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今を生きる

私には夢がなかった
やりたいと思っても一時的で
どこかでそれを自覚もしてて

小学生の時は将来って言葉が
怖くてたまらなかった

今の時間がさも有限で
いつか大人に取り上げられる
脆く虚しい物に思えた

その言葉は中学で
進路って言葉に変わって
今度は選択を迫られた

少しずつ羽をもがれていく
存在もしない夢への一本道

ただ、その道は
漠然としたやりたいことが
具現化された場所でもあった

大学へと進み
自分と同じ何かを追う人と
出会い、共に歩む

漠然とした何かが
形を持って私の手に触れた
そんな気がした

私は夢がないんじゃない
否定されるのが怖かったんだ
将来って言葉で、才能の差で
自分のやりたいことが
できないってわかる
その瞬間から逃げてた

でも今、やりたいことを堂々と共有出来る人と、場所と出会えた。
もう逃げない、隠さない、誰にも否定させない

自分の生涯やりたいことを貫いて
未来へ続く今を生きるんだ

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無銘造物再誕 Act 25

「別にいいだろ」
よく分かんない邪魔者が失せたんだし、何も問題はないとナツィは服のポケットに両手を突っ込む。
「…でも、あの子どう考えても“作られたばかり”でしょ」
あのまま1人で放っておくのは、ちょっと…とかすみは不安そうな顔をする。
「なんだよ」
アイツのことが心配なのか?とナツィはかすみに尋ねる。
かすみは…だってと返す。
「何も分からなかった頃の自分を見ているみたいで、なんか、さ…」
かすみの言葉にナツィはなんとも言えない顔をする。
暫しの間2人はその場で黙り込んでいたが、やがてナツィがこう呟いた。
「…行くぞ」
「え?」
既に金髪のコドモが歩き去った方へ向かおうとしているナツィに対し、かすみはポカンとした様子で返す。
「だから行くんだよ」
アイツを追いかけに、とナツィはかすみに背を向けたまま呟く。
かすみは思わず目をぱちくりさせたが、やがてうんと頷いた。
ナツィはその返事を聞くとスタスタと歩き出した。

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五行怪異世巡『覚』 その⑦

「む……鬱陶……しい!」
白神さんの振るった爪を、覚妖怪は飛び退いて回避した。
「うぅー……!」
白神さんが苛立たし気に唸っている。彼女の手元をよく見てみると、奇妙な形で固定されていた。五指を大きく広げ、人差し指と薬指だけを根元から垂直に近い角度で折り曲げている。
「もー怒った!」
そう言って、白神さんは自分を素早く捕まえ、所謂『お姫様抱っこ』の形で抱きかかえた。
「痺り死ね!」
白神さんの足下から電光が迸り、地面を伝って周囲全方向に駆け抜けていく。なるほど、これなら覚妖怪でも回避しようが無い。
『「これで仕留められる」、そう思ったな?』
覚妖怪が口を開いた。その意味を量りかねていると、妖怪は猿のような肉体を活かして手近な木を物凄い速度で登り始めた。電撃は妖怪を追うが、多くの枝葉が避雷針のように機能することで、覚妖怪まで電撃が届かない。更に悪いことに、頭上を隙間なく覆う樹の中に妖怪が姿を隠してしまい、どこにいるのか分からなくなってしまった。
「し、白神さん。これじゃあ」
「大丈夫、もう1回……!」
白神さんが片脚を持ち上げたところで、頭上を強風が吹き抜けた。直後、少し離れた地面に覚妖怪が着地する。
『…………ふむ。“風”の思考を読んだのは、初めてだな』
「あれっ、そいつは驚いたな。どうせ何百年も生きてんだろーに、初めてか? “鎌鼬”と喧嘩すんのは」
自分と白神さんを庇うように立ち塞がったのは、種枚さんの弟子、鎌鼬少年だった。

