「本題?」
「そう、今回の件には何か裏があるんじゃないかなって」
そう言った大幡の表情はかなり真剣だ。
「裏なんて大袈裟じゃないか?ほら、双子田万川って県境だろ?管轄の問題で他部隊と折り合いがつかなかったとかさ」
なぜ俺がこんなに誤魔化すのか自分でも分からないがこの反応はかえって2人の議論を加速させた。
「だとしても澁谷分校には先輩達がいるはず、なのに招集がないなんて…」
「まるで僕ら0X期部隊だけで輝士班の仕事をさせたかったみたいな感じ」
2人の会話はどんどんと何かの答えに近づくように、掛け合いの間合いが短くなっていく。
「もしそうだとして何のために?どの仕事も少人数でやる意味はないし、あり得るとしたら見せるため…とか?」
安直とわかってはいたが2人のペースに呑まれ、つい口走ってしまう。しかし2人のリアクションは至って真面目で調子が狂う。
「見せる…」
「そうか、デモンストレーション!」
俺だけがまた置いていかれる。
「え?」
「デモンストレーションなら確かに同期というテーマ性を持たせた意味も、美空のスケジュールを狙ったのも色々筋が通る」
その大幡の具体的な言い方に初めて内容の輪郭が俺にも見えてきた。
「美空の遅刻は手順を見せるため、そのためにブッキングのあった0X期部隊が招集された」
「でもなんで隠すんだ?STIの成果というならもっと大々的にやるべきだろう」
いつしか出撃準備室に置かれた机に向かい3人の議論は加熱していた。
「余程の要人への紹介か、それなら同期のみで構成する理由がないな」
「一つの代で全ての仕事をこなせることを見せる…でも集団を養成する目的とはイマイチ合わないな」
出した意見どれもが決定力には欠けていた。そうした完全な膠着状態を破ったのは津上の一言だった。
「あ、まずい!そろそろ行ってご飯作んないと」
それから30分もしない内に、水晶達は歩道橋の方に攻め込むカゲを倒し切った。
その後すぐに、出現したカゲは全て討伐されたと言う情報が入り、全てのスパークラーに撤収命令が出た。
「いやぁ今回の戦いも大変だったね」
「だね」
紀奈と弾はそう言いながら通りを歩く。
辺りはもうすっかり夕暮れだ。
「一時はどうなることかと思ったけど…まさか加賀屋さんのお陰で窮地を切り抜けることができるとは思わなかったわ」
巴もそう呟く。
「それにしても加賀屋は随分無茶したよな」
普通死ぬぞアレと、寵也は後ろを歩く水晶に目を向ける。
「…考える前に身体が動いただけだよ」
だから、たまたまと水晶は笑った。
「ふーん」
寵也がそう頷いた時、交差点の向こうから聞き馴染みのある声が聞こえた。
「おーい!」
見ると、水晶の兄…石英とそのチームメイト達が立っていた。
「探したよ水晶」
そう言いながら石英は水晶達の方に駆け寄る。
「いやぁ急にカゲの大群が攻め込んできて狙撃ができなくなった時はどうなるかと思ったけど、水晶がアレを倒してくれて助かったよ」
ありがとうね、と石英は水晶に笑いかける。
「…別に、身体が勝手に動いただけだから」
感謝される程のことじゃない、と水晶は呟く。
「えーそんなに謙遜しなくてもいいのに」
「兄さん達には敵いません」
「えー」
加賀屋兄妹が仲睦まじくしていると、不意に石英の後ろから声が聞こえた。
「石英さん」
石英が振り向くと、石英の部隊のメンバーの少女がいた。
「この後どうしましょう」
「あーそうだね」
石英は宙を見る。
「幕文の方へ戻って荷物をまとめた後、ぼく達のSTIへ帰ろうと思う」
折角なら先に幕文の方へ戻っててもいいよ、と石英は付け足す。
「了解しました」
ではお先に、と少女は言うと、残りのメンバーと共に去っていった。
「…」
加賀屋隊の面々はその様子を黙って見ていると、石英がこう言った。
「そう言えば」
不意に石英が口を開いたので、水晶は兄の方に目を向ける。
「昔の約束、果たせたね」
「?」
兄が急にそう言ってきたから、水晶は首を傾げる。
「昔約束したじゃないか」
いつか一緒に戦おうって、と石英は笑いかける。
「…あー」
水晶はやっと思い出したのか、恥ずかしそうな顔をした。
「水晶が違うSTIに行っちゃったから、もう一緒に戦えないと思ってたけど…」
よかったよ、約束が果たせてと石英は呟いた。
「…別に、あれは“同じSTIで戦おう”という意味でこういうのじゃ」
「もー照れちゃってー」
水晶がそっぽを向きながら言うのに対し、石英はにこにこ笑う。
「…また一緒に戦えるといいね」
石英がそう言うと、水晶はそうですか、と淡々と答えた。
「じゃあそろそろ幕文へ戻ろうかー」
早くしないと日が暮れちゃうよーと石英は伸びをしながら歩き出す。
「…加賀屋さん」
巴に名前を呼ばれて、水晶は振り向く。
「私達も帰りましょう」
私達のSTIへ、と巴が言うと、水晶はこう答えた。
「うん」
そして加賀屋隊は帰るべき場所へと歩みを進めた。
〈おわり〉
「戻ったぞ、プロフ」
「見てたよ親友、ご苦労様」
「そっちこそ」
「ええ? ワタシは大変なことなんて何もしてないよ?」
「そういうのは机の上の缶を隠してから言ってくれ」
吉代が指差す先、明晶のついている机の上には、『Photonic Dorper ver.1.5.0』の空き缶が既に4本転がっていた。
「仕方ないんだよぅ。何せ私の光の力はこれっきりだからね」
明晶の手首のデバイスは、赤く染まったゲージと『1』の数字を表示している。
「ドローン飛ばすだけで馬鹿にならないんだ。電波とバッテリーの両方を光の力で代用してるからね」
「…………」
「あ、ワタシがあげたデバイス、どうだった?」
そう問われ、吉代は思い出したように右腕のデバイスを見た。
「あー、結局使わなかった。まあ邪魔にはならないから良いか、って感じだな」
