部隊長は少年がやって来る前にすでに娯楽室で待っていて自らの弓矢型フォトニック・アームズを磨いていた。『開けたら必ず閉めろ!』『内鍵使用禁止!』 の張り紙がされた扉のドアノブを捻り彼を正面に見受けると、驚きつつも電気を点け一礼する。
娯楽室は教室より一回りか二回り小さい部屋で、グレーの2、3人掛けのソファが2つ向かい合い、その間に木製の小さなテーブルが置かれている。また、部屋の南には折りたたみテーブルとパイプ椅子、ホワイトボード、スクリーンが並ぶ。窓は部隊長の座る北側に1つあるが、採光機能はなく、電気を点けない昼間は薄暗い。だからこの娯楽室はスライドで作戦を確認するか、映画を見るか、大人数でボードゲーム大会をする以外には殆ど使われない。
「おっせーなぁ、待ちくたびれちまったぜ。……んで、用ってなんだよ。俺ァこれからアイスタ(アイドル・スターズというスマートフォンゲームの略称)のイベントに参加しなきゃいけねーんだよ、だから手短に頼む」
「善くんこと放ってゲームですか」
少年は彼にしては低い声で呟いた。いい加減な上官への憤りを物理的攻撃に自動変換しないようにするので精一杯だった。
「上官のこと呼び出しといて態度がでかいぞ。これが一昔前なら往復ビンタもんだぞ」
不満を垂れ流す部隊長を無視して、少年は手が出る前に単刀直入に本題に入る。
「隊長、善くんのこと、良いんですか?」
「いーんだよ。ああいうのは新人にはよくあんだよ……特に、憧れだけでスパークラーになった、絵に描いたようなプロパガンダ坊やには」
依然フォトニック・アームズに目をやったまま、変わらぬ緊張感のない顔で言い放った。おちゃらけた言い方ではあったが、どこか淡々としている。やはり多くの下っ端スパークラー(部隊長も下っ端だが)と違い大学進学後の除隊期限延期組なだけあって、余裕と冷淡さが見て取れた。
「そんな言い方ないじゃないですか」
「あるね。ありありのオオアリクイ」
「やめてください古いです」
「え、そうか?だってあの児童書の……」
「それはパロです。元ネタはもう少し前の芸人の……じゃなくて!」
「どっちが古いんだか」
部隊長がわざと聞こえる程度に呟くと、少年はキッと余裕そうに薄ら笑うその男を睨んだ。
それから形式的に咳を一つして気を取り直すと、また真面目な顔に戻る。
「え、誰」
見知らぬスパークラーに戸惑う宗司。
「初めまして、田代小春です! そこの初音さんに助けていただき、皆さんの助太刀に来ました!」
「あ、うん。……ごめん初音って誰?」
「あんたらの言うかどみーちゃんのことだよ」
一歩遅れて追いついてきた初音につっこまれ、宗司は思い出したように手を打った。
「もしもし真理奈? こっち見えてる?」
『うん、スコープで見てるよー。その子が援軍?』
初音の通話に、銃声混じりに真理奈が通話に答えた。
「そう、小春ちゃん」
『楯使いかー、防御力の高い子はうちにいなかったから助かるね。こっちのカゲの勢いもちょっと落ち着いてきたし、もうちょっと援護射撃に回れそ……あごめんやっぱ無理』
銃声が更に3発鳴り響き、真理奈の声が途切れた。
「ごめんかどみー? 早くこっち手伝ってくれるか?」
「ん、ごめん。おいで小春ちゃん」
宗司の声に振り向き、小春に手招きして宗司の横に並んで地面を見下ろす。
「走り回りたいから足元を広げたいんだ」
「あ、それだったら多分、私役に立てますよ」
小春が手を挙げながら言う。
「マジか。よっしゃ行くぞ」
「了解しました。ついて来てください」
小春が防楯を広げて地面に向け、その体勢のまま勢い良く飛び降りた。
「て言うか、みあきちのお兄さんてこの人だったんだ」
紀奈がそう言うと、水晶は出撃前に言った気がする、と呆れたように言った。
「…それにしても」
どうしてここが分かったの?と水晶は石英に尋ねる。
「え、あぁ」
水晶が出撃したって聞いて、スパークラーが個々に持たされる発信機の信号を頼りにここまで来たんだ、と石英は説明する。
「でもまさか大型種がそこにいたなんて…」
石英はカゲを見上げながら呟く。
大きなカゲはゆらゆらと交差点を通り過ぎていった。
「…これくらいなら、みんなで倒せるか」
石英がそう言うと、紀奈はえ、と驚く。
「こんなデカいの、倒せるんですか⁈」
「そりゃあもちろん」
ぼく達澁谷學苑のスパークラーはこんなのとばっかり戦ってるよ、と石英は笑う。
「東鏡は激戦区だもの」
あのレベルを倒すのは日常茶飯事、と水晶は呟く。
「やっぱ名門すげー」
紀奈はそうこぼすしかなかった。
「とりあえず、ぼくの部隊のメンバーをここに呼ぶよ」
水晶達は下がってて、と石英は優しく言う。
「ここはぼく達が…」
「いいえ、わたし達も戦います」
石英の言葉を遮るように、水晶は毅然とした態度で言った。
「どうして…」
「兄さん達の部隊は全員揃っていないでしょう?」
交流会の準備に訪れているのは兄さん含めて5人のはず、と水晶は続ける。
