小さくも大きくもない駅の傍の、小さな人気のない公園にて。
どこか異質なコドモ達が溜まっている。
コドモ達は見た目は普通の人間と変わらないが、どこか雰囲気は人間と違うものを纏っていた。
「おーいナツィ〜」
滑り台の頂上から、金髪にカチューシャを身に付けたコドモがベンチに座る黒髪のコドモことナツィに手を振る。
しかしナツィはそれを無視した。
「こっち向いてよ〜」
金髪のコドモは不満気な顔をしたが、当のナツィはそっぽを向いた。
「…きーちゃんに手を振ってあげたら?」
ナツィの隣に座るジャンパースカート姿のコドモ…かすみはそう言ってナツィを諭そうとするが、ナツィは嫌そうな顔をするばかりだ。
「…ナツィ」
「めんどくさい」
ナツィはポツリと呟く。
「そもそも、なんで俺がコイツらの遊びに付き合ってやらなきゃならないんだ」
俺はかすみの所でお茶してたかっただけなのに、とナツィは不満気な顔をする。
「まーたまにはいいじゃんかー」
中々屋外へ出ないどっかの誰かさんにとっては気分転換になるんじゃね?と赤髪に帽子のコドモがナツィ達に近づきながら笑う。
「なんだよソレ」
俺に文句かよ、とナツィは顔をしかめる。
「お前のこととは一言も言ってませーん」
赤髪のコドモ…露夏は視線を逸らしながら言う。
「…」
ナツィは呆れたように隣に座るかすみに寄りかかった。
するとここで少し離れた所からコドモの声が飛んできた。
「ねー露夏ちゃーん!」
こっち来て〜と露夏に雰囲気の似た、パーカーのフードを被った小柄なコドモが飛び跳ねる。
その傍には青髪のコドモも立っている。
「おー、今行く〜」
露夏はそう言いながら2人に近付いていった。
「どうしたー”夏緒(かお)“ー」
露夏がそう呼ぶと、”夏緒“はたたたと露夏に駆け寄る。
「見て!」
たんぽぽの綿毛!と夏緒は露夏に手に握った白い綿毛を見せた。
「お、いいじゃん」
露夏はそう言いながら夏緒と同じ目線までかがんで夏緒の頭を撫でる。
「他にも生えてるんだよー」
夏緒は近くの花壇に目を向けた。
そこには元々植わっている花々と一緒にたんぽぽの花や綿毛が生えていた。
「…これ、露夏ちゃんにあげる!」
夏緒が露夏に綿毛を差し出すと、露夏はお、ありがとうなとそれを受け取った。
「よかったじゃない、お前」
夏緒ちゃんからのプレゼント、と青髪のコドモ…ピスケスは露夏に笑いかける。
「もー、そういうこと言うなよ〜」
照れるだろ〜と露夏は恥ずかしそうに頭を掻いた。
…とここで夏緒は何かに気付いたのか公園の滑り台の方を見る。
そこには4、5歳くらいの少女が立っていた。
「あ」
夏緒は少女を認めると彼女の方へ駆け寄った。
「あげる!」
夏緒は少女に綿毛を差し出す。
「いいの?」
「うん!」
きみにあげる!と夏緒は笑いかける。
少女はありがとう、と言って綿毛を受け取った。
「夏緒は優しいなぁ」
その様子を見ていた露夏が夏緒に近付きながら言う。
「さすがはおれの“きょうだい”」
そう言って露夏が夏緒の頭を撫でると、夏緒はえへへと笑った。
「2人はきょうだいなの?」
少女が尋ねると、露夏はそうだぞ〜と答える。
「あともう1人いるんだけどな」
ここには来てないけど、と露夏は付け足す。
「いいなぁ〜」
わたし、きょうだいいないからと少女は呟く。
「ふーん」
夏緒はそう頷いて、こう尋ねる。
「…そう言えば、きみの名前は?」
自分は夏緒って言うの!と夏緒は明るく言う。
「わたしは…三穂野 蛍(みほの ほたる)!」
蛍って呼んで、と少女は笑う。
「よろしくね、蛍ちゃん」
夏緒はそう言って蛍の手を取った。
「あら、良かったじゃない」
お友達になったのね、とここでピスケスが3人に近付いてきた。
「だぁれ?」
蛍がピスケスに目を向けると、夏緒はピスケスだよ!と言う。