「へー。あ、光の力どれくらい減った?」
「……今1133だな。5だけ減った」
「ワタシなら死ぬね」
「だな……ん」
不意に、吉代が背後を振り返った。
「どしたの」
「いや……一応、入ってくるときにはちゃんと扉も閉めたし鍵もかけたし、カゲ除けも動いてるんだろ?」
「うん? ……うん、問題無く動いてる」
明晶もモニターを確認してから答えた。
「じゃあ……この足音は何だ?」
吉代のその言葉とほぼ同時に、二人のいる部屋の入り口に、腐り爛れたような禍々しい黒い手がかかった。
「吉代!」
明晶が叫び、吉代は咄嗟に頭を下げた。直後、彼の頭上を伸びてきた腕が通り過ぎ、そのまま明晶の首を乱暴に掴んだ。
「っ!」
「なっ……今役に立つか!」
吉代はデバイスを起動し、拳を腕に叩きつけて千切り飛ばした後、即座に残った腕を叩き落とした。
「助かったよ親友……ワタシの首、大丈夫かな」
「どっぷりカゲに染まってる。切り飛ばすか?」
「冗談言えるってことは無事みたいだね。けど……」
明晶が自身の手首を指すと、デバイスの画面は暗転していた。
「ワタシの光の力はもうからっけつでね。守って?」
「言われなくとも」
侵入してきたカゲに向き合った吉代の背中を眺めながら、明晶は光の力の回復のために新しい缶を開け出した。
2人のいる部屋に、カゲが入ってくる。屋外に蠢いているカゲ達のようなおおよそ人型に近い形状のものとは全く異なり、体高は約2.5m。既に再生している前肢は異様に長く、肘に当たる関節は3か所、指は3本具わっている。
また、老人のように折れ曲がった背中からは6本の触手が生えて滅多矢鱈に暴れており、全身の皮膚は爛れたように剥がれ、随所から垂れ下がっている。
「……これはまた、随分と変わった姿だね」
「気持ち悪いな」
カゲが伸ばしてきた4本の触手を、吉代は次々弾き返す。
「……あ、もしかしてこれがヌシかな?」
「だったら話が早くて助かるけどな……あ」
吉代が防ぎ損ねた触手が、明晶に向かって行く。その直撃より早く吉代が左手を明晶に向けると、光の力で構成された透明な壁が彼女の眼の前に出現し、触手の攻撃を阻んだ。
「悪い、通した」
「だいじょぶ。遠隔シールドもばっちり動くね。あ、親友、これ使って」
明晶の放り投げた刀型P.A.をその場で回転しながら受け取り、吉代は姿勢を低くしてカゲに接近し、抜刀の勢いのまま斬り付けた。カゲはそれを両腕を交差させて防ぎ、触手による反撃を試みた。
「村崎!」
「ああ、バッチリ狙える」
明晶がモニターの裏に隠していた銃型P.A.を取り、カゲの眉間と心臓部を撃ち抜いた。
企画「鏡界輝譚スパークラー」参加作品「Crystal Brother and Sister」のおまけ…キャラ紹介です。
・加賀屋 水晶(かがや みあき)
所属STI:幕針文化学院
学年:高等部普通科1年
所属部隊:加賀屋隊
使用P.A.:刀型、拳銃型
イメージカラー:水色
この作品の主役にして当企画のアイコンキャラクター(のつもり)。
淡々とした平凡なスパークラーだが高い戦術眼を持つ。
かつては東鏡の名門STI「澁谷學苑」の初等部・中等部に通っていたが、優秀な兄・石英との周囲からの比較に耐えきれず幕針文化学院に逃げ出した。
そこで色々あって自分の部隊「加賀屋隊」の隊長になり、現在に至る。
元々は無気力だったが幕文で仲間達と出会ったことで自分で考え、動けるようになった。
髪は肩につかないくらいの短髪で、水引みたいな髪飾りを付けている。
制服はきっちり着こなしており、水色のリボンタイを身に付けている。
実は低身長。
・仁戸田 紀奈(にへだ のりな)
所属STI:幕針文化学院
学年:高等部音楽科1年
所属部隊:加賀屋隊
使用P.A.:弩型、拳銃型
イメージカラー:黄色
水晶のチームメイトの1人。
底抜けに明るいチームのムードメーカー。
水晶のことを心から気に入っている。
実は「加賀屋隊」の発起人。
中等部から幕文に通っている。
長い髪を二つ結びにしている。
いつもパーカーを着ており、黄色いネクタイを身に付けている。
・呑海 巴(どんかい ともえ)
所属STI:幕針文化学院
学年:高等部国際科1年
所属部隊:加賀屋隊
使用P.A.:サーベル型、拳銃型
イメージカラー:赤
水晶のチームメイトの1人。
真面目な学級委員長タイプ。
かつては水晶のことをよく思っていなかったが、今ではすっかり信頼している。
「加賀屋隊」の副隊長でもある。
中等部から幕文に通っている。
長い髪を自分から見て右側でサイドテールにしている。
いつもニットベストを着ており、赤いリボンタイを身に付けている。
長いので「Ⅱ」に続く。
「……あれ、死なない」
明晶が間の抜けた声をあげた。撃たれたカゲは反動で仰け反ったものの、銃創は少しずつ塞がっていっているのだ。
「ごめん、殺しきれなかった」
「いや良い、こっちで片付ける」
カゲが怯んだ隙を狙い、吉代が斬り上げる。両断されて体外に投げ出されたダークコアを明晶が正確に撃ち砕き、そのカゲは遂に消滅した。
「ふぅ、危ないところだった……」
「畜生トドメ搔っ攫いやがって……。……ところでプロフ、なんでカゲが入ってきてんだ」
「さあ……あのカゲが強かったからかな? そもそも『カゲ除け』って、この小屋の壁全体に光の力を通して、近付いたらちょっと押し返しつつ微弱なダメージを与えることで奴らに近付かせないようにしてるんだよね。これに勝てるほど強いカゲなら、まあ入って来れるだろうねぇ。あいつらの浸蝕能力はすごいし」
「なるほど。……つまり、今この小屋、穴開いてるのか?」
「多分ね」
「おい待てヤバいんじゃねえのか?」
「うんヤバい。この小屋は、この村にとっての『最後の砦』だ。突破されたらワタシ達の希望は完全に潰える。というわけで、直してきて?」
