やさしいことば
家族に怒り口調で話した日、私の心はちくりと痛んで仕方なかった。
「どうしてあんなこと言ってしまったのか」なんて考えても遅くて、ただただその時の光景が目に浮かぶ。
あんなに悲しそうな顔見たくなかった。
ぽっかり穴が空いたみたいな色のない時間。
止まったまま動かないんじゃないかってくらい、しんとしてた。
口に出した言葉はかえってなんてこない。
むしろどんどん先に進んでいく。
おいてけぼりなんだ。自分が。
言葉は自分がおもってたよりも、強い。
心に響いて仕方ない。
自分が嫌になって、なにもかも投げ出してしまいそうだ。
そんなとき、歌がかかった。
テレビの音楽番組だった。
そのバンドの名前は覚えていない。
けれど、こんなにやさしい言葉もあるんだなって、思った。
時々、魔法の言葉とかってみんなが言っててそれに耳を傾けてた。
私は魔法の言葉とか、ないんだって思ってた。
でも、暗い気持ちの中で灯りをともしてくれるようなその曲は魔法みたいだなって感じた。
ステージに立つその人たちみたいになれたらいいのかもしれない。
でも、わたしにはそれは難しいから、やさしい言葉を大切にしたいなって思う。
それは、少しだけ大人になれた日の、たしかな思い出。