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鏡像編年史

鍵だ。
いや、サイズからしても形状からしても、とてもどこかの扉を開けるには適さなそうな物体ではあるんだけれども、それでも第一印象を強いて述べるなら、鍵だ。そんな感じの物体が、路上に転がっていた。
下校途中、普段なら道路に落ちてるものなんか見向きもしないし、拾うなんてあり得ない。
けれど、その物体はあまりにも魅力的過ぎた。引っ張られるようにそれに近付いていく。屈んで、その物体に手を伸ばす。あと少しで手が触れる、というところで、背後で甲高い音が聞こえた。
はっとして振り返ると、少し怖い雰囲気の若い男性が、自転車に跨って私を睨みつけていた。慌てて道の端に避ける。
自転車が通り過ぎたところで、改めて鍵の方に向き直ると、鍵は既に消えていた。いや、周囲を見回すと、少し離れたところに移動していた。
動いた?何かに運ばれたのか、意思でも……、いや、それはいくら何でも馬鹿な考えか。
しかし、ますます気になってきた。駆け寄っていって、そのまま拾い上げる。
金メッキの剥がれた古ぼけたその物体は、それでも魅力的に日光を反射していた。
これは良いものを拾った。宝物にでもしてやろうとポケットに鍵を入れようとしたその時だった。
「ミラークロニクル」
声が聞こえた。