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2024年1月1日から31日まで開催した企画「CHILDish Monstrum」のまとめその3です。

CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑨

「デーモン、穴が開いた!」
「ちょっと狭いな。まあ良いや、みんなも助けてほしいって言ってたし……」
怪物態に変化していたデーモンが、長い尾で民間人を数人巻き取り、軽く勢いをつけて投げ飛ばした。
「デーモン⁉」
あんな速度で投げたら、絶対怪我する!
結局、心配は杞憂に終わった。いつの間にか包囲の外に待機していたデーモンが、またもや尻尾で民間人たちをキャッチして、安全に地面に下ろしたのだ。
「え……ええ⁉」
さっきまでデーモンがいたはずの場所を見て、思わず声をあげる。そこには相変わらず、怪物態のデーモンが立っていたのだ。
「え、デーモン⁉ 分身……?」
包囲の中と外のデーモンを交互に見ながら、疑問が自然と口から出る。
「いや? 僕は一人だけだけど。……それじゃ、僕は外に送った分の世話しなきゃだから、あとの人達は君が守るんだよ」
「え⁉ あ、了解⁉」
デーモンは言い残して、包囲の外に消えてしまった。またインバーダたちが襲い掛かってくる。私の能力でこれら全部を民間人を守りながら片付けるのは難しいと判断し、重くした拳を建物の壁に叩きつけて破壊した。
「皆さん、中へ!」
民間人たちは少しずつ、建物の中へ避難する。最後の1人が入っていったのを確認してから、壁の穴の前に仁王立ちになった。
「…………絶対に通さない。お前ら全部、叩き潰してやる!」

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-19 21:17

CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 10

「*]‘;・’{‘;’}<}+[‼︎」
飛竜はそのままインバーダに飛びかかった。
「いっけー‼︎」
ワイバーン!とイフリートは拳を突き上げて飛び跳ねるが、ゲーリュオーンは呆れたようにワイバーンの様子を見ていた。
「ワイバーン…指示はまだなのに」
「えーいーじゃんそれくらいー」
今回の出撃自体命令が出る前だったし、これくらい許してくれるだろーとイフリートはゲーリュオーンの方を見る。
「確かに命令が出る前の出撃だったが、それはまだいいとして指示前の怪物態使用は…」
「なんだよおめー真面目だな」
イフリートは長剣を地面に突き立てながら言う。
「アレか、お前作戦失敗が怖いんだ…」
イフリートはそう言いかけて言葉を止める。
なぜならゲーリュオーンが黙って俯いていたからだ。
「お前」
イフリートが思わず呟くが、ゲーリュオーンは黙ったままだ。
「…」
2人の間に沈黙が流れる。
しかしその沈黙は近くの建物にインバーダがぶつかり建物が崩れたことで破られた。
「危ない‼︎」
高い声と共に2人の頭上にバリアが張られ、頭上から落ちてくる瓦礫は弾かれた。
「2人共!」
バリアを展開するデルピュネーと共にビーシーが2人の元へ駆けつける。

テトモンよ永遠に!
女性/21歳/東京都
2024-01-19 21:25

CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 11

「2人共!」
バリアを展開するデルピュネーと共にビーシーが2人の元へ駆けつける。
「小型種はみんな片付けたよ」
後はあの大物だけ、とビーシーはゲーリュオーンとイフリートに声をかける。
「…ゲーリュオーン?」
ゲーリュオーンの暗い顔を、心配そうにビーシーは覗き込む。
ゲーリュオーンはハッとしたように顔を上げた。
「大丈夫?」
ビーシーの問いかけにゲーリュオーンはあ、ああと答える。
その瞬間ガシャーンとインバーダにワイバーンが押し倒された。
「うおやっべ!」
ワイバーン押されてるよとイフリートは呟く。
「やっぱしおいらのでば…」
「いやいい」
イフリートがそう言って前へ出ようとした所を、自分が行くとゲーリュオーンが止める。
「じ、自分が行くって…」
お前怪物態は…とイフリートは言いかけたが、ゲーリュオーンは大丈夫と返す。
「別に使えない訳じゃない」
ただ、少し暴走するかもしれないだけと歩きながらゲーリュオーンは携えた槍を投げ捨てる。
「だから、その時は、頼む」
ゲーリュオーンはそうとだけこぼすと目の前の敵に向かって駆け出した。
「ちょ、ちょっと待て!」
頼むって…とイフリートはその後を追い始めたが、その時にはもう目の前のモンストルムは3つ首の翼の生えた巨人に変貌していた。

