-テーマ-
季節
-登場人物-
桜尾 巳汐 男
夏川 阿栗 男
彩生 木芽 男
冬橙 李寂 男
白帆 唯 女
名前の読み方
桜尾 巳汐(さくらお みせき)第1章
夏川 阿栗(なつかや あぐり)第2章
彩生 木芽(さいりゅう このめ)第3章
冬橙 季釉(とうどう きゆう)第4章
白帆 唯(しらほ ゆい)すべての章
あと
白帆 茜(しらほ あかね)ときどき
朝。
まだ肌寒い、梅雨入り前の5月。
一人暮らしを始めて約1ヶ月。
「おはようございます」
いきなり、声をかけられてビクッとしてしまった。
見慣れない人だ。
顔に出てしまっていたのか、その人はこう答えた。
「先日、引っ越して来た 桜尾 巳汐 です。一応、白帆さんのお隣ですよ」
その人は優しく笑った。
まるでふわりと花開くように。''桜''と名前に入っているからだろうか。
(ん?何で私の名前...?)
私が疑問を口にする前に
「では」
と、部屋に入っていってしまった。
(あれ?もしかして挨拶するためだけに出てきてたのかな....?)
「おはよ。唯ちゃん」
私が住んでいるこの団地の大家さんだ。
優しい雰囲気の婆ちゃんだ。
...せっかくだ。婆ちゃんに聞いてみよう。
「おはようございます。あの...桜尾さんって...?」
「ん?あぁ...巳汐さん?唯ちゃんのお隣さんね?
最近越してきたのよ」
うん。それは知ってる。
「えぇ。そうらしいですね。...どんな方なんですか?」
「どんなって....」
婆ちゃんは少し困った顔をした。
「私もあんまり知らんけどねぇ...。ちょっと不思議な人よね」
やっぱりそうなんだ。不思議 かぁ。
「唯ちゃん?時間、いいのかい?」
あっ!そうだった、桜尾のことで頭が一杯で時間のこと忘れてた。今日は学校がある。
「大家さん、ありがとうございました。では」
「いってらっしゃい」
(つまらない...)
今年、大学に入学した。
高校とは違って好きなことが
好きなように勉強できると思って
楽しみにしていた。
でも...
私には「好きなこと」がなかった。
今まで、ただ何となく
やらなくてはならなかったから
勉強していた。
何となくで今まで過ごしてきた。
それに今更気づいた。
もう何も考えず、とぼとぼと
家路を辿っていた。
あと一つ交差点をまがれば家、というところまできた。
何やらやけに目立つ
一軒家が目に入った。
『骨董屋』
思わず吹き出してしまった。
何の捻りもない、単純な店名だ。
私は引き寄せられるようにその店に入っていった。
「いらっしゃい.....あれ?」
入った瞬間店員から声がかかった。
「白帆さんですよね?!」
あれぇ???
この声、この顔...
「桜尾です。朝会った」
やっ...やっぱり...。
何で桜尾さんが??
もしかしてここ....
「ここ、僕の店なんです。開店したのは昨日なんですけど、白帆さんがお客さん第1号です」
「え...本当ですか?」
「はい。この店開くためにこっちに越してきたんです」
店を開くため?こんな人気のない田舎に??
普通、こんなところに店開くだろうか...。
「昔から骨董品が好きでさ、色々買ってたんだ。家にためてたんだけどかなりの量になっちゃって、兄弟が迷惑がってさ。それでどうせ売るなら自分で店開こうかなって」
いきなり馴れ馴れしく喋りかけてきた...。
「あっ、ごめんね。いきなり馴れ馴れしくしちゃって。嫌だよね」
この人、エスパーか?