「わたし達の部隊が援護します」
その様子を石英は驚いた顔で見ていたが、すぐに優しい顔に戻った。
「分かった、援護、任せたよ」
石英は水晶の肩を叩いた。
「やァ、今日も来たね、親友」
いつも通りノックも無しに自室に入ってきたその青年、三色吉代(みいろ・よしろ)に目も向けず、モニターに向かってキーボードを叩きながら村崎明晶(むらさき・あきら)は親し気に話しかけた。
「ああ。しかしこの小屋、そろそろ限界なんじゃないか? 周りのカゲの数やばかったぞ」
「ははは、つまり『カゲ除け』は上手く動いていてくれてるわけだ。君のお陰だね」
「あとプロフ」
「『プロフェッサー・アメシスト』ね。変な略し方しないでよ。……で、何だい親友」
「実験台に親し気な呼び方して警戒心解こうと思ってるなら無駄だぞ。俺はもうあんたにすっかり慣れちまってるんだからな」
「ははは、すっかり癖になっててね。……けど、ワタシは本当に君のこと、親友だと思ってるんだよ? だってさ」
そこで一瞬言葉を切り、自分の座ったキャスター付きの椅子をずらし、監視カメラの映像が映ったモニターを吉代に見せるようにしながら言葉を続ける。
「この村が『こんなこと』になっちゃってから、ずっと一緒に戦ってくれてる唯一の戦友なんだから」
モニターの中には、村中のあらゆる場所を埋め尽くす無数のカゲと、9割方カゲに飲まれ、廃村とすら呼べない有様の『村だったもの』が映されていた。
校長から高田美空への説教はジョーの元にも届く。
「あいつ…またやったのかよ…」
大型のカゲに乱斬りを浴びせるその手が止まりそうな程力が抜ける。しかし呆れながらもそれが彼女なりの合図だというのもジョーにはわかっていた。
「俺もそろそろちゃんとやるか…」
袈裟斬りで大きな傷をカゲに刻み、その反動を使って後ろへ飛び間合いを取る。これが彼なりの必殺技への儀式だ。鞘こそないが納刀に等しい逆手持ちでP.A.を持ち無行の位で呼吸を整える。
スーッ…ハァー…
“相手は中長距離攻撃が主体で近接戦もその応用に過ぎない。加えて触手も向きがあり他生物同様に上からの攻撃には必ず隙がある。残るはコアの位置だけど…”
…タッ…タッ…
小さいが確実に近づく足音。
「行くか」
そう呟いて走り出す。迫る触手を捌き、時に切りながら空中へ飛び上がる。触手の届かない高さまで飛んだところで姿勢を整える。落下が始まる。触手の迫る速度は先程までの比では無い。
「アァーー!」
P.A.は完璧なタイミングで振り下ろされ、次々に触手を切っていく。そのまま刃は本体を捉える。先程の乱斬りとは違い確実に刃が入る感覚。刻んだ傷が開き、さらに深いところまで刃が入っていく。進むほどにコアらしきものがはっきりとした点になっていく。しかし、当然コア付近は固く、刃の勢いも抑えられていく。
“もう少し…届け…”
その意志が止まり始めた刃を進める。刃先から今までと違う何かがジョーに伝わる。
“届いた…!”
カゲの体に足を突き刺し、体勢を取る。
“回復する前に打つ!!”
再び大きくP.A.を持ち上げる。
「ぅらぁーーー!」
彼の最も得意な斬り方で振り下ろす。
間違いない手応えでコアが真っ二つに割れ爆散する。しかしどこか様子がおかしい。
“おかしい…コアを破壊すれば体が融解するはず…”
「まさかデコイ…!?」
一瞬で考えうる全ての可能性が頭を駆け巡る。
「さすがバディ、私の期待通りだよ!」
背後から軽薄とさえ取れる愛嬌全開の声とクナイが飛んでくる。そのクナイは俺の肩口を掠め、カゲの体に突き刺さった。
「美空!お前何のつもりだ!」
「あ、なるほどそういうこと。さっさと退かなきゃお前までぺちゃんこになるぜー!」
宗司も続いて飛び込み、カゲ数体をまとめて押し潰した防楯を更に戦槌で打ち、下敷きになったカゲ達のダークコアを衝撃で粉砕した。
「これ良い方法だなー!」
「1回きりですけどねー!」
「あん? まだ行くぞ」
「えっ」
宗司が向かってきたカゲたちを戦槌で薙ぎ払い、体勢の崩れたカゲたちを指す。
「バッシュ!」
「あ、そういうこと!」
小春もすぐさま広げた防楯を構えてカゲの群れに突っ込み、ブロック塀に押し付けた。
「理解が早くて……助かるぜ!」
小春が離れたところで再び宗司が戦槌で打ち、カゲの群れはまたも押し潰された。
「っしゃあ! もう1発行くぞ!」
「え、いやちょっと……」
足を止める小春に宗司が尋ねる。
「どうした?」
「こ、この楯、結構重いんですよ…………。何度も、バッシュするのは、ちょっと……キツイ、かも…………しれないです…………」
「……マジで?」
「マジで……」
「うわマジか。まあ良いや。じゃあ後ろの足止め役頼んだ」
「了解、です」
防楯を開いたまま小春はヌシから離れ、ヌシのもとに近付こうとする小型のカゲたちを押し返し始めた。
「かぁどみー!」
「分かってるって」
宗司に呼ばれ、初音は溜め息を吐きながら地面に飛び降りた。カゲたちのいなくなった地面に落下の勢いで剣を突き立てて着地する。
