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ツギハギにアイを。

つけっ放しのラジオが午後6時を告げる。直後、あの子が部屋に入って来た。いつものことだ。
通学鞄をベッドに放り投げ、あの子はおもむろに裁ち鋏を取り出した。裁縫が好きなあの子にとってはよくあることだ。
そしてそのまま、ぼくの方へ歩いて来た。裁縫道具を持ったまま部屋の中を歩き回るのも、よくあることだ。
そして、ぼくを持ち上げた。ぼくはあの子のお気に入りだから、これもよくあることだ。
そしてあの子は裁ち鋏を開き、ぼくの首を勢い良く切り始めた。これは初めてのことだ。
あの子はぱっくり開いた傷口から新品の綿を詰め込み始めた。ぼくの解れを直してくれるのも、昔からよくあることだ。
すかすかになっていたぼくの中身を埋めたあの子は、ぼくの毛色にそっくりな茶色い糸で傷口を縫い付け、『いつもの場所』にぼくをそっと置いた。
そろそろ終われると思っていたのに、また「穢」を貰ってしまった。
元々のぼくはもう、毛皮の7割と目玉くらいしか残っていないけど、それでもぼくはあの子を見守り続けよう。あの子の「愛」で引き伸ばされた、終わりまでの数か月か数年か。ぼくには何もできないけれど、ただあの子のために捧げるつもりだ。