しかし人工精霊の仲間の魔術師達も加勢に入って押され気味だった。
「…くそっ」
物陰から魔力式の銃を撃つ魔術師はそう呟く。
魔力式の銃は空間中の魔力を身体に取り込んで銃器に流し、魔力でできた弾丸を撃つというシステムなのだが、1度に身体に取り込める魔力の量には限りがある。
それに撃っている内に身体に負担がかかる。
身体に大量の魔力を溜められる人工精霊に比べれば、効率があまりよくないのだ。
「このままじゃ…」
魔術師がそうこぼした時、目の前に桜色の蔓が飛んできた。
マズい、そう思った瞬間、目の前に黒い影が飛び込んできた。
「‼︎」
黒い影は手持ちの鎌で蔓を斬り裂く。
斬り裂かれた蔓はスルスルと引っ込んでいった。
「‼︎」
黒い影は手持ちの鎌で蔓を斬り裂く。
斬り裂かれた蔓はスルスルと引っ込んでいった。
「…」
黒い影は背後を見る。
黒い影と目が合った魔術師はあ、ありがとうございます…と少し頭を下げる。
黒い影ことナツィは前を向くと人工精霊に向かって駆け出した。
蔓はナツィに向かって伸びて来るが、ナツィはそれを避けたり鎌で斬り裂いたりしながら進んでいく。
「⁈」
しかし人工精霊に飛びかかった所で鎌を蔓に絡め取られてしまった。
ナツィはそのまま蔓に引っ張られ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ」
「ナツィ!」
建物の陰から様子を見ていたキヲンは思わず叫ぶ。
ナツィは思わず声がした方を見る。
「…」
「あ」
ナツィがこちらに気付いたのを見て、キヲンはつい建物の陰に身を隠す。
「どうしよう、バレた!」
キヲンにそう言われて、かすみはえぇ…と困惑する。
「じゃあどうするの?」
「うーんどうしよ…」
キヲンがそう呟いて、ふと後ろを見ると呆れ顔のナツィがそこに立っていた。
「…ナツィ」
「テメェら何やってる」
ナツィは怒りっぽい口調で言った。
「えーとね、ちょっとね」
「ちょっとってなんだよ」
キヲンの目が泳ぐ中、ナツィは溜め息をついた。
「勝手について来るとか、アホか!」
ナツィはキヲンの襟首を掴んで怒鳴る。
「ナツィちょっと落ち着いて」
「かすみもなんでついて来るんだ‼︎」
コイツを止めろよ!とナツィはかすみを睨む。
「じ、自分も止めようとしたんだけど…」
「じゃあちゃんと止めろ」
全くもう…とナツィは呆れたように言う。
「いい」
テメェらそこで…とナツィはキヲンの襟首から手を離した時、不意にキヲンが叫んだ。
「ナツィ後ろ!」
思わず背後を見ると、ナツィに向かって蔓が伸びてきている。
「‼︎」
避けるのが間に合わない、そう悟った時、蔓に向かって矢が飛んできた。
「⁈」
蔓は驚いたように動きを止める。
ナツィ達が矢が飛んできた方を向くと、建物の上に青髪のコドモが立っていた。
青髪のコドモことピスケスはひらりと飛び降りると、何してるの?とナツィ達に尋ねる。
「コイツらが勝手について来たんだ」
ナツィがキヲンとかすみに目を向けると、2人は気まずそうに俯いた。
「まぁ、ついて来ちゃったの」
ピスケスはそう言って微笑む。
「おーいピスケスー」
今どうなって…と露夏も駆け寄って来る。
「って、なんだよきーちゃんとかすみもいたのか」
意外な人物に気付いて露夏は驚く。
「勝手について来たみたいよ」
「げっ、マジかよ」
ピスケスに言われて、露夏は思わず後ずさる。
「お前ら、なーんでこんな所まで来ちゃったんだよ」
おまいらコドモが来る所じゃないってのに、と露夏はキヲンの顔を覗き込む。
「えー露夏ちゃんだってコドモじゃーん」
「おれに比べればって意味ですー」
全く…と露夏は呆れた顔をした。
「まぁまぁとにかく」
ここでピスケスが手を叩いて皆の注意を引きつける。
「ここで喋っている余裕はないわ」
アイツをご覧なさい、とピスケスは視線を建物の方に向ける。
建物の前では桜色の髪のコドモが魔術師達を蔓で縛り上げていた。
「あーあ、派手にやってるなー」
「あの調子じゃ取引してた連中もとうに逃げてるだろうな」
露夏とナツィはそれぞれ呟く。
「作戦は失敗かもしれないけど、あの魔術師達を助けてあげないと」
ピスケスはナツィと露夏の前に出る。
「…2人共、行くわよ」
ピスケスは振り向きざまにそう言った。
「はいはい」
「おう」
2人はそう答えると、それぞれ武器を構える。
「きーちゃんとかすみはどこか物陰に隠れてなさい!」
ピスケスがそう言うと、うん分かった!とキヲンとかすみは近くの角に隠れる。
それと同時にピスケスとナツィは飛び上がった。
「!」
桜色の髪のコドモはこちらに向かってくる人工精霊達の様子に気付き、蔓を伸ばす。
しかし2人はそれを易々と避けた。
「このっ!」
ナツィは鎌を桜色の髪のコドモに振りかざすが蔓で受け止められてしまう。
だが即座に鎌を消し、蔓の束を足場に飛び上がる。
「⁈」
桜色の髪のコドモは困惑していると、どこからともなく矢が飛んできた。
矢が飛んできた方を見ると白い翼を生やした青髪のコドモが建物の上にいた。
