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1

無幻の月-戒放-

埠頭までの直線距離自体は比較的近かったが少し寄り道することにした。魔力のテストのためだ。
通行人数人に思い付く限りの呪文をかけてみたが確かに制限は外れており、どんな魔法でも自在に行使できるようになっていた。
ふむ...考察は正しかった...なら...
桜改めサクラは気配を消して今度こそ埠頭まで行くことにした。

埠頭は既に地獄の門と化していた。哭羅はファントムに怒ったように何か指示を出している。多分、私を探しているのだろう。
そんな時、一体のファントムが哭羅へ反乱した。だが触れるより前に喰われてしまった。
「(まぁ...一体ならこんなものか)」
無感動に海に向かってサクラが呪文を唱えると海が沸き立ち始める。
「甦れ亡者よ!私がお前たちの新たな主人だ!」
サクラの切り伏せたファントムが海から哭羅めがけて突撃する。
哭羅はもちろん、周りのファントムたちも何が起きたのか理解できなかったようで動きが止まるがすぐに応戦を始める。
しかしこの一瞬が命取りで皆防戦一方だった。
「...散れ!」
サクラが一瞬ずらして突撃し、魔力で巨大化させた鎌を振り下ろす。
傀儡ごとファントムは全滅させたが、哭羅に対しては腕と足を持っていったものの避けられてしまった。
これだけ斬れれば十分だろう...
哭羅の真上まで上昇し、鎌を天に掲げて呪文を唱える。
同時に哭羅も咆哮と共にサクラへ手を伸ばす。
「届くまい...己の部下と共に砕け散れ!」
先ほど全滅させたファントムの傀儡が哭羅の足をつかむ。
無慈悲に振り下ろされた鎌は空の亀裂ごと哭羅を斬り裂いた。

2

無幻の月-宿痾-

「哭羅(コクラ)...そんなものまで出てくるなんてねぇ...」
桜は戦場から少し離れたところにワープさせられてた。
「賢者...なぜ助ける...」
「緊急事態なんでね。本来はこんなことはしないけど哭羅が出てきちゃったからねぇ...絶対にキミにはヤツを倒してもらいたい」
コクラ...あのでかいヤツのことか?
「だからキミの腕は魔術的に繋げさせてもらった」
なるほど、まだ変身状態なのはそういうことか
「賢者、二つ聞かせろ」
「なんだい?今さら降りるとかは無しだよ?」
「一つ、コクラとか言うあの怪物はなんだ、あれを放置すると何が起こる」
「あれはファントムの上位種。いわば支配者、王様みたいなものだ。この世界では...なんだっけ...あーそうそう、ダゴンって呼ばれてる」
ダゴン...昔何かで読んだな...どっかの宗教の神様だったか?なるほど、それであんなに強いわけだ
「そして、あれを放っておくとこちらの世界がメチャクチャになる」
さした影響は無さそうだな
「では二つ、私があの指輪を取り込んだらどうなる」
一緒にワープさせられた右腕を手に取りながら言う。
これは前々から考えていたことだ
取り込めれば恐らく指輪のリミッターを外せる
もっともこれが危険な賭けなのがわからないほど私も馬鹿ではないのだが
「...あなた正気?」
いつも飄々してた大賢者の顔が険しくなる。
「正気だ。お前が私の前に現れた時と同じくらいにはには」
「...そもそもマジックアイテムの力にその肉体が耐えきれない。仮にそこをクリアしたとしてもキミは常に変身状態でいるここと同じになる。人の精神がそれに耐えられるはずがない」
「なるほど...面白い!」
聞き終わった後、指ごと指輪を飲み込んだ。
体内で力が駆け巡る。耐えきれないというのは納得だった。
だが...これなら...
暴れだしそうな魔力を精神力でねじ伏せる。
それはもう、人に非らざる魔なる者だった。
「あなた...何を...!?」
「...いい気分だ...」
「この魔力...ファントム!?まさかあなた、アレも取り込んだの!?」
どうやら、あれは禁じ手だったらしい
持ってかれた右腕を魔術で生やし、焦る大賢者を尻目に再び戦場へ飛び去った。