こうして、リーリアメティヘンシューラのマイセリア サイアニス率いる魔法少女たちによる、櫻女学院襲撃は失敗に終わった。
生徒会長のピレタがレピドプテラ総務局に連絡したことで現場には総務局の局員が駆けつけ、サイアたちは連行されていったのである。
そうやって、櫻女学院に平穏が戻った。
「……あのサイアって人、このあとどうなるんでしょ?」
去り行く総務局の関係者を校舎の玄関から見送りつつ、ラパエはふと呟く。それに対し制服姿に戻ったピレタは「ま、良くも悪くも大事にはならないでしょうね」と返す。
「レピドプテラではかなり有力な学園の魔法少女だから、学園側が総務局に圧力をかけて、あの子たちもすぐに普段通りの生活を送れるようになると思うわ」
ピレタが呟くと、ラパエはなんか複雑ですねとこぼす。それに対し制服姿のサルペは仕方ないよと苦笑する。
「このレピドプテラにおいて総務局はそんなに強い存在じゃないから」
正直総務局よりも強い学園なんていくつもあるしね、とサルペは伸びをする。ラパエはへーと答えた。
「まぁまぁ、そんなことは置いといて……もうそろ帰ろうぜ」
日も暮れちゃうし、と制服姿に戻ったシーアはラパエの顔を覗き込む。制服姿のグッタータもそうですねと頷く。
「じゃー、もう帰ろっか」
みんな、とサルペはラパエたちを見やって笑う。ピレタはそうねと返し、シーアはおうよ、グッタータははい、と言う。そしてラパエは「帰りましょ、サルペ先輩」と微笑んだ。
そして5人は櫻女学院の校舎をあとにした。
〈おわり〉
「⁈」
サイアが困惑したように自らの腕を見ると、透明な手が自身の腕を掴んでいることに気付いた。
「お前は‼︎」
サイアが声を上げると、その透明な手の持ち主がはっきり見えるようになった。赤いロリィタ服を身に纏った三つ編みお下げのその少女……ピレタは、サイアの腕を無理やり玄関の床に押さえつける。
「私たちの学園で騒動を起こすなんて、リーリアメティヘンシューラの魔法少女も酷いものね」
ピレタがそう呟くと、サイアは彼女を睨みつける。
「……櫻女学院の生徒会長、チタリアス ピレタか」
そう言うと、サイアはピレタの手を振り解こうとする。だがピレタは逃がさないわとサイアの腕を掴む力を強める。
「あなたは私たちの学園生に危害を加えようとしたのだから、総務局に来てもらうわよ」
堪忍なさいとピレタは言う。その言葉にサイアはそうかいと答えて、抵抗をやめた。
「こんな子ども騙し、私には通じない!」
そう声を上げながらサイアは“ラパエ”たちが消失したことでがら空きになった場所を走り抜ける。それを見たサルペは「させない!」とサイアに飛びかかろうとするが、サルペの目の前でサイアの姿は見えなくなった。
「まさか、固有魔法‼︎」
サルペはそう叫ぶ。“周囲の空間に溶け込む”魔法を固有魔法とするサイアは姿を見せないまま校舎内に突入し、玄関を見回す。すると、柱の陰に座り込む二つ結びの少女が見えた。
サイアはそのままその少女……ラパエに近付こうとするが、不意に「シーア!」とサルペの声が後方から飛んでくる。その次の瞬間、サイアは誰かに横から体当たりされ、地面に倒される。
「⁈」
驚きの余り魔法を解除してしまったサイアの目の前には、山吹色のキャミソールとバルーンパンツを身に纏った、サイドテールの魔法少女が姿を現した。武器である鉄扇を突きつけているその少女……シーアに気付いた時、サイアは自身が罠にはめられたことに気付いた。
「そんな、無名の学園生ごときに!」
サイアはそう言ってマシンガンを構えようとするが、手に持っているマシンガンが突然飛んできた何者かに奪われる。混乱するサイアが飛んできた人物が着地した方を見やると、マシンガンを持った黄土色の髪で黄土色と緑の和服のような衣装を身に纏った少女……グッタータがサイアの方を振り向いていた。
「……これでキミたちの負けだね」
不意にそんな言葉をかけられて、サイアは玄関の扉の方を見る。ちょうど校舎の外からサルペが入ってきている所だった。
「キミが連れてきた魔法少女たちはみんなラパエの分身が無力化したし、キミもその状況じゃ動けない」
「もう、諦めた方が……」とサルペは言いかけるが、サイアはそうかと呟く。サルペは言葉を止める。
「これで私を無力化できたと思っているのか」
サイアの言葉に、サルペはまさかと目を見開く。その次の瞬間サイアは右手にマシンガンを生成し、サルペに突きつけようとした。
しかし彼女の腕は突然誰かに押さえつけられたように上がらなくなる。
「⁈」
サイアが困惑したように自らの腕を見ると、透明な手が自身の腕を掴んでいることに気付いた。
一方、サルペを櫻女学院の校舎内まで吹っ飛ばしたサイアや彼女に従う魔法少女たちは、校舎の目の前で武器を構えてサルペたちを待っていた。学園の入り口付近で違う学園同士の魔法少女が戦うことはまだしも、武力をもって櫻女学院の校舎に入ればそれこそ学園間の大問題になるため、サイアたちは下手に動けず暫く様子を見ていたのだ。しかし校舎内でサルペたちは話し込んでいる様子であるため、