9月に入って暫くが経った。
相変わらず暑い日が続き、早く涼しくならないものかと毎日天気予報を気にしてしまう。
それでも、わたしは休日に外へ出る。
理由は簡単、”彼ら”に会いに行くためだ。
この退屈な日々も、うだるような暑さも、”彼ら”といれば気にならなかった。
しかし、今日は違った。
「あれ…?」
いつも”彼ら”が集まるショッピングモールの屋上で、いつもと同じ時間に待っていたが、一向に”彼ら”が現れる気配がない。
おかしいな…とわたしは辺り一帯を探してみたが、それらしい人はいなかった。
「…」
どうして、と考えた時にわたしの頭をよぎったのは、先週の光景だった。
『お前、さっさとこの場から逃げろ』
そう言われてわたしは”あの場”から逃げ出したのだが…結局あれは何だったのだろう。
突然知らない女の子が襲いかかってきて、ネクロマンサーがそれに応戦して…
どう考えても、あれは異常な光景だ。
どうして、あの少女はわたし達に襲いかかってきたのだろう。
何で、”彼ら”はあの少女を恐れていたのだろう。
そして、”彼ら”はあの後どうなったのだろうか?
考えれば考える程に、謎は深まるばかりだ。
「…大丈夫かな」
わたしは急に”彼ら”のことが心配になって、ポツリと呟く。
”彼ら”は他の異能力者より強いと言われているが、あの少女を恐れていた所を見るとどうなったのか不安になる。
「…」
”彼ら”を探しに行こう、わたしはふと思い立った。
”彼ら”の連絡先とかはよく知らないけれど、この行ける場所が限られている寿々谷のことだ。
探せば見つかるに違いない。
「じゃあ、行こう」
誰に言うまでもなくわたしは呟くと、ショッピングモールの屋上の片隅から歩き出した。
その後、わたしは寿々谷のあちこちを回った。
”彼ら”の溜まり場であるショッピングモール内や駄菓子屋、寿々谷公園、などなど。
思いつく場所を手当たり次第に当たってみたが。結局”彼ら”はいなかった。
一応、前に行ったネロの家にも寄ってみたが、インターホンを押しても誰もいなかったみたいだし。
本当に”彼ら”はどこに行ってしまったんだろう。
わたしはそう思いながら、駄菓子屋の店先で休んでいた。
「…」
そもそも、なぜ”彼ら”は今日は姿を現さないのだろう。
ふとわたしの中にそんな疑問がよぎる。
毎週”彼ら”は寿々谷駅前に集まって、遊んで、駄弁って…
まさか先週の事が関係している?
不意にわたしの中にそんな仮説が浮かぶ。
…確かに、先週変な少女と出会って、わたしは”彼ら”に逃がされた。
その時、あの少女は”他の異能力を頂いた”と言っていた。
そしてネロは、”今度はボク達を狙おうって言うのか‼”と言っている。
「…もしかして」
わたしはある1つの可能性に気付く。
…もし、あの少女が他の異能力者の異能力を奪えるとしたら?
彼女の言う、”他の人の異能力を頂いた”が本当だとすれば?
そしてネロの”今度はボク達を狙おうって言うのか‼”がそのままの意味だとすれば。
「…まさか」
自分の背筋が寒くなるのが感じられた。
「まさか…まさかね」
そんな事はないよとわたしは自分に言い聞かせるが、どうにもそんな気がしてくる。
…”彼ら”の異能力が奪われているかもしれない事実に。
もちろん、これはわたしの憶測だ。
これまでの出来事を元に考えてみたに過ぎない。
でも、そうだとしても”彼ら”の姿を見ない事に説明がつかない。
”異能力”がなくなったとしても、異能力者はただの人間と変わらないハズ…
「いや、待てよ」
わたしは思わず呟く。
いつか師郎が”異能力は記憶そのもの”、と言っていた気がする。
もしそうだとすれば…
レスありがとうございます!
苦礬柘榴石は、母がよく行っているアクセサリーのお店でガーネットを見た時、気になって調べたら苦礬柘榴石が出てきて知りました!
凄く難しい漢字だけどいい名前だなぁと思って、主人公の名前にしてみました(*^^*)
小説は、やっぱり見てインプットするしかないんですね…!