「よっしゃ、灯ー! もう引け!」
「やっとか前衛ども!」
それまで一人でヌシと交戦していた灯だったが、宗司に呼ばれてヌシと距離を取り、手近な家の屋根に着地した。
数分後、石英の部隊…クルセイダースのメンバー4人はリーダーの元に集まった。
水晶の部隊も、巴、弾、寵也の3人が水晶の元へ来た。
最初3人は石英を見て、加賀屋 石英だ!とかクルセイダースのリーダーじゃないとかなんとか言っていたが、共同作戦を展開すると聞いてすぐに落ち着いた。
数分の話し合いの末、作戦は決まった。
あの種のカゲは頂点部分にコアがある。
だから高い所から狙撃してコアを破壊すればいいのだが、あのカゲは近くの動く物に反応して光線を放つ。
だからカゲの足元や建物の上で囮がカゲの気を引いている内に狙撃手がコアを撃ち抜くという算段だ。
とりあえず、本命の狙撃はクルセイダースの射撃に長けたメンバーが、囮は残りのメンバーと加賀屋隊が担当することになった。
「やっぱり名門の部隊長はすごいなー」
紀奈は歩道橋を登りながら呟く。
「あんなにサクサクと作戦決められるなんて」
「そりゃあ私達とは次元の違う教育を受けているからよ」
仕方ないわ、と巴は言う。
「あ、巴嫉妬してる?」
「してない」
弾にそう言われて、巴はぷいとそっぽを向く。
「とにかくお前ら、P.A.の準備はできてるか」
マシンガン型P.A.を準備しながら寵也が言う。
「あー大丈夫大丈夫」
「OKだよー」
「もちろん」
紀奈、弾、巴はサブウェポンの拳銃型P.A.を見せながら笑う。
「加賀屋は?」
「大丈夫」
寵也に聞かれて、水晶も拳銃型P.A.を見せた。
「美空!お前何のつもりだ!」
飛んできたクナイは駆け巡った思考の中から1つの答えだけを指し示した。
「まぁ確証があったわけじゃないけどね」
クナイに遅れて本人が笑いながら降りてくる。
「でもデコイの可能性は高いと踏んでた。だから俺に本体を譲った。違うか?」
徐々に回復するカゲの体や触手に斬撃を入れながら問い詰める。
「半分正解、でももう半分はほんとにジョーじゃなきゃ本体に太刀打ちできないって思ったからだよ」
全く都合のいい言い方だ。実際俺の刀型P.A.ですら傷をつけるのが精一杯だったから結果的には正解だけど…でも今そんなことは問題じゃない。
「なぁ、お前ならコアの位置がわかるんだろ?」
「だからわかるわけじゃないって!見当はつくけど…」
「俺よりわかるならそれでいい、交代だ」
「はぁ?聞いてなかったの?私のP.A.じゃ歯が立たないんだってば!」
「お前はコアを打て、それ以外は俺が諸々やってやる」
お互い投げやりな言い方をするが、その真意は伝わっている。バディとは極めて不思議な関係だ。
「無理言って…まぁジョーが言うなら信じられるけど」
美空はクナイでカゲの体を抉っていく。ジョーはその傷を維持し、攻撃を全て捌く。
【初めからこれが出ればいいのだが…】
隊長はその様子を賞賛しながらも少し頭を抱える。
「あった!」
隊長のそんな感情を余所に美空はクナイがコアに当たった感覚に声を上げた。
「ぅりゃーー!」
ダークコアとP.A.がぶつかり甲高い音が響く。コアへの衝撃にカゲの体が反応し、硬直する。
「ダメ…硬い…」
クナイが刺さったまでは良いがそれより奥に進まない。美空が助けを求めるように後ろを覗く。そこに、彼の姿はなかった。
「ジョー?ねぇ!」
辺りを見回すが彼の姿は見えない。
「上だ、バーカ!」
美空は死角からの声に驚き上を見た。
「どけっ!押し込んでやる!」
美空は彼の姿を目で追いながらクナイから手を離し、後ろに後ずさりする。
「ダァーー!」
ジョーの繰り出した足先は見事にクナイを捉え、先程までよりも深く差し込む。ダークコアの中心に到達した瞬間コアが砕け、その破片が爆散した。融解するカゲの体に足を取られ尻もちをついた美空に
「ラストは貰った」
ジョーはそう言ってサムズアップを見せた。
「あとは任せたぞ宗司、かどみー」
「おう任せろー」
片手を上げて答えた宗司に、ヌシが腕による薙ぎ払いを仕掛けてきた。
「お、その攻撃は助かる」
そう言いながら、宗司は予め初音が突き立てていた剣を足場に跳び上がり回避した。弾き飛ばされた剣は初音が回収し、宗司が頭上から、初音が足元から攻撃を仕掛ける。ヌシは両方を一瞬見た後、まず宗司を殴りつけようとした。しかし、その拳は途中で不自然に停止する。
灯が地面に向けて撃ったワイヤーがヌシの腕を絡め取っていたのだ。
その隙を逃さず、宗司が頭を叩き潰し、初音が片脚を切断したが、ダークコアには当たらなかったようで、ワイヤーを振り払い更に攻撃を放とうとする。
「させるか」
即座に巻き取ったワイヤーを再び発射した灯の攻撃と遠方からの真理奈による狙撃がヌシの腕を貫き、殴る勢いでその腕が千切れ飛んだ。
「いよっしゃ片腕片脚取った!」
「ナイスゥ灯に真理ちゃん」
親指を立てた宗司の横に、小春が吹き飛ばされてきた。
