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霧の魔法譚 #4 2/2

最後に一拍置き、気合を溜めてから言い放つ。
「お前らの本気、奴らに見せつけてこい! では出陣!!」

イツキの号令は魔法使いたちを十分に奮い立たせられたようで。
「「「おおーー!!」」」
魔法使いたちの気合の咆哮がブリーフィングルームに反響し――。
「ストップストップーー!」
明らかにこの空気にそぐわない間抜けた声がそれらすべてをかき消した。

思わず片手を振り上げたまま固まってしまうイツキと、口が開いたままやはり固まってしまう魔法使いたち。
見ると先ほどまで誰もいなかった場所に人が立っていた。
真っ青なエプロンドレスに緩くウェーブのかかった金髪。異国情緒というよりはファンタジーからそのまま引っ張り出してきたような恰好で、現実との乖離が甚だしいというか、コスプレかなと疑いたくなる。
目立つ風体の闖入者に、せっかく高揚していた場の空気が行き場を失う。
誰とか何故とか何をとか知りたいことが多すぎて、誰も何も言えず。
しかしいち早く落ち着いたイツキが誰、と訊くより先に。

「あれ、作戦会議ってもしかしてもう終わっちゃった?」

その声の主――大賢者はまたしても間抜けた声で、今度は間抜けたことを言った。
沈黙が再びその場に落ちる。

***
間が空きました。更新です。
場面は変わり、海上から進軍してくるファントムを迎え撃たんとする魔法使い陣営の最終ミーティング。リーダーであるイツキがその最後に仲間を鼓舞し、魔法使いたちの士気は上がり……かけましたが、大賢者の出現により台無しに。

2

魔法譚 ~エンドレスライフ、エンドレスジャーニィ Ⅲ

「…そうかい? でもこの歳になっても魔法使いとして生きられるなんてすごいと思うよ? だって…」
「…ほとんどの魔法使いは、大人になる前に死んでしまうから」
大賢者が先に言う前に私が答えると、…そうね、と少し悲しげに答えた。
「みんな、幸せになるために魔法使いになったのに、みんな、悲劇の死を遂げてしまう…」
大賢者は悲しそうにうつむいた。
「そんな風に悲しむのなら、魔法使いなんて生み出さなきゃいいのに」
どうして生み出し続けるのよ、と私は言った。
それを聞いた大賢者は、私の目を見つめながら答えた。
「…だって、この世で魔法を使えるのが、わたし1人だけじゃ寂しいじゃないか…」
もちろん、魔法を持たないキミ達に魔法を与えて、どんなことをするのか眺めて楽しむってのもあるけど、と彼女は付け足す。
「…わがままね」
私は少しだけため息をついた。
「…でも、どんな願いもわがままと変わらないじゃないか」
「私のはちょっと違うと思いますけど」
大賢者のツッコミに、わたしはさらっと反論した。
「…オカルトなんて、基本信じてなかったから。だからあの時は、適当に『空を飛びたい』と願ったのよ」
私は彼女から目をそらしながら呟いた。
「…まぁ、いいわ」
そう言って、大賢者はふわりと飛翔した。
「わたしはこれからも、誰かのわがままを、自分のわがままを、叶えるために世界を巡るわ」
あなたも頑張るのよ、そう笑って、大賢者は夜空へと消えていった。