俺たちを乗せた新幹線は北九州の玄関口,小倉に定刻通り滑り込んだ。
早速手配されたホテルでチェックインを済ませ,部屋に入ると窓から小倉の夜景が一望できる。
俗に言う暴力団によって悲しく荒れた過去を経験したけれど、今では治安が安定して九州でもトップクラスの大都市に発展したこの街の歴史を知っていた俺は思わず「新たな〜♪時代へ挑め〜♪君の見上げる空へと続く道〜♪」と俺が好きな応援歌の前奏を口ずさんだら嫁が「ゆけ〜ゆけ〜ゆけ〜♪ゆけよ未来を信じ〜て♪江戸の風に乗〜って♪さあ世界で輝けよ」と見事な替え歌を披露してくれたので久しぶりに大笑いしてしまった。
そして,今度は嫁が「真面目な話なんやけど,誕生日プレジェント、何がよか?ほら,貴方はうちん誕生日にプロポーズしてくれたやろ?」と切り出すので「特に欲しいものはないかなぁ…カノジョも結婚相手も欲しかったけど,理想のパートナーそのものと言っても過言じゃない君が来てくれたからなぁ…だから、やっぱり巨人の日本一かな」と返すと嫁が「なら,あの応援歌歌えばよかね」と言うので「あの応援歌って言われても心当たりあるのが多すぎるんだけど,どれのこと?」と試しに訊いてみると嫁が部屋に備え付けのパソコンにイヤホンを接続して「この巨人の応援歌や」と言うので聴いてみると、俺と世代ドンピシャの曲が流れてきた。
「『声の限り力の限り応援し続けるから気持ち一つに立ち向かえ夢叶う時』か…懐かしいな」と呟くと嫁が「あと,貴方が好きそうなのもう一曲あるよ」と言うので今度は誰の応援歌か気になったので嫁に尋ねるも応援歌ではない上に、近い将来あげるであろう俺たちの結婚式で新郎新婦の登場曲として使うので秘密だと言われてしまった。
そうして一連のやり取りが終わった午前2時過ぎ,ようやくベッドに入ることができたものの,俺は中々寝付けず,体を起こすと嫁はテーブルに突っ伏して眠っており、不思議に思って隣を見ると不慣れなハングルを何度も練習してくれていたことがわかる一枚のメモが置いてあった。
そこには大きな文字で「생일 축하합니다」,つまり「お誕生日おめでとう」と書かれており,俺の誕生日の日付も書かれていたのだから無理もない。
俺は「覚えてくれてありがとう」と声をかけ,気付いたら毛布を嫁の背中にかけて俺も嫁と椅子をくっつけて眠っていた。
・木下練音(キノシタ・ネリネ)
年齢:13歳 性別:女 身長:145㎝
ツファルスツァウルの『ロール』の1つ。システムBロール6。黒髪ロングヘアの華奢な少女。黒い和装には金糸で蜘蛛の巣柄の刺繍が施されており、背中の部分は蜘蛛脚展開のために大きく開いている。
背中から大蜘蛛の脚を展開し、攻撃に利用する。だが、真に得意とする領域は、近接武器でさえ邪魔になるほどの『超』接近戦。自身の周囲極めて狭い範囲にのみ展開される蜘蛛糸の防御結界と攻性結界を駆使して相手の動きを阻害し、相手の動きを封じてからチクチク攻める。実は奥の手として射程攻撃もある。
ちなみにマスターの事は「主殿」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:土蜘蛛のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《異形化》。習得忍法は【鬼影】【雪蟲】【鎌鼬】【糸砦】。奥義の【外法・御霊縛り】の効果は「判定妨害」。基本的には相手の命中判定に-3ペナルティぶち込んだうえで(※1)判定妨害で強制的に失敗にまで引きずり込む(※2)。練音ちゃんは基本的にずっとプロット値3~4に貼り付いている(ファンブル値が3か4)ので、コンボが決まれば相手は勝手に逆凪(※3)に引きずり込まれる。実は別に攻撃役がいた方が活躍できる。
※1:【鬼影】の効果により、相手は自身に対する命中判定に-2のペナルティが入る。また、【雪蟲】の効果によって、同じプロットにいる他のキャラクターは命中判定と回避判定に-1のペナルティが入る。
※2-A:『シノビガミ』の判定は2d6振って5以上なら成功。「判定妨害」は相手のダイス1つの出目を強制的に「1」にする=最大でも相手の2d6の結果は「7」になる。あとは分かるな?