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無銘造物再誕 Act 24

「隠れるぞ」
不意にそう言うと、ナツィはかすみの手を引いて近くの細い横道に駆け込む。
かすみはえっと驚くが、そのままナツィに引っ張られて建物の陰に隠れた。
「おーい2人とも〜」
暫くして、金髪のコドモはナツィたちが姿を隠した横道近くの十字路へ辿り着いた。
「どこ〜?」
金髪のコドモは不思議そうに辺りを見回すが、誰も見つからない。
ナツィとかすみは建物の陰から静かに金髪のコドモの様子を伺っていた。
「…」
暫く辺りを見回して、置いてかれちゃったかな?と金髪のコドモは不意に呟く。
「ま、探せばいっか!」
金髪のコドモはそう手を叩くと、ナツィたちがいる方の隣の角を曲がっていった。
金髪のコドモが道の奥に消えていったのを確認すると、ナツィはそっと建物の陰から出た。
「…やっとどっか行ったか」
呆れたように呟くナツィに、かすみはナツィ…とこぼす。

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五行怪異世巡『覚』 その⑥

白神さんはまだ、下で靴探しをしている。それなら、今自分の隣に現れたものは何だ?
恐る恐る、気配の方に目を向ける。そこには、人間ほどの大きさのサルがいた。
……いや、サルとも少し違う。大きすぎるというのはともかく、口元が不自然にニタニタと吊り上がっている。もしかして……。
『……お前は』
謎の動物が口を開いた。年寄りのようにしわがれた声で、『人間の言葉』がそこから漏れる。
『「もしかして、これが例の覚妖怪か」と考えているな?』
この文言。間違いない。昔話に出てきた妖怪と同じ言い回し。そして覚は。
『お前は今、「この妖怪に食われるかもしれない」と考えているな? ……正解だ』
覚が動き出そうとしたその時、白い影が自分と覚の間に割って入った。
「し、白神さん⁉」
「ごめん千葉さん、助けるのが遅れて! 大丈夫⁉」
「大じょ、うおわぁっ!?」
白神さんに抱きかかえられて、地面に下りる。覚もすぐに追ってきた。
『……ふむ、そちらの娘、どうやら人間ではないようだぞ、そこの人間。たしか、チバといったか?』
いやまあ、それは最初から知っているけども……。揺さぶりのつもりだろうか。
『む……つまらん。して、そちらの雷獣の娘よ。お前は次に、こう言おうとしているな?』
「『千葉さんを傷つけようとするなんて許せない。ぶっ殺してやる』!」
覚は白神さんの言葉にぴったり合わせた。白神さんはそれを気にする事無く、覚に突進する。
『ふむ、心を読まれてここまで動揺しないとは』
「それ、お前を、殺すのに、関係、ある、のっ!」
言い返しながら、白神さんは電光を纏った貫手を連続して放つ。しかし相手も流石は覚妖怪。悉く回避されてしまう。

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スズランの花は眠りを誘う

あなたの声のように

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滑走

私のブラックホール。

今や何だったのか

通り過ぎた記憶は

振り返る隙すら与えてくれなかった。

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後ろ髪

惹かれた後ろ髪は

宙に舞っていた

幾度となく惹かれた思いはこの空に溶け込んでいる。

淋しく切ないあのあの人は

あの苦しかった夜は

帰り道何度も読み返した。

誰も知らないこの道通って帰ろう

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空っぽ

空っぽの空を見て
懐かしんだ

あの夕焼け空は

今もフィルムの中に残っている

あの大海原に戻りたい

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無銘造物再誕 Act 23

金髪のコドモがナツィとかすみに出会ってから暫く。
ナツィは先程までいた大学構内を出て、かすみと共に住宅街の中を早歩きしていた。
「ね、ねぇナツィ」
そんなに早歩きしなくても…とかすみはナツィに話しかけるが、ナツィは別にとだけこぼす。
「俺はアイツを避けたくて逃げてるだけだし」
「そ、そんなぁ」
呆れるかすみに対しナツィはなんだよと続ける。
「お前はあんな素性の知れない奴に優しくしようっていうのか」
ナツィの冷たい言葉にかすみは、別にそういうのじゃなくてと言い返す。
「ただ…なんか放っとけないなって」
かすみがそう呟くと、ナツィはそうか?と首を立ち止まる。
そうだよとかすみも足を止める。
「なんか、あのまま1人にしておけないっていうか…」
多分自分たちのこと追いかけてきてるでしょ?とかすみは後ろに目をやる。
住宅街の細い道には人気がなかったが、どこからかなーつーぃ〜という声が聞こえる。
ナツィはちっと舌打ちした。