「言われなくても」
そう言って吉代は駆け出した。
「道具と建材は入ってすぐ右……だから中から見て左の壁の隠し扉に入ってるからー」
吉代の背中に呼びかけ、明晶はモニター越しに防衛システムの点検を始めた。
企画「鏡界輝譚スパークラー」参加作品「Crystal Brother and Sister」のおまけ…キャラ紹介のその2です。
・福貴迫 弾(ふきさこ はずむ)
所属STI:幕針文化学院
学年:高等部美術科1年
所属部隊:加賀屋隊
使用P.A.:ハルバード型、拳銃型
イメージカラー:ピンク
水晶のチームメイトの1人。
可愛いものと楽しいことが大好き。
「面白そうだから」という理由で「加賀屋隊」に入った。
「加賀屋隊」の斬り込み隊長。
中等部から幕文に通っている。
くせっ毛が特徴的で水晶より背が低い。
いつもカーディガンを着ており、ピンクのリボンタイを身に付けている。
・熊橋 寵也(くまはし ちょうや)
所属STI:幕針文化学院
学年:高等部理数科1年
所属部隊:加賀屋隊
使用P.A.:マシンガン型
イメージカラー:緑
水晶のチームメイトの1人。
理知的で基本冷静だがふとした時に感情的になる。
弾のことが心配で「加賀屋隊」に入った。
「加賀屋隊」のブレーン。
中等部から幕文に通っている。
黒縁メガネをかけている。
いつもセーターを着ており、緑のネクタイを身に付けている。
・加賀屋 石英(かがや せきえい)
所属STI:澁谷學苑
学年:高等部3年
所属部隊:クルセイダース
使用P.A.:刀型、拳銃型(共に本編未登場)
イメージカラー:白
水晶の実兄。
誰にでも心優しく、様々な人々を惹きつけるカリスマ性を持つ。
また、類稀な戦術眼を持つ。
東鏡の名門STI「澁谷學苑」に初等部から通っており、代表部隊「クルセイダース」の隊長を務めている。
白いセーターを着ている。
これでキャラ紹介は全て終了です!
何か質問などありましたらレスください。
こちらこそレスありがとうございます。
そうでしたか。
思い入れ、ですか…
ぼくも幕張に思い入れがありますね。
小学生の時に何度か行ったことがあるんで。
企画の方ですが、これ以上企画を開催できるかどうか分かりません。
これから忙しくなるだろうし…
でももし開催できたら、その時はよろしくお願いします。
「あ、まずい!そろそろ行ってご飯作んないと」
その一言が膠着した会話、場を一気に帰る方向へと向けた。正直先に片付けを終えておいてよかったと思った。
「もうそんな時間か」
「確かにちょっとやばいね」
STIは中高一貫全寮制、全学年が住んでいるため、風呂や食事処は班別(部隊別)に使用時間の割り振りがある。出撃や授業でその時間に着かない場合は届出をする必要があるのだが、今回は任務自体は十分に間に合う時間だったので届出はしていない。
「ごめん、今日はちょっと手抜き料理になるかも」
別に当番制でもなんでもないのだがいつも料理は津上の仕事になっている。
「全然いいよ、ってか手伝えることあったらやるし」
津上がいつも料理担当ではあるが俺も大幡もできない訳では無い。ただシンプルに津上には敵わない。
「ありがと、そしたら具材切ったりとか頼むかも」
『了解』
癖づいたその掛け声は3人がやることを共有した合図でもあった。そうして走って寮に着く。それでもこれといって息をあげないのはやはり訓練の賜物だ。
「あ、もう調理室空いちゃってる」
「ってことはもう時間始まってるじゃん!」
どんなに焦っても調理室の前ではきちんと立ち止まる。
『AA0X期部隊、調理室使用します』
中学時代から叩き込まれた集団行動の基礎は必ず守る。ある意味での儀式のように。
「とりあえず煮込むとこまで出来ればあとは部屋でもなんとかなる!急ぐよ」
津上の掛け声で3人はそれぞれの仕事を開始する。
津上は鍋に火をかけた後、肉を適当なサイズに切っていく。ジョーはじゃがいもをブロックに切り、大幡は人参を半月切りにしていく。
時計は刻一刻と時間を刻む。
アラームが鳴る。
それが片付けの合図だ。
「よし、あとは部屋で仕上げだ」
津上がそう言って火を止め、鍋を持ち上げた。
ジョーと大幡は急いで片付ける。
「よし、急いで帰るぞ!」
「終わったァッ!」
乱暴に足音を立て、吉代が部屋に入ってきた。
「おつかれ、親友。一応カゲ除けはどこも壊れてないよ。単純にあのカゲが強かっただけみたい」
「ああ、あと、あれと同タイプのカゲ、結構増えて来てたな」
「そっか。じゃあ防衛機構を増やさなきゃかな。もうP.A.はできてるからさ、余裕がある時に取り付けに行ってくれない?」
「あー、じゃあ帰る時にやっとく。場所は?」
「この地図参照」
明晶から図面を手渡され、吉代はちらりと見てから折りたたんでポケットに仕舞った。
「……そういえば」
数十分の沈黙の後、吉代が不意に口を開いた。
「どしたの親友」
「光の力、もう回復したのか? さっき銃3発も撃ってたけど」
「あー、あれね」
明晶はモニターを見つめたまま、自分のデバイスの画面を吉代に向けた。
「……点いてないじゃねーか」
「うん。全然回復してない」
「なんで撃てたんだ」
「カゲ除けと同じだよ、親友。君の光の力を勝手にちょっともらってストックしてたのを、弾倉に詰めてたんだ。この技術、特許申請したらお金になるかな」
「さあ……まあ便利ではあるな」
「勝手に使ったの怒ってないの?」
「俺の光の力は4桁あるらしいからな。今のところ不都合があるわけでも無いし、それだったら天才技術者サマの護身用に役立ててもらった方がずっと有意義だ」
「わぁいありがとー。ちなみにここの設備は全部、君の光の力を吸って動いてるからね?」
「……まあ、許す」