テトモンよ永遠に!
女性/21歳/東京都
2024-01-20 20:55
冒頭の2文が前回投稿文と重複してるけど、気にしないでね。

CHILDish Monstrum:人造神話隊 キャラクター紹介

・ビヤーキー
性別:女  外見年齢:14歳  身長:148㎝
特殊能力:飛行能力。また、飛行速度・高度に拘らず、飛行中自身はダメージを受けない。
主な使用武器:バグナク
パーティ〈人造神話隊〉の足担当。みんなを背中に乗せて空を飛ぶ。髪型はツインテールだが、何故かツインテ部分も自由に動かせる。飛行中は何となく翼の形にしているが、別にその形で無いと飛べないわけでも無ければそれでバランスを取っているわけでも無い。ちなみに能力で自分はどう空を飛んでも平気だが、乗っている人らは効果の対象外なので文字通り他者の命を背負うことになる。渾名は「ビャキ/ビャキたん」。

・ディープ=ワン
性別:女  外見年齢:12歳  身長:139㎝
特殊能力:信仰対象を強化する
主な使用武器:自動小銃、三叉槍
パーティ〈人造神話隊〉のバッファー。対策課の職員さんにもらった本の影響で兵器とかが好き。能力は「この人/ものは強いんだぞ!」というある種「信仰」のような気持ちが、信仰対象の強さに直結するというもの。味方にするととても心強い。渾名は「ぷわん」。

・ティンダロス
性別:女  外見年齢:14歳  身長:151㎝
特殊能力:攻撃の触れた固体を腐食させる/「角」を介して瞬間移動する
主な使用武器:双剣
パーティ〈人造神話隊〉のアタッカー。相手がスライムとかじゃない限りまず防御力が意味を成さないのでとても強い。そっちの能力が強すぎて、瞬間移動の方の能力は今回は使わなかった。渾名は「ティー」。

・ナイトゴーント
性別:男  外見年齢:15歳  身長:162㎝
特殊能力:自身の存在を希薄にする
主な使用武器:大鎌、革鞭
パーティ〈人造神話隊〉の保護者役。隠密行動に適した能力を利用して戦場を移動し、敵の隙を作ったり味方の隙を潰したりしている。移動中は体重ほぼ0にしているのでビヤーキーに乗っていても負担にならない。他の2人も見習ってほしい。渾名は「ヤキ」。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-20 21:27

CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 12

「>{^;*;$・>{^;‘;’;_€‼︎」
突如現れた怪物の雄叫びに、暴れていたインバーダはぴたりと動きを止める。
「*]€€\£•[=_^^」
インバーダも威嚇するかのように唸った。
暫くの間怪物同士の唸り合いが続いた後、ゲーリュオーンは目の前のインバーダに飛びかかった。
「*{[€>{’;€_!」
インバーダは避けようとしたが間に合わず、ゲーリュオーンに押し倒される。
そしてゲーリュオーンはその拳で相手を殴り始めた。
「うおぉ」
あれが奴の怪物態か…とイフリートは目を丸くする。
「随分苛烈な戦い方をするんだね」
普段はすごく冷静なのに、とビーシーは呟く。
「まぁ、あの子は辛い過去を背負っているから…」
不意にデルピュネーが言い出したので、2人はパッとデルピュネーの方を見る。
「“過去”?」
ビーシーが聞き返すと、デルピュネーは真顔に戻る。
「私たちがこの街のインバーダ対策課の所属になった時、ちらっと聞かなかった?」
私たちが作られる前の話、とデルピュネーは続ける。
「…あぁ」
確か先代のモンストルム部隊は数年前の戦闘で壊滅したんだっけ、とイフリートが頭の後ろに両手を回す。

