「...お前か。」お前だったのか、と。
死に際に、そんな芝居じみた台詞を言うことになるとは、思ってもみなかった。
(ああ、あの時、彼奴に会っていなければ...)
ーー事の始まりは、一か月前。
俺は加藤優(かとうすぐる)、普通のサラリーマンだった。表向きは。夜には、巷で噂の義賊、「ナンバー10」として『仕事』をこなしていた。
元々得意だったpcの技術を利用して、色々なところの汚職やハラスメント事情を暴く、それが「ナンバー10」としての俺の仕事だった。
そんな俺だが、やはり会社員である以上、飲み会に誘われる事だってもちろんある。その日も、飲み会で少し遅くなってしまった。
「終電そろそろだよな...」終電を逃しても最悪、歩いて帰る事は可能だができる限り体力は温存しておきたい。これから「ナンバー10」としての情報収集がある。そんな俺は何を選んだか。
1.駅まで走る
2.諦めて徒歩で帰る
3.駅まで走る。
無論、俺は1を選んだ。
つまり。
地獄への扉を盛大に開け放ってしまった訳だ。
さて、地獄への扉を盛大に開け放った俺だが。
Q.具体的に何をしたか。
A.近道である交番の前を通った。
そう。言ってしまえばそれだけのことだ。
と言うか誰も、
「飲み会で電車がヤバくて駅まで走る時、近道の交番の前を通ったら幼馴染に再会してしまい、なんだかんだで巡り巡って◯にました。」
何て訳分からんことになるとは思わない。思う奴が居たら是非お目にかかりたい。
そして。
「おい、あんた...優、か?」
「⁈蘭?」
再会したのは、同郷の幼馴染、加谷蘭(かたにらん)だった。名前的に勘違いされそうだから言っておくが、蘭は男だ。かなり小柄ではあるが男だ。
これ以上言うと消されかねないから言わないが。