蝉がうるさいくらいに鳴いている路地裏。
キャップ帽を被った赤髪のコドモが1人歩いている。
赤髪のコドモはふととある建物の前で立ち止まると、おもむろにその扉を開けた。
赤髪のコドモはそのまま建物の中にある階段を上がると、階段のすぐ傍にある物置に入っていった。
「おっ涼しっ」
物置に入って早々そう呟くと、赤髪のコドモは被っていた帽子を取る。
帽子の下からは犬のような耳が現れた。
「ここ冷房なんてあったっけ?」
赤髪のコドモがそう尋ねながら物置のテーブルの傍にあるイスに座ると、隣に座る青髪のコドモがふふふと笑う。
「実は内部の温度を下げる結界を張ったの」
物置に冷房なんてないから、とりあえず簡易的にねと青髪のコドモは言う。
「へー、すげぇじゃんピスケス」
さっすが〜と赤髪のコドモは褒める。
「あら、ありがとう露夏」
ピスケスと呼ばれたコドモは赤髪のコドモこと露夏に微笑む。
するとここで物置にエプロン姿のコドモが入って来た。
「あ、露夏」
手に持つお盆の上にティーセットを載せたコドモは、露夏の姿を見とめるとそう呼びかける。
「来てたんだ」
エプロン姿のコドモの言葉に、露夏はよーかすみと手を振る。
「やっぱ外は暑いな」
「今日は猛暑日だってね」
かすみと呼ばれたコドモはテーブルの上にお盆を置きながら露夏と会話を交わす。
「露夏もなんか飲み物いる?」
「あーじゃあオレンジジュースちょうだい」
露夏がそう言ってかすみはオレンジジュースねと返した時、バタバタと階段を駆け上がる音の後物置の扉がばたんと開いた。
「!」
そこには金髪に角の生えたコドモが立っていた。
「…どうしたのきーちゃ」
「みんな聞いて聞いて!」
金髪に角のコドモは興奮気味に言う。
「今度、隣街で“はなびたいかい”があるんだって!」
みんなで行こうよ!と金髪のコドモは飛び跳ねる。
「…」
みんなは突然の提案にポカンとしていた。
「あれ、みんな興味ない?」
金髪のコドモはそう首を傾げる。
「…いや、別に興味がない訳じゃないんだけど」
急すぎてビックリしてるって言うか、とかすみは呟く。
「確かに」
突然のことだものね、とピスケスは頷く。
「まぁそんなことはいいとして」
花火大会だろ?と露夏が立ち上がる。
「おれはすっげー行きたい!」
今までテレビでしか見たことないからさ、と露夏は明るく言う。
「そうね」
私ももう長いこと花火は見に行ってないし、とピスケスはこぼす。
「自分も、行きたいな」
花火って見たことないし、とかすみは小さく手を挙げる。
「ナツィは?」
金髪のコドモはテーブルの向こう側で頬杖をついている黒髪のコドモことナツィに目を向ける。
「花火大会、行く?」
「行かない」
ナツィはすかさずそう返す。
「俺興味ないし」
ナツィは横に目を向けながら呟いた。
「えーそんなこと言わないでよー」
ボクナツィと一緒に行きたーいと金髪のコドモはナツィに近付いて言う。
「はなびがすっごくきれ…」
「だから興味ないって言ってる!」
ナツィは思わず立ち上がる。
「俺はそういう面倒なことはしたくねーんだよ!」
ナツィはぶっきらぼうに言ってまたイスに座った。
「…」
金髪のコドモはつい俯く。
「きーちゃん」
かすみは心配そうに金髪のコドモに近寄る。
きーちゃんと呼ばれたコドモことキヲンは暫く下を見ていたが、やがて顔を上げてこう言った。
「じゃあナツィはかすみと一緒に花火見られないね!」
もしかしたら2人で花火でーとだよ〜とキヲンはにやにやする。
「っ‼︎」
で、でーとってなんだよでーとってとナツィは顔を赤らめながら立ち上がる。
「俺はかすみにそういう感情は持ってないから!」
「えーじゃあなんで顔赤いのー?」
「うるせー!」
キヲンにおちょくられて益々赤くなるナツィの様子を見て、他のみんなは暖かい目を向ける。
「あーもう、行く、行くから!」
行けばいいんでしょ!とナツィはぶっきらぼうに言ってイスに座る。
「ホントに?」
「…うん」
キヲンに尋ねられて、ナツィはそっぽを向きながら頷いた。
それから1週間後。