「露夏ちゃんのお友達」
ピスケスって言うの!と夏緒が言うと、ピスケスは静かに微笑んだ。
「へー」
蛍はそう言って頷く。
「夏緒ちゃん」
するとここでさっきまで滑り台で遊んでいたキヲンが夏緒達の元へ近付いてくる。
「何してるの?」
キヲンがそう尋ねると、夏緒は楽しそうに笑う。
「お友達の蛍ちゃんにみんなのこと紹介してるの!」
夏緒がそう言うと、キヲンはへーと頷いた。
「ボクはキヲン」
みんなからきーちゃんって呼ばれてるんだ、とキヲンは屈みながら蛍に言う。
「よろしくね」
キヲンがそう笑いかけると、蛍もよろしく〜と返した。
「じゃああの2人は?」
キヲンの自己紹介が済んだ所で、蛍は何気なくベンチに座る2人組を指さす。
「あの2人?」
夏緒が聞き返すと蛍はうん、と返す。
少しの沈黙の後、夏緒は口を開いた。
「あの手前にいる方がかすみちゃん」
それで…と夏緒は急に真顔になる。
「奧にいる“あいつ”が、ナハツェーラー」
夏緒がそう言うと、蛍はナハツェーラー?と首を傾げる。
「そう、アイツはナハツェーラー」
他のみんなは“ナツィ”って呼んでるんだけどね、と慌てたように露夏が補足する。
「そうなの?」
蛍は不思議そうに首を傾げるが、露夏はまぁなと笑うだけだった。
「それはそうとしてだけど、蛍」
お前、今1人か?と露夏は屈んで尋ねる。
「うん」
そうだけど、と蛍は答える。
「父さんや母さんは?」
何気なく露夏が尋ねると、蛍はそう言えば…と
辺りを見回す。
「ママ、いなくなってる」
「え」
蛍の言葉に露夏はポカンとする。
「母さんがいないって…」
ヤバくね?と露夏は呟く。
「確かに、これくらいの子が1人で公園にいるのは大変ね」
ピスケスもポツリとこぼす。
「そうなの?」
ボクよく分かんない、とキヲンは立ち上がりながら言う。
「母さんがどこへ行ったか分かるか?」
露夏が聞くと、蛍は…分かんないと答える。
「でも大丈夫!」
ママが急にいなくなることはよくあるし!と蛍は明るく言う。
「あたし、寂しくないよ!」
蛍はそう言ったが、露夏は心配そうな顔をした。
「…おれは、大丈夫じゃないと思うぞ」
露夏はポツリと呟く。
「蛍の母さんが心配してるかもしれないし」
露夏は蛍の肩に手を置きながら言う。
「だから、探そう」
おれ達が手伝うからさ、と露夏は笑いかける。
「本当?」
蛍が首を傾げると、露夏はうんと頷く。
「一緒に探そう!」
みんなもそれでいいよな、と露夏は顔を上げる。
「探す探す〜!」
「私はまぁいいけど…」
「ボクも手伝うー!」
夏緒、ピスケス、キヲンはそれぞれそう答える。
「かすみは?」
露夏がかすみの方に目を向けると、かすみは自分?と言わんばかりに自らを指さす。
「自分はいいけど、ナツィが…」
かすみが隣に座るナツィに目を向けると、ナツィは不満げにそっぽを向いた。
「俺は興味ないからパス」
お前らだけで行って来い、とナツィは呟く。
「そんなちびっ子の親探しなんてどーでもいい」
「ちびっ子とか言うなよお前」
ナツィの言葉に対し、露夏は顔をしかめる。
「コドモの親がいない、これは緊急事態なんだぞ」
「それがどうした」
露夏は語気を強めるが、ナツィはそれを意にも介さない。
「…」
2人は暫く睨み合っていたが、やがて露夏がじゃあいいと言った。
「おれ達だけで探すからお前はそこで待ってろ」
ふいっと露夏はナツィに背を向けると、そのまま公園の出入り口へと向かった。
「…」
ピスケスやキヲン、夏緒、そして蛍はそのまま露夏に付いて行ったが、かすみだけはその場に残ってナツィに近付く。
「ナツィ」
行こうよ、とかすみはナツィに話しかける。
「…やだ」
「そんなこと言ったって最終的に自分のことが心配で付いて来るんでしょ」
かすみにそう言われて、ナツィはうっと焦る。
