表示件数
0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ㉑

その様子を見て霞さんはふふふと笑うが、ここでわたしがさっき思った事を思い出す。
「…そう言えば、霞さんって異能力者だったんですね」
わたし、全然気付かなかったですとわたしは言うと、霞さんはそうだろうねと頭をかいた。
「君が一般人だから言わなかったけど、ネロちゃんが堂々と異能力を使っているのを見て大丈夫だと思ったからさ」
だからあの通り使ったんだ、と霞さんは一瞬両目を菫色に光らせる。
「ちなみに、僕のもう1つの名前は”オウリュウ”だよ」
霞さんの言葉に対し、わたしはそうだったんですねとうなずいた。
「…まぁ、そんなことは置いといて」
そろそろ駅へ向かおうぜ、とここで師郎が手を叩いてわたし達の注目を集める。
「そろそろ霞も帰らなきゃだろ?」
師郎がそう言うと、霞さんはそうだねと答えた。
わたしと黎もうなずき、ネロは耀平に近付いて、行こうよーと腕を引っ張る。
耀平は不満そうな顔をしていたが、うんとうなずくと駅へ向かって歩き出した。
辺りはもうすっかり日が暮れ切っていた。

〈23.オウリュウ おわり〉

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑳

「まぁ、いいわ」
今日はわらわの目的を果たせそうにないし、とヴァンピレスは具象体を消しつつ呟く。
「…でもまた来るわ」
貴方がたの元へ、ねと言い残すと、ヴァンピレスは自分の姿を消した。
そしてその場に彼女の足音だけが響いた。
「黎!」
ヴァンピレスが去っていった後、ハッと我に返ったネクロマンサーことネロは黎に駆け寄る。
黎は静かにうなずいた。
「…この子のお陰でピンチを切り抜けられたんだよ」
すごいよねぇと不意に黎とネロの元へ近付きながら霞さんが微笑む。
それに対しネロは、そうなの?と黎に尋ねると、そうだよと黎は答えた。
「え~すごいじゃーんれーいー」
ネロはそう褒めて黎にくっつく。
黎は真顔ではあるが静かにネロの頭を撫でた。
一方耀平は少し不服そうな顔をする。
「お、耀平嫉妬してる?」
そんな耀平を見て、ネロがかわいくて仕方ないんだな~?と師郎は不満げな彼の肩に手を置いた。
耀平は、そ、そんな訳ないしと師郎の手を払った。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑲

「だ、誰ですの…?」
わらわにペットボトルなんて…とヴァンピレスは顔を上げる。
わたしも彼女が目を向ける方を見ると、紺色のパーカーのフードを目深に被った少年…黎がちょうどモノを投擲するようなポーズで立っていた。
「まさか、貴方…」
ヴァンピレスはふらふらと立ち上がると、黎に向かって具象体の白い鞭を向ける。
黎はかすかに後ずさり、ヴァンピレスは思い切り具象体を振り上げようとした。
しかし、ヴァンピレスの後方から、させるかぁーっ‼という叫び声が聞こえる。
「⁈」
ヴァンピレスが振り向くと、黒い大鎌を振りかざした少女…ネクロマンサーが飛びかかってきていた。
ヴァンピレスはネクロマンサーの具象体を自らの具象体で受け止める。
「あら貴女、わらわの分身はどうしましたの?」
「あんなの倒したよ‼」
「まぁそれはご苦労さま」
ヴァンピレスとネクロマンサーはそう言い合って後ろへ飛び退いた。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑱

「お前が傷ついたら、耀平もきっと傷つく」
だから自分を犠牲にしないで、と黎は続ける。
「でも、それじゃ…」
「大丈夫、自分がなんとかする」
だから協力して、と黎は霞さんに声をかけた。
霞さんは暫くの間、考え込むように沈黙していたが、やがてうん、分かったと言う。
「…じゃあ、異能力を解除して」
黎の言葉に耀平はえっ、と驚いた。
「それじゃおれ達は…」
「いいからお願い!」
霞‼と黎が声を上げた時、分かった‼と霞さんの声がこだました。
その途端、あたりのもやがなくなり元のように路地裏が現れる。
さっきのように周囲を見ることができるようになったヴァンピレスは、いつの間にか出していた具象体の白い鞭を振るおうとした。
しかし、そんな彼女に向かって中身が入った状態のペットボトルが真っ直ぐに飛んできて、ヴァンピレスの額に直撃する。
「あうっ」
ヴァンピレスはそううめくと、額を手で押さえながらその場にしゃがみ込んだ。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑰