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終末を巡る_7

アトリエから出ようと振り向くと、扉側の壁に絵画が一枚かかっていることに気づいた。
『…ん…?』
それは濁った空、枯れた草花に覆われた原っぱ、そして人が描かれている。人の頭が不自然に黒く大きく描かれているように見える。
『こわいな』
『ああ…さっさと出るか』
琥珀は林檎の首根っこを咥えてアトリエを出た。画廊を戻っていくと、先ほど追いかけてきた人間と思しき人間が先に見えた。
『げっ』
そっと様子を伺うと、暗くてよく見えないが、背中がもよもよと不自然に動いているようだ。
『きみわるい』
琥珀は林檎の首根っこをそっと離しておろしてやり、座って様子を伺った。
…人間の背中から何かが生えた。
『きゅう』
林檎の悲鳴を聞いて琥珀は林檎を背中がわに庇ってやる。
人間はぐるりと振り向く。琥珀は反射的に林檎の首根っこを咥えると人間の様子を見つつ後ずさる。

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無銘造物再誕 Act 22

「だからね、ボク、ピスケスにここまで連れてってもらったの!」
その言葉にえ、ピスケス⁈とナツィは驚く。
金髪のコドモはどうしたのナツィ?と首を傾げた。
「あ、いやー…」
こ、こっちの話とナツィは気まずそうな顔をした。
「えー何それ〜」
「別になんでもない」
「教えて〜」
「教えるかよ!」
金髪のコドモに興味ありげに顔を覗き込まれるが、ナツィは慌ててそっぽを向いた。
「第一ピスケスがなんで出てくるんだよ⁈」
俺アイツのこと嫌いなんだけどっ!とナツィは後ろを向く。
金髪のコドモはえーそんなーと呟く。
「ピスケスって優しいんだよ〜」
「ンな訳あるかよ!」
とにかく俺はピスケスと関わりのあるお前と関わりたくないからな‼︎とナツィは吐き捨てると、そのままスタスタと歩き去った。
「あ、ちょっとナツィ…」
暫くの間ナツィと金髪のコドモの会話を見ていたかすみは呆れつつもナツィを追いかける。
「…待ってよ〜」
金髪のコドモは少しの沈黙ののちに2人を追いかけ出した。

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蛍雪の功

窓枠 ひとつ 灯りが燈る
数多の光 数多の命 揺蕩う縁側
寄り集まって 離れて戻る 無常なり

秒針が動く間 地面と靴との間
また命が消えた また命を生んだ

そんな灯りに 私はなりたい
雪ほど暗く 夜闇より明るい
影になりきれぬ 優しき努めの光

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12年前、10歳でSCHOOL OF LOCK!を聴き始め、14歳の時にポエム掲示板と出会い、言葉を綴り始めました。今読み返せば、当初は拙い言葉の集合体であり、感情や衝動がそのままあけすけで、大変読みにくかったろうと思います。それでも、必死で言葉を綴り、毎日何編も投稿しました。言いたいことがうまく言えなかったから、私は詩の世界で、ただ1人雄弁に語る神々しい弁士となることを夢見て、詩を書いていました。やがて、私は詩の世界だけに満足出来ず、人との付き合い方、向き合い方、話し方、自分の身なりなど色んなことを一つ一つ努力して改善して来ました。あの頃から、私は随分人として成長したなと己を振り返ります。詩の世界だけではなく、すべての世界に影響を与えたい。そう思うようになった私は、ここ掲示板で出会った仲間と詩集を作り、別の居場所で絵や小説を書き始めたり、親しい人と俳句や短歌を詠み合ったりと、様々な経験をして来ました。その中で、己の感受性を褒められる機会が多く、貴方の原点は何ですかと聞かれるたびに、この居場所を答えて来ました。ここ数年、大学入学を機に未来の鍵を握り、SOLの卒業を決め、ポエム掲示板への書き込みを殆どして来ませんでした。しかし、今一度言葉を綴って、本当の意味で『大人』になったことを詩で表現したいと思い、今日大学4回生22歳の誕生日に筆を取らせていただきました。本当にありがとうございました。小学5年生10歳の頃、未来の鍵を握るこのラジオに相応しく、花屋という意味だけではなく、大好きな花を守る、花を研究する人、そういう意味で未来の鍵『フローリスト』をラジオネームとして己に名付けました。そして今、私は春から無事に花・植物を守る人として無事に未来の鍵をしっかりと自分の手に掴んでいます。これからも、更なる高みと理想を夢見て、表現者としても社会人としても愚直に努力してきます。