でも、テトモンよ永遠に!さんが書く小説、素敵だなぁと思って少し参考にさせていただいてました。
いざ書いて見るとやっぱり難しいですね〜
続きも頑張って考えて書いてみます!
レスありがとうございます。
あぁ、ぼくの作品を参考にしてたのね。
下手くそでも誰かの創作の助けになっているのはとても嬉しいです。
「あら?」
わたしがそこまで考えた所で、聞き覚えのある声が耳に入った。
思わず顔を上げると、目の前には背の高い髪を複雑に結った少女が目に入った。
「暫くぶりじゃない」
少女はそう言って微笑む。
わたしは急な事にびっくりして、彼女が誰だか分からなくなった。
「え、えーとえーと…稲荷(いなり)さん?」
やっとの事で思い出した名前を口にすると、少女は覚えてくれていたのねと目を細めた。
「何だかあなたが難しい顔をしてたから、つい話しかけちゃった」
稲荷さんはそう言いながらわたしの傍に座る。
「何か考え事?」
稲荷さんがそう聞いてきたので、わたしはまぁ…そうですと答える。
「あらそう」
良かったらわたしが聞くから、話してくれない?と稲荷さんは尋ねる。
「あーでも…」
「良いから話しなさんな」
戸惑うわたしに対して、稲荷さんはにこりと笑いかける。
有無を言わせぬその笑顔に、わたしはこれまでの経緯を話す事にした。
”彼ら”に今日も会おうとしたが、会えなかった事。
その原因が先週の出来事にあると考えた事。
先週出会ったあの少女に”彼ら”の異能力が奪われているかもしれない事、などなど。
とにかく今思っている事を洗いざらいわたしは話した。
「…なるほど」
そういう事ね、と稲荷さんはわたしの話を聞いて呟く。
「あの、師郎とかから何か聞いていませんか?」
同じ学校に通っているんですよね?とわたしは稲荷さんに尋ねる。
「…」
稲荷さんは暫く口をつぐんでいたが、不意に口を開いた。
「あなたは、知らない方が良いわ」
”あの子”のことは、と稲荷さんはこぼす。
「どうして?」
「どうしてって…これはわたし達異能力の問題よ」
あなたみたいな常人が関わる事じゃないわ、と稲荷さんは続ける。
「だから忘れなさい」
先週の事も、異能力の事も、そしてわたし達の事も、と稲荷さんは悲し気に笑う。
「え、何で…」
「何でって…あなたが知ったことではないわ」
これはわたし達の問題なのだから、と稲荷さんは前を向く。
「…」
わたし達の間に暫く沈黙が流れた。
…確かに、稲荷さんの言う通り先週起きた事が異能力者達の問題なら、常人であるわたしが関わる事ではないのかもしれない。
でも…
「それでも」
わたしは力強く言う。
「わたしは、知りたいです」
”彼ら”…ネロ達の身に何が起きたのか、とわたしは稲荷さんの顔を見る。
「だってわたしは”彼ら”の友達ですもん」
このまま会わずじまいだなんて、嫌ですとわたしは声を上げる。
「…」
稲荷さんは静かにわたしの方を見る。
そしてこう言った。
「それ、本気で言ってる?」
そう聞かれて、わたしは本気ですと答える。
「友達の事を何も知らないだなんて、変じゃないですか」
わたしがそう笑うと、稲荷さんは呆れたようにため息をついた。
「…仕方ないわね」
稲荷さんはそう呟く。
「後悔しても知らないわよ」
そう言いつつ彼女は立ち上がった。
「…行くわよ」
そして稲荷さんはわたしに向かって笑いかけた。
「え、行くわよって、ど…」
困惑するわたしはそう言いかけたが、稲荷さんは笑みを浮かべてわたしの腕を引き立ち上がらせる。
「つべこべ言わずに行くわよ」
稲荷さんはそう言って歩き出す。
「え、ちょっと…」
わたしは引きずられるように歩き出した。
稲荷さんに手を引かれて約30分。
わたし達はバスに乗った後、市の中心部から大分離れた所を歩いていた。
住宅地と言えば住宅地だが、古い建物がかなり目立つし、所々小さな畑も見える。
寿々谷駅前に比べればかなり田舎だった。
「…稲荷さん、一体どこに向かっているんですか?」
「ふふふ、秘密~」
