悪友 1.ヒズ ポイント オブ ビュー
昼とも夕方ともいえぬ時間帯、路地裏を歩く俺を、誰かが呼び止めた。
「あら、」
振り向くと、そこには長い髪を一つに束ねた長身の少女がいた。
「…フン、お前か。一体何の用だ」
「…別に用なんかないわ。たまたまアンタを見かけて話しかけただけよ…そう言うアンタは何してるの?」
少女はわざとらしく首を傾げる。その顔に浮かぶ笑みはいつになく憎たらしい。
「ちょっとコンビニにノート買いに行くところだ…お前は、塾にでもいくところか?」
俺は、彼女が背負うリュックサックに目をやりながら言う。
「ハズレ。友達ん家に遊びに行くところよ。…今思ったけど、アンタ、ホントはコンビニ行くついでに駄菓子屋にでも寄るつもりなのでしょう?」
「ぎくっ」
見抜かれた、と思った。やはりこの女を、俺は昔から騙しきることはできない。
「ふふふ、当たりね。どっちにしろ”ココアシガレット”のソーダ味バージョン買いに行くんでしょう? 私にはお見通しよ?」
「”サワーシガレット”な。いい加減名前覚えろ… てか、お前も行くんだろう? 駄菓子屋」
あら、お見通しなのね、と彼女はにっこり笑う。
「まぁな…お互いに色々お見通しなんだよ。そうでなけりゃこんな風に会話するようなことはなかろう?」
「そうね。一応私の方が年上だし、学校が違うのにこうやってお喋りできるのは、お互い似たようなものだからね…」
そう言い終えて、彼女はふっと目を細める。
「…こういうのを”腐れ縁”とかって言うのかしら」
それを聞いて、俺は違うな、と苦笑いした。
「…”悪友”が一番ちょうど良いな。…俺達は」