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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑳

「…あらそう」
本当に全部思い出したの?とヴァンピレスは首を傾げる。
「だとしても、わらわに勝てる見込みなどないわ」
何てったって、とヴァンピレスは鞭をわたし達に向ける。
「わらわは、ヴァンピレスなのだから‼」
そう言ってヴァンピレスは白い鞭を振るう。
しかしわたしの目の前にいる彼女はそれを易々と避けた。
「⁈」
ヴァンピレスが驚く間もなく、彼女はヴァンピレスに瞬く間に駆け寄る。
そして一瞬にしてヴァンピレスの襟首を掴んだ。
「‼」
ヴァンピレスはあっという間に身動きが取れなくなってしまった。
暫くの間、ヴァンピレスは離して!ともがいていたが、不意にヴァンピレスの襟首を掴む彼女は口を開いた。
「…私は。”ティアマト”」
異能力は、”目の前にいる者の記憶を消す”能力、と彼女は続ける。
「私の意志1つで、あなたの記憶は消える…」
ティアマトはそう言いながら、ヴァンピレスの襟首から手を離す。
ヴァンピレスは解放された拍子にバランスを崩してよろめくが、な、何よ!と後ずさる。

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暴力は案外と多くの問題を解決できる その②

昼食終了後30分ほど経過した頃。「学長室」の客人用ソファに、年齢1桁を脱していないであろう外見の少女が満面の笑みで大人しく座っていた。対面にはミネと〈学長〉グロン、少女の隣にはサキが座る。
「……おいクソガキ」
ミネが少女に呼びかける。
「んー?」
「昼飯は美味かったか」
「うん!」
「そりゃ良かった。隣にいる〈保育士〉に感謝しろよ」
「はーい、ありがとございます、ホイクシ先生」
素直に頭を下げた少女の頭を、サキは優しく撫でる。
「良いんだよぉ私も好きでやってるんだから。あと、『サキ先生』って呼んでくれると嬉しいな」
「はーいサキ先生」
「で」
ミネが突然会話に割って入る。
「おいクソガキ。なんで呼び出されたか分かってるな?」
「……………………?」
きょとんとして首を傾げる少女に、ミネは溜め息を吐いた。
「〈学長〉、パス」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑱

「あま音さん?」
わたしが思わず声をかけてもあま音さんは反応しない。
「…何、これ」
私は…とただあま音さんは何かを呟くばかりだ。
「あの、大丈夫ですか?」
あま音さ、とわたしが話しかけようとした時、何ですの⁇と後ろから声が聞こえた。
「茶番はおやめにしてくださる?」
ヴァンピレスの言葉にあなた…とわたしは語気を強める。
「あま音さんは、あま音さんは…!」
わたしがそう言いかけた時、不意にサヤカちゃんとあま音さんのしっかりとした声が聞こえた。
わたしが振り向くと、あま音さんはよろよろと立ち上がっていた。
「あま音、さん?」
わたしが驚きつつ尋ねると、あま音さんはゆっくりと顔を上げた。
その目は、薄い緑色に輝いていた。
「…思い出した」
彼女はポツリと呟く。
「私が何者であるか、何で記憶をなくしたのか」
全部、全部と彼女は言いながらヴァンピレスに近付く。

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回復魔法のご利用は適切に_13

「うぉああああ!?回復してる!」
素っ頓狂な声を上げてシオンはとことこ走り出す。下の階は水がたまっている。
「もうダイナミックに出るしかないね!」
「えっ?」
核も水も追ってくる状況で、シオンは悠長(?)にも窓を割り始めた。
「な、何してらっしゃるの…?」
「リサちゃん、窓枠に頭とかぶつけないでね」
「は、はい…?」
「ちょっとさ、賭けになるんだけど…」
そう言いながらシオンは、ガラスの割れた窓枠に腰掛けた。
「ここから飛び降りて、その瞬間にさっき割った窓を戻すの」
「戻す…?」
「私の能力って『回復』だけど、苗に使えば『成長』させられるし、偏頭痛なら『元通り』にできるからさ。もしかしたら物にも『元通り』が使えるんじゃないかなって」
そう言いながら、水が目前まで迫ったところで窓枠から落ちるように飛び降りた。
「きゃあぁぁあああ!」

