01 23:38
  • 考えさせられるポエムでした。

    次回作をワクワクと楽しみにしております(*^^*)

    大好きっ子
    女性/14歳/埼玉県
    2023-03-02 13:50
  • お疲れ様でした。
    またもう1周読みたくなる物語でした。
    少し残ってるお話も楽しみにしています。

    テトモンよ永遠に!
    女性/20歳/東京都
    2023-03-02 15:34