「うふふ」
「あなたよくも…」
桜色の髪のコドモがそう呟いた時、不意に足音が聞こえた。
見ると帽子のコドモが包丁片手にこちらへ突っ込んでくる。
「‼︎」
桜色の髪のコドモが咄嗟に蔓を伸ばしたが、包丁で切り裂かれてしまった。
「野郎!」
帽子のコドモこと露夏はそのまま桜色の髪のコドモの腹に蹴りを入れる。
桜色の髪のコドモはそのまま地面に転がった。
「くっ…」
桜色の髪のコドモが痛みに悶えていると、目の前に黒い影が舞い降りた。
「…黒い、蝶」
桜色の髪のコドモがそうこぼすと、ナツィは相手の胸元を踏みつける。
「こちとら頼まれてやってるんだ」
大人しくしろ、とナツィは踏みつける足に力を入れる。
「ぐっ…」
桜色の髪のコドモはそううめく。
その隙に露夏が魔術師達を縛り上げる蔓をみんな切ってしまった。
「”学会“の魔術師達はみんな解放したぞ」
露夏がそう言いながらナツィに近付く。
「んでコイツどうするんだ?」
このまま放っとくワケにはいかないだろうし、と露夏はしゃがみ込んで桜色の髪のコドモの顔を覗き込む。
「どうせ、”学会“に引き渡すことに…」
ナツィがそう言いかけた時、銃弾を撃つ音がした。
「⁈」
ナツィは間一髪の所で魔力でできた銃弾を避けたが、足が踏みつけていた人工精霊から離れてしまった。
「マズい!」
ナツィがそう叫んだ頃にはもう遅く、桜色の髪のコドモは起き上がって蔓をナツィに向かって伸ばした。
「っ!」
一瞬にして、ナツィが手に持つ鎌に蔓が巻き付いた。
「油断してたみたいね」
桜色の髪のコドモはゆっくりと立ち上がる。
「さぁ、あなたもこの蔓の餌食に…」
桜色の髪のコドモがそう言いかけた所で、離れた所から声が飛んできた。
「おーい、サクラメントー」
声がする方を見ると、車の傍で若い男が手を振っている。
「撤収だってさー」
サクラメント、と呼ばれた人工精霊はマスター!と言って振り向く。
そして男の方へ駆け出した。
「マスター、帰るって本当?」
「そうだよ」
上からの命令だってさ、と男はサクラメントの頭を撫でる。
「じゃあ早く帰りましょう」
サクラ達のあ・い・の・す・へ、とサクラメントは男の腕に抱きつきながら言う。
男は分かったよ、と言って、2人は車に乗り込んだ。
そして車は走り去っていった。
「…追わなくていいのか?」
露夏が飛んできたピスケスに尋ねる。
「追跡は“学会”の他の魔術師達の仕事だから、私達はいいのよ」
ピスケスはそう言って車が走り去った方を見る。
「それにしてもアイツ、随分とイタいこと言うな」
見ているこっちが恥ずかしい、とナツィはこぼす。
「まぁ仕方ないんじゃない」
可愛がられてるって証拠よ、とピスケスは諭す。
「…」
ナツィは暫く黙っていたが、ふと近くの建物を見やった。
「お前ら、もう出てきていいぞ」
ナツィがそう言うと、建物の陰からキヲンとかすみが出てきた。
「…」
2人は申し訳なさそうな顔をする。
ナツィはため息をついた。
「お前ら、もうついてくるんじゃねぇぞ」
危ないことに巻き込まれるかもしれないからな、とナツィは言う。
「分かったか、お前ら」
「うん」
分かった、とキヲンは明るく答える。
「ごめんねナツィ」
かすみは謝った。
「分かったんなら、いい」
とりあえず帰るぞとナツィは元来た道へ向かう。
「キヲンは特に保護者が心配してるだろ」
ナツィがそう言うと、キヲンはうん!と明るく頷いた。
そしてナツィの後に続いた。
他の3人も歩き出した。
〈櫻夜造物茶会 おわり〉
どうも、テトモンよ永遠に!です。
毎度お馴染み「造物茶会シリーズ」のあとがきです。
…とは言ったものの、今回は書くことがないんですよね〜
なので突然ですがキャラ紹介します。
今回はこの物語の主役、ナツィことナハツェーラーの紹介です。
・ナハツェーラー Nachzehrer
通称ナツィ。
「造物茶会シリーズ」の(多分)主役、アイコン的存在。
一人称は「俺」だが、ゴスファッションばかり着ている少年とも少女ともつかない容姿の“人工精霊”。
魔術でどこからともなく蝶が象られた大鎌を出すことができる。
口は悪いがなんだかんだ言ってかすみやキヲンには優しい、ていうかツンデレ。
ピスケスや露夏のことが気に食わない節がある。
どうやら寝ないと身が保たないらしい。
作った人間の通称は“ヴンダーリッヒ”。
「造物茶会シリーズ」の前日譚である「緋い魔女」「緋い魔女と黒い蝶」での“マスター”は“グレートヒェン”という少女である。
二つ名は「黒い蝶」(当人はあまり気に入ってはいない)。
今現在物語中で分かっていることを中心に紹介しましたのでちょっと分量少なめです。
まぁその内分かることも多いのでお楽しみに。
という訳で今回はここまで。
キャラ紹介コーナーは今後もあとがきで語ることがない時にやると思います。
何か質問などあったらよろしくね!
テトモンよ永遠に!でした〜
書き忘れてたので追記。
ナツィは魔術でどこからともなく大鎌を出すだけでなく、背中に黒い蝙蝠のような翼を生やして飛ぶこともできます。