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑦

「皆さん、終わりました。もう目を開けても良いですよ」
4人の生徒は、平坂の言葉に恐る恐る目を開けた。霊感の無い4人には、目に見えた変化は確認できない。
「お疲れ様でした。これで脅威は去ったと思いますが……念のためにこれを持っていてください」
そう言って、平坂は4人に1つずつ、真鍮製の小さな鈴飾りを渡した。
「あの、これは?」
女子生徒の1人が尋ねる。
「お守り代わりの品と思っていただければ。常に肌身離さず……とまでは言いませんが、しばらくの間、可能な限り身近に置いておくことをお勧めします」
「はーい……神主さん、今日はありがとうございました」
その生徒の言葉に、あとの3人も感謝の言葉を続けた。
「リホちゃんも、呼んできてくれてありがとうね」
「良いの良いの。私は今回のことについてこの人と少し話さなきゃだから、みんな帰って良いよ」
犬神が追い返すように手を振りながら言うと、4人の生徒は頭を下げながら教室を出て行った。
「……お疲れ、『神主さん』」
「とどめを刺したのはお前だろう」
2人だけ取り残され、平坂と犬神は軽く拳を突き合わせ互いを労った。
「あ、砂返すね」
「要らん。持っていろ。あって困るモノじゃ無いだろ」
「うーい」
犬神が能力で砂を操作し、巾着袋の中に一粒残らず納め、口を締める。
「そういえば『アレ』、何だったんだろうね? こっくりさんってキツネじゃないの?」
「分からん。凡そ四足動物のようではあったが……あの生徒ら、何を呼び出したんだ?」
「分かんない。やってるところ実際に見てたけど、大体普通の『こっくりさん』のやり方だったよ?」
「……そうか。俺はもう帰るから、結界の片付けを手伝え」
「ほいほい」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑰

「…さぁ、自分が何者か忘れた異能力者さん」
ヴァンピレスはわたし達に向けていつの間にか出していた具象体の白い鞭を向ける。
「わらわの餌食になって?」
そう言ってヴァンピレスはわたし達に向かって白い鞭を振るう。
わたしは咄嗟にあま音さんの腕を掴みわたしの背後へ移動させた。
「⁈」
ヴァンピレスの鞭はぴたりとわたしの目の前で止まる。
「…何、貴女」
彼女を守る気?とヴァンピレスは首を傾げる。
「…そうだよ」
わたしは恐怖をこらえつつ言う。
「この人は…あま音さんは、わたしの友達だから」
だから、あなたには手を出させないとわたしは力強く言い切る。
「サヤカちゃ…」
後ろであま音さんが言いかける声が聞こえたが、言い終わる前にそれは途切れた。
わたしがパッと振り向くと、あま音さんはしゃがんでうずくまっていた。

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暴力は案外と多くの問題を解決できる その①

12時35分。ミネが何とは無しに生活棟に顔を覗かせると、同業者の1人、サキが厨房の前をうろついていた。
「ん、〈保育士〉。どうした」
「え? あ、ミネさん先生。お仕事は良いの?」
「交代してきたに決まってんだろ……で、何に悩んでたんだ?」
「あれ、分かる?」
「いや誰だって分かるだろその様子は……ガキ共相手にすんのに、ンな露骨に態度に出してんじゃねェぞ。向こうが不安になるんだからな」
「いやぁ反省……あぁ、で、悩んでる内容なんだけどね?」
サキに手招きされ、ミネは子供達が待機している食堂を覗いた。
「いやぁ、可愛いねぇ……」
「馬鹿言ってねえで飯配れ」
サキを軽く小突く。
「いや、そうしたいんだけどね? どうも1人多いみたいで」
「……はぁ?」
「ほら、あの席」
サキが指差した席には、12歳程度の少女が座っている。
「みんな普段から詰めて座るから、全員座ってもあそこは普段空席になるはずなんだよ」
「いや知らんが。取り敢えず知らない顔は1人いたから、とりあえず配膳始めてやれよ」
「えっ」
「……何だよ」
「この可愛い子供達の山から、一瞬で?」
「そのくらい分かるだろ……ソイツは後で呼び出すなり何なりすりゃ良い。上には俺から話つけとくから、テメェはさっさと仕事しろ」
「りょーかーい」