「ん、どうした新入り?」
「ごめんなさい、押し負けました……。私の押さえてた分、一気に押し寄せてきます」
「マジか。流石に片方しか防げないぞ」
そう言っている間にも、前方からはヌシの叩きつける攻撃が、後方からは無数のカゲたちが、その場の4人に迫ってくる。その時、
『宗司くんは後ろを止めて! ヌシの攻撃は当たらないからかどみーちゃんが心臓を狙って!』
通話状態が続いていた携帯電話から、真理奈の指示が轟いた。
ちょうど歩道橋の壁に隠れた所で、耳の通信機から石英の声が聞こえてきた。
『作戦はぼくがさっき言った通り、狙撃手以外のメンバーが陽動で一斉に銃器型P.A.を撃つ』
それでカゲを混乱させている隙に狙撃手がコアを撃ち抜く、と石英は続ける。
『みんないいね?』
石英がそう尋ねると、通信機の向こうから了解!と威勢のいいクルセイダースのメンバーの声が聞こえた。
加賀屋隊もそれぞれ返事をする。
『じゃあ目標が近付いてきたら合図を出すから』
それまで待っててね、と石英からの通信は終わった。
「…それにしても」
石英の通信が終わった直後、寵也はポツリと呟く。
「この辺りは妙にカゲが少ないな」
「そう?」
弾は首を傾げる。
「他のみんながこの辺りのカゲを倒しちゃったからじゃない?」
別におかしいことでもないよ、と弾は続ける。
「確かに、この辺りはほとんどカゲはいないけれど…」
STIから支給された周囲のカゲを探索する端末を見ながら巴は言う。
「この通り、周りに隠れている訳でもないみたいだし…」
そう言いかけて、巴は言葉を失った。
「?」
巴、どうかした?と紀奈が巴の方を見る。
巴の目は手元の端末に釘付けになっている。
「巴?」
「マズい」
紀奈の言葉を無視するように、巴は呟く。
「え、マズいって…」
「こっちにカゲの群れが近付いてる‼︎」
巴はものすごい剣幕で叫んだ。
それと同時に頭上から黒い何かがいくつも飛び込んできた。
「そういえば親友、今日はたしか君の誕生日だったよね。良いものをあげよう」
ふと思い出したように明晶が口を開いた。
「今日誕生日なのはプロフの方な」
「あれ、そうだっけ。ワタシの誕生日を祝ってくれる家族は、3年も前にもういなくなっちゃったからねぇ……」
「死んだみたいに言うじゃん」
「えへへ、みんな無事なんだよね。ここがカゲに沈んだのがちょうどみんなの旅行中で良かった」
「……で、『良いもの』って何だよ」
「ああ、そうそう」
明晶が放り投げて寄越したものを。吉代は片手でキャッチし、改めて確認した。
腕時計のような形状ではあるが、文字盤の代わりに液晶画面が取り付けられている。
「何だこれ。スマートウォッチ?」
「それっぽいでしょ。頑張って作ったんだー。素材だけは腐るほどあるからね」
吉代が顔を上げると、明晶の右手首にも同じデバイスが嵌められている。彼女のデバイスの画面には、半分ほどまで減り黄色くなったゲージと『3』の文字が表示されている。
「おそろい」
「で、これ何」
「装着した人の光の力の現在値と、どれだけ消耗したかを表示してくれる機械。オプションもついてるよ」
「オプション?」
「まず一つが、通話機能。ワタシのデバイスとだけだけど」
「……ってことは、他にもあるのか」
「うん」
「! りょーかいしたァ!」
電話からの指示に答え、宗司は向かってきたカゲのうち1体の頭を片手で捕まえ、もう片方の手に持った戦槌と共に振り回し、カゲの群れを殴り倒した。
ヌシの叩きつけようとした拳は、灯が家屋の壁に撃ち込んだワイヤーの上を滑り逸らされ、その隙に初音が心臓の辺りを剣で刺し貫いた。
「駄目、手応え無い!」
言いながらすぐに剣を抉るように縦に向け、腹まで斬り開く。
「コアが無いんだけどこのヌシ!」
「馬鹿言え、相手はカゲだぞ! 無いわけ無いだろ!」
灯も脇腹の辺りにワイヤーを撃ち込むが、ヌシは怯む事無く次の一撃を放とうとする。
「そうだそうだ、既に俺たちの攻撃は十分に『絞れている』んだ。そう焦るこたァ無え」
宗司の投げた戦槌が、ヌシの右肩を貫く。
「……行けるな?」
灯が携帯電話に向けて問いかける。
『もちろん。みんなありがとう』
真理奈の狙撃が骨盤の辺りを貫き、ヌシのバランスが大きく崩れる。更に続けて4発の弾丸が腿、胸、肩、首を順番に貫通し、いずれかの弾丸がコアを破壊したのか、脱力してその場に斃れた。
【目標沈黙、侵食、群発共に確認されません。これより避難民の帰宅整理に移る】
『了解。輝士班2名帰還します』
【了解。出口4.5番を開放します。そこから出撃ルート4.5番で帰還してください】
『了解』
2人は揃えてそう言い、通信を切った。
「帰ったら…どうせ説教だな」
「だよね〜…」
指定された出口に向かいながらのんびりと話す。
「まぁ怒られるの大半お前だけどな」
「なんでよ!手こずったのも最後連携やめて勝手したのもあんたじゃん!」
「よく言うよ、放っから俺を風穴としか扱わなかったくせに」
