どんな星が見えた?真っ赤で泣きそうな丸い この星!我が子ながら感受性が豊かやな。た まに2人で車を飛ばして、山間のキャンプ場 で望遠鏡を置き空を見上げる。都会の狭き空 も嫌いではないが、自然な星空は幼き日々の 追憶で心が温まる。オレいつか宇宙に行きた い!ハッとした。両親にたった一度だけぶつ かった記憶。頭冷やして考え直せ。いつだっ け。時を忘れようが事は忘れぬ。覚悟を持っ て彼に言った。一緒に目指すか宇宙飛行士。
赤く染まったスタンドの真ん中に奴がいた。 鼻が高く眉目秀麗。筋肉質だが凛とした立姿 は場の空気を緊張させる。僕は真直に見つめ 別段意識してない風の顔を必死に作る。いず れ弟と対峙すると思っていた。だが初対戦ぞ ?日本シリーズ最終戦あと1アウトぞ?えー い、特大HRで追いついてやる!ベンチを見 やると監督含め全員の祈る眼差しがあった。 花束が空を舞う。一球での幕引き。ロジンの 粉でボヤっとする。最悪で最高の涙が出た。
名も知らぬ音楽家に心を奪われた。埋もれた 曲に宝を見つけたい、という欲に美しい旋律 が調和した。歌詞カードを手繰る。題名は煩 脳とある。曲の短さに合点がいくが、展開・ 内容が1分48秒と感じさせない。楽しい音 を音楽とはよくいったものだ。突然発作の前 駆症状の発生。これ以上は止める。妄想にふ けって落ち着こう。空が澄んできた。早朝の 巡回が始まる。注射の痛みでまた気が遠くな るだろう。その前に煩悩の鐘を鳴らそうか。
こたつで温々蜜柑を食べる。掌の黄ばみが取 れない。外を厭い殻に籠り幾何か。大切な刃 が毀れきった。それでもただ思考停止し、公 私の区別がなくなった。今日も亦た夜中小さ な画面に向かってニタニタと喋りかける。偽 りが産むモンスター。顔を上げ我に返ると隣 の部屋から、すすり泣きの音がする。僕の応 答待ちなんだろうなぁ。分かってるの。現状 では「人間」としてはダメなことくらいは。 すすり泣きが止む。僕は彼に戻っていった。