テトモンよ永遠に!
女性/21歳/東京都
2024-01-21 19:46

CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 13

「そう、壊滅した」
ゲーリュオーンを除いてとデルピュネーが言うと、イフリートとビーシーが目を見開く。
「ゲーリュオーンを除いて…」
ビーシーがそうこぼすと、そうなのとデルピュネーは頷く。
「あの時、ゲーリュオーン以外のモンストルムはみんな戦死した」
その時、ゲーリュオーンはショックの余り暴走したらしいのとデルピュネーは淡々と続ける。
「ゲーリュオーンは仲間を倒したインバーダたちを瞬く間に一掃した」
街が壊れるのもお構いなしにね、とデルピュネーは言う。
「幸い一般市民への被害はなかったらしいけど、ゲーリュオーンはこの時のことが今でもトラウマみたい」
街を余計に壊しているから、市民からの反感も買ってしまったしねとデルピュネーは目の前で暴れる怪物を見上げる。
怪物は未だに目の前のインバーダを殴り続けていた。
「じゃあ、アイツが怪物態への変身ができないのって」
そういうこと、なのか?とイフリートはゲーリュオーンの方を見た。
「まぁそういった所ね…」
デルピュネーがそう呟いた時、インバーダを殴っていたゲーリュオーンが3人の方をゆっくりと見た。
そして不意に雄叫びを上げたかと思うと、3人に向けて拳を振り下ろした。
「⁈」
デルピュネーがとっさにバリアを張ったことで拳は弾かれたが、突然のことにビーシーが腰を抜かしてしまった。

テトモンよ永遠に!
女性/21歳/東京都
2024-01-22 19:22

CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 5日目

時、6時35分。場所、老人の家の居間。
朝食の後、老人と昨日のインバーダ襲撃の一件について話し合った。
あの後、村の漁師たちとインバーダの間に割って入ったわたしは、すぐさま怪物態に姿を変えた。ろくな武器も無い、身体機能も十分では無い、体格差まである、そんな状態で戦えるわけが無い。
多頭の巨大なコブラの姿をした怪物態、“ナーギニー”。大蜈蚣がその毒牙をわたしの鱗に突き立てた。しかし、ただでさえ強固な鱗の装甲に加え、“ナーギニー”には有毒物質を操作する異能もある。大蜈蚣の牙から流れる毒液を逆に支配下に置き、棘状に変形させて奴の体内を破壊し、暴れ出したインバーダの頭を噛み砕いて倒し、すぐに人型に戻った。巨体での戦闘は、肉体への影響が大きかったからだ。直後、わたしは体力を使い切ったためか気を失った。
話し合いが始まって、老人から最初にかけられた言葉は、昨日の戦いがわたしの身体に障っていないかという質問だった。
正直言って、意外だった。あんな怪物に化けるのを見られたのだから、恐ろしがられてもおかしくなかったのに。いくら彼が善人と言っても、あるいはインバーダを倒したことを感謝される程度が自然では無いか。わたしよりずっとか弱い人間である彼が、わたしの身を案じている。全く以て未知の感覚だった。
わたしが無事だと答えると、老人はようやく、わたしが何者なのか、ということを問うてきた。
わたしは『ナギニ』と名乗った。インバーダ、昨日の大蜈蚣のような化け物と戦うために生み出された怪物である。そう答えた。
老人は、わたしの答えを聞いて複雑な表情で黙りこくった。
現状、わたしの身体は十分に回復していないのに戦闘を行ったせいで、調子が良いとは言えない状態だ。もう少し、ここで厄介にならなければ帰れないのに、なんだか気まずくなってしまったような気がする。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-22 20:20

CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑩

奴らの方に駆け出しながら、“怪物態”に変化する。初めてインバーダと戦ったあの日、初めて変化したあの姿。能力を半ば暴走させてしまったせいで、一度は街をひどく壊してしまったあの姿。もう失敗はできない。私の後ろには、守るべき人たちがいる。
どの動物のそれとも微妙に違う、巨大で重厚な怪物の身体で、インバーダ達を蹴散らす。
怪物の身体に備わる本能が、「全て破壊し、喰い尽くせ」と語りかけてくる。それを自我のある『私』の理性で強引に抑え込み、周りの建物には決して触れないよう、インバーダだけを慎重に、そして乱暴に、踏み潰し倒していく。
衝撃で民間人が避難している建物が揺れているのに気付き、慌てて身体の動きを止め、穴の前に身を伏せる。せめて、奴らがあの人たちを襲えないように。
インバーダ達はあの人たちを狙っているのか、私に何度も攻撃を放ってくる。けど、ただでさえ巨大な怪物の身体に、能力で質量増加までしている。奴らの攻撃は私をほんの数㎜だって動かすことはできなかった。
それでも、何度も攻撃を受ければ、流石にダメージが蓄積してくる。厚く硬い皮膚にも少しずつ目立つ傷ができ始め、筋肉と脂肪の鎧を通して、衝撃が少しずつ、それでいて着実に、体内に影響を与えているのを感じ始めていた。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-22 20:22

CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その①

まず、私の自己紹介をしておかなくてはならないだろう。
私は見沼。昨年、大学新卒でインバーダ対策課に就職し、1年間とある都市の対策課本部で各業務のスキルを身に付けた後、前任者が定年退職するということで一つの区域の総括管理者を任されることとなった。
最初、この話が来た時にはそれは喜んだものだ。しかし、私の担当区域が本土から連絡船で4時間かかる、たった1体のモンストルムしか配備されていない離島だと知り、すぐに複雑な気分になった。
内地の大きな都市の担当と比べれば閑職に思えてしまうのは仕方のないことだろう。しかし、いくら小さな島とはいえ人命がかかっている重要な仕事だ。すぐに思い直して前任者からの引継ぎに移った。

そして遂に、就任当日。
ひどい船酔いにやられながら連絡船に揺られ、どうにか件の島に到着した。
私がせこれから世話することになるモンストルムに支給された住居は、島から離れた場所からもよく見えた。
島の中央の丘陵、その頂上に建てられた巨大な立方体型の建造物。あそこに私がこれから関わっていくモンストルム“キュクロプス”がいるらしい。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-22 20:25
  • 多くてもいいんです。
    もうどうせ参加者は出てこないのだから。
    いっそのことぼくらだけで楽しみましょ。

    テトモンよ永遠に!
    女性/21歳/東京都
    2024-01-22 20:36
  • すごい文章力で圧倒されます。

    この前は企画を立てていただき誠に有り難うございました。

    また宜しくお願いします(*^^*)

    大好きっ子
    女性/15歳/埼玉県
    2024-01-22 20:40

CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 14

「な、何?」
ビーシーは震える声でそう呟く。
「おいおいマジかよ…」
イフリートは青ざめた顔でそうこぼす。
「>{”;‘]=}“|’$[€<‼︎」
ゲーリュオーンはまた叫び声を上げると、今度は3人に向かって突進した。
デルピュネーは再度バリアを張ったが見事に破られてしまった。
「!」
イフリートは咄嗟に目をつぶって身構えたが、すぐに自分の身体が吹き飛ばされないことに気付いて目を開く。
そこには両手で怪物の拳を受け止めるビーシーの姿があった。
「ビィ!」
イフリートが思わず叫ぶと、早く、逃げて…とビーシーは絞り出すように呟く。
そしてビーシーの身体が光を放ったかと思えば、巨大な亀のような怪物に変身した。
「⁈」
突如出現した怪物の甲羅に拳を弾き返されて、ゲーリュオーンは驚いたようなそぶりを見せる。
「ビィ…」
あの子も怪物態を使うのが苦手だったのに、とデルピュネーはこぼす。
「*{$~>~£•[%\*+‼︎」
ビーシーは悲鳴を上げながらゲーリュオーンに突進しようとするが、目の前の怪物はビーシーを抱え投げ飛ばす。
周囲の建物はビーシーの下敷きになった。
しかし突然ゲーリュオーンは赤い竜の姿をした怪物に突き飛ばされる。

テトモンよ永遠に!
女性/21歳/東京都
2024-01-23 19:58

CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑪

少しずつ意識が薄れてきた頃、遠くから私に向けて声がかけられた。
「おい、そこの化け物! お前、ベヒモスだろ!」
そちらに目だけを向けると、相変わらず拘束具まみれのままのフェンリルが立っていた。
「やっぱりそうだな、やけに大人しいと思ってたんだ。お前の性格っぽい。ちょっと待ってろすぐ片付ける」
「っ……!」
建物だけは巻き込まないでくれ、そう言う前に彼は片手を振るった。その余波で、周りにいたインバーダ達は塵と化した。
「…………⁉」
今起きた状況に驚愕しながらも、人型に戻る。身体の至る所に鈍痛や痣、切り傷が残っていた。
「その建物、守ってたんだろ? 流石に壊さねえだけの良識はあるさ」
駆け寄ってきたフェンリルはそう言いながら、民間人が入っていったあの建物を指した。
「……そうだ、あの人たち!」
無事だろうか、中で崩落でも起きていないだろうか、そう思って、急いで中に入る。
痛む身体に鞭打ち、中に入っていくと、奥の方であの人たちは一塊で蹲って震えていた。どうやら怪我などは無いみたいだ。
「大丈夫ですか、皆さん! 外のインバーダはもう倒しました!」
民間人の1人が顔を上げる。セーラー服姿の女の子だった。中学生だろうか、高校生だろうか。
そんなことより、彼女は目に見えて怯えた表情で私を見返していたのだ。
「……皆さん今のうちに外へ、早くここを離れ……」
彼女の表情は気にしないようにしながら言おうとして、建物の奥、民間人たちの死角から、1体のインバーダが迫っていることに気付いた。大きな蜥蜴のような姿のインバーダが、音も無く壁を這い、みんなに迫っている。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-23 20:27

CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 6日目-1

時、9時30分。場所、老人の家の廊下。
運動能力の回復のため、今日も廊下を往復しようと部屋を出た時、玄関の方であの老人が怒鳴る声が聞こえた。
あの老人と共に過ごした時間は決して長かったわけでは無いが、あの善人が怒鳴るなんて何があったのか、疑問に思いそちらに歩いていくと、老人は客人と相対していた。
客人は2人。1人は、ひょろ長い体格の、背の高いスーツ姿の若い男。もう1人は、薄着の和装に身を包んだ、どこか軽薄そうな雰囲気の少女。男の方は知らないが、こちらはよく知っている。我が愛しの相棒、荼枳尼天、ダキニだった。
その姿を見とめた瞬間、ほとんど反射的に駆け出していた。十分に回復していなかったせいで転びそうになったが、ダキニが素早く抱き留めてくれた。
何故ダキニがここにいるのか、彼女に尋ねた。彼女によると、どうやらわたしやダキニの体内には、位置情報の発信機が埋め込まれているらしい。それならもっと早く迎えを寄越すこともできたと思うけれど。
ダキニとこの1週間弱、何があったのか話しているうちに、老人はあのスーツの男を家に上げていた。とりあえずダキニと連れ立って、彼らが入っていった居間に向かう。
その短い道中、再びあの老人が怒鳴る声が聞こえてきた。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-23 20:32

CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その②

港からの道中、時折遭遇する島民に挨拶しながら、キュクロプスの住居に向かう。
実際に近くまで来てみると、それは思っていた以上に巨大だった。
1辺当たり30m以上はありそうな巨大な立方体。壁に触れてみると、どうやら何かの金属でできているようだった。
ふと思い出し、スーツのポケットから手帳を取り出す。前任者から聞いていた、キュクロプスについての情報やアドバイスをまとめているものだ。

・作業場(箱形の建造物)から作業音が聞こえてこなかった場合、東側に隣接した小屋(居住スペース)を尋ねること

“作業場”の扉に近付くが、中からは何も聞こえない。壁に手を付きながら東側に回ると、木材と煉瓦でできた、どこかメルヘンチックな雰囲気の小屋があった。
西側の壁は“作業場”にぴったりと接しており、扉のあるのと同じ側の壁には、遮光ガラスの窓が1つ。周囲を1周したところ、他に窓は無いようだった。
とりあえず扉の前に立ち、再び手帳を確認する。

・小屋に入る際は、扉に設置されたノッカーを叩くこと

扉には、日本では珍しい金属製のノッカーが取り付けられていた。重い金属環を握り、3度扉を叩く。反応は無い。ドアノブに手をかけると、施錠はされていなかったらしくあっさりと開いた。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-23 20:35

CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑫

「っ! 危ない!」
体重をほぼ0にして少しでも足を速め、大蜥蜴の前に飛び出す。奴は私に噛みつこうとしてきたけど、全身の質量増加で受け止める。
「モンストルムが外に1人いるはずです! 彼に指示を仰いでください!」
蜥蜴との押し比べに集中している中、辛うじて背後の人たちに向けて叫んだ。あの人たちが慌てて逃げ出す足音が聞こえてくる。彼らがいなくなれば、少しは安心できる。フェンリルは強いから、きっと彼らを守ってくれるだろう。
「がっ…………!」
突然、下腹に強い衝撃を受けた。大蜥蜴が高速で舌を伸ばそうとしたのだ。けれど、その程度で私の質量を動かせるわけが無い。衝撃で呼吸が止まりそうになりながらも、少しずつ大蜥蜴を押し返していく。
少しずつ、勢いを増しながら。少しずつ、速度を上げながら。少しずつ、エネルギーを増しながら大蜥蜴を押し返し、壁際まで追い詰める。加速を止める事無くそのまま壁に衝突する。建物の壁と私の質量で挟むようにして、大蜥蜴を押し潰す。鱗と筋肉と骨と内臓が潰れていく嫌な感触を感じながら、そのまま完全に潰してやった。
大蜥蜴の口が力無く開き、解放される。奴がもう死んでいることを目視で確認すると、私の身体は糸が切れたように勝手に倒れた。受け身もできず身体を床に打ち付ける。
そりゃあそうだ。あれだけダメージを受けたんだし、長いこと人間を庇いながら戦っていたせいで精神もずっと張り詰めっ放しで消耗しきっていたんだから。
「おーい無事かー?」
フェンリルが入ってきて、私に尋ねてきた。
「……フェン、リル…………、あの人たちは……?」
「あー? 死にたくなきゃ勝手に逃げろっつっといた。俺の近くにいるだけで能力に巻き込まれて死にかねないからな」
「……大丈夫かな…………」
「大丈夫だろ。インバーダはほぼ全滅状態だったしな。お前の時間稼ぎの賜物だな。お前が目立ってたお陰で、他のモンストルムもこの辺にはあまり近付かなかった。マジでお前、よくやったよ」
「…………そっか」
そこで私の意識は途切れた。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-24 18:10

CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 15

「⁈」
振り向くと、先程インバーダに押し倒されていたワイバーンがそこにいた。
「+“<|>‘$*<;;>’‼︎」
ワイバーンは雄叫びを上げるとゲーリュオーンに飛びかかる。
そしてゲーリュオーンを押さえつけた。
「>]>;“*‘;$$[”!」
ゲーリュオーンは悲鳴を上げながら暴れるが、すぐにそれを振り解き立ち上がろうとした。
「くっそぉ」
こうなったらおいらが行くしか…とイフリートは怪物の元へ歩き出す。
「待って!」
私も行くわ!とデルピュネーはイフリートを止めようとする。
しかしイフリートはいや、いい!とデルピュネーを止める。
「デルピュネーは周囲に被害が出ないようにバリアを張ってくれ」
その言葉にデルピュネーはでも!と言うが、でもじゃない!とイフリートは声を上げる。
「…おいらが、おいらが“怪物態を使えない”とか言ったから、こんなことになっちまったんだ」
イフリートは俯きながら続ける。
「だから、おいらがなんとかする」
イフリートはそう言って前を見据えた。
「…デルピュネー、周りに被害が出ないようバリアを張ってくれ」
ちょっと本気出す、とイフリートは再度歩き出す。
デルピュネーは分かったわ、と頷いた。
イフリートは振り向かずに走り出すと、燃える髪と瞳を持つ巨人に変身した。

テトモンよ永遠に!
女性/21歳/東京都
2024-01-24 19:37

CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その③

恐る恐るといった感じで、屋内を覗く。入口から右側の壁は、一面の本棚に埋め尽くされており、それが入り口と反対側の壁の方まで侵食している。入り口扉の正面には簡素な台所があり、入って右には細長いテーブルが置いてある。椅子は無い。家具はそれだけだった。
無意識に小屋の中に1歩踏み入り、中の様子を見ていると、奥の方で何か物音が聞こえた。本棚で埋め尽くされた角の所だ。
そちらに目をやったのとほぼ同時に、本棚の上からだらり、と腕が垂れ下がった。棒切れのように細く、小麦色に日焼けした、柔い子どもの腕だ。どうやら、本棚の上に小さなロフトのようなスペースがあるらしい。
その腕をじっと見つめていると、子どもの全身が蛇のように床にずり落ちてきた。
もう11時を過ぎているが、まだ寝ぼけているのだろうか。うつ伏せのまま動かなかったその子どもは、突然がばっと身を起こし、こちらを睨みつけた。
「……おじさん、だれ?」
まだ“おじさん”なんて年齢では無いと思っていたんだが……。
「えっと、勝手に入ってきて悪かったね。私は見沼といって、前任の浦和さんに代わってインバーダ対策課から来た者だ」
「…………?」
「君が、モンストルム“キュクロプス”だね?」
「ん」
私が名乗ったのには微妙な反応をしたが、向こうの名前を確認すると、短く頷いて再びロフトに潜り込んでいった。
そして数分ほどして、寝間着から着替えてまた下りてきた。
「ねーおじさん、おじいちゃんは?」
キュクロプスが尋ねてくる。“おじいちゃん”というのはおそらく、前任の浦和さんのことだろう。
「浦和さんは、定年ということで退職したよ。それで今年から、私がこの島を担当することになったんだ」
「…………?」
キュクロプスはピンと来ていないようだった。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-24 23:20
  • ああやっぱり。
    「見沼」で「浦和」ってことは、やっぱりさいたま市の区名から人名を持ってきてるのね。