「それは…」
自覚はあったようで少しホッとしている。
「でも!最後のセリフはいらなかったかなー」
「うるせぇ!」
自分でも突発的に出た癖のようなものでそれなりに後悔してたのでいらなかったと言われると耳が痛い。
「あ、でも私このままライブだ!」
美空は用事を思い出して笑顔になった。
「じゃあ説教は1人ずつ、つまり時間で怒られる量はわかるな」
パッと出た笑顔が一瞬で曇る様は滑稽だ。
「説教を中断してライブに行けば…」
「やめとけよ、ライブも大事な仕事だろ、みーたん?」
高田美空は光の力をアイドルにも使う。
愛称は[みーたん]
元来のスタイルと戦績も相まってかなりの人気だ。
「出口だ、ちゃんとライブ行けよ?」
ジョーはそう言い残して止まることなく出口に入った。
「わかってるよ、私だって行きたくないわけじゃないし…」
美空ももう言い返す相手がいないとわかりながらも言ってから出口に入った。
「おかえり、お疲れ様」
「お疲れ様、ナイスコンビネーション!」
出撃ルートを抜けた先で迎えてくれたのは2人の同期だ。
・津上利樹(つがみとしき)
・大幡有日菜(おおはたゆいな)
「ワタシの光の力は見ての通り悲しいほど低くてね。この機械を動かすだけで精いっぱいだよ。けど、君は違う。君の光の力は人並み外れているからね、君なら使いこなせるだろう」
「さっさと言えよ、オプションとやらの内容を」
ぼやきながら、吉代はデバイスを腕に巻く。同時に画面が起動し、ほぼ完全に残った状態の緑色のゲージと『1138』の数字が表示された。
「ああ、もう一つのオプションはね、『素手によるカゲとの格闘戦を可能にする効果』だ」
「……は?」
光の力は、カゲから身を守りカゲを倒すことができる力である。しかし、その真価はP.A.(Photonic Arms)を媒体に出力しなければ十分な効果を発揮できず、基本的にカゲと格闘戦を行うことは不可能なのだ。籠手やメリケンサック型のP.A.を用いれば有効打を与えることも可能ではあるが、素手となるとカゲとの戦闘は不可能と言って良い。
それを理解しているからこそ、吉代の反応も訝し気なものだった。
「おや、信じてないね?」
「いやプロフ、あんたの技術は信じてんだ。けどなァ……流石にこれまでの常識を無視し過ぎだろ」
「うーん……ちょっと説明するとね……これと同じなんだ」
言いながら、明晶は机に立てかけていた猟銃型P.A.を手元に引き寄せた。
「いや全く分からん」
「君も使ったことあるから知ってるだろうけど、銃器型のP.A.は、光の力を弾丸に変換して射撃できるんだよね」
「それは知ってるけど……」
「よくよく考えてみれば、おかしくないかい? これらの武器が示す通り、光の力は『直接叩きつけてカゲにダメージを与える現象』に変換可能なんだよ。それなのに、その性質が飛び道具でしか発生しないなんて……」
「けど実際そうだろ」
「まあね。実際作ってて分かったよ。弾丸みたいな小さくて一瞬で着弾・消滅する物体に変換するまではどうにかなるんだけどね。格闘戦のためには、手足をエネルギーで包み込み、その状態を維持しなくちゃならない。これがなかなか結構難しくってね……」
「……それで?」
「大量の光の力を消費させることで、力づくで解決した」
「これはひどい」
「避けて!」
真っ先に気付いた水晶の声と共に、加賀屋隊の面々は散開する。
「%>“\*+‘$\‼︎」
咄嗟に手持ちの銃器型P.A.のトリガーを引き、5人は歩道橋に飛び込んできたカゲを仕留める。
「まだ来る!」
巴が手元の端末を見ながら叫ぶと、水晶は思わず立ち上がる。
「兄さん達は⁈」
石英と狙撃手が待機している建物の方を見ると、もうそこには多くのカゲが群がっていた。
「このままじゃ」
水晶はポツリと呟く。
「‘|+#$<$<$$‼︎」
「伏せろ加賀屋!」
寵也の声にはっと我に帰ると、水晶の目に数十メートル先にいる塔のようなカゲが光線を放とうとしている。
瞬時に水晶が伏せると、歩道橋の壁を光線が掠めていった。
「あいつ、もう来てる!」
「狙撃手はどうなったの⁈」
「そんなん知るか!」
「まだ来るわよ!」
弾、紀奈、寵也、巴はそれぞれ言いながら歩道橋に攻め込む小型のカゲ達を屠っていく。
水晶も拳銃型P.A.を連射していったが、ふと手を止める。
「加賀屋さん?」
巴が聞く頃には水晶は立ち上がっていた。
「え、みあきち何考えてるの⁈」
「そうだよそんなことしたら…」
紀奈と弾が心配そうに言ったが、水晶は気にせずこちらへ迫り来る大型のカゲに向かって拳銃型P.A.を向ける。
「それで、善くん。彼自身の心身もそうですが、やはり業務に参加しないのも問題ではありませんか」
少年が質問すると、部隊長は「ふうん」と溜め息を吐いて立ち上がった。代わりに今まで座っていた場所に磨いていた獲物を放り投げる。いつも少し訓練中に目を離しているだけでこっ酷く怒られているので、それを見て少年は反射的にビクッとした。