「まさか…」
周囲が思うように見えず混乱する中、不意にわたしの耳に、みんな!と霞さんが叫ぶ声が響く。
「僕が彼女の視界を封じている内に、早く逃げて!」
霞さんの言葉に、わたしは、えっまさか…と呟いた。
霞さんはそのまま続ける。
「僕の異能力は”一定範囲内の視界を霞ませる”能力だから、下手に移動すればあのヴァンピレスって子の視界が封じられなくなる‼」
だから、僕を置いて逃げて!と霞さんは叫ぶ。
わたしは思わぬ発言に困惑する中、置いていくなんて!と耀平の叫び声が聞こえた。
「そんなのできない‼」
耀平がそう抵抗すると、霞さんの、ごめん耀平くんという悲しげな声が続く。
「今日は会えて嬉しかった」
久々に大事な君に会って、君の仲間達にも出会えた…と霞さんは呟く。
「でも君や、皆を、誰かに傷つけさせる訳にはいかない‼」
だから逃げて!と霞さんは叫んだ。
その言葉に、耀平は押し黙る。
しかしそれに対し…そんなのダメと黎の声が聞こえた。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑯

「え、耀平、霞さんにヴァンピレスの事話してもいいの⁈」
彼は一般人なんじゃ…とわたしは耀平に近付くが、耀平は、は?と振り向いた。
「霞は…」
耀平がそう答えかけた時、見つけたわよ‼と聞き覚えのある声が飛んでくる。
わたし達が声のした方を振り向くと、10メートル程後方にヴァンピレスが立っていた。
それを見て耀平はなっ!と驚く。
ヴァンピレスはうふふふふと高笑いをした。
「ネクロマンサーはわらわの分身で足止めさせてもらったわ」
これで貴方達を…とヴァンピレスはこちらへ歩いていくが、不意に辺りがもやに包まれる。
「⁈」
突然の出来事に、わたしは困惑した。
「何、これ…」
わたしは辺りを見回すが、白いもやが立ち込めているため耀平たちやヴァンピレスの姿がよく見えない。
それはヴァンピレスも同じようで、彼女は何ですのこれ⁈と慌てた声を上げていた。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑮

ヴァンピレスに遭遇してから暫く。
ネクロマンサー以外のわたし達5人は、寿々谷駅の方へ向かって走っていた。
とにかく人通りの多い場所に出られれば、ヴァンピレスは攻撃してこないだろうという事で、人の多い大通りをわたし達は目指しているのだ。
「…アイツ、なんで急に襲ってきたんだ?」
細い道の交差する所で立ち止まりつつ、耀平がポツリと呟く。
「え、それは、わたし達をたまたま見かけて…」
わたしがそう言いかけると、耀平はまぁそうなんだろうけどと振り向いた。
「最近そういうの多いから気になるんだよなぁ」
耀平が呟くと、確かになと師郎はうなずく。
「たまたまかもしれんが、アイツは妙に俺達を襲いまくってるよな」
暇なのかねぇ…と師郎が後頭部に両手を回した所で、ねぇ、と霞さんが声を上げた。
「さっきのあの子って…」
霞さんがそう尋ねると、耀平があぁアイツ?と返す。
「アイツはヴァンピレス」
この街で他の異能力者の異能力を奪って回ってるやべー奴だ、と耀平は歩き出した。
それを聞いてわたしは驚く。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑭

「ヴァンピレス‼」
何で出てきた⁈とネロが怒号を上げる。
「何でって、わらわは異能力を奪いに参りましたの」
貴方がたの、ね‼と不敵な笑みを浮かべながら、ヴァンピレスはその右手に白い鞭を出してわたし達に向けて振るった。
ネロは咄嗟に目を赤紫色に光らせて右手に黒い鎌を出し、それでヴァンピレスの鞭…具象体を受け止める。
「ネクロ‼」
耀平が思わず声を上げるが、ネクロマンサーは皆逃げろ!と叫ぶ。
「コイツはボクが、ここで食い止める‼」
ネクロマンサーは具象体の黒い鎌を振るって白い鞭を弾いた。
弾かれた白い鞭はヴァンピレスの元へ縮むように戻っていき、持ち主のヴァンピレスは不機嫌そうに顔をしかめる。
「あら、抵抗すると言うのね?」
その言葉にネクロマンサーは、当ったり前だぁ‼と言い返した。
「ボクらの大切な一部を、奪われてたまるかぁ!」
ネクロマンサーはそう声を上げると、ヴァンピレスに向かって駆け出す。
「…よし、今の内に逃げるぞ!」
ネクロマンサーがヴァンピレスを食い止めている姿を見てから、耀平はわたし達4人に声をかけた。
わたし、黎、師郎は静かに頷く。
しかし霞さんは状況が飲み込めていないのか、あ、うん…とぎこちなく返した。
そんな霞さんを見た耀平は、行こう!と彼の手を取って走り出し、わたし達もそのあとに続いた。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑬

そういう訳で、わたし達は皆で霞さんを駅まで送っていく事にした。
寿々谷公園から寿々谷駅までは少し離れているので、わたし達はその道中ずっと話しながら歩いていく。
そんな中でも、黎は何かを気にしているようなそぶりを見せていた。
「へー、耀平くん、中学校では軟式テニス部に入ってるんだ~」
「まー適当にやってるだけだよ」
霞さんと耀平が楽しそうに話し、ネロと師郎はその様子を暖かく見守っている。
しかし黎は何かを気にしているようで、わたしの意識はそちらに向いていた。
一体何を気にしているのだろうとわたしが気にする中、黎が急に足を止める。
「黎?」
わたしがつい立ち止まって尋ねると、黎は後ろを向いてあれ…と呟いた。
「あれ?」
一体な…とわたしが言いかけた時、不意にうふふふふふと高笑いがわたし達の後方から響く。
わたし達がそちらを見ると、そこには白いミニワンピースにツインテール、そして赤黒く輝く瞳を持った少女が立っていた。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑫

「そろそろ日も暮れてきてるし、帰る事にしようか」
霞さんがそう言ってわたし達に背を向けると、えーもう帰るの~‼と耀平が声を上げる。
霞さんはそうだよ~と振り向いた。
「君達だって、そろそろ帰らないと親に心配されるでしょ?」
「まーそうだけど…」
耀平は不満げな顔をするが、霞さんはじゃーあー、と彼に近付く。
「僕の事寿々谷駅まで送ってくれない?」
その言葉に耀平の顔がパッと明るくなった。
「え、いいの⁈」
「うんもちろん!」
ギリギリまで一緒にいたいし~と霞さんは続ける。
「やったあ!」
耀平はそう言って嬉しそうに立ち上がった。
霞さんはふふと微笑んだ。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑪

「何だか彼を見ていると、昔の自分を見ているみたいな気分になってくるんだよ」
霞さんが不意に言い出したので、わたしは目をぱちくりさせた。
霞さんは続ける。
「昔の僕もあまり慣れない人の前ではビビってる事が多かったからさ」
あんまり友達がいなくて…と霞さんは頭をかく。
「でも耀平くんに出会って、少し変われたんだ」
霞さんはふふと笑った。
「耀平くんは昔から明るくて、何だかこんな僕にもよくしてくれて、すごく嬉しかった」
だから僕も、人が怖くなくなっていったんだろうね、と霞さんは微笑む。
わたしや師郎は黙ってそれを聞き、隣のベンチにすわるネロと耀平も静かにこちらを見ていた。
「ま、そういう訳で、僕は変われたんだ」
霞さんは笑う。
わたし達はそんな霞さんの様子を見ているばかりだったが、やがて彼はさて!と手を叩いた。

0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.オウリュウ ⑩

「…黎、相変わらず師郎の陰に隠れようとしてるね」
わたしが思わずこぼすと、師郎は黎の方をちらと見て、あぁそうだなと答えた。
「たまに黎は見ず知らずの他人に対して隠れようとするからさ」
仕方ない、と師郎は笑う。
そうなの、とわたしは返すが、ここで、ねーねー何話してるの~?と隣のベンチの方から霞さんの声が聞こえてきた。
見ると霞さんがベンチから立ち上がってこちらへと近付いてきている。
「あ、えーと…黎が師郎の陰に隠れているのは何でかって話をしてたんです」
わたしがそう答えると、霞さんはそっか~と言いながら師郎の右隣に目を向けた。
黎はパーカーのフードを目深に被って顔を隠している。
「…」
霞さんは笑みをたたえながら黎の顔を静かに見ていたが、ふと師郎がなぁと口を開いた。
「何で黎にそんな興味持つんすか?」
その質問に、え、と霞さんは驚く。
「もしかして迷惑だった?」
「いや、迷惑って程でもないんだが…」
ちょっと気になって、と師郎は苦笑した。
霞さんはふーんとうなずき、そうだねぇ…と宙を見上げる。