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返却

人に貢いでも
相手からそれ以上のものを
返してもらえなかったら
損となる
だから自分が貢がれるほど
最高の人間になる
そして貢いでくれた人に
最高のものを返す

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑥

それからも数度、短刀による刺突を放ったが、影はその尽くを回避する。
ゆらゆらと蠢く影を、跪いた姿勢のまま睨み続けていた平坂の背中を、不意に犬神が軽く叩いた。
平坂が振り向くと、犬神は既に巾着袋の口を開け、中の砂を掌に空けている。それを見て、平坂は数秒逡巡してから、結界の中の4人に声を掛けた。
「……そのまま目を閉じて、決して見ないように」
そして、犬神に手でゴーサインを出す。犬神は小さく頷き、手の中の砂を宙に向けてばら撒いた。砂は落下することなく空中に留まり、犬神の手の動きに合わせて波打つように動き、刃の形状に固まった。
犬神が影を指差すと、砂の刃は高速で射出され、影の胴体を切断する直前で回避され、床に衝突した。それによって粉砕された刃は、6本の棘に再形成され、うち4本が影に向けて再び発射され、そのうちの2本が命中し、影の身体を空中に持ち上げた。
(ふー、ちょろちょろとよく動いたけど、やっぱり『数』は『強さ』だよ)
口の中で呟き、外した2発、撃たずにいた2発の棘を構成していた砂を、1つの弾丸の形状に変形させ、空中で回転させながら照準を定める。
(吹っ飛べ)
砂の弾丸が発射され、影の胴体に命中し、その全身を衝撃によって破裂させた。

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教わりました

努力は報われると教わりました

人の為に尽くしなさいと教わりました

命を大切にしてくださいと教わりました

貴方にはいろんなことを教わってばかりです

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑰

「ね、ねぇ、これはどういう事なの⁇」
あの女の子は誰なの?とあま音さんはわたしに尋ねる。
「えっと…」
わたしはどう彼女の事を説明すれば良いか分からず言葉に詰まってしまう。
どうしようとわたしが思った時、不意にうふふふふと高笑いが聞こえた。
わたし達が声のする自分達の走って来た方を見ると、白いワンピースのツインテールの赤黒い目を持つ少女が立っていた。
「どうして」
わたしがそう言いかけると、彼女…ヴァンピレスはどうしても何もと続けた。
「貴女達はわらわの策にはまったの」
貴女達が先程遭遇したのはわらわが他の異能力者から奪った異能力で作った分身、とヴァンピレスは言う。
「本物のわらわは、今ここにいるわらわよ」
ヴァンピレスの言葉にわたしはそんなと絶句する。
「…じゃあネクロマンサー達は」
わたしがそう言うと、ヴァンピレスはええと答える。
「彼女達は貴女達を逃がしたつもりみたいだけど、まんまとわらわの罠にかからせたみたいねぇ」
滑稽だわぁとヴァンピレスはわざとらしく笑った。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑤

瞑目して集中していた平坂は、開始の宣言と共に目を開いた。
4人を囲う結界の周りを、一つの小さな影が蠢いている。
生徒の方に注意を向けると、4人とも恐怖からか目を固く閉じているようだった。
平坂が隣に立つ犬神に目をやる。犬神は、先程平坂から受け取った砂の入った小袋を持ち上げ、小首を傾げて見返していた。
(使おうか?)
目だけでそう問う犬神に、平坂はまだだ、という意味を込めて首を横に振る。
再び影の方に視線を戻すと、その影は四足にて結界の周囲を歩き回りながら、蝋燭や盛り塩に触れては身体を仰け反らせていた。
平坂はその様子をしばらく眺め、徐に1枚の御札を床に落とした。
影は歩き回る軌道をそのままにそれを踏み、何事も無く通り過ぎる。
「…………」
黒く変色した御札を拾い上げて鞄に放り込み、代わりに取り出した金属製の円盤を床に置く。影はそれも問題無く踏みつけて通り、金属板は中央から真っ二つに割れてしまった。
(……奇妙な霊だ。結界を破る力は無いにも拘らず、いざ殺そうとすると高い耐性で抗ってくる。力が強いのか弱いのか……)
続いて短刀を鞄から取り出し、ゆっくりと影に突き立てようとする。影は急に動きを止め、身を捩り短刀を回避した。

