「ねぇねぇ知ってる?」
放課後、小学校の校門を出てすぐの道端で、学校帰りの少女達が話し合う。
「うちの学校のこんな噂」
1人がそう言うと、周りにいる少女達は何々?と顔を寄せ合う。
「夜中になるとね、校舎内に見たことない生き物が現れるんだって!」
それを聞いて、少女達は何それーとか根拠は?と話し出した少女に言う。
「根拠はないけど…でも最近遅くまで学校に残ってた先生が見たんだって」
ほんとにー?と少女達が騒ぐ中、不意に少し離れた所から声が飛んできた。
「あら、面白そうな話じゃない」
少女達が声が聞こえた方を見ると、青髪にノースリーブの白ワンピースを着た人物が立っていた。
「もっと詳しく聞かせてちょうだい」
青髪の人物は微笑みながら少女達に近付く。
少女達は怪訝そうな顔をする。
「あなた…誰?」
「誰って…ただの通りすがりのお姉さんよ」
あなたたちが面白そうな話をしているから聞いてみたのよとその人物は笑う。
「その噂話は誰から聞いたの?」
青髪の人物は少女達の目の高さにかがんで尋ねる。
少女達はどうする?と顔を見合わせたが、やがて青髪の人物の方を見るとぽつぽつと話し出した。
レスありがとうございます。
全然いいのよ。
正直今は新しい環境に慣れるのが優先だから、本当は企画なんかやってる余裕ないんだ。
むしろ引き延ばした方が楽しみが増えるかもね。
ナニガシさんの企画、ゆっくり楽しませて頂きます。
「へー、そんな話があるんだ」
とある喫茶店の2階にある物置で、赤髪の人物…露夏はそう呟く。
「そうなのよ」
古ぼけた椅子に座りながら、青髪の人物ことピスケスは笑う。
「あの学校にも七不思議があるのは知ってたけど、この手の話は聞いたことないわ」
ピスケスはそう言って、手元のティーカップに口を付ける。
「…で、その“見たことない生き物”って言うのは何なんだ」
ピスケスから見てテーブルの反対側に座る黒髪の人物…ナツィはそう尋ねる。
「あの小学校含めあの大学…“学会”の本拠地の周辺は精霊避けの結界が張られてるから、精霊じゃなさそうだけど」
ナツィはそう言いつつテーブルに頬杖をつく。
「あら、どうかしら?」
ピスケスは微笑む。
「この噂を聞いた私の“保護者”が調査したけど、どうやら“学会”の本拠地周辺の結界に破損箇所が見つかったみたいなの」
え、とナツィは呟く。
「だから噂になっている“見たことない生き物”はきっと精霊よ」
ピスケスがそう言うと、露夏がこう尋ねる。
「でもそうだとしたら、なんで目撃者の目に見えたんだ?」
普通精霊は一般人の目には見えないハズだぞと露夏は付け足す。
「それはきっと、その人が“精霊が見えてしまう体質”の人だからよ」
魔術師じゃなくてもそういう人っているから、とピスケスは言う。
「逆に魔術師であっても精霊の類が見えない人なんて結構いるし」
ピスケスがそう言うと、露夏はふーんと頷いた。
「で、“学会”はどうするって言うんだ」
ナツィがそう聞くと、ピスケスはそうねぇと答える。
「来週、“学会”の魔術師が結界の修繕作業を行うらしいわよ」
表向きは学校の設備点検と言う形で、とピスケスは付け足す。
「そして私達は、深夜にあの学校に忍び込んで中にいる精霊を退治するの」
「え、は⁇」
ピスケスがしれっと言った所で、ナツィはポカンとする。
「お前なんで俺達が精霊退治する前提で話してんだ?」
俺まだやるって言ってないんだけど、とナツィは不満気な顔をする。
ピスケスはうふふと笑う。
「もう既に“学会”から依頼が出てるの」
あの小学校にいる精霊がどれくらい強力なものか分からないからね、とピスケスは続ける。
「お前みたいな強力な人工精霊に頼むしかないのよ」
ピスケスがそう言うと、ナツィはなんだよソレと呆れたように呟く。
「もちろん、私や露夏もついて行くわ」
お前の援護としてね、とピスケスは微笑んだ。
「えっおれも?」
「そりゃそうよ」