「…」
ナツィは恥ずかしそうにそっぽを向いたが、やがてかすみの方に目を向けた。
そしてすっくと立ち上がる。
「付いてく」
「ほんと?」
かすみがそう尋ねると、ナツィは静かに頷いた。
「じゃ、行こう」
かすみがそう言って手を出すと、ナツィは黙ってその手を取った。
蛍の母親探しが始まって暫く。
かすみとナツィも合流して、みんなで公園の周りを探していた。
蛍自身が母親に繋がる手がかりを全く持っていないため、6人は手分けして探すこともできないし、一般人の前だから魔術を使うこともできない。
そのため皆で固まって探すしかなかった。
「…蛍、それっぽい人いた?」
「ううん」
露夏が尋ねると、蛍は横に首を振る。
「そっか…」
露夏は思わずそう呟いた。
「もうこの辺りはあらかた探してしまったものね」
これで見つからないとなると厄介だわ、とピスケスもこぼす。
「もっと捜索範囲を広げるか?」
「そうするしかないみたいね」
露夏とピスケスがそう話し合っていると、不意にナツィがなぁお前、と口を開いた。
「どうしてソイツにそんな入れ込むんだ」
別にお前に関係ないだろとナツィが呟く。
「そ、ソイツって」
露夏は一瞬顔をしかめるが、ナツィは別にいいだろと真顔で言い返した。
「…まぁ、“家族”っていうのは大事なモンだからよ」
露夏のその言葉になんだよソレとナツィは返す。
「だーかーら、家族っていうのはかけがえのない大切なものなんだよ‼︎」
例え人間であっても、おれたちであってもと露夏は語気を強める。
「そういう訳でおれは他人の家族でも急にいなくなったら心配するんだよ」
どっかの誰かさんと違ってと露夏が腕を組みながら言うと、ナツィはテメェ俺に文句あんのかと掴みかかる。
「だからお前のこととは言ってませーん」
「なんだよソレ!」
「ちょっと、2人共」
ちびっ子の前でケンカしないの、とピスケスが手を叩いて2人を諫める。
「夏緒ちゃんがご立腹よ」
ピスケスがそう言うので露夏とナツィが夏緒の方を見ると、夏緒は頬を膨らませていた。
「…」
2人は思わず黙り込む。
「とにかく、蛍の母親を探しましょう」
今度はもう少し…とピスケスが言いかけた所で、蛍はあ!と声を上げた。
「ママ!」
蛍はそう言うと数メートル程離れた所からこちらに向かって来る若い女の方に駆け寄る。
「やっと見つけた‼︎」
会いたかったぁと蛍は女に抱きつく。
「ママ、本当にどこい…」
蛍はそう言いかけた所で女はほ、蛍!と大声を上げた。
「勝手にあそこから動いちゃダメって言ったでしょ‼︎」
探したじゃない!と女は怒鳴る。
「え、でもママ急にいなくなるから」
「言い訳するんじゃない!」
蛍の言葉を無視するかのように女は続ける。
「ママだって、ママだってねぇ…」
女が震えながらそう言うのを見て、思わず露夏が2人に近付く。
「…ちょっと、蛍のお母さん」
露夏がそう声をかけると、女はな、何よあなた‼︎と驚く。
「ちょっと言い過ぎじゃないですか?」
蛍は母さんが急にどこかへ行ってしまったって言ってるし、と露夏は呟く。
「アンタの方にも非が…」
「何よわたしが悪いって言うの⁈」
わたしだって大変なのよ‼︎と女は声を上げる。
「アンタみたいな子どもの分際で、言えると思ってんの⁈」
女がそう言うと、露夏はうっと後ずさる。
「もういい‼︎」
行くわよほた…と女が露夏たちに背を向けた所で、彼女の後ろからねぇとコドモの声が聞こえた。
思わず女が振り向くと、露夏の隣に小柄な赤髪のコドモが立っていた。
「今、露夏ちゃんのこと、“子ども”って言ったでしょ」
小柄なコドモ…夏緒がそう呟くと、女は何よと答える。
「露夏ちゃんは、露夏ちゃんは、ただの“子ども”じゃないもん」
露夏ちゃんは…と言いながら夏緒は女に近付く。
「露夏ちゃんは…!」