2024年12月17日 フローリスト

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無銘造物再誕 Act 21

「…それで、お前の名前はなんなんだ」
ナツィが不意に尋ねたので、金髪のコドモはふぇ?と聞き返す。
ナツィはお前の名前だよと強く言う。
「俺だけ名乗らせといてお前が名乗らないのはないだろ」
だから言え、とナツィは金髪のコドモを睨んだ。
金髪のコドモは…ボク?と自分を指さす。
「ボク…まだ名前ないの」
「は⁇」
テメェとぼけてんじゃねぇぞとナツィは語気を強める。
「お前だって魔力の気配があるから人工精霊なんだろ?」
名前くらいあるはずとナツィは腰に両手を当てる。
しかし金髪のコドモはないものはないの!と言う。
「ボクのマスターがね、あとでって言うから…」
「なんだそりゃ」
ナツィは呆れ顔をする。
金髪のコドモは気にせず続ける。

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簡単な算数の問題

計算してみよう。

クリスマス当日……いや前日でも良いんだけど、一日中デートするとして、日帰りなら一緒に居られる時間はどれだけ多く見積もっても半日……12時間、13時間を超えれば御の字かな。

それじゃ、当日までの30日、30分ずつくらい貰えばどうなる?
それだけで15時間。ちょっと粘って50分くらいもぎ取れれば、それだけで単純計算で丸一日以上、あいつの人生をいただけるわけだ。

……なーんだ。一世一代の覚悟でお誘いするよりずっとお得じゃない。
駄目だ、笑うな……いやいや、こんな嬉しい発見しておいて、ニマニマするなって方が無理だって。

あいつに見せびらかして、お褒めの言葉を引き出して、何でも無い雑談でもしながらゆっくりお茶したりして、あいつは食べ物の写真撮るタイプじゃないけど、せっかくの私の力作だし、無理にでも記録に残してもらったりしてさ。



うん、そうだな……。

お誘いの文句はできるだけ自然な感じで。如何にも「私とあいつのいつも通り」に。
……そう、切り出し方は例えばこう……。

『シュトーレンが上手く焼けたんだ。』

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Farewell.

きみが選んだ道なんだ
上手く行くに決まってる
いつか遠い街で大人になったら
またいつか、思い出せたら

空いたこの胸の空白も
二度と埋まらない隣の席も
きっと来ない再会を夢見て
今もきみと会える日を待っている

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無銘造物再誕 Act 20

「ていうか、テメェ何の用だ」
俺の安眠妨害しやがってと黒髪のコドモは金髪のコドモを睨みつける。
しかし金髪のコドモはナツィの顔を見てパァァァと目を輝かせた。
「…かわいい」
「は?」
「キミ、すっごくかわいい」
「えっ」
思わぬ言葉に黒髪のコドモは困惑する。
だが金髪のコドモはホントにかわいいよ!と笑顔を見せる。
「キミ名前なんていうの⁇」
「今テメェの名前を聞いてるんだけど」
「教えて!」
「ちょっ近付くな‼︎」
自身に顔を寄せる金髪のコドモに黒髪のコドモは後ずさるが、金髪のコドモは教えて教えて〜!と飛び跳ねる。
黒髪のコドモは困ったような顔をしていたが、やがて諦めたようにうなだれた。
「…ナハツェーラー」
「?」
金髪のコドモが不思議そうな顔をしたので黒髪のコドモは俺の名前だよと続ける。
「そこのかすみからはナツィって呼ばれてる」
黒髪のコドモことナツィがジャンパースカート姿のコドモことかすみに目を向ける。
へぇと金髪のコドモはそちらの方を向いて呟いた。