「やったぁ。今日はもう次の改造P.A.製作に費やすから、もう帰っても良いよ? 次は弾道が曲がる銃を作るんだー」
「そうか頑張れ」
登場人物
・村崎明晶(むらさき・あきら)
「プロフェッサー・アメシスト」を名乗る女性。髪は腰元まで届くほど長く、目つきの悪い目元には濃い隈ができている。村外れのトタン小屋に住み、改造P.A.の研究を続けている。既に3年この小屋から1歩も出ていないが、村の状況は知っている。現在の目標は村の解放。彼女自身の持つ光の力は悲しいほど弱く、単身では戦えない。光の力の量は「6」。これはリボルバー型P.A.を6発撃ってちょうど光の力が尽きたことから計算したもの。公的機関の診断は受けたことが無いため、完全に我流。
・三色吉代(みいろ・よしろ)
明晶に協力する青年。類稀なる強さの光の力の保有者で、明晶の改造ギアを使いこなせる貴重な人材。その力で村の解放に努めている。住所は村の外、元の村民たちが移り住んだ仮拠点の一つ。ほぼ毎日明晶の小屋に通っている。光の力の量は「1250」。
洞志村(どうしむら)
明晶達が住んでいた村。3年前に突如大量のカゲに浸蝕され、人間が住めない環境になった。数㎞離れた位置にあるSTIから、2度大規模討伐部隊が派遣されたが、その両方が全滅という結果に終わった。
占拠しているカゲは未確認の種類であり、耐久力が低い代わりに流動性に優れ、体内を移動しているためかコアの位置も不確定。ヌシも見つかっていない。
プロフの自作改造ギア一覧
・光の力貯蔵システム
明晶が住んでいる小屋の入り口に隠された装置が、出入りした人間の光の力を一部吸収し、別の機会に使うために貯蓄する。貯蔵された光の力は電力・電波の代替に加え、各種改造ギアの動力源になったり、光の力を貯めるのに使われたりする。
・カゲ除け
対象範囲内に光の力を流し込み、接近したカゲを押し返すように力を働かせることでカゲを寄せ付けない設備。
・腕時計型デバイス
装備者の光の力の現在値と割合を画面に表示する。現在製作されているのは2台のみ。2台の間での通信機能、光の力で手足を保護し格闘戦を可能にする機能がある。P.A.の常識に真っ向から喧嘩を売るシリーズ。
・ドローン型P.A.
カメラとマイク・スピーカー付きのドローン。電気の代わりに光の力を使うため、光の力が尽きない限り動かし続けられる。電波の代わりに光の力で交信するため、光の力が尽きない限りどこまでも飛ばせる。
・銃型P.A.
弾倉が特別製。予め光の力を弾丸の形に形成してストックしておける。
・遠隔シールドP.A.
光の力を透明なバリアに変換して空中に展開できる。射程距離は使用者の光の力にもよるが大体10~20m程度。一度にバリアに変換できる光の力の上限は、使用者の光の力に対して一定の割合(1%弱)で決まっていて、面積を広げるほど薄く脆くなるし、耐久力のために厚みを出せば小さくなる。
・監視カメラ
動力源は光の力。常時光の力が流し込まれているので、カゲにもみくちゃにされても壊れない。
・迎撃システム
監視カメラと連動して、カゲが接近すると光の力の弾丸で迎撃してくる。
・変化弾銃
光の力を通常より大型の弾丸に変換して発射する銃。仕様上大口径。任意のタイミングで弾丸を構成する光の力の一部をシールドに分裂・変換し、跳弾させて弾道を変化させる。その性質上、弾道変化を行う度に威力が減衰していく。ちなみに外見はほぼコードレス掃除機。
投稿お疲れ様でした。
相変わらず楽しかったです。
それで、山梨の地名をベースにした地名がちらほら登場していましたが、なぜなのでしょうか?
まぁ都民なのに投稿した物語の舞台が千葉ベースだった自分が言えることではないと思いますが(自分の場合は千葉の幕張方面がお気に入りだったから)。
どうも、企画「鏡界輝譚スパークラー」の企画者です。
先週金曜日の24時をもって、当企画は“とりあえず”終了いたしました。
ご参加して頂いた皆さん、本当にありがとうございます。
今回は設定を詰め過ぎて難しめの企画になってしまったので参加してくれる人が出てくるか不安でしたが、「ここってどうなってるんですか?」と聞いてくれる参加者さんや自分なりに設定を解釈する参加者さん、設定の穴をオリジナル設定で埋めてくれた参加者さんなんかがいて、あながち難しい設定も悪くないんだなって思いました。
…で、今回は企画の裏話を語りたいと思います。
この企画は高3の時に思いついた物語がベースになっていますが、これには元ネタがあります。
それは、「アサルトリリィ」というメディアミックス作品で、自分が高校生の頃から好きな作品です。
「アサリリ」は謎の巨大生命体に可変武器で立ち向かう少女達の物語なのですが、出会って暫くして「アサリリライクな物語を作りたい!」と創作意欲が湧いてきた結果生まれたのが、この企画のベースでした。
ただ「アサリリ」と全く同じではいけないと思い、例えば男子も戦うとか、武器は変形しないとか、地名は実在のものではなく微妙に違うものを使うとか、色々変えました。
その結果生まれたのが当企画でした。
自分が「アサリリ」に出会わなければこの企画はできなかったので、「アサリリ」には感謝です。
あ、そうそう。
タイトルの「スパークラー」って企画者の造語のつもりだったんだけど、試しに「sparkler」って言葉を調べてみたら実在する言葉だと分かりました。
「花火」や「宝石」、「才人」と言った意味があるそうです。
「花火」のように命を散らして戦う「才人」達の物語…
そして「宝石」にちなんだ名前のスパークラー達。
大分適当に決めたとは言え、こうして考えるといいタイトルだったなと思います。
ちなみに今後こう言った企画を開催するかどうかは未定です。
正直これから忙しくなりそうだし。
でも他の人が企画開催したら参加したいな!