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崩壊世界見聞録 8

近づいてよく見ると、鞄を背負ったまま頭から突っ込んでいた。
カナは、恐らく20代そこそこだと思われるこの男性に声をかけた。

「もしもーし」
『......』
「いきてますかー?」
『......』

返事は愚か反応すらない。
軽く肩を揺さぶると、ゴロリと首が落ちた。

「あー、あの、たいへんもうしわけないのですが、」
『.......』
「あなたのかばんについているラジオをいただいてもよろしいでしょうか?」
『.....』
「わたしのものは3日まえに壊れてしまったので」
『.......』

理由もしっかりと伝える。
エミィは悪趣味だと言ってあまり好まないが。

「ありがとうございます、ではありがたくつかわせていただきます。」
『.......』
「それではおげんきで。」
『......』

今まで一言も発しなかった、
ーと言うか発せる訳が無いのだが...ー
死体の青年に背を向け、カナはスキップでテントへ
戻っていった。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑯

耀平は気にせず続けた。
「…あの人、本人が気付いてないだけで多分異能力者だ」
うっすらながら気配があるし、と耀平は付け足す。
「でもその事をなぜか忘れているから、下手に異能力の事を知らせたら混乱する」
だからお前が連れて逃げてくれ、と耀平はわたしに懇願する。
「…分かった」
有無を言わせぬ耀平の口調に気圧されたのと、せっかく仲良くなったあま音さんを守りたいと思ったから、わたしはうなずいた。
そして、行きましょうとあま音さんの腕を掴むと、わたしはその場から走り出した。

こうしてわたしとあま音さんは公園から逃げ出した。
あま音さんはちょっと待って!とわたしを止めようとするが、わたしは立ち止まらずに無心で走り続けた。
やがて寿々谷公園から少し離れた所にある川にかかる大きな橋にわたし達は辿り着いた。
「ここまで来れば大丈夫かな…?」
わたしが橋の中程で立ち止まると、すっかり疲れてしまったあま音さんは膝に両手を当ててへたっていた。

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回復魔法のご利用は適切に_12

シオンはエリザベスをおんぶし直し、とりあえず外に出ることにした。
「水が引いている今のうちですわ!核には逃げられてしまいましたが、右半身を破壊したので、本体もいくらか怪我をしているはず…」
「そうだね、リサちゃんは怪我ないかな?痛いとことか」
「…ありませんわ、お気になさらないで」
エリザベスはシオンの背から降りることを諦めたようだった。絶対に降ろす気などない力持ちにこれ以上の抵抗は無駄だと考えたのだろう。
「ねぇ、さっきの『シルバーバレット』ってなに?」
「シルバーバレットというのは、もともと狼男を倒せる武器のことですの。銀の弾、という意味ですわ。私の固有魔法は、本来は銃ではなく爆弾なのだけど…詠唱によって発動するタイプの魔法ですの」
「へぇえ、なんかかっこいいね!爆弾だったんだ…」
「銃から弾丸の代わりに爆弾を飛ばすイメージですわ。私、魔力量が少ないのでこうするしかありませんの」
シオンの足の損傷はやはり激しかったのか傷が塞がるまでのろのろと歩くしかなく、階段を降りている途中に核が完全復活を果たしてしまった。

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恋焦がれ

彼がむせかえるような日差しから逃げるように彼の部屋に入り込み、設定温度23度のエアコンをつけたのと同時に私は室外機にむっと顔を近づけ、溢れ出る内情を押し殺してしんと彼の香を鼻腔に閉じ込めます。
彼の毛穴は熱され、開き切っています。それが冷やされ、絆され、逆らうことできずに収縮する瞬間、彼は無意識の中に汗ばむ気体を発生させました。それは今私の気道を通り、そして血管に溶け込んでいます。そしてひしめき、歓喜する臓器を横目に、また逆らうこともできず私の鼻から吐き出されるのでしょう。そのことを脳裏にしがみつかせた私はきっとこれからもあなたの顔をした北極星瞬く茨の道を歩くのでしょう。その先に誰がいるやもしれぬ道をただ一人で歩くのでしょう。