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一週間と少し後の君へ

「ふぇっくしゅ!もぉお…鼻水出ちゃう…最近寒いねぇ…」
「まあくしゃみが可愛…ではなくて、風邪引いてませんこと?そんな薄着だからですわ!防寒具を買いましょう、お揃いが良いですわね!」
「待って待って、落ち着いてよぉ」
自分より頭1.5個分くらい小さいツインテールのお嬢様に手を引かれ、ショッピングセンターに連行される。店内は派手で様々なものが目立っているが、その中でもクリスマスの飾りやグッズに目が惹かれた。
「わーいろいろある…あ、電子カイロだって」
「電子カイロ?」
「クリスマス模様だよぉ、可愛いね」
「まあ…こんなものが…」
興味津々になっていろいろ見ている彼女を放置し、先ほど目をつけた電子カイロをレジに通す。
「…ねぇ」
「はい?」
「そろそろクリスマスでしょ、ちょっと早いけどこれ…プレゼント」
「え!?くださりますの!?良いんですか!?」
「うん、お揃いだよぉ」
「まあ〜っ!!」
喜んで跳ねる彼女をなだめ、窓からクリスマスのイルミネーションを見た。
「綺麗だなぁ」

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無銘造物再誕 Act 19

「…?」
黒髪のコドモは静かに金髪のコドモに目を向ける。
金髪のコドモは目をぱちくりさせたが、不意に後ろからナツィ?と言う声が聞こえたので振り向いた。
そこにはジャンパースカート姿のコドモが立っていた。
「誰?」
金髪のコドモが振り向くと、ジャンパースカート姿のコドモはえ、えと…と困惑する。
「かすみ」
困っているジャンパースカート姿のコドモを見かねた黒髪のコドモが不意にそう呟く。
金髪のコドモはパッとそちらの方を向いた。
「ソイツはかすみ」
黒髪のコドモはゆっくりと立ち上がると、金髪のコドモの方に近付く。
「俺の“連れ合い”だ」
「連れ合い?」
なぁにそれと金髪のコドモは首を傾げる。
その言葉に黒髪のコドモは別にそんなのどうでもいいだろとムスッとした顔をした。

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私の大切な存在

太陽、山々、森、全ての命、みんなの幸せ、

それが私の大切な存在

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五行怪異世巡『覚』 その⑤

捜索を始めてから約30分。先ほどのイノシシの他にもタヌキ2匹、サル1匹、シカの足跡を発見したものの、肝心の覚妖怪の姿は未だ見つからない。
「見つかりませんね……」
「だねぇ。もっと山奥に入った方が良いのかな?」
「そうですねぇ……っとと」
白神さんに答えるのに意識を割かれ、足下が疎かになったのと同時に、土に足を滑らせて転びそうになった。手をつくより早く白神さんが抱き留めてくれたので、幸いにも無傷だ。
「千葉さん大丈夫? 疲れた?」
「いやまあ、はい……」
「じゃあちょっと休もうか。ほら、千葉さん」
白神さんが、自分に背中を向けてしゃがみ込む。
「おんぶしたげる」
「えっあっはい」
彼女の背中に掴まると、彼女はするすると手近な木に登り、ひときわ太く頑丈な枝に自分を座らせてくれた。
随分歩いたせいか、スニーカーの中にかいた汗が気持ち悪い。靴から踵を引き抜いて足をぶらぶらさせていると、うっかりその靴を下に落としてしまった。それは木の下に生えた雑草の中に入って見えなくなってしまう。
「ん、待ってて千葉さん。わたしが取ってくるよ」
「あ、ありがとうございます。すみません……」
白神さんはまたするすると木を降りて、靴探しを始めた。その背中を眺めていると、座っている大枝が、がさりと揺れた。