    テトモンよ永遠に!
    女性/21歳/東京都
    2024-01-25 00:13

CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 6日目-2

ダキニに支えてもらい、居間に入る。スーツの男に老人が掴みかかっていた。ダキニと協力して二人を引き離し、話を聞くことにする。
スーツの男曰く、私を迎えに来たとのこと。老人には、私を保護していた謝礼も払うつもりでいるとか。なるほど何もおかしくない。
老人曰く、私のような子供を死にかねない大怪我をするような戦場に駆り出す所業が許せないとのこと。これは分からない。私は兵器だと、彼には既に言ったはずだが。
しかし私の意思としては、再び戦場に戻れるのは喜ばしいことだし、対策課やDEM社の預かりになった方が修復も早いだろうから、スーツの男の側につきたいところだが。
老人は善人である。この村の人間たちもまた、善人である。無知ながらも、然して逞しい善人たちだ。
そして私は、彼らに生命を救われた恩がある。インバーダの魔の手から守られない、哀れなこの村を捨てるように別れるというのも、あまりに不義理ではないか。
そこで私から、スーツの男に申し出た。私にこの村の守護を任せてほしいと。
スーツの男曰く、大都市の防衛にはより戦力を割く必要があり、元の担当区域とこの漁村の距離が数十㎞もあることから私が抜けた穴を埋めるのも簡単な話では無いとのこと。早い話が、彼は私の申し出に反対しているわけだ。
全く理解できないことである。たかが人間如きが、何故モンストルムに逆らおうとするのか。『生み出した側』である。ただそれだけの理由で、自分たちが決戦兵器の意思を操れるとでも思っているのだろうか。
私が手を出す前に、ダキニが動いてくれた。彼女が怪物態に変化し、巨大な白狐の牙をスーツの男の喉元に宛がったのだ。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-24 23:27

CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑬

次に目覚めたのは、あの地上と地下隔離施設を繋ぐエレベータの中だった。周りを見回してみると、怪物態のデーモンが私を肩に担いでいる。
「デーモン、ありがとう」
「気にしないでよ、フェンリルの頼みだ。彼がやると君、死んじゃうからねぇ」
「……そういえばフェンリル、さっきも言ってたけどどういう能力なの?」
「あ? 俺の能力か。『行動全てが破壊に変換される』、そういう能力。手足を軽く曲げるだけでも、呼吸をするだけでも、心臓が打つそれだけでも、全部周りをぶっ壊す。耐久力も硬度も全部無視してな。そういう能力。頑張れば止めておくこともできるんだけどな」
彼が言い終わった辺りで、エレベータが地下に到着した。そこから出て、スレイプニルが向かったあの地下空洞の方を見る。2体の馬のインバーダはどちらも舌を出して地面に倒れていて、代わりに8本脚の灰色の馬が立っていた。灰色と言っても、まるで光り輝くような艶やかな毛並みで、灰というより銀って感じだ。
「よ、スレイプニル。どうだった?」
「楽しかった」
言いながら、その馬はスレイプニル(人型)に戻った。
「ベヒモス。戦いの感想は?」
「……今回は周りに普通の人も居たから、みんなを守らなきゃって思って、最初より頑張れた。……みんなを守れてよかったと思う」
「そう。それじゃ、これからも人間を守るために戦い続けたい?」
「いや」
驚くほど即答できた。
「ずっと精神擦り減りっぱなしだったし、身体痛いししんどいし、もうやりたくない。……ああ、スレイプニル」
「何?」
「私、外に出てやりたい事決まった」