さっきから何度も繰り返している会話を繰り返しつつわたし達が歩いていると、不意に稲荷さんが立ち止まった。
「?」
彼女が目を向けた方を見ると、そこそこ立派な日本家屋が建っていた。
「ここは…」
「日暮邸よ」
わたしの言葉を遮るように稲荷さんは呟く。
「…え?」
「この辺りで1番大きい家だから、”邸”って呼ばれてるの」
稲荷さんはそう説明するが、いやそうじゃなくてとわたしは突っ込む。
「”日暮”って事は…ここ、師郎ン家?」
わたしはそう尋ねるが、稲荷さんは気にせず一軒家の敷地内に入った。
そして家のインターホンを押した。
ピンポーンとインターホンが鳴って暫くして、ガラガラと引き戸が開いた。
「…」
玄関には2つ結びの見慣れない少女が立っていた。
「鏡子?」
「ハ~イ”結香吏(ゆかり)”ちゃん、師郎達はいるかしら?」
稲荷さんが手を振りつつそう言うと、”結香吏”と呼ばれた少女はいるよ、と答える。
「あの人が師郎達に会いたいって言うから、後は頼めるかしら?」
稲荷さんがこちらを見ながら尋ねると、結香吏はうんとうなずく。
「じゃあ任せたわ」
稲荷さんはそう呟くと、わたしにこう呼びかける。
「じゃ、後はこの子にお願いするから」
わたしはこの辺で~と稲荷さんは一軒家の敷地を出る。
「え、ちょっと?」
わたしは戸惑ったが、稲荷さんは気にせずその場を後にした。
「…」
その場には微妙な沈黙が流れた。
わたしが一軒家の敷地内を見ると、家の玄関で2つ結びの少女がこちらを見ている。
「…上がりなよ」
少女こと結香吏がそう言うので、わたしはじゃ、失礼しますと日暮邸の敷地に入っていった。
なんだかんだで日暮邸にわたしは上がらせてもらった。
全く知らない女の子に案内されている状態が少し不安だが、ここにネロ達がいるみたいなので、信じて付いて行く事にした。
「…」
廊下を少し歩いた所で、とあるふすまの前で結香吏は立ち止まった。
そして彼女は無言でふすまを開ける。
「師郎」
部屋の中に座り込む長身の少年に対し、結香吏はポツリと言う。
「お、結香…は?」
こちらを見た師郎は、わたしの姿を見とめてポカンとする。
室内にいるあとの3人も驚いたような顔をした。
「え、何でコイツいるの?」
「え、え、は?」
困惑する4人を見て、結香吏は不思議そうにこちらを見た。
「…”コイツ”?」
「あ、あ、それはね、ものすごく深~いワケが…」
結香吏に対し、わたしはどうにかはぐらかそうとしたが、ここで師郎が結香吏、と割り込んできた。
レスありがとうございます!
そうでしたか〜私もリアルとか体調とか忙しくて…
だいぶ遅れちゃうかもですが、Metallevma書いてみますね!
できれば9月までに書き終えたかったのですが…(泣)
ありがとうございます!テトモンよ永遠に!さんも体調にお気をつけて〜
こちらこそレスありがとうございます。
企画参加投稿は9月過ぎちゃっても大丈夫ですよ。
結構そういう人は多いんで…
「ちょっと俺達だけで話したいことがあるから、席を外してくれないか?」
師郎がそう言うと、結香吏は分かった、とその場を離れた。
「…」
5人だけになったその場に、微妙な空気が流れる。
「ねぇ、あの子って…」
「彼女は日暮 結香吏(ひぐらし ゆかり)」
わたしが尋ねようとした所でネロが口を開く。
「師郎の5つ下の妹」
ネロがそう言ったので、わたしは思わずはぁ、と呟く。
「まぁそんな事は置いといて」
お前いつまでもそこに立ってないで座ったら?と師郎がわたしに目を向ける。
「…あ、お邪魔します」
わたしはそう答えて部屋に入り、畳敷きの床に座った。
「まず聞くが、どうしてここが分かった」
わたしが座った所で、師郎はそう尋ねる。
黙っている他の3人は、冷ややかな目をこちらに向けてきていた。
わたしは恐る恐る答える。
「…い、稲荷さんに案内されて」
「稲荷か」
わたしがそう言いかけて、師郎はポツリとこぼす。
「アイツ…お喋りだからな」
「仕方ないね」