露夏は自分を指さすが、ピスケスはふふふと笑うばかりだった。
「…仕方ない」
不満気に舌打ちして、ナツィは言った。
「俺が引き受ける」
「あらありがとう」
ピスケスはそう言って微笑んだ。
それから1週間後の深夜。
小学校の立派な建物の前に、どこか異質なコドモ達が立っていた。
「ここか」
精霊が入り込んだ小学校ってのは、とナツィは正門を見上げる。
「そうよ」
ここが“学会”の表向きの姿…“玄龍大学”の附属小学校よ、とピスケスは言う。
「それにしてもさー」
ふと露夏が後頭部に両手を回しつつ呟く。
「なんでアイツら連れて来たの?」
露夏が斜め後ろに目を向けると、金髪のコドモとジャンパースカートを着たコドモが立っていた。
「それは思った」
ナツィはムスッとした顔で言う。
「おいテメェ、なんであの2人を連れて来たんだ」
ナツィがついて来た2人を指さしながらピスケスに聞く。
ピスケスはうふふと笑う。
「別にいいじゃない」
きーちゃんが行きたいって言うから、とピスケスは金髪のコドモに目を向ける。
「えへへへへ」
きーちゃんことキヲンは嬉しそうに笑う。
「だって面白そうだもん」
夜の学校に行くなんて肝試しみたい!とキヲンははしゃぐ。
「お前遊びに来たんじゃないんだぞ」
あくまで“学会”からの依頼で来たんだ、とナツィは言う。
「それとかすみ」
ナツィはジャンパースカート姿のコドモに目を向ける。
「お前もなんでついて来た」
そう言われて、かすみはえ、えーとと目を逸らす。
「自分も楽しそうだなって…」
「バカかお前」
どうなっても知らんぞ、とナツィは吐き捨てた。
「とりあえず、中に入るわよ」
“学会”の関係者が先に鍵を開けてくれているみたいだから、とピスケスは校門脇の扉に手を掛ける。
扉は静かに開いた。
小学校の校舎内はひっそりとしていた。
どこの教室も廊下も真っ暗で、人工精霊達の足音だけが響いていた。
「ホントに誰もいねーな」
露夏が手持ちの懐中電灯で辺りを照らしながら呟く。
「最近の学校では夜に警備員が巡回したりしないからよ」
代わりに監視カメラやセンサーが作動してるの、とピスケスは言う。
「でも今は私達が“学会”の任務で入っているから、“学会”の工作でセンサーの類はオフになってるのよ」
ピスケスがそう言うと、かすみはふーんと頷いた。
「じゃ、関係ない自分やきーちゃんがいることはバレてないんだ」
かすみの言葉に対し、ピスケスはそういうことねと笑う。
そう話しながら歩く内、5人は廊下の角にやって来た。
「あ、音楽室!」
角に“音楽室”と書かれた看板を認めたキヲンがその教室の扉に駆け寄る。
あ、おいとナツィはキヲンを呼び止めようとした。
「…」
キヲンは興味あり気に扉の窓を覗き込む。
「夜になると壁に貼ってある昔の音楽家の肖像画の目が動くんだぜ」
「えっ」
いつの間にか一緒に窓を覗き込んでいた露夏にそう言われ、キヲンは驚く。
「そんなことないだろ」
いくらここが“学会”に関係する施設だからと言って、そういう魔術的なことが起きる訳がないとナツィは2人に近寄りながら言う。
「ははっ、ただのジョークだよ」
ジョークジョークと露夏はナツィの方を見つつ笑う。
なんだよそれとナツィはジト目を向けた。
「これが音楽室?」
かすみも窓を覗き込みながら呟く。
「なんかゴチャゴチャしてるね」
「そりゃそうだ」
楽器とか多いからな、とナツィはこぼす。
「…ナツィは物知りだね」
「なっ」
かすみにそう言われて、ナツィはビクッとする。
「べ、別に、“あの人”に教えてもらっただけだから…」
ナツィは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「ほらほら、そっちばかり見てないで」
校舎内に入り込んだ精霊を探しましょ、とピスケスが手を叩く。
そうだなとかそうだねと言って、彼らは音楽室から離れようとした。