では今回はこの辺で。
遅刻投稿も大歓迎です!
あとまとめもその内作ります!
それでは、テトモンよ永遠に!でした〜
堂々と遅刻をしている未完成の全知全能です!
企画の開催ありがとうございました!
面白い設定に書く手が止まらず
とても楽しかったです
(未だ止まらず、終わるまで時間がかかるかも…)
今度は僕がこんな設定を作って企画を開催しようかな?その時はぜひお願いします!
レスありがとうございます。
こんな設定を「面白い」と言ってくれて企画者は嬉しいです。
物語が終わるまで、どれくらい時間がかかってもぼくは待ちますので頑張ってください(企画終了後半年かけて物語を完結させた人もいるので)。
未完成の全知全能さんがこういう企画を考えたらどんなものになるんでしょうね。
もし企画してくれたら、ぜひ参加したいと思います。
最後になりましたが、企画へのご参加ありがとうございました。
Ⅲ
STI寮第3棟、204号室。まだ入学して間もない少年が一人、ベッドの上で膝を抱えたまま震えていた。
一年生の寮は基本的に四人部屋で彼の部屋も例にもれないが、彼がこの状態になってからは寝る時以外はルームメイトは戻ってこなくなった。勿論鬱的な状態の人間を見ることの嫌悪感はあるが、和樹を知る者は、彼のことが嫌でも思い出されて気が滅入ってしまうのである。
一日目のうちはルームメイトも善を元気付けようと努めたが、それも徒労で諦めてしまった。
帰ってきたときも善を刺激しないように静かに扉を開けて、向かって左側にいる彼を横目で見ながら静かに用を済ませ出ていく。
それ故、ここ数日善は本当に孤独であった。
バァーンッ!
寂寞の中に破裂音のような轟音が響いた。
暫く同じ様子だった善も流石にそれには驚いて、音のした方、部屋の入口に素早くかっと開いた目をやった。
扉が開いたのだ。
大きな音を立てて、誰かが入ってきたのである。
「へい新人、久し振りだな、元気してたか!」
そしてゲームセンターのアーケードゲームコーナーで会話するときくらいの大声で、見るからに元気ではない善に、その闖入者は挨拶した。
一時間弱前に少年と娯楽室で話していた青年であった。
「……部隊、長?」
善は唖然としてそう漏らした。挨拶には一切反応しない。しかし少し顔を上げたので顔を見ることはできた。
部隊長は善の顔を見つめると、拍子抜けしたというような顔をしてずかずかと善の前まで歩み寄る。そして驚きで目を見開いたままの善の顔に目前十数センチというところまで近付く。
「善お前、泣いてないんだな。まだ一度もか」
善の顔には水滴などはついていないどころか泣き腫らした様子もなかったのだ。普通、ここまで参っていると少しでも泣くものだが、彼にはそんな様子はない。善自身も部隊長の問いにぎこちなく首を横に振った。
すると、部隊長は訝しげな表情を苦笑に変え、手を縮こまった少年の頭にやろうとした。しかしハッとして手を引っ込め、口を真一文字に結んだ。
「善」
少年の名を厳かに呼び直した。
少年の方は気持ちが落ち着いてきたのか前と同じように目を伏せている。
「お前、親友が……よく闘ってくれたらしいな」
部隊長は言葉をよくよく選んで、優しい口調で切り出した。
善は未だ何も言わない。
「善。よく聞くんだ。これからスパークラーをやっていれば仲間を亡くすことは間々ある。これは仕方ないことだ。親しい人間を亡くすこともあるだろう。だが、我々はそんなことで止まってはいられない。今だって、いつどこでカゲが発生するかも、それによって一般人がどれほど被害に合うかも分からない。だから、立ち上がれ。強くあれ。お前だって、そんなスパークラーの姿に憧れたんだろ?」
部隊長は善の目をずっと見ていた。善が彼のことを見ることはなかった。ただ、俯いたまま小さくだが口を動かして何かを言っている。
「どうした、善」
問うと、段々聞こえる大きさになっていった。
「か……は……和樹は……」
「和樹は、何だ」
部隊長はそれだけ言って、どもる善の目をジッと見つめ続ける。
すると、10秒程度経って善は顔を上げて、部隊長の目を鋭く睨んで叫んだ。
「和樹はまだ15歳だった!やっとスパークラーになれたって喜んでた!それを何で!何で守れないんだよ!何で死ななきゃいけなかったんだよ!」
善はずっと思っていたことを吐き出した。
和樹が死んで悲しかった。虚しくなった。カゲと闘うのが怖くなった。でも本当は、それで籠もって震えているのではない。
本当は、本当は――
「俺は知りもしない一般人のことなんかどうでもいい!俺がほんとに守りたかったのはっ、俺の大事な人達なのにっ」
善は目に涙をためて叫ぶ。今まで本当に思っていたことを。
人々を守るのに憧れたのではなかった。世界だなんてそんな大袈裟な話ではなかったのだ。ずっと、人々の安寧を守り『家族や友人を笑顔にできる』スパークラーに憧れていた。自分の周りの人が幸せに暮らす。それだけで良かった。
それなのに。
「駄目じゃないか!何もできないじゃないか!スパークラーなんてなった意味ない!」
善は膝立ちになって荒々しく部隊長の胸ぐらを掴んだ。部隊長はそれを拒まなかった。
「……スパークラーなんて……何もできないくせに……」
うなだれて呟いた言葉は、高く積もった雪のように重く冷たく響いた。
「なあ善。お前、ホントは思ってんだろ。何もできないのは自分だって」