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鳥かごの中の君より
空を駆ける君が
好きだから

どこまでも行けるんだ
僕に構わないで
何処へでもお行き

自由な君を
愛しているから

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑮

「うっふふふふふ」
どこからともなく聞き覚えのある高笑いが聞こえてきたのだ。
わたし達は思わず辺りを見回す。
「ご機嫌よう、皆さん」
次に声が聞こえた時には、わたし達の目の前に白ワンピースにツインテールで赤黒い瞳を持つ少女が立っていた。
「アンタは‼」
ヴァンピレス!とネロは怒鳴る。
「え、誰?」
知り合い?とあま音さんはポカンとしたようにわたし達の顔を見やる。
わたしは慌てて何か言おうとしたが、何を言えば良いか分からず困り果ててしまった。
「さっきから妙な気配がすると思ったら、アンタだったのか‼」
ネロはそう言って両目を赤紫色に光らせる。
「…ねぇ、何なのあの子?」
ヴァンピレスのただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、あま音さんは不安そうな顔をする。
それを見た耀平は、おいお前とわたしの方を見た。
「ネクロが奴を引き付けている内に、あの人を連れて逃げろ」
わたしは思わずえ、と驚く。

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魔法をあなたに その③

サテサテ待つこと時計の長針1周分。
よーやっと好みの人材が出てきやがった。見るからに陰気臭せェ女生徒が1人、周囲を気にしながらそそくさと出て敷地外目掛けて一直線ってなワケですよ。
『……当ォー然、声かけるよなァ、えェ?』
ヤツの背後をついて行きながら、ひとっ気の無い場所に入るのを待つ。
辛抱強く待つこと10分チョイ、遂にチャンスが訪れた。ヤツが団地の中に入っていった。
そのまま不気味なほど静かな細い道に入り込んでいったタイミングで、声を掛ける。
『よォ、そこの陰気なお嬢ちゃん』
たしかに魂が足りてねェせいで大それたマネはできねェが、人間の頭に直接声を届けるくらいはオイラ達の生物学的標準機能だ。
オイラの声に気付いたあの娘は、仰天したみてーに足を止め、キョロキョロし始めた。
『今はテメェの頭ン中に直接語り掛けてるンだよ』
「だ、誰⁉ 誰なの⁉」
『えェイ落ち着け! テメェ今、周りから見りゃ完全にヤベェ奴だゼ』
「ぅっ……」
『よォし良い子だ落ち着け落ち着け。深呼吸しろシンコキュー』
ヤツがそれなりにリラックスするのを待ってから、会話を再開。
『安心しろヨ、今テメェに語り掛けるこの声は幻聴でもイマジナリー・フレンドでも何でも無ェ、純然たるマジモンだぜ。まずはソコを受け止めてもろて』
ヤツはおずおずとって感じで頷いた。これで先に進める。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その④