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無銘造物再誕 Act 18

ピスケスと露夏が金髪のコドモを探し始めた頃、一方の金髪のコドモは黄色い蝶を追いかけてふらふらと大学構内を歩いていた。
先程ピスケスと露夏が話し込んでいる所の近くを飛んでいった蝶が気になった金髪のコドモは、ついついそれを追いかけ始めてしまったのだ。
幸い周囲を歩く人々が少ないお陰で金髪のコドモを気にする者はほとんどいなかったが、それでもコドモがふらふらと大学内を歩く姿は目立っていた。
「あ」
不意に蝶が建物の角の向こうに消えたので、金髪のコドモは慌てて建物の裏に回り込む。
そこでは建物の裏口の段差に座り込む黒髪のコドモがうたた寝をうっており、黄色い蝶が黒髪のコドモの傍に留まっていた。
「…」
金髪のコドモは目の前の光景に驚いたようにまばたきする。
暫しの間、金髪のコドモは黒髪のコドモを見つめていたが、不意に黒髪のコドモが目を開いた。
それと共に、傍の黄色い蝶がひらひらとどこかに飛んでいく。

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人の優しさに触れて

結局はね、他人からどう見られてるとか関係なく
自分が優しくしたいからそうする

それを本当の優しさという

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クリスマスプレゼント

音楽を届けてくれる人に、この歌を届けます。

菅田将暉さんの「虹」

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クシュん!

あおっぱなが出る

こう弱まっているところに

友達からの差し入れ

ありがとう

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特別なクリスマスのために

「今からクリスマスデートしよう、愛しい人!」
「……クリスマスは2週間後ですよ愛しい人」
「いや違うんだよ、来たるクリスマスを最っ高に特別なものにするために、私は完璧なプランを考え付いたんだよ」
「ほう。聞こうか」
「クリスマス当日、クリスマスっぽいことは何もしないで、浮ついた世間をけらけら笑いながら、2人でこの部屋でぐっだぐだにトロけてやるの。こんなん逆に特別でしょ」
「……なるほど? そのために今年のクリスマスっぽいことは今日のうちに済ませちまおうと」
「そゆこと」
「……俺、いつも思ってたことがあるんだよ」
「なになに?」
「駅前とかのクリスマス向けのイルミネーションあるじゃん。ひと月くらい前にはもう付き始めてるやつ。あれ、毎年毎年気が早えぇなぁーって思ってたんだけどさ……今回ばっかりは、あれって早くて正解だったんだなって」
「そう来なくっちゃ! どこ行く? あ、プレゼント何欲しい?」
「あー…………有線ヘッドセット」
「くっ……w、ふふっ…………w クリスマスっぽくない……www」
「るっせぇなぁ、今使ってるのが駄目になってきてんだよ。で、そっちは何か欲しい物あんのか?」
「フライヤー!」
「そっちも大概だな!」
「あはは! 電器屋行こう電器屋! じゃ、着替えるから外出てて。女の子の着替えを覗くもんじゃないよー」
「へいへい」

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無銘造物再誕 Act 17

「あの子、なんだか面白そうだったから」
「理由になってないぞ」
「うふふふふふふ」
露夏に睨まれてもピスケスは口元を手で隠しつつ笑う。
露夏は呆れた顔をしたが、ふとあることに気付いた。
「あれ、そういやさっきの子は?」
「え?」
露夏の言葉でピスケスが後ろを見ると、先程までそこに立っていた金髪のコドモが姿を消している。
「いない…わね」
ピスケスは能天気に目をぱちくりさせるが、露夏は慌てたようにヤバくね⁇とこぼす。
「あの子、造られて間もないんだろ⁇」
この世界のこと全然分かってないから面倒ごとに巻き込まれたら…と露夏は焦る。
「随分心配性ね」
「当たり前だろ」
歳下が困ってたら助けるのが歳上の義務だからな、と露夏は腰に手を当てる。
「ほら、探しに行くぞ」
空間中に残る魔力から追跡できるんだろ、と露夏は言いながらピスケスの横を通り過ぎる。
ピスケスはそうねと呟いて露夏に続いた。