そんな様子も気にせず彼は窓際まで行って、巡視当番のスパークラーがせわしなく辺りを見回す様子を見下ろした。ここは5階なので地上にいる人間がずいぶん小さい。
「では君、この2日間、彼がいないことで業務に支障が出たことはあったか」
至極冷静に訪ねた。窓の外を向いていたので、表情は見えない。
「そ、それは……」
部隊長が何ということもないように投げた問いに、言葉が詰まった。
そうだ。自分でした問いながら、本当は答えは出ていたのだ。
もともと善は補充枠ではなく追加枠で入隊してきた者。その上9自成隊は人手不足だった訳ではない。今回も補充枠から溢れた人員をおおよそ名前の順に割り当てていったと、そのパターンであることは想像に難くない。また、単純に彼は新人だ。つまり、善が業務に参加しなかったところで、何ら問題はないのである。
それでも、少年は引き下がりたくなかった。善は15歳。まだ子供だ。そんな未熟な人間に一人でこれを乗り切れというなど、余りに酷だ。自分と年も近いため余計他人事とは思えない。
「行ってあげましょう。こんなの、善くんには耐えられません」
少年は半ば懇願するような口調になる。
「行かねえよ。言ったろ、ほっとけって」
しかし部隊長はいとも容易く申し出を突っ撥ねる。
「じゃあ自分が行きます」
「いや、それは駄目だ」
「何故です」
「命令だからだ。子供は黙って優秀な大人の言うこと聞いてればいーの。さ、分かったら自分の部屋に帰った帰った。分かってなくても帰ったー」
そう言って部隊長はシッシといい加減に片手で追い払う仕草をして、そっぽを向いてしまった。少年はまだ少しも納得していなかったが、言い返すこともできず「失礼しました」と娯楽室を出た。
「わたしがアレを倒す」
「バカ言え‼︎」
お前死ぬぞ!と水晶に対し寵也は怒鳴る。
「…あの種のカゲは光線を放つまでに数分のタイムラグがあるって授業で習った」
だからその隙にコアを撃ち抜く!と水晶は拳銃型P.A.を構える。
「でもそのP.A.じゃ威力が!」
「分かってる」
紀奈にそう言われたが、だから至近距離で撃つ!と水晶は続けた。
「…わたしは簡単には死なない」
加賀屋隊のリーダーだもの!と水晶は声を上げた。
「…」
その言葉に加賀屋隊の面々は黙りこくったが、暫くして紀奈が口を開いた。
「…分かった」
あたし、みあきちのこと信じるよ、と紀奈は笑った。
「ボクも信じる!」
弾もそう明るく言う。
「フン、死ぬんじゃねぇぞ」
身内に死なれるのは御免だからな、と寵也はこちらを一瞥もせず言う。
「…失敗しても知らないんだから」
頑張りなさいよ、と巴は呟いた。
「…みんな、ありがとう」
そう言って、水晶は迫り来るカゲに目を向けた。
塔のようなカゲはゆらゆらと歩道橋に近づいていく。
それと共に、頂上部分の光が少しずつ強くなっていった。
あと少し、あと少しで、と水晶は拳銃型P.A.のトリガーに指をかける。
…過去の、澁谷學苑に通っていた頃の自分なら、こんなことはしなかっただろう。
でも幕針文化学院に入学して、わたしは変わった。
倒れ込んだヌシはそれ以上動かず、肉体は少しずつ溶け消えていった。それに伴い周囲の小型のカゲも奇妙な鳴き声を上げながら消滅していく。
「助かったぜ真理ちゃん……」
うつ伏せに倒れたまま、ガッツポーズを見せる宗司。
「……何やってんだ宗司お前」
「さっきまでカゲの群れが覆い被さってたんだよ」
呆れ顔の灯に答えながら、宗司はどうにか立ち上がった。
「……うえ? カゲ達もういない……?」
宗司と並んでカゲ達にもみくちゃにされていた小春も、宗司たちの話す声に気付いて立ち上がった。
「お疲れー小春ちゃん」
初音が小春を助け起こすと、携帯電話から真理奈の声が聞こえてきた。
『もしもーし? 疲れてるところ悪いんだけど、ちょっと助けてくれなーい?』
「ん」
「どうした?」
通話に参加していた初音と灯が反応する。
『最初のビルからちょっと落ちそうになってるんだけど』
「何があったらそうなるんだあの馬鹿は……ちょっと行ってくる」
灯が鉄線銃型P.A.で屋根に登り、そのまま真理奈のもとへ駆け戻って行った。
「……俺らも行くべ。真理ちゃんに何が起きてるのか見に行こうぜ」
「了解。ついでに小春ちゃんの顔見せもしよう」
「ああはい、よろしくお願いします……」
「というかこの技術、前に『それ』作ってあげた時に説明したよね? 『弾丸以外の形状に光の力を造形する』って」
明晶が指す吉代の左手首には、腕輪型のP.A.があった。これもまた、明晶が自作した改造ギアである。
「それでなんだけど親友」
「んー」
「ちょっとこれの試運転ついでに、ここの周りのカゲ狩ってきてくれない?」
「え、俺格闘の心得とか無いっすよ」
「だいじょぶだいじょぶ。君、何やってもそれなりに上手くいくじゃん」
「……まあ、いつも使ってるP.A.の補助用に使うくらいなら」