部隊長の声はぶっきらぼうだが優しかった。彼の服を無造作に掴んだ手から、ほんの少しだけ力が抜けた。
「でもな、そりゃ見当違いだ」
それから部隊長は善からなんの反応もないまま続ける。
「……俺の話をするが、俺は、人を守るその勇姿に憧れてスパークラーになった。あの頃はSTIの宣伝を本気にしてた。丁度、今のお前みたいにな。でもな、初めてダチが死んだ時、お前みたいにはならなかったんだよ」
善は俯いたまま「流石部隊長だよ、強いんだな」と震える声で皮肉を漏らした。強がらないと涙が溢れてくると分かっていた。
「誤解すんな善。俺は強かったんじゃねえ。人一倍弱い人間だったんだよ」
部隊長の言葉に善はゆっくりと顔を上げた。部隊長は苦しそうに表情を歪ませながら笑っていた。
「俺はダチの死を知って十分後にはケロッとしていつもの業務に戻ったんだ。今だってあいつの死をどうとも思ってない。悲しくないし悔しくない。――だって、あいつのことはもう忘れちまったんだからな。
……あれからずっとそうだ。死んだダチは全員いなかったことにした。あいつらが仲間だったことは覚えてる。でも全然そんな実感がねえんだ例えるなら、『お前の生き別れの妹だ』って言われてブロンド美女の写真見せられるような感じだ。もうあいつらとの思い出は1つも思い出せねえ。姉貴が死んだときに何も思わなかったのは流石に自分でもビビったぜ。
今俺は、誰が死んだってなんとも思わねえ。現実を見ないことにしちまったからな」
そこまで一気に話すと、善の反応を待った。しかし実際より小さく弱々しく見えるその少年は少しも動こうとしない。ただ、部隊長の襟にある手には一切の力がなく、少し後ろに下がっただけで勝手に外れそうなほどになっていた。
いまだ説得に成功しない状況に部隊長は戸惑っていた。正直、自分で言っていながら説得になっているのかは甚だ疑問である。思いついたことを後先考えず連ねているからだ。
でも今はとにかく、善に分かってほしいことがある。その衝動に駆られて止まらないのだ。
「なあ善。お前は強いんだよ。現実と向き合って苦しんで、そうやって得た信念ってのは実力行使じゃどうにもならねえくらい強い。俺はもう本気で人を救うことはできない。心が死んじまったなんてのは言い過ぎだが、まあ、死に対する感情は専らなくなっちまったわけだ。そんな人間が人を救おうとしたところで、救える命も切り捨てちまうのがオチだ。だから、つまり、俺が言いてえのはな――」
部隊長は少し照れくさそうに言うのを躊躇ってから、思い切り良く言った。
「お前は俺なんかよりずっと、この仕事に必要なんだ」
それが今、善に1番言ってやりたいことだった。
理想と現実の落差に戸惑う善。
かつての自分のように大切な人を亡くした善。
それでも現実と向き合うことを選んだ善。
どうしても、そんな彼のことが尊いものに思えて仕方がなかった。STIは彼のような若人を失ってはいけないと思った。
善の手が部隊長の胸元からはらりと落ちた。それも、一つの雫とともに。全身から力が抜け、その場に座り込んだ。
涙は次々頬を伝い落ちてくる。それを必死に止めようと掌で拭うも嗚咽が漏れてくる。
「うっ……うっ……駄目だっ、駄目だっ……」
善は嗚咽の間に歯を食いしばりながらぼそぼそ呟く。
「なあにが駄目なんだよ」
部隊長は冗談めいて言った。
十秒程度の嗚咽の後、善はかろうじてか細く声を漏らした。
「……泣いちゃっ、駄目なんだ……」
――和樹はあの瞬間、泣けないまま死んだのに。自分だけ泣くなんて。
そう思うと情けなくて、切なくて、和樹に失礼な気がして、今まで一度も泣けなかった。泣きたくなかった。しかし今は涙が止まらない。
部隊長は頑固な少年の不十分な回答に思わず苦笑した。
「別に泣けるときに泣いときゃ良いだろーが。こんなことでもねえと、スパークラーはおちおち泣いてもいらんねぇからな」
部隊長はカラッと気持ちよく笑った。
その言葉に、善は幼い子供のように声を上げて泣いた。
善は一歩、前に進むことができた。
現在、あの少年は25歳になり、鏡都府某所のSTIで教員として働いている。
彼はあの一件の後も決して失うことに慣れることはなかった。何度も悲しみ、何度も涙した。それでも折れなかった。
彼にはその信念があった。
負けてはいけない。感情を殺してはいけない。
それが強さであり、守ることであった。
自分の信念を貫き守ってきた彼は今、それをかつての彼のような未熟な少年少女たちに伝えている。スパークラーとしての任務を終えた今、その青年は次世代のスパークラー達に強さを、そして人を守ることを教えている。
終
遅ればせながら企画参加ありがとうございました。
ぼくは重い話とか鬱な話とかエグい話とかを書いてみたいなぁと思うものの、怖がりかつ自分が作ったキャラクターにそんな辛い思いをさせるなんて、と気後れして全然書けないので、重い話を書ける赤石奏さんはすごいなぁとよく思ってます。
そもそも、「鏡界輝譚スパークラー」という企画は設定の使い方次第で明るい話にも重い話にもできるので、重い話が出てきた時は純粋に嬉しかったです。
最後になりますが改めて、企画へのご参加ありがとうございました。
その夜、美空の帰りを待ってから食事とした。その時間はもう8時を越えていた。
「任務からライブでお疲れ様」