「いえ、大丈夫です。ところでどうしてこんな田舎にお店を?もっと都会にすればよかったのに」
彼は少し考えこむような顔をした後、
「特に理由はないよ?ただ何となくここが好きだから」
「へぇ。そうなんですか」
「じゃ、ゆっくりしていってね」
''ただ何となくここが好きだから''
そういう彼はどこか遠くを見据えていた。
「何かあったんですか?...ここで」
唐突に聞いてみた。
「えっ?!...いや別に....その.......えっと...」
完全に焦っている。絶対何かあったんだ。
フッと、彼が笑った。その顔には、気のせいかもしれないけど''切なさ''があった。
「鋭いね、白帆さん」
苦笑いする桜尾さん。やっぱり、何かあったんだ。
「まだ君のことあまり知らないし、君も僕のことあまり知らないだろう?また、そのうち話すよ」
さりげなく拒絶された。
聞いてはいけないことだったのか。
「わかりました。そうですね」
彼は安心したように笑い、奥へ入っていった。
改めて店内を見渡してみる。
骨董 というよりは 雑貨 という感じのものがたくさん置いてある。
可愛らしい置物があったり、すごく古そうな本が置いてあった。
「そういえば、白帆さん、大学生だったよね。将来の夢とかあるんですか?」
桜尾さんは店の奥で商品の整理をしながら尋ねてきた。
一番聞かれたくない質問だった。
私の将来の夢.....。
私が答えられずにいると、彼が話し出した。
「夢ってさ、いつまでに決めればいいんでしょうね。僕はまだ決まってないんだ。あっ、ちなみにこの店は僕の夢じゃないですよ。邪魔って言われたものたちを売るためにやってるんです。全部売れたら閉めますよ」
「そうですね」
夢......。
「僕はこの店をやりながら見つけていこうと思っているんです。ゆっくり見つけていこうかなって。時間は余るほどあるし」
ゆっくり。
私もそうしていいのだろうか......。
「あっ」
少しの間沈黙があった。
それを破ったのは彼の方だった。
「白帆さん、雨降りそうですよ」
そろそろ帰れ、ということだろうか。
「雲行きが怪しいから。夕立にうたれてしまう」
心配してくれているのか。
でももう少し、もう少しだけ.....
「手伝っちゃ駄目ですか?商品の整理」
彼と話がしたかった。
「えっと....僕はいいけど...大丈夫なの?...その..帰ってやらなきゃいけないこととか....」
「大丈夫です。どうせ家に帰っても暇なだけなので」
「そう。ならお願いしよう」
それから
彼と話した。
お互いの趣味や特技、どんな人間なのかを。
商品の整理をしながら。
「よし。大体綺麗になったよ。ありがとう」
もう外は暗い。
ここからあの団地まではさほど遠くないし、
何より桜尾さんも同じ団地だ。(しかもお隣。)
「鍵、閉めるよ」
ガチャン.....
雨は止んだようだ。まだ少し空気が湿っている。
「♪明日はきっといい日になる~♪」
桜尾さんが小声でいきなり歌いだした。
「その曲、知ってます。いい曲ですよね」
「うん。すごくいい曲だよね」
あっ、またあの顔だ。どこか''切ない''あの顔.....。
「この町で、ある人が亡くなったんだ......」
もう私に心を許してくれたのか、この町にあの店を開いた経緯を話してくれた......。
―ある暖かい春の日のことだった。
僕はその頃、自慢じゃないけど彼女がいたんだ。
彼女はこの町に住んでいた。すごく綺麗な人だったんだ―
「桜、綺麗だね」
「あぁ」
その日、僕は彼女のいる町に花見にきていたんだ。
それから、彼女が買い物がしたいって言うからショッピングセンターに向かっていたんだ。
それは、突然の出来事だった.....。
信号待ちをしていたら小さい男の子が、ボールを追いかけて道路に飛び出してしまったんだ。
彼女はその子を助けて、自分は車にはねられた。
すぐに病院に搬送されて彼女は治療を受けた。
けど、手遅れだった。
彼女は事故現場で僕が近づいていったら
こう言ったんだ。
''体が勝手に動いちゃって....。ごめんね...。''
本当に正義感の強い人だ、と思ったよ。
なんであの時、僕は彼女を止めなかったんだろう....。なんであの男の子を止めなかったんだろう って今でもよく思うよ...。
僕は本当に駄目な奴なんだ....。
「ごめんね。すごく暗い話だったよね。って、なんで話したんだろう...。この話今まで誰にもしたことなかったのに」
また彼は''切なく''笑った。
「僕はその頃、自慢じゃないけど彼女がいたんだ」
すっと息を呑むように、「切ない顔」で、淡々と語りだす桜尾さんがとても格好良くて素敵です。
桜尾さんの話を聞いて改めて思った。
(人の死って、突然なんだ....)
実際、唯も両親の死でそれを実感した。
自分もいつ死ぬか分からない....。
「白帆さんって、不思議だね。すぐに心を許してしまった。今まであまり人を信じれなかったのに」
(えっ.....)
そんなこと始めて言われた。
そんな力が私にあるんだろうか...。
それから家に着くまで私も彼も
一言も話さなかった......
「あのさ....いきなりよくも知らない男にこんなこと言われるの嫌かもしれないんだけどさ......」
「....?」
「たまに、たまにでいいからうちの店に手伝いに来てくれないかな?」
全く嫌じゃない。
むしろ嬉しい。
初めて人に頼られた。
「もちろん!私で良ければ、いつでもお手伝いしに行きますよ」
彼は笑った。
初めて会ったあの時のように。
まるで花開くように。
―まだ肌寒い5月の初めの物語―
あぁぁぁ!!!
続く気がしません。
自分のボキャブラリーの少なさに改めて気付かされた今日この頃です.....(泣
冬橙くんの下の名前を変えます!
季釉くんです!