「よし来た。使った感じはこっちからも監視カメラで見ておくけど、戻ってきたら使用感の報告とかしてくれると嬉しいな」
「了解」
吉代が部屋を出た直後、明晶はチェストから1台のドローンを引っ張り出し、開け放しになった部屋のドアから吉代の後を追跡させた。
(さて……彼が働いてくれている間に、ワタシもやることやらなくちゃねぇ)
『Photonic Dorper ver.1.5.0』と印字されたアルミ缶の栓を開け、ストローを挿して中身を一口吸ってから手首のデバイスの通話機能を起動した。
「あーもしもし親友?」
『何だ、プロフ?』
「今、君の後に続いてドローンが飛んでいったんだけどね」
『ああ、後ろから近付いてくるこの音はそれか』
「ワタシが操縦してるんだ。ついでにこれも光の力で動かしてるから、P.A.といって差し支えないね」
『戦えるのか?』
「まあ……ローターが直撃すれば痛いんじゃない?」
『あとあんた、光の力めっちゃ低かっただろ』
「そこはドーピングしてるからオッケー」
缶を足蹴にして揺らしながら明晶は答えた。
仲間ができた、戦う理由ができた。
あの居場所…幕針文化学院を守りたい、その一心でわたしは戦っている。
もうあの頃の臆病な自分ではないのだ。
もちろん周りには誰も文句を言う人はいない。
兄と比較する者もいない。
わたしはわたし、それ以外の何者でもない。
「今だ」
塔のようなカゲが歩道橋まで数メートルの所まで来た時、水晶は拳銃型P.A.の引き金を引いた。
P.A.から発せられた光り輝くエネルギー弾は真っ直ぐに飛び、カゲの頂点…コアを貫通した。
「>;”;*;“;>;”;“」
カゲは不意に動きを止め、何か喚き声を上げた。
その直後、カゲは頂点から崩れるように霧散していった。
「…やった?」
歩道橋の壁から紀奈が顔を覗かせる。
「やった…みたい」
弾も壁からカゲがいた方を覗き見る。
2人は水晶の方を見た。
水晶は静かに、構えた拳銃型P.A.を下ろす。
「やったぁ‼︎」
紀奈と弾は水晶に飛びつく。
「すごいよ!」
やったよみあきち!と紀奈は水晶の頭を撫でる。
「すごーいみあきちー」
弾はぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
「お前らガキか」
寵也が呆れたように言うと、弾はボク達子どもだしーと頬を膨らませる。
「とりあえず3人共、まだ小型のカゲがこっちに攻めてきてるんだけど」
「あ、そう言えば」
「そうだったね」
巴がそう言うと、弾と紀奈は水晶から離れて手元の拳銃型P.A.を準備した。
「ほら加賀屋さんも」
「あ、うん」
巴に促され、水晶は歩道橋の通路にしゃがみ拳銃型P.A.を構えた。
……
「うえぇっ⁉」
最初のビルの屋上に、小春の驚嘆の声が響いた。
「そんなに驚くことかな?」
先に辿り着いた灯に助けられていた真理奈が首を傾げながら問い返した。
「いやはい、落ち着いて聞いてくださいね」
「新入りちゃんこそ落ち着いて話してね?」
「えっと……まず、そもそもP.A.を手に入れるのって、STI以外だとすごく難しいんです」
「へー。そこはかどみーちゃんに頼り切ってたから分からなかったよ」
「はい、皆さん初音さんに感謝すべきです。……だから、皆さん全員がSTIに入ってないってのはあまりに衝撃的過ぎまして」
「なるほど理解した」
「えっと……灯くん、でしたっけ」
突然話しかけられ、灯が僅かにびくりとした。
「な、何だよ」
「灯くん、私と同い年って聞きましたけど、進路はもう決めてるんですか?」
「ああ、県立第二高校に……」
「私の通ってるSTIが中高一貫なんですよ。ほら、県立鉱府光明学園って、割と有名だと思うんですけど」
「ああー……知ってる知ってる。たしかこの間ラジオで特集組まれてたよな」
「はい。で、今からでもそこに変えません? 偏差値も近いですし。STI所属ならカゲの討伐報酬も入るし、P.A.のメンテナンスとかもやりやすくなるし、他のスパークラー達と情報交換できるし、メリットずくめですよ」
「ええ……」
「なぜそんなに消極的……」
「いや何かなんとなく……」
「おかえり、お疲れ様」
「お疲れ様、ナイスコンビネーション!」
出迎えてくれた同期2人の姿に思わず驚いた。
「どうした?出迎えなんて珍しいな」
「うん、びっくりしちゃった」
正直美空のリアクションの棒読み加減の方がびっくりだ、まぁ理由は想像つくけど。
「とりあえず美空はライブ行きな、スタッフさんもう待ってるよ」
「まさかそれを言うために?」
「まぁね、スタッフさんを中に通す訳にはいかないし」
「わかってるってば!みんなお節介なんだから」
美空はわざとらしく不満そうな顔を見せつけるようにしてから通用口のある1階に向かった。それに合わせて俺は諸々の片付けを始める。
「で?任務直後の同期捕まえて何の話だ?ただ労いに来たって訳じゃないだろ」
「さすが、話が早いね」
棚の向こうで姿は見えないが声だけでも津上のあけすけさが伝わってくる。