「みんなお待たせー、神社の人連れてきたよー」
犬神が力強い足取りで入っていくその教室の中には、男子生徒2人、女子生徒2人が既に待機していた。
「皆様初めまして。私、隣町の爽厨神社にて神職を務めております、平坂と申します」
平坂が4人に恭しく頭を下げ名乗る様子を、犬神は横目で笑いを堪えながら眺めていた。
「さて……この度はどうやら、厄介な霊障に巻き込まれたようで」
4人の生徒が何か言う前に、訳知り顔で言葉を続ける平坂に、生徒たちは息を呑んだ。
「そ、そうなんです! 俺達、終業式の日に、こっくりさんやって……それからずっと、誰のところでも変なことが起きてて……!」
男子生徒の1人がまくし立てるのを、平坂が片手で制止する。
「ええ、皆さんに憑いているモノについては視えておりますが……あまり『ソレ』について話さないように。『縁』が強まってはいけませんから」
「う、は、はい……」
平坂は説明を続けながら、携えていた鞄を床に下ろし、中の道具を取り出し始める。
「皆さんに憑いたモノは……言ってしまえば決して強い存在ではない。しかし、ある種の『儀式』の形で呼び出してしまったことで、存在が強まり皆さんとの縁で完全に現世に固定されてしまった」
平坂は話しながら、4人の生徒の周囲に糸と蝋燭で方形の結界を作成した。蝋燭に1本ずつライターで火を点け、結界の四隅に並ぶ蝋燭同士のちょうど中間の位置に円形の鏡を1枚ずつ、計4枚置き、更に四隅に盛り塩を施した。
「ね、ねえ神主さん、リホちゃんは入らなくて良いんですか……?」
女子生徒の1人が、犬神を指しながら恐る恐る平坂に尋ねた。
「別に私は何にも来てないもーん」
「……実際、彼女に『良からぬモノ』が近付こうとしている様子はありませんから。優先すべきはあなた方4人です。ここからは、私が良いというまで一言も話さないように」
生徒4人が頷いた。
「……では、始めます」

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ロジカル・シンキング その⑫

怪物は暴れ続けるうち、足下の瓦礫に躓き、横倒しに倒れ込んだ。建物の残骸はその質量に押し潰されて容易に崩壊する。
「ホタ! 目隠し!」
「はいはーい!」
アリストテレスの声に答え、フレイムコードが指揮棒よろしくスタッフを振り上げると、炎の渦はうねるように変形し怪物の頭部周辺を取り囲んだ。
(破壊力を意識した〈CB〉とはずらして、硬度と弾速に割り振った貫通力特化型のプリセット)
「〈Preset : Wedge Bullet〉。ホタ、目隠しと外壁一瞬消して!」
「うえぇ? い、いややるけどなんで……」
炎の壁が一瞬分断され、外の空気が流れ込んでくる。それと共に、弾丸のように一つの影が飛び込んできた。ドゥレッツァだ。
「そおおおおおおおおお、りゃああっ!」
勢いのまま、炎の覆いが取り払われた怪物の頭部にドロップキックを直撃させ、跳ね返る勢いで真上に跳躍する。
「カウント3!」
ドゥレッツァの合図に頷き、アリストテレスは〈WB〉と〈CB〉を連続で怪物に向けて射撃した。〈WB〉の着弾と同時に、ドゥレッツァの魔法によって衝撃が炸裂し怪物の頭部が大きく揺さぶられる。その揺り戻しと同時に、銃創を正確に〈CB〉が貫いた。
魔法弾は怪物の体内でその破壊力を発揮する。頭部、ひいては脳という生命と行動管制を司る器官を、外皮装甲の無い内側から直接破壊されたことで、怪物はその身を一度大きく痙攣させ、やがて脱力し動かなくなった。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑭

そうこうしている内に、わたし達は寿々谷公園に到着した。
休日の人々で賑わう公園内を周りつつわたしは昔の話をあま音さんとしていたが、あま音さんはことごとく覚えていないようだった。
周りの皆はそれを不思議そうな目で見ていたが、ネロだけはなぜか周囲を気にしていた。
「…今日はありがとうね」
色々とわがままに付き合ってもらっちゃって、とあま音さんは日の暮れかけた公園の隅のベンチで言う。
公園にいた人々は少しずつ帰り始めており、辺りの人気は減りつつあった。
「いえいえ、別に良いですよ」
わたしも楽しかったです、とわたしはあま音さんに笑いかける。
「…おれ達は付き合わされてただけだけどな」
しかし耀平はふてくされたように呟き、その隣に立つ黎はうんうんとうなずく。
わたしはそれを見て苦笑した。
一方そんな中でも、ネロは何かに警戒するかのように辺りを見回していた。
「お待たせ~」
…とここで、穂積と雪葉がお手洗いから帰って来た。
「あ、おかえり~」
「じゃあそろそろ行くかね」
耀平と師郎はそれぞれそう言う。
わたしもそうだねと言ってベンチから立ち上がろうとした。
その時だった。