夏緒がそう言いながら顔を上げ、拳を振り上げた。
「あっ待て夏緒!」
露夏は咄嗟に止めようとしたが、夏緒は気にせず動作を続けようとした。
しかしここで後ろから声が飛んできた。
「…やめなさい、夏緒」
思わずパッと夏緒が振り向くと、数メートル後方でピスケスが腕を組んで立っていた。
「それ以上は大変なことになるわ」
私たちにとって、とピスケスは淡々と言う。
「でも!」
「でもじゃない」
私たちの平穏を守るためには、トラブルを起こさないことも大切なのよとピスケスは続ける。
「それに、あなたがそんなことをしたら蛍が悲しむわ」
ピスケスのその言葉に夏緒は静かにうなだれる。
振り上げた拳も、自然と下ろされていった。
「…」
女は暫く夏緒たちに冷たい目を向けていたが、その様子を見たピスケスは組んでいた腕を解いた。
「娘さんを大事にね」
蛍のお母さん、とピスケスは微笑む。
「蛍も元気でね」
また会いましょうとピスケスは蛍に優しい目を向けた。
「うん、ばいばいみんな」
また会おうね〜と蛍は手を振る。
女はなんとも言えない表情をしていたが、やがて蛍の腕を掴むとツカツカと去っていった。
「…」
その場に残された6人の間に沈黙が流れる。
「これで、よかったのかな」
露夏が思わず呟くと、ピスケスはそうねぇとこぼす。
「他人の親子関係は私たち人工精霊がどうこうできるものじゃないわ」
魔術を使った所で、私たちの存在が危うくなるだけだしとピスケスはまた腕を組んだ。
「そりゃそうだ」
魔術は歴史的にも秘匿されるべきものだからな、とナツィは服のポケットに手を突っ込んで言う。
「こんなことで一般人に知られてはならない」
ナツィがそう言うと、こ、こんなことって…と露夏は呆れる。
「ま、バレたらバレたで大変な目に会うのはお前らとその“家族”だからな」
“家族”を大事にしてるんなら、ちゃんとそこも意識しろとナツィは露夏に目を向けた。
「…」
露夏はつい黙り込む。
「ま、分かったんならいいんだよ」
戻るぞ、とナツィは公園の方へ引き返す。
「あ、待ってナツィ」
キヲンは慌ててその後を追う。
かすみも静かに歩き出す。
「行くわよ露夏」
夏緒ちゃんも一緒に、とピスケスは呟いた。
「…あぁ」
露夏はそう言って夏緒、と夏緒の方を見る。
夏緒は不安げな顔をしつつ顔を上げる。
「行こう」
露夏が優しくそう言うと、夏緒はうん、と少し笑顔を見せた。
そして露夏は夏緒の手を取ると、静かに歩き出した。
〈迷兎造物茶会 おわり〉
どうも、テトモンよ永遠に!です。
毎度お馴染み「造物茶会シリーズ」のあとがきです。
今回のエピソードは一応の主役(笑)ナツィではなく露夏ちゃんが主役みたいなお話でした。
だからあれ?と思った人もいたかもしれません。
ぼく的には主役以外のキャラクターが中心のエピソードがあってもいいじゃないということで作ったお話なのですが…皆さんいかがでしたでしょうか?
ちょっとキャラクターごとの出番が偏ってしまったので、上手くできた気がしないんですけどね。
ま、今後もナツィ以外にフィーチャーしたエピソードを作る予定(というか次のエピソードもそうする)なので楽しみにしていてください。
だいぶ短くなりましたが、今回はこれくらいにして。
「ハブ ア ウィル」の最新エピソードはすでに出来上がっているので、来週から投稿する予定でいます。
また、現在開催中の企画「CHILDish Monstrum」の次に開催する企画も準備中です。
こちらは3月1日から始める予定でいます。
どうぞお楽しみに。
それでは今回はこの辺で。
何か質問などあればレスからお願いします。
では、テトモンよ永遠に!でした〜
上から3行目
×に近付く。
⚪︎の方を向く。
投稿時に修正しようと思ってたのに忘れちゃった。