-テーマ-
季節
-登場人物-
桜尾 巳汐 男
夏川 阿栗 男
彩生 木芽 男
冬橙 李寂 男
白帆 唯 女
名前の読み方
桜尾 巳汐(さくらお みせき)第1章
夏川 阿栗(なつかや あぐり)第2章
彩生 木芽(さいりゅう このめ)第3章
冬橙 季釉(とうどう きゆう)第4章
白帆 唯(しらほ ゆい)すべての章
あと
白帆 茜(しらほ あかね)ときどき
(いきなり話が春から夏の終わりにとびます。自分の気まぐれなので何卒ご了承ください。)
私の大学に変わった人がいる。
その人は 本 と 花 をこよなく愛する 男子。
時折花言葉だけで会話するらしい。(ただの噂だが)
少し興味がある。
どんな人なんだろうな、と思っている。
話してみたいな、と思っている。
思っているだけ。
基本、人と話すことが嫌いな私は自分から話し掛けることは滅多にない。
遠くから人の話を聞くだけ。
そんな私でもこの人とはなぜか自然に話せる。
ある店の経営主。
その店は古い一軒家を改装したらしい、かなり古い。その古い扉の前に墨でこう書かれた看板がある。
『骨董屋』
その看板の横を通って古い扉に手を掛ける。
ギギイィと呻き声のような音をたててその扉は開いた....。
「いらっしゃい。あっ白帆さん」
「こんばんは。今日もお客さん、来ませんでした?」
「はい。残念ながら」
と、苦笑した彼はこの店の経営主、私の住んでいる団地のお隣さん 桜尾 巳汐 さん。(ちなみに年齢は何度聞いても教えてくれない。)
「やっぱり、無理があったかもしれませんね。素人が一人で店を開くなんて」
きっと大丈夫だ。これから人が入りだすんだろう。でも、一つだけ....
「店の名前、変えません?流石にそのまま過ぎないかと」
「そうかなぁ」
そんなこと言っても彼はきっと変えないだろう。この単純な店の名前にもきっと意味があるんだろう、ちゃんと。私には分からないけど。
その時私が入ってきた時のように、あの古い扉がギギイィと鳴いた。
「.....お客さん...かな?いらっしゃいませー」
そこに立っていたのはどこかで見たことがある男子だった。
「あっ」そうだ彼は.....。
「あれ....」彼の方も何かに気付いたようだ。
「あなたは確か......」
「君って.......?」
『骨董屋』の古びた扉がゆっくりと開かれた。
ギギィ…
「あなたは確か…?」
「君って…」
「夏目くん?!」
夏目 阿栗くん。最近大学で噂されている花と本が大好きな男子。
まさかこんなところでお目にかかれるとは....。
「えっ.....僕のこと、知ってるんですか?」
夏目くんは驚いた顔をした。
自分が噂されていることを知らないらしい。
「結構有名ですよ、夏目くん」
「そうなんですか?!」
意外だ…って顔をしてる。
「ん?知り合いなの?白帆さん」
桜尾さんが、空気が読めなかったらしく直接聞いてきた。
「知り合いというか、同じ大学なんです」
話したこともないのに知り合いだなんて言えないし。
「白帆…もしかして茜さんですか?」
えっ?アカネ?あぁ、茜ね…。
「私は茜じゃないです。茜は私の姉です」
白帆 茜は私の双子の姉。
生まれつき天才肌で楽器は弾ける、勉強は完璧、人もいい、人気者だ。そりゃあ、夏目くんも知ってるだろう。
「あっ、妹さん…。双子ですか?」
「はい」
姉の話題になるとつい素っ気なくなってしまう。
別に姉が嫌いな訳ではない。ただ、比べられるのが嫌なだけで。
「人と比べて自分が劣ってるからって、気にすることないと思うよ」
会計をするために作ったカウンターに座り、頬杖をつき外を見ながら桜尾さんが言った。
“人と比べて自分は劣ってるからって、気にすることない”
桜尾さんはいつも私の心を見透かしたようにアドバイスをしてくれる。不思議な人だ。
「…はい。そうですね」
私は笑って桜尾さんに返した。
桜尾さんもいつものようにふわりと笑い返してくれた。
(この人はどうしてこんなに優しい笑顔が出来るんだろう…)
「よし、そろそろ閉める時間だ。白帆さん、夏川くん、また明日ね」
かなり話し込んだ。
人と関わることが苦手な私だが、夏川くんとは同じ本好きということで話が合ったので、すぐに仲良くなれた。
また明日 と桜尾さんが言ったのは明日、夏川くんも手伝いに来てくれるということだからだ。
彼もここが、桜尾さんのことが気に入ったらしい。
また一人、常連客が増えましたね。
このまま、順調に増えていくといいですね。
と、心の中で桜尾さんに話しかけた。
すると桜尾さんは、ゆっくりとこちらを見て優しく笑った。まるで私が心の中で言った言葉に喜んでいるかのように。
桜尾さんは、人の心が読めるのだろうか。でも、問い詰めたりはしない。彼が話してくれるまで待とう。話したくないならそれはそれで、別にいいから。
「さよなら。また明日」
夏川くんがそう言って私たちに背を向け帰っていった。
「僕はまだちょっと仕事が残ってるから」
桜尾さんは店内から手を降りながらそう言った。
「じゃあ、また明日」
「うん。また、明日もよろしくね」
最近は退屈だと感じることが少なくなってきた気がする…。
見慣れた重い扉をゆっくりと開いた。
ギギギィィィ………
「おはようございます」
いつも通りの景色だ。
既に夏川くんが来ていて、桜尾さんと仲良く話していた。
「あっ…おはよう、白帆さん」
桜尾さんがいつも通りの笑顔で返してくれた。
それで気づいて夏川くんも
「おはようございます、唯さん」
と言ってくれた。
「今日も客、来ないねー」
桜尾さんがつまらなさそうに言った。
「いつもこんな感じなんですか?」
夏川くんが私に向かって言ってきた。
お互いに話しやすくなった。
(まだ一日しか経ってないけどね。)
「こんな感じです」
「へぇー」と、夏川くんもまたつまらなさそうに言った。
「やっぱり心が通じ合う人とは、すぐにわかりあえるんだよ」
桜尾さんがどこか遠くを見て静かに言った……。
第一話から読みました!