※2-B:『シノビガミ』のルール上、同じプロットにいる奴らの行動は「同時に」行われている扱いなので、逆凪になってももう1人が行動し終わるまでは逆凪の影響は受けないんですが、そこはまあ、ノリ重視で。はい。
※3:『シノビガミ』では戦闘中ファンブルすると、そのラウンドの間あらゆる判定で自動失敗するようになります。これが「逆凪」。先手を取った奴がうっかり逆凪になると、後手の皆さんにボコボコに狙われても回避できなくなる。怖いね。
「練音ちゃんから見て、どうだった?」
「私の守りの強さが露呈したと思います!」
「うん、自分でカスタムしてて思ったけど、君と戦うの絶対つまらないよね……全然当たらないんだもん」
「ナハツェーラーさん、すごい使い魔だって聞いてたのに……私の防御を抜けないなんて不思議でしたねぇ」
「そりゃそうさ。理論上、君の防御は『絶対』成功するんだもの」
「あ、あといっぱい逆凪させられました!」
「出目が味方したねぇ……。桐華さんとは正反対だ。とにかく、よく戦ってくれたね。……ところで質問なんだけど」
「はい」
「次、ナハツェーラーさんと戦ったとき、勝てると思う?」
「…………感覚としてはなんとも……ってところですかねぇ……」
「ふむ。理由を聞いても?」
「はい。まず、私の得意な間合いがバレました。近距離戦にはもう入ってもらえないでしょう」
「けど、ナハツェーラーさんには射程能力は無かったはずだよ」
「【神槍】です。キリカさんが技を盗まれました。私の術は全部、『蜘蛛』と『呪術』に由来してるので良いんですけど、キリカさんは体術メインですから……。こちらも【鎌鼬】はまだ見せていなかったので、恐らく1回は射程戦に食らいつけるでしょうけど…………あちらの方が間合いでは勝っているので。私が死ぬ前にあちらの『逆凪』を誘発して、あちらが慎重になってくれれば、あるいは」
「……うん。とにかく今日はお疲れ様」
「ごめんなさい、勝てなくて……」
「いや良い。別に本気で勝てるとも思ってなかったし。むしろ予想以上に届いたなって感じだよ。今日はゆっくり休みな、“ツファルスツァウル”。桐華さんと合わせて結構消耗したでしょ」
「はい。それではおやすみなさい、主殿」
今の時期ちょうど見頃な花。
私の大好きな花。
夕暮れに映ると息を飲むような美しさ。
花言葉は…なんだろう?
「さて」
帰宅後、男は自分の目の前に桐華を正座させた。
「感想戦を、始めます」
「はーい。お説教じゃないんですね」
「お説教じゃなーい。別に叱られるようなことしてないでしょ? まず、実際にやり合ってみてどうだったよ、ナハツェーラーさんは」
「あー……そうだな…………ネリネの方が長く戦ってたし、そっちに訊いた方が良いんじゃ?」
「桐華さんも戦ったでしょうが」
桐華は顎に手を当て、思案する。
「えっとなぁ……これはネリネ側の記憶も混じってるんだけど……そうだな、強いって触れ込みだったにしちゃ、弱かった」
「失礼な。まあ、『最高傑作』であって『最強』とかじゃないからねぇ」
「できることがシンプル過ぎてなー……体術と鎌ブンブンだけじゃん?」
「それに負けかけてたのは桐華さん、どう言い訳するおつもりで?」
「出目が腐った」
「さいで」
「あー、でも【神槍】パクられたのは痛かったなー」
「はい?」
「あいつ、私の【神槍】を見ただけで習得しやがりました。戦いの中で成長するニュータイプだよありゃあ」
「何それ怖い……」
「あとタフすぎる! 私の攻撃だけで1回以上死ねたはずだぞ。何度殺してもあれが死ぬビジョンが見えない!」
「まぁ……それはしゃーない。ナハツェーラーさんだし」
「ナハツェーラーさんだからかぁ……」
「それじゃ……練音ちゃん」
ツファルスツァウルが、『木下練音』に姿を変じる。