「今日の出撃、ジョーはどう思った?」
「どうって別に…いつも通りのバディ単位だろ?」
「確かに珍しいことじゃない。でも相手は種族不明の大型、それにしては2人の配置も戦略的とは言えない」
今度は大幡の声、冷静で理論的。
“いや、配置は美空の遅刻のせい…”
訂正したいが彼女にその様子は見えていないので口は挟まないでおく。
「変異変態も踏まえれば部隊出撃でもおかしくないのに私達は群発対応という名目で避難誘導だった」
「目標は大型だったし群発対応自体は輝士班の仕事として間違ってないだろ」
「内容自体はね、でも大事なのはそれを目標の対応よりも優先したってこと」
待ってましたと言わんばかりにスラスラ訂正される。
「優先した?まさか」
「いや、順次立てるとそれが1番筋が通るんだ」
ルールとして手順は以下の通り
発生確認→避難勧告(自衛隊配備)→輝士班招集(ウォール展開)→避難誘導
輝士班の招集はカゲの種族等の判定によって人数が決まる。大型の場合は対象範囲が広いため複数部隊を招集し部隊別に担当分けをするのが一般的だ。そう考えると確かに群発対応とはいえ1部隊しか呼ばず分離するのは異例と言える。
「確かに異例だけどそれがなんなんだ?」
丁度話がまとまりかけたところで俺は片付けを終えた。
「そう、そこが本題」
「本題?」
『そういや、コントローラーとか机の上に見えなかったけど、どうやって動かしてるんだ?』
「何、単純な疑問かい?」
『単純な疑問』
「普通にチェストに入れてただけだけど。そもそもドローンも隠してたでしょ」
『たしかに。……カゲが来た。切るぞ』
「はーい」
通信が途切れて数秒後、ドローンに付属したマイクが戦闘音を受信した。
「お、始まったねぇ。それ行けドローン」
ドローンは戦闘を繰り広げる吉代とカゲ達の頭上を通過し、カゲの犇く村の中央に移動した。
ドローンに設置したカメラから受信された映像は、モニタ上に監視カメラの映像とは別ウィンドウで表示される。
(さて……無駄だとは分かっているけど)
カゲ以外に動くものは無いかと画面を注視する。勿論そんなものがある訳も無く、すぐに諦めて明晶はドローンを小屋に戻すよう飛ばした。
「さて……やるか」
回転刃を具えた草刈り機型P.A.のエンジンスターターを引き、吉代はカゲ達に相対した。
「かかって来い、侵略者ども」
吉代の挑発と同時に彼に飛びかかったカゲ達の第一波は、吉代の薙ぎ払いによって膝の辺りを切断されてその場に倒れ、それに躓いた第二波、さらにそれに衝突した第三波と続き、カゲ達の手が届く前に最下層のカゲは他のカゲの重みで弾け飛んだ。
「こうなれば楽なんだよなぁ」
のたうつカゲ達を、吉代は単調作業のように1体ずつ切り殺していった。
・下野真理奈(しもつけ・まりな)
部隊内での役割は中~遠距離からの援護射撃と全体を俯瞰しながらの指揮。アプリで通話する時、一人だけハンズフリーイヤホンを使っている。P.A.故の補助効果を抜きにしても謎の狙撃能力の高さを持つ。
使用P.A.:猟銃。スコープは取り外し可能で、攻撃メインの時は外し、指揮メインの時は設置して望遠鏡代わりに使う。
・和泉宗司(いずみ・そうじ)
部隊内での役割は前衛としての敵の翻弄と破壊力が必要な敵への攻撃。特技は投擲で、特にある程度の質量があるものを狙った場所に投げるのが得意。
使用P.A.:戦槌。片側が錐状に尖っている。片手でもギリギリ使える程度のサイズ。投げたりもする。
・門見初音(かどみ・はつね)
元々の仲間たち全員から渾名で呼ばれている。部隊内での役割は前衛での補助役とヘイト分散。知り合いにSTI所属の人間がいて、その縁でP.A.製作業者とも繋がりがあり、彼女が居なければ野良輝士たちは武器を用意できなかったので感謝されて然るべき。
使用P.A.:片手半剣。全長約1.5m。地面や壁に突き立てて足場代わりにすることが多い。
・月舘灯(つきだて・あかり)
本来の部隊内での役割は中距離での支援と移動支援。P.A.の性質上機動力が最も高いので、前線に出ることも多い。
使用P.A.:鉄線銃。射程距離は約50m。巻き取り機構はあるものの、人間の重さを引き寄せられるほどでは無いため、移動時にはワイヤー部分を掴んで自力で引っ張る必要がある。銛みたいな先端が当たると普通に痛い。
・田代小春(たしろ・こはる)
STIである県立鉱府光明学園に通う少女。カゲに沈んだ町でどうにもできずに身を守っていた。後に部隊に加入する。
使用P.A.:折り畳み防楯。原色の迷彩模様で彩られた4枚の金属板で構成されている。
企画参加ありがとうございました。
ナニガシさんはよくぼくの企画に参加してくれるので、今回も楽しみにしておりました。
いつもありがとうございます。
もう1つのお話の方も頑張ってください!
期限越えてもOKです!
前にこの手の企画を開催した時に、開催期間終了後に投稿し始めてその後半年くらいかけて物語を完結させた人がいるので…