物置のコドモ達は花火がよく見える公園の近くを歩いていた。
「わーすっごく人がいる〜」
術式をいじることで角を隠し、白いカチューシャを身に付けたキヲンはそうはしゃぐ。
「お前はちびっ子か」
「ボクちびっ子だもーん」
ナツィにジト目を向けられたが、キヲンは気にせずナツィにくっつく。
「…」
ナツィは腕にしがみつくキヲンを無言で振り解いた。
「とにかく早く公園に行こうぜ」
そろそろ花火大会が始まっちゃうし、とここで露夏が言う。
「そうだね」
「そうね」
かすみとピスケスはそれぞれそう答えて歩き出す。
「…行くぞキヲン」
ナツィもそう言って歩き出そうと何気なく隣を見た。
しかし忽然とキヲンはいなくなっていた。
「…え」
ナツィは思わず呟く。
「アイツ…」
ナツィは辺りを見回したが、人混みでさっきまで一緒にいた仲間でさえどこにいるのか分からなくなっていた。
「仕方ねぇ」
探すか、とナツィはこぼしてその場から歩き出した。
ナツィがはぐれたキヲンを探し出して暫く。
ナツィは人混みの中を確かな足取りで歩いていた。
と言うのも、その場に残る魔力を感じ取ることができれば人工精霊の捜索は簡単だからだ。
ナツィのような強力な人工精霊なら、不特定多数が行き交う人混みでもはぐれた仲間を探し出すのは容易だった。
「…」
人混みを掻き分けて進むナツィはふと足を止めた。
ナツィの目線の先にはスーパーボールの屋台の前にしゃがみ込む金髪のコドモがいた。
「…おい」
ナツィが金髪のコドモに近付いてそう声をかけると、金髪のコドモはくるっと振り向いた。
「あ、ナツィ」
「あじゃねーよ」
探したぞ、とナツィは呆れた顔をする。
「勝手に俺から離れるんじゃねぇ」
ナツィがそう言うと、キヲンはえへへへへと立ち上がる。
「だって面白そーなもの見つけちゃったんだもん」
そう言ってキヲンは屋台に目を向ける。
そこには色とりどりのスーパーボールが入ったビニールプールが置かれていた。
「…」
キヲンはナツィにあれやりたい!と言わんばかりに笑顔を見せたが、ナツィは嫌そうな顔をした。
「やりたいとか言うなよ」
「まだボクそんなこと言ってないよ〜」
キヲンはそう言ってスーパーボールの屋台に視線を向ける。
ナツィは暫くその様子を見ていたが、やがて溜め息をついた。
「仕方ない、1回だけな」
ナツィはそう言いつつ服のポケットからがま口を出すと、キヲンはえ、いいの⁈と目を輝かせる。
「いいの⁈って、お前がやりたそうな顔をしてるからだろ」
ナツィがそうジト目を向けるとキヲンはやった〜!と跳ねて喜んだ。
「終わったらすぐにかすみたちの所へ行くからな」
ナツィはキヲンに500円玉を握らせると、キヲンはうん‼︎と頷いた。
〈華火造物茶会 おわり〉
どうも、テトモンよ永遠に!です。
いつも通り「造物茶会シリーズ」のあとがきです。
今回は自分が開催した企画「ポエム掲示板大花火大会2023」の参加作品として書かせていただきました(そのためナンバリングは第4弾ではなく第3.5弾になります)。
「造物茶会」の前身になった作品のリベンジ的な意味も込めて書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか?
「花火大会」と銘打っておきながら花火が打ち上がるシーンは出てこなかったんですけど…これはこれでいいかもしれませんね。
企画終了は明日までですが、「今知ったけど企画に参加したい!」「企画の存在忘れてた!」って人は今からでも間に合うのでよかったらご参加ください。
あと明日「夏キラ」参加の新しい企画の発表をする予定でいます。
今度はテトモン節全開の難しめの企画なので敷居が高そうに見えるかもしれませんが、あまり気負わず色んな人に参加してほしいです(参加者が少ないのもぼく寂しいし…)。
あと企画「蘇れ長編!」にも参加しようかなーと全力で作品を作っているのですが、ちょっと行き詰まってます(笑)
まぁなんとかして参加するつもりでいるので待っててくださいねナニガシさん。
と、いう訳でテトモンよ永遠に!でした〜