本物の小説を読んでるみたいです。
続き楽しみにしてます!!
あれ?
また……なにも言ってないのに…。
「桜尾さん…」
「そうだよ。君の予想している通りだよ」
えっ…
「えっ…?」
夏川くんも同時に言った。
「なんかね、昔からあるんだ。才能なのかな」
別に家系的なことではないらしい。
昔から人の本心がわかってしまったらしい。
「辛かったよ。聞きたくもない声が聞こえたり」
良いこともあるが、悪いことの方が多い才能らしい。
「我慢できるようにはなったんだけど、人を信じられなくなるよ」
人は、人の心は、暗い渦が巻いている。
純粋な心は、すんでいる。
と、桜尾さんは言う。
「良いことないよ。人の心なんて読めたって」
時々見せる“切ない”あの表情は、それのせいもあるのだろうか。
すべてを見据えたような表情
とでもいうべきか。
すべてわかったような表情。
闇を理解したような表情。
…きっと、桜尾さんの場合はすべてわかっていて、闇をすべて理解しているんだ。
“ような”じゃなくて。
「桜尾さんって……」
夏川くんが口を開いた。
「桜尾さんって…」
夏川くんが口を開いた。
「…初めて会ったときから思ってたんですけど
……“さくら”みたいな人…ですよね」
“さくら”みたいな人…。
「どういう意味?」
桜尾さんが問う。
「“さくら”……具体的に言うと“ふじばかま”かな。
“ふじばかま”の花言葉が '思いやり'、'ためらい'なんですよ。優しい感じの花なんです」
そうだった。
出会ってからまだ少ししか経っていなかったからか、夏川くんのこの一面を初めて目の当たりにした。
「はな…好きなんでしたね」
私のその一言で夏川くんの表情が陰った。
「変人………って思いました?」
元々低い夏川くんの声が一段と低くなった。
「…別に………よく言われるんですか?」
予想と違う返答に驚いたのか、少し表情が明るくなった。
「……はい。よく言われるんです。男のくせに、変人変人ーって」
やっぱり。よく言われるんだ。
「思いませんよ、変人なんて。逆に………」
うつむき加減で私は言った。
「憧れます」
「えっ………?」
「えっ………憧れって…?」
夏川くんが心配そうな顔をした。
「いえ。何でもないんです」
夏川くんには隠せても桜尾さんはたぶん全部知ってるんだ……。
(心読めるんだもんな、桜尾さん)
そう思ってふと桜尾さんの方を見た。
桜尾さんは優しく微笑んでいた。
「僕は何も言わないよ。白帆さんに言われない限り」
(やっぱり優しい人だ…)
人の心が読めてもあえて何も言わない。
人の心が読めるから人の気持ちがよくわかるんだろうか。
“ふじばかま”の花言葉… '思いやり'
「確かに“ふじばかま”っぽいですね」
いきなり話しかけられて少し驚いた夏川くん。
そして嬉しそうに
「そうですよね。ぴったりだと思うんです」
そう言われた桜尾さんは嬉しそうに照れ笑いした。
それから私の方に向き直して優しく笑い掛けてきた。
「ゆっくりでいいんだよ。白帆さんにはまだ沢山時間がある」
“時間は沢山ある”
そうだ。私はまだまだこれからだ。
ゆっくり答えを出せばいい。
ゆっくりと、確かな答えを。
「運命っていつ決まるかわかりませんからね。突然やって来るものですから、ゆっくり待てばいいと思いますよ」
夏川くんがそう言った。
とても大人びた言葉だった。
「ありがとう」
いつも以上に素直に笑えた気がする。
その瞬間、
ババババンッッッ!
とてつもなく大きな破裂音がした。
「えっ…?」
ピカピカッとくすんだ窓の外が光った。
なんだろう……?
「花火…だね、今日」
桜尾さんが窓の外を見ながら言った。
そうだった。
今日はこの夏最後の花火大会。
「見に行くかい?」
私と夏川くんは顔を見合わせて、そして頷きあった。
桜尾さんがずっと座っていたカウンターから立ち上がって
「よし。もう店も閉めるしね。行こうか」
重い扉を開けると外では花火が大量に打ち上がっていた。
この辺りは田舎なので建物の背が低いため、どこからでもよく見える。
「人と一緒に花火見るって、初めてです」
夏川くんがそう言って私に笑い掛けてきた。
桜尾さんも
「僕も初めてだな。一人ではよく見てたけど」
と苦笑いした。
綺麗だ。
そういえば私もこんな風に誰かと一緒に話しながら見たことはなかった。
いつも見ているより一段と綺麗に見える。
「もう夏が終わるね」
桜尾さんが呟くように言った。
「そうですね」
私と夏川くんが同時に答えた。
今年も夏が終わる。いつもと違う夏だった。
濃い夏だった。
「たーまやーーー!!」
桜尾さんが叫んだ。
とても楽しそうに。
「たーまやーーーー!」
ー暑さが和らぎ出した夏の終わりの物語ー
冬橙くんの下の名前を変えます!
季釉くんです!