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スーパーでおかずホイホイ

「愛」を料理に例えるとしたら
    隠し味は、ちょっとの寂しさだ。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その③

犬神に指示された当日。平坂は指定された時間の20分前に、中学校の正門前に到着していた。
「ん、神職さまは思ってたより早い到着だったね。入って来て良いよ」
その学校の制服であろうセーラー服姿の犬神に手招きされ、校門をくぐる。そのまま校舎に入り、廊下を進み階段を上り、3階のとある教室の前で立ち止まる。
「とうちゃーく。2年3組の教室でーす。被害者連中には集まってもらってるから、早く入ろう」
扉を開けようとする犬神の肩を掴んで、平坂が制止した。
「ん?」
「これを持っておけ」
そう言って平坂が差し出したのは、小柄な犬神の掌にもすっぽりと収まるほどの、小さな巾着袋だった。
「何これ、おまもり?」
「いや、何の変哲も無いただの砂だ」
「……なんで?」
「要らなかったか?」
「…………要る」
「だろうな」
「ありがと」
「早く入れ」
平坂に急かされ、犬神は頷いて勢い良く引き戸を開いた。

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Gone

君への"I Love You."に,
dなんて付けたくなかった.

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑬

「家族が言うには昔突然行方不明になって、発見された時には記憶喪失に…」
あま音さんは呆然とするわたし達の方を見やる。
するとパッと明るい笑顔を見せた。
「あ、ゴメンゴメン」
暗い話しちゃったね、とあま音さんは手を振った。
わたし達は少し困惑するが、あま音さんはあ、とわたしのリュックサックに手を伸ばした。
「…このキーホルダー、私も持ってるよ」
彼女が手に取ったのは、わたしのリュックサックに下がっているウサギのキーホルダーだった。
「ほら」
あま音さんは自身の肩にかけているトートバッグのキーホルダーを指さす。
それはわたしのものと色違いだった。
「もしかしたら、私達友達だったかもね」
同じ小学校だったし、と彼女は笑う。
わたしは思わず目をぱちくりさせた。
周りの皆もその様子を静かにみていたが、ふとネロが何かに気付いたようにちらと後ろを見た。
「ネロ?」
耀平がそれに気付いてどうしたとネロに話しかけるが、ネロはパッと彼の方を見る。
「…ううん、何でもない」
ほら、行こうと言ってネロは公園の方に向かう。
わたし達にそれも続いた。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その②

「……私用か?」
「まあね。同級生が馬鹿やったっぽくて」
「お前やあの鬼子でどうにかできない問題なのか?」
「んー……ほら、『こういうの』で被害者の子たちに大事なのってさ、『形としての安心』なわけじゃない?」
「……『こういうの』とは?」
「うちの学校の馬鹿共がやったのがさぁ、“こっくりさん”なんだよ。分かる? 霊とか神様とか、そういうの絡みなの。だからさぁ、私、知り合いに神社の人がいるって言っちゃって」
犬神の話を聞いた平坂は溜め息を吐き、やけに重い犬神の財布を突き返した。
「身内の頼みだ、金は要らん。日時と場所だけ教えてくれ、こっちから向かう」
「わーい。じゃあ明後日。10時くらいが良いな。場所はねぇ……ね、スマホ持ってる?地図見せるから」
「言われれば自力で調べるが……」
言いながら、平坂は自分のスマートフォンを取り出し、地図アプリを起動してから犬神に手渡した。
「ありがとー。えっとねぇ…………、ん、出た出た。ここ、この中学校ね」
犬神から返却されたスマートフォンを見ると、画面には隣町の中学校の位置情報が表示されている。
「……それなりに遠いな。電車を使うか」
「キノコちゃんなら10分で走って来れるのに?」
「あれと一緒にするな」
「あ、そうだ。何か良い感じの衣装とか着てきてくれると嬉しいな」
「……それで電車に乗れと?」
「たしかにそれは恥ずかしいか。じゃあ何か良い感じの小道具だけ持ってきてよ。あるんでしょ?」
「……まあ、必要な道具を用意すれば、自ずと様になるだろう」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 21.ティアマト ⑫