耀平とネロは」それぞれそうこぼす。
「それで、稲荷はどこまで話したんだ」
師郎は畳の上に置かれたお盆の上のジュースが入ったコップに手を伸ばしつつ聞く。
「え、どこまでって…」
稲荷さんは”わたし達の問題”って言ってたけど…とわたしは言う。
「ふーん」
師郎はそう言ってうなずく。
「ま、あれは”俺達の問題”である事に間違いないわな」
お前さんのような常人が関わる事じゃない、と師郎はコップに口を付ける。
「確かに」
ネロもうなずく。
「こればっかりはアンタが関わる事じゃないよ」
さっさと忘れた方が良い、とネロはこちらに目を向ける。
「でも」
「でもじゃない」
わたしが言いかけて耀平が遮る。
「これは、”あの女”に関してはおれ達の問題だ」
お前が関わっても後悔するだけだぞと耀平は淡々と告げる。
「…」
黎も静かにうなずいた。
「それでも…」
わたしはそう言って顔を上げる。
「それでも、わたしは知りたいと思うから…!」
異能力を知ってしまった一般人として、皆の友達として、とわたしは続ける。
「わたしに、教えて欲しい」
わたしは力強く言った。
「…」
ネロ達は思わず顔を見合わせた。
「どうする?」
「どうするもこうするも…」
「仕方なくね?」
彼らは暫く話し合った末、こちらに目を向けた。
「…アンタ、寿々谷の異能力者の実情を知る覚悟はできてる?」
ネロの言葉に、わたしはえ?と返す。
「寿々谷は他の街より異能力者が多いから、その分トラブルも多いんだ」
ネロは淡々と続ける。
「寿々谷の中では色々な勢力が存在して、仲が良かったり悪かったりするんだけど…」
その中でも特に皆から恐れられている異能力者が、とネロは言う。
「先週ボク達を襲ってきたあの女、”ヴァンピレス”だ」
ネロの言葉に対し、わたしはヴァンピレスと繰り返す。
「異能力は”他者やモノの記憶を自分のものにする”能力」
ボクの異能力とは似て非なる能力さ、とネロは呟く。
「アイツの厄介な所は、異能力をかなり自分勝手に使っている事だ」
…どういう事?とわたしが尋ねると、ネロは頬杖をつきつつ答える。
「どういう事って…先週見た通り、アイツは他の異能力者の記憶を奪おうとするからだよ」
そのネロの言葉に、わたしはえ…とこぼす。
「何でだか知らないけど、アイツは他の異能力者の記憶を奪って回ってるんだよ」
全く、困った奴とネロは溜め息をつく。
「…あ、でも、記憶を奪われるだけならまだ良いんじゃ」
「ンなワケねーよ」
わたしの言葉を遮るように、ネロは声を上げる。
「問題はソイツが、ボク達の”記憶”そのものである異能力を奪っちまう事なんだよ」
「え…?」
その言葉に対し、わたしは唖然とする。
「記憶そのものが異能力って…」
「まぁ文字通りの意味だよ」
ここで耀平が割って入った。
「おれ達の引き継いだ異能力者としての記憶も、生まれた頃からの記憶も、”異能力”そのものなんだ」
耀平は話を続ける。
「それが根こそぎ奪われたら、おれ達は記憶も異能力もないただの人間になっちまう」
おれ達の絆も、思い出も、全部消えてなくなる、と耀平は言う。
「それは困るから、おれ達は奴を恐れてるんだ」
耀平はそう言って手に持つコップのジュースを飲む。
「…これが、寿々谷の異能力者達の恐ろしい実情だ」
それでもアンタは、ボク達と関わりたいと思う?とネロはわたしに尋ねる。
「いつ誰が自分を失うかも分からない状況で、アンタは異能力者と一緒にいられるか?」
ネロはわたしの目をじっと見据えて言った。
「…わたしは」
わたしは、とわたしは呟く。
「それでも一緒にいるよ」
異能力者と関わるよ、とわたしは力強く言う。
「だって、友達じゃない」
わたしがそう言うと、皆は苦笑した。
「友達、か」
「ハハハ、良い度胸じゃねぇか」
「ボ、ボクは友達だなんて認めてないけど…好きにしろっ」
それぞれが思い思いの反応をした所で、わたしはこう言った。
「…皆、ありがとう」
そう言って、わたしは笑った。
〈17.ヨウコ おわり〉