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-25 17:22

CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 7日目

時、14時12分。場所、インバーダ対策課のメンテナンスルーム。
ダキニの『協力』のおかげで、私はあの漁村に留まれることに決まった。と言っても、外傷の治療のため、一度古巣の大都市に戻る必要はあったわけだが。
老人にしばしの別れを告げ、スーツの男の乗って来た自動車で帰還し、現在はメンテナンスを受けている。
全体的な治療を済ませ、寝台の上で安静にしていると、ダキニが軽やかな足取りで枕元にやって来た。
彼女曰く、相棒である私について、あの漁村まで来てくれるとのこと。私には恩義があるが、ダキニにとっては何の思い入れも無いはずだろう。それについて問うと、彼女は私を救った恩をあの村に覚えているのだとか。
私の愛しい荼枳尼天の異能は、『人間の守護』に主眼を置いている。あの小さな村を守るためには有用だろう。
彼女の申し出に感謝して、私はひとまず眠りに就くことにした。傷は癒えた。体力の消耗も明日まで眠れば回復するだろう。
明日目覚めたら、朝一番であの村に帰ろう。道は覚えているし、足はダキニに頼めば良い。対策課の人間に頼めば、もしかしたら車ぐらい出してもらえるかもしれない。
あの漁村でも、きっと私は戦いに身を投じることになるだろう。しかし私の心は不思議と、これまでの淡泊な義務感とは違う、奇妙で幸福な高揚感で満たされていた。

何かが崩壊している者
男性/22歳/埼玉県
2024-01-25 17:27

CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 16

「}$*|•_•[|$|*]•£|€~£\‼︎」
そしてイフリートはゲーリュオーンに体当たりした。
ゲーリュオーンは背後に展開したバリアに叩き付けられそのまま地面に倒れ込む。
「{>|+€|“=’;‘;>{\$€[>;*[+_$’;“;>;>‼︎」
イフリートは雄叫びを上げると再度ゲーリュオーンに向かって駆け出す。
ゲーリュオーンは起きあがってイフリートと組み合った。
「‘;’|$\€{”;+\+_‘;>,‼︎」
「“;’{=\€>;|++;”;“,‘|‼︎」
怪物たちはお互いにうめき声を上げながら押し合うが、やがてゲーリュオーンの方が押し倒された。
ゲーリュオーンはそのまま倒れ込みそうになるが、倒れ込む場所にバリアが展開してその上に身体を打ち付けられた。
「${=€“;’.‼︎」
ゲーリュオーンは起きあがろうとするが、その左右にもバリアが展開して身動きが取れなくなる。
「{>;‘|’|*‼︎」
動けないゲーリュオーンに向かって、イフリートが炎を纏わせた拳を掲げて駆けてきた。
「“|$;$$]+|‘’|+|$|$|”‼︎」
ゲーリュオーンは悲鳴を上げるが、イフリートはそのまま拳をゲーリュオーンに向かって振り下ろした。
怪物の叫び声が、無人の街中に響き渡った。

テトモンよ永遠に!
女性/21歳/東京都
2024-01-25 19:21

CHILDish Monstrum:CRALADOLE Act 17

「という訳で、今回もインバーダの討伐に成功した、が…」
クララドル市インバーダ対策課本部の会議室にて、1人の男と5人のコドモたちが向き合っている。
「この惨状はどういうつもりなんだ」
男、もとい羽岡は呆れたように会議室のスクリーンに写真を映す。
そこには破壊された街並みが映し出されていた。
「…だって今回40m級の奴が出たんだし」
「それを考えても1体しか出てきてないだろう」
短髪のコドモ、ワイバーンの言葉を羽岡は遮る。
ワイバーンは思わず黙り込んだ。
羽岡はため息をついてから続ける。
「…ゲーリュオーンの暴走により他のモンストルムたちを攻撃、街を破壊した」
全く、どうしてくれるんですかと羽岡は呟く。
「モンストルムが破壊した建造物の補償は、我々対策課の業務でもあるんです」
ただでさえ我々は忙しいのに、と羽岡は付け足す。
「一体どうしてくれるんですか」
「ンなこと言われても」
金髪のコドモ、イフリートが腕を組んで言う。
「おいらたちの仕事はインバーダを退治することなんだから、仕方ねーだろ」
「質問の答えになってませんよ」
イフリートの言葉に対し、羽岡は突っ込みを入れる。

テトモンよ永遠に!
女性/21歳/東京都
2024-01-26 19:05
「まとめ4」に続く。