大幡はいち早く戸の音に気づいて声をかけた。
「ありがとゆいな、なんか今日2回目だね」
「確かに」
そうして2人とも笑っている。
「ご飯できてるよ」
おかえり、という言葉の代わりにそう言えるのはご飯を作った人の特権だなと五代は思ったが、津上の前で言葉にはしたくなかった。
「ご飯!お腹ぺこぺこ〜」
美空は目を輝かせて部屋に走ってくる。
「だからって荷物を俺に投げるなよ」
美空のライブ機材は光の力に依存しているため専属スタッフでも扱える人は限られる。そのため、こういった単発のライブでは個人で管理することが多く、荷物がおおいこともザラだ。
「って…なんでみんなの分まで?」
食卓を見てさすがに美空も空気と状況を察したようだ。
「俺らもまだ食べてないんだよ」
荷物をそっと床に並べながら愚痴をこぼす。
「そういうのは早く言ってよ、なんか私が勝手みたいじゃん!」
“勝手は事実だろ”
この意見はおそらく3人共通だ。
「カレー、冷める前に食べちゃおうぜ」
津上が言うといつも通りの食事の時間と思える。やはりこういう普段通りの団欒はいいものだ。
任務に対して疑問を持ったからか…改めてバディの楽しさを感じたからか…
今日は特にそんな感傷に浸ってしまう。
「これが期間限定なんて…やっぱ残酷だよな」
翌朝の分のカレーを残して4人は食事を終えた。
早めに終わらせたのは9時を回るということと、食事の後に美空も含め、もう一度議論するためだった。
「急かして悪かったな」
「全然、どうせ私抜きだと話が上手くまとまらなかったんでしょ」
当たらずしも遠からず…
言い方はムカつくが美空も2人が迎えに現れた目的をおおよそ捉えていた。
「話が早くて助かるよ」
こういう時津上の優しい性格は話がスムーズで助かる。
「単刀直入に聞く、今日の出撃に違和感はなかった?」
「何?ジョーが何か言ったの?」
「ひとまず直感で答えてくれ」
津上のズルさだ。優しい顔から真面目な顔に変えるだけで説得力をもたせられる。
「違和感も何も…ただのバディ単位の出撃だったよ」
聞いてたのかと思うほどジョーの言ってたことと一致する。ある意味これがバディの所以なのか…
「確かに形式は珍しくない、でも…」
そう言いかけて時計を気にした。10時に迫ろうというところ、明日も普通に授業だ。ここでさっきと同じルートを辿り直す時間はない。
「でも?」
「でも俺らの出撃内容を鑑みると素直にそうは思えないんだ」
少しだけジョーに目線を送り、助けを求める。
「え?あぁ、色々見てみるといつも通りってわけではなさそうなんだ」
「ふーん、それで?その何が気になるの?」
まるで他人事といった態度だ。まぁそう思うのも自分たちの結論があるからなのだが…
「そこが本題なんだ…」
【AA0X期部隊、直ちに業務室まで来るように】
聞いていたかのようなタイミングで呼び出しの放送が入る。
「失礼します。AA0X期部隊4人ただいま参りました」
教務室はSTIの中でも特に無礼があってはならない場所だ。4人も見事に角度の揃った敬礼を見せる。
「こっちだ」
教務室の奥、教官室から聞こえる教官の渋い声。声のトーンからはまだ内容が見えない。
「はい」
1歩ずつ緊張が高まっていく。
「失礼します」
代表して大幡が扉のノブを捻る。内開きの扉は教官室の中を少しずつ見せる。机、カゲに関する資料の束、教官の姿、そしてもう1人。
「こんな時間に呼び出して悪かったな、もうみんな気づいてると思うが今日呼んだのは彼のことだ」
やはり…
見慣れない人の気配はとても異質で、いつもの緊張感とは違う空気が彼からは発せられていた。
「転校生の井上正大だ」
彼の身に纏う異質な空気の正体はそのやけに尊大な態度で全て物語られた。自信に裏打ちされたその真っ直ぐな目は覚悟を見せる。大幡にはそれがかつての五代、津上と同じ目に見えて少しだけ懐かしい気持ちになった。
「彼は都内の一般高校出身という異質の経歴でな、STIに関する説明が必要だった関係で中途半端な時期の転入になった」
「一般高校…あの、もしかして今日の出撃って…」
疑っていたと自ら言うようなものだがずっと引っかかっていた答えを前に津上は聞かずにはいられなかった。
「察しがいいな、今日の出撃で他部隊の応援を呼ばなかったのは1部隊の方が情報指揮が統一できて説明に都合が良かったからだ」
あの議論の時間を返せ、そう言いたくなるほど教官の回答は淡白だった。
「ところで教官、今回はどうしてこんな時間に…お言葉ですが転校生の件でしたら明日でもよかったのでは…」
言葉遣いに気をつけながらもかなりストレートに聞くあたりはさすが美空といった印象だ。
「それはな…」
先程までの淡白な口調から一転した教官の重く低い声は自分達の予想をはるかに越えた真相を告げた。
「それはな…彼たっての希望だ」
「え?」
4人は全員が耳を疑った。教官の声と言った内容が一致しなかったのだ。
「彼が先程、明日公表の予定を今晩に早めてくれとわざわざ申し出てきた。当然俺も拒否したのだがな…」
教官の顔はいつになく赤く、語尾にも少し恥ずかしさが見え隠れする。
「どうしても2日目のカレーというものが食べてみたくなってね」
既にタメ語なことよりもその内容のチープさに驚いた。
「カレー…」
他の3人も理解が追いつかない様子だ。なぜ教官はそんな理由を受け入れたのだろうか、それとも別の理由が…?