それからわたし達はあま音さんを連れてあちこちを周った。
…とは言っても寿々谷駅の周辺位だけだが。
何と言っても寿々谷市は広さの割に”名所”と言える場所が少ないのだ。
せいぜいある名所も寿々谷駅の周りに集中している位である。
だからわたし達は寿々谷駅の辺りの名所をひたすら巡っていた。
「へー、あま音さんて浅木小に通っていたんですね~」
「そうそう、小4の時までね」
「わたしも浅木小でした」
「本当?」
ネロ達と共に寿々谷の名所の1つ、寿々谷神社から市民の憩いの場、寿々谷公園に向かって歩く中、わたしとあま音さんは出身小学校の話で盛り上がっていた。
「じゃあ校庭の端っこにあるウサギ小屋とか覚えてます?」
わたし、あそこのウサギが好きで…とわたしが言いかけた所で、あま音さんはうーんと立ち止まる。
「私、当時の事覚えてないのよね」
「え」
わたしは思わずポカンとする。
周りの皆もふと立ち止まって振り向いた。
「それって、どういう」
「まぁ何て言うか…私、ある一時期以前の記憶が欠けてるんだよね」
あま音さんは淡々と続ける。

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回復魔法のご利用は適切に_11

シオンが弱気になっていたところ、不意にエリザベスの手が伸ばされ、人型を指差す。
「いいこと?しっかりと立っていてください。すぐ終わりますわ」
「う…うん」
エリザベスが親指を弾くように上げると、カチッと音がし、火花が散る。
「照準は"核"…『シルバーバレット』!」
それは言葉というよりも、『詠唱』であった。強い衝撃…いや、反動がある。エリザベスを下敷きに転んでしまうところだった。
「わっ…」
反射で瞑った目を開けると、そこにはヒビの入った人型が立っていた。
「核、少し外してしまいましたわ…」
「核って?」
「なんといいますか、魔法の本体、のような…説明が難しいですわ、とりあえずこれを壊せれば暫くスタンさせられますの」
「へぇ…すごいね…」
落ち着いたためか、シオンの足の血がようやく止まった。

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ただの魔女:キャラクター②

・中山サツキ
年齢:15歳  身長:155㎝
魔法少女の1人。使用武器は長さ130㎝程度の短槍。得意とする魔法は2種類の空間転移能力。
1つは「自身を対象とした最大射程3mのショートワープ」。
もう1つが少し複雑。「①対象を『3つ』選択する(それぞれ対象A、対象B、対象Cとする)②対象Bを中心として、対象Aと対象Cが点対称の位置にいる時のみ発動できる③対象Aと対象Cの位置を入れ替える」というもの。かなり使いにくい。
基本的に悪いことをした人にもそれなりの事情があるはずだから、寄り添って理解して、更生してもらおうというスタンス。こいつに「殺すしか無ェ!」と思わせる奴がもし現れたら、そいつは誇って良い。そして死ね。ヒカリは寄り添った結果本気で殺し合うのが最適解だっただけだから例外ね。
ちなみに魔法少女としての通り名は【アイオライト】。名付け当時、ヌイさんは天然石にはまっていたらしい。

・中山ヤヨイ
年齢:13歳  身長:150㎝
魔法少女の1人。サツキの実妹。姉のことは普段は「姉さん」呼びだが気の抜けているときや動揺した際には昔からの「お姉ちゃん」呼びが飛び出す。
使用武器はライトメイス。得意とする魔法は対象の外傷治癒。その外傷に負傷者の意思が干渉しているほど、治癒の際の痛みは強く鋭く重くなる。たとえば極めて浅いリスカの治癒と事故によって起きた複雑骨折の治癒では、前者の方が圧倒的に痛い。
身の回りの誰にも傷ついてほしくないし誰にも死んでほしくないという善良で無邪気な望みが反映された魔法。でも勝手に傷つこうとする馬鹿にはお仕置きが必要だよね。気絶してたから良かったものの、ヒカリの腕と背中の傷は治す時滅茶苦茶痛かったと思います。
ちなみに魔法少女としての通り名は【フロウライト】。