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五行怪異世巡『覚』 その④

山中の道なき道を進む千葉・白神の2人を、杉の木の樹冠近くで1つの人影が眺めていた。
「……何だ、この辺りじゃ見ない顔だと思ったら」
そこに、背後から声がかかる。
「うおっ……何だ、青葉ちゃんに負けて手下になった天狗じゃねッスか」
子どもの姿の天狗に軽口で答えたのは、種枚の弟子、鎌鼬であった。
「おまっ、仮にも大妖怪に向けて無礼だな!? お前こそあの鬼子と古い仲なのに〈木行〉の座を余所の妖怪に奪われた未熟者のくせに!」
「まーまー、細かいことは良いでしょ」
「むぐ……ところで貴様、こんなところで何をしている?」
「いやぁ……ほら、俺って師匠から白神さんの見張り命じられてるわけじゃないッスか。だからこうして出張って来てるわけで。そういう天狗ちゃんこそ、こんなところで何してンスか?」
「ボクはここいらの山間部の妖怪の中じゃ、一応最高位の格だからね。〈金行〉に言われて雑魚共があまり『お痛』をやらかさないように見てやってるのさ」
「へぇ……ま、今日は師匠がいるわけだし、師匠の手の届く範囲なら、俺らの出る幕も無いでしょうね」
「だと良いけどね。それじゃ、ボクは行くよ」
「うーいお互い頑張ろうぜー」
天狗は“隠れ蓑”によって姿を消し、その場から飛び去った。それを見送って、鎌鼬は白神と千葉の姿を探す。枝葉の隙間に、やや離れた2人の姿を発見した鎌鼬少年は、自身の異能によって風に姿を変え、上空からの追跡を再開した。

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冬は苦手です
夜が早く来てしまうから
いつもより不安の波が押し寄せて
長い夜をずっと一人で
過ごさないといけないような気がして

もちろんそれは勘違いで
画面の向こうにも 電波の先にも
きっとどこかで 誰かは生きているのですが
ついつい「自分だけ」と
思ってしまうみたいです


どうしても眠れないとか
どうしても起きなければいけない夜に
数時間前にあった太陽のことや
頭上を過ぎていった星のことを考えます

今もどこかで 何かを照らしているはずで
それは立派な建物だったり
隠れて涙をこぼす「あの子」だったり
まだ自分の見たことのない「何か」を
経由して明日が来るみたいです


だから結局は大丈夫
つまり「一人じゃない」のだと
そう思えない夜があったとしても


ほんの少し
夜に潰されなくなるように言葉を落とします

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無銘造物再誕 Act 16

「…お前名前は?」
おれは露夏って言うんだけど、と露夏は笑いかける。
金髪のコドモはえーと…と目を泳がせた。
「この子、まだ“保護者”に名前を付けてもらってないんですって」
金髪のコドモの困った様子を見かねたピスケスはそう呟く。
露夏はえ、マジ?と首を傾げた。
「この子名前ないの⁇」
露夏が聞くとそうなのよとピスケスは答える。
「はえ〜」
そういう“保護者”もいるんだなと露夏は顎に手を当てた。
「まだこの子を造った人は魔術に慣れていないから、急に人工精霊を造ることになってどうしたらいいのか分からないみたいなの」
だから急に名前を付けられなくてね、とピスケスは続ける。
「ま、魔術に慣れてないのに人工精霊を造るなんて…」
どういうことだよと露夏は呆れた顔をした。
ピスケスはふふふと微笑む。
「まぁ、ちょっとね…私がそうさせたんだけど」
「おい」
思わぬ発言に露夏は思わず突っ込む。
「お前魔術初心者に人工精霊造らせたのか」
何考えてんだよと露夏はピスケスにジト目を向ける。
ピスケスはまぁまぁいいじゃないのと続けた。