「そこで仕方なく急遽お前たちを招集したという訳だ」
恥ずかしさも落ち着いたのか、ため息まじりに力なく情報をまとめた。
「つまり、今晩から彼も宿舎に入るのですか?」
ここでこの質問を冷静にできる大幡はやはりズレている。
「どちらでも構わない。告知を早めただけで編入に関する諸々の手続きは明日付だ」
「なるほど、ありがとうございます」
今日でないにしても、告知と手続きが同日というのは十分早く感じた。それほどに彼の転校は極秘かつ迅速に対応しなければならなかったのか…
「寝泊まりは別に仮宿舎でもいいんだけど、明日朝のカレーは彼らのを食べたいな」
ここまでブレないのはもはや尊敬に値する。
「遅くに悪かったな、要件は以上だ。聞きたいことはあるか?」
「いえ、特にありません」
大幡が俺達の顔を確認しながら答える。
「では、明日からは新たなメンバーも加えてまた訓練に励むように」
「はい!失礼します」
綺麗に揃った4人の礼に合わせようとさえしない転校生も言葉だけは倣っている。
「さて、教えてもらおうか君の正体」
教務室を出るなり4人で転校生を囲んだ。
「教えてもらおう、ただの一般高校出身じゃないだろ?」
戦闘訓練を受けた4人に囲まれても自信に裏打ちされたようなその不遜な態度は揺るがない。
「別に大層なものを隠してるわけじゃない」
「やけに素直だな」
「別にやましいモノじゃないし、まぁ入学できないと困るから試験官とかに隠したってだけ」
嘘やハッタリにも見えるが、だとすれば手際が良すぎるようにも感じる。
「具体的には言わないのか」
「言ってもいいけど、見た方が早いから」
「どういうことだ?」
「明日の訓練で見ればわかるよ」
全員が理解出来ないまま俺と美空の間を押し通るように転校生は歩き去っていく。
「お、おい」
こちらの静止はまるで意に介していない。
「あ、そうだ!」
こちらの声とは無関係だと伝えるかのようなマイペースな間で転校生は振り返る。
「俺の分の布団はもうあるのか?あったら宿舎行きたいんだけど、朝わざわざ行くには仮宿は遠いいんでな」
「え?あぁ、まぁもう一個くらいならあるけど」
「よし、じゃあ今日から泊まる」
「は?」
全く慣れることのない突然の連続。内容云々よりもその突然さに反応するのがみんな精一杯だ。
「布団あるんだろ?なら宿舎に入らせてくれ、どんな正体を期待してるか知らないがお互い損はないはずだ」
唐突なのをいいことに丸め込まれているような感覚に駆られるが、実際その内容は理知的で、まるで転校生の手のひらで踊らされているような感覚にさえなる。
「わかった…ただ布団があるだけでまだ俺らの荷物とかの処理をしてないのは覚悟してくれ」
「それは別に構わない、なんせ俺の目的は」
『2日目のカレー』
インパクトが大きすぎて思わず復唱してしまった。
テスト頑張って!
ぼくもレポート課題頑張るんで!(笑)
レスありがとうございます
心配かけちゃって、すみません
詩を書いたときは割と絶望的な気持ちで
ここ2、3日ずっと消えたいと思っていたので
そういう感じが前面に出ちゃったんですけど
出来ない自分を肯定するじゃないですけど、
こんな自分でも生きてていいんだって
誰にも必要とされてないから
(こんなダメダメな自分が生きてても)大丈夫
みたいな?
そういう風に思いたくて、あんな詩を書いたのかもしれないです(自分でもよく分かりません苦笑)
声が出ないのは本当です
夏風邪、引いちゃいました苦笑
でも、身体的にも精神的にも少し回復してきたので、多分、大丈夫(なハズ)です
辛いときはきっと、またこの掲示板に何かしら書き込むと思います
長くなってごめんなさい
心配してくださってありがとう
転校生は本当にそのまま俺たちの部屋までやってきた。
具体的なことが何一つ決まっていないためひとまず客間に通すことになった。
「ここが新しい寝床か」
さも当然という顔で部屋の戸を開ける姿ももう誰も驚かない。
「布団はそこの押し入れにあるから」
美空は口調も含め、すっかり順応している。芸能界への偏見かもしれないがある意味さすがだ。
「そしてカレーの匂いがするこっちがキッチン、その先がリビングにあたる場所か」
仮宿がどんなところか分からないが壁を2枚近く挟む位置のキッチンにあるもう冷めたカレーの匂い、そしてその配置を察知したのだとしたら大した嗅覚と想像力だ。
「よくわかったな、仮宿も似たような間取りなのか?」
「いやもっと狭い。少なくともこんなに部屋数はなくて、1kくらいかな?」
やはり既視感などの前提情報なしでこの間取りを当てたのか、五感のどこが鋭いのかまだ分からないが確かに光の力次第では十分に体育科編入可能な域だ。
じゃああの時感じた違和感はなんだ…?
「雑魚寝っていうのもやってみたかったんだー」
俺が分析しようと考えている間に客間には布団が広げられ、転校生が手足を広げ横になっている。とぼけているのか…それともやはり何かを隠しているのか…
「顔怖いよ、ジョー」
大幡に声をかけられて我に返る。
どんなに違和感があってもここまで疑う必要はない、あったとしても今じゃない。
「そんなに考え込むなんて珍しいね、いつもなら考えるより先に行動するのに」
行動しなかったというより行動出来なかった。この転校生から感じる得体の知れない何かを前にすると…
レスどうもです。あと、企画の方もありがとうございます。
山梨県モデルの地名ばっかりになったことに特に理由はありません。強いて言えば大学受験の際、国公立の中期で山梨の大学を受けたもので思い入れがあったためかと。
企画への参加は結構好きなので、これからも何か企画が生えてきたら参加させていただきます。自分で何か思いついたら掲示板に投げます。