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春を告げる白い華

君が居なくなってもう半年くらいかな
今は冬で寒くて寒くて敵わない
なんとなく君の部屋だった場所に足を踏み入れ
以前聞いたことのあった日記の話を思い出して
悪いと思いながらこっそり見ていた保管場所の引き出しから取り出す
最後のページに僕は全てを掴まれた

「春の雪」
3/29
僕は遂に見た
春を告げる白い華を
空はオレンジに染まり日が沈むのを待っているという頃
つぼみがチラホラと見えるだけの桜の木の近くを通りかかった時
まだ散るには当分時間がかかりそうだなぁと思いながら
空を見上げている僕の目に飛び込んで来たのは
白い花弁が空を舞う姿
それはノノックと呼ばれる花で
春近くで特定の条件を満たした1日だけ花を咲かせ次の日には跡形もなく散ってしまうらしい
きっとそれは誰も知らない景色だとそう思った
こうして僕以外が見ることが無いような日記だけに残すのはあまりに綺麗過ぎたからかもしれないし
僕の中の思い出にしておきたかったのかも
それは花と言うより華だった
僕の頬に落ちたその華はとても暖かく優しさを形にしたみたいだった
殺伐とした世の中で美しく咲いて綺麗に散っていく
散っているのに華はどもまでも綺麗で優しくて暖かい
僕はその景色を死ぬまでに見れた事を人生で最大の自慢にしようと思った
僕の中で永遠に


君が最後に記した日記だ
残念ながら日記は君以外の僕が見てしまったけど
君しか知らないこの景色を僕はどうしようもなく見たくなった
君が言う人生の自慢を僕も作れたら良いと思った

空はオレンジに染まり夜の訪れを待っている
君が見た白い華はこんな空を舞っていたのだろうか
そこに手を伸ばせば君が立っている気がした
春を告げる白い華に魅入られていたあの時の君がそこに
居る気がした



・・・・・・

Hollow Veil/nonoc

nonocさんという方のHollow Veilという曲を僕が勝手にストーリーにしました
短時間で作り上げたものですがもし良いねと思ったらスタンプを押して行ってください
僕が一人で悲しく喜びますので笑
という事で
このシリーズ気が向いたら続けます
多分その内曲のリクエスト聞いたりするかもしないかも
ではまた

1

『偽善とは』

 僕が育ったのは、自然が綺麗なところだった。近くには川があり、晴れた日には光が反射して、川辺に咲く花や木々はそれを見て眩しそうに、そして嬉しそうに風に撫でられていた。近くに寄ると透き通って見えたその川には、たまに魚やカニなんかが顔をのぞかせていて、僕を天敵と見なすとすばやく陰に隠れ、そして見えなくなる。かくれんぼはいつも彼らの方が上手だった。鳥が歌う声もよく聴くから、綺麗であるここは彼らにとって危なくもあるのかもしれない。そんな穏やかでいて危ういこの場所が僕は好きだったし、みんなここにいれば幸せだと思っていた。今、このビルの立ち並んだ光景に窮屈さを感じざるを得なかったし、僕の中の何かが枯渇していたから。
 いわゆる都会という町に出てきて、僕はまるで砂漠に打ち捨てられた草食動物のように、緑を求めた。しかし、求めた先に現れたのは光を弾いて輝く川なんていう宝石箱ではなく、何色とも形容し難い大量の水の塊だった。これを人々は海と呼ぶのだろうか。
 覗いても、濁った色しか見えない。工場も近くにあるし、良くないものがたくさん流されているのだろうと悟った。小さくため息をつき、元来た道へ足を返す。そこで、小さく躓いた。僕を躓かせたその石の陰からは、カニが姿を現した。人的排水によって、ここまで住処を汚されているなんて。僕が1番最初に抱いたのは、かわいそうだとういう感情である。このカニは、綺麗な水を知らない。自分に害のある物質が住処を侵しているかもしれないのに。それも、人間という極めて恣意的な原因に。
 その時、このカニだけでも綺麗な場所で生きてほしいと思った。もう少し進んだ場所に、川が海に合流する、比較的綺麗な場所がある。そこに、逃がしてあげよう。
 そう思ってからは速かった。着くと、やはり先の海よりは断然綺麗でいて、僕はほっとしたのだ。やっと綺麗な場所で生きていけるね。そう声をかけてカニを放した。
 僕が害を加えようとしていたと思っていたのだろうそのカニは、放されると一目散に僕から離れた。長生きしろよ、と海へ入ったのを見届けて、身を翻した。多少だけど、海が綺麗だったから最後まで姿が見えたな。可愛かった。

 そう微笑む僕の頭上から、腹を空かせていたであろう鳥が、海めがけて降り立ったことを、僕は、知るべきだった。