…と、ナツィはぴたと足を止める。
「…」
何か気配を感じたのか、ナツィはくるりと振り向く。
「%|^|^<+“*^|{{」
そこには、ヒトにヒレが生えたような奇怪な”何か“が5体も浮いていた。
「!」
ナツィはすかさず蝶が象られた大鎌を出す。
そして”それ“に飛び込んでいった。
「‼︎」
物音に気付いて、残りの4人は振り向く。
その時にはナツィが精霊を1体倒していた。
「キヲン‼︎かすみ‼︎」
お前ら逃げろ!とナツィは振り向きざまに怒鳴る。
「逃げろ、ですって」
ピスケスはどこからともなく短弓を出しつつ言う。
「という訳で2人共、ここはおれ達に任せて逃げな」
露夏は懐から包丁を出しつつ後ろを見た。
「あ、うん」
「分かった!」
かすみとキヲンはそう頷いて駆け出す。
2人が逃げたのを確認すると、残りの3人は武器片手に精霊達に飛びかかった。
学校の廊下での戦いは難しいものだ。
そこまで天井が高くないため、飛行能力を持つナツィとピスケスにとっては大分不利である。
さらに廊下は障害物が少ないため、精霊の攻撃を避ける手段が少ない。
人工精霊達にとっては中々困難な戦いになった。
「っ!」
ナツィは精霊に向かって鎌を振るうが、精霊は易々とそれを避ける。
側で露夏が術式が組み込まれた包丁から火球を撃つが、それも簡単に避けられてしまった。
「クソっ」
周囲を精霊達に囲まれて、ナツィは思わずこぼす。
「どうする?ナハツェーラー」
露夏は背中合わせのナツィに対し、そう尋ねる。
「さぁ、どうするか…」
ナツィがそう呟いた時、2人を囲む精霊の内の1体に矢が当たった。
「‼︎」
「今だ!」
精霊が1体倒されて怯んだ他の精霊に向かってナツィは飛びかかる。
「$}+|$|”<“|!<!<‼︎」
悲鳴を上げて精霊が1体消滅する。
「あと1体‼︎」
ナツィは背中に黒い翼を生やして廊下の壁を蹴飛ばし、残りの精霊に向かって斬りかかった。
「$\$\>;;!;+[$€__€‼︎」
最後の1体も叫び声を上げて消えていった。
「…」
ナツィはコツっと靴音を立てて廊下に降り立つ。
「流石だな」
”黒い蝶“、と露夏は笑う。
「あんまりその名で呼ぶな」
俺はそういうの嫌いなんだ、とナツィはムスッとした顔をする。
「とりあえず、これで全部かしら」
廊下の角から出てきながらピスケスが呟く。
「いや、ナハツェーラーが倒したのが3体、ピスケスが倒したのが1体だから…」
あと1体!と露夏は指で示す。
「…あと、1体?」
ナツィは驚いたようにこぼす。
「あれ?」
そうじゃないの⁇と露夏は首を傾げる。
「最初におれ達の前に奴らが出てきた時、5体いたじゃん」
それでお前らが4体倒したから、あと1体と露夏は言う。
「え、じゃあソイツはどこに…」
ナツィがそう言い時、途中でハッとしたような顔をした。
「まさか」
ナツィはバッと後ろを向く。
そこにはさっきかすみとキヲンが駆けていった廊下があった。
「マズいっ‼︎」
ナツィは背中の羽を消して走り出す。
「あ、おい待て‼︎」
露夏はそう言って追いかける。
ピスケスもそれに続いた。
誰もいない小学校の靴箱にて。
どこか異質なコドモ2人が、校庭への扉を背に手を取り合って怯えている。
2人の視線の先にはヒトの形にヒレが生えたような精霊が浮いていた。
「_€+]$\;*」
精霊は2人に対して威嚇する。
「ナツィ達、来てくれるよね?」
キヲンのその呟きに対し、かすみは多分…と自信なさ気に答える。
「ナツィ達、他の精霊を倒すのに手間取ってるのかな」
それとも…とキヲンは不安気な顔をする。
「そ、そんな訳ないよ!」
ナツィ達は自分達と違って強いもん、とかすみはキヲンを励まそうとする。
「でも…」
キヲンは心配そうにうつむく。
「=‘+*^%#;}\__‼︎」
精霊は唸りながらにじり寄る。
かすみとキヲンは益々縮こまる。
…と、精霊に向かって矢が飛んできた。
「⁈」
精霊はすんでの所でそれを避けたが、そこに向かって黒い影が飛び込んできた。
黒い影は手に持つ大鎌を精霊に向かって振りかざす。
「$\“;”;;;*“;;_+[‼︎」
精霊は断末魔を上げて消滅した。
「…」
黒い影は静かに着地する。
「ナツィ!」
キヲンは嬉しそうに声を上げる。
ナツィは静かに振り向いた。
「…お前ら」
「来てくれたんだ!」
キヲンはそう言いながらナツィに飛びつく。
「ちょっテメェ離せよ」
ナツィを力いっぱい抱きしめるキヲンに対して、ナツィは嫌そうな顔をした。
「どうにかなったみたいね」
ピスケスがそう言いながら3人に近付く。
露夏もその後に続く。
「お前の援護のお陰だぞ」
ナツィがピスケスに目を向けると、あら感謝?とピスケスは微笑む。
「珍しいわね」
ピスケスがそう言うと、ナツィは別にそんなつもりねぇよと言い返した。
「…やっぱり、この2人は連れて来るべきじゃなかったな」
めんどくさいことになる、とナツィは抱きつくキヲンの顔を見ながら言う。
「あら、2人が危ない目に遭うのが嫌だからじゃなくて?」
「い、いや違うし」
ピスケスにそう言われて、ナツィは顔を赤らめる。
ピスケスはうふふと笑った。
「…とにかく、依頼も済んだことだしさ」
帰る?と露夏は皆に尋ねる。
「そうね」
「そうだな」
「うん」
「だね」
4人はそれぞれ頷く。
露夏はそれを確認すると、校門の方に向かって歩き出す。
残りの4人も歩き出したが、ナツィはぴたと足を止めた。
「かすみ」
ナツィはかすみの方に目を向ける。
どうしたの?とかすみが聞くと、ナツィは黙って手を出した。
「?」
かすみは最初よく分からないと言わんばかりに首を傾げたが、やがて何かに気付いたような顔をした。
そしてかすみはナツィの手を取った。
ナツィはかすみが自分の手を握ったのを確認すると、そのまま手を引いて歩き出した。
〈怪學造物茶会 おわり〉
あっやべ。
タグ間違えた。
「うちに七不思議」じゃなくて「うちの七不思議」だね。
どうも、テトモンよ永遠に!です。
毎度恒例(?)の「造物茶会シリーズ」のあとがきです。
今回のエピソードは、ナニガシさんの企画「うちの七不思議」に参加するために書き下ろしたものです。
元々「造物茶会シリーズ」の各ストーリーの構想の段階であった「ナツィ達が夜の学校に忍び込んでどったんばったんする話」をベースに企画に合うように作りました。
ただ正直怪談要素はあまり含められなかった気がします。
元々キャラクターがめちゃくちゃ怖い思いをする話は作れないタチなんで、その辺は多目に見てやってください。
ちなみにこのエピソードは企画用に作ったお話なので、ストーリーのナンバリングは「第3弾」ではなく「第2.5弾」ということになっています。
その辺はあしからず。
では今回は短めですがこの辺で。
企画楽しかったです!
ありがとうナニガシさん!
ウチの企画も楽しみにしててね!
テトモンよ永遠に!でした〜
テトモンさん、参加いただきありがとうございました&結構な長編お疲れ様です&企画で先越しちゃってごめんなさい。
この企画の肝は七不思議が物語に絡んでくるかどうかなので、怖くなくても無問題なのです。実際、僕が今書き進めてるやつもバトル物になりつつありますし。
テトモンさんの企画も楽しみに待っております。
レスありがとうございます。
言うほど長編ではないですよこの話。
最近の「ハブ ア ウィル」程長くないです。
あとこの企画は「七不思議が絡んでればOK」なんですね。
じゃあ全然怖くなくてもいいのか。
企画、楽しかったです。
ぼくの企画も2ヶ月以上温めてきたものなので楽しみにしててください!
テトモンさんだ! 参加していただきありがとうございます。
どうもテトモンさんの考えていた企画より先に発表してしまったようで本当に申し訳無い。テトモンさんの用意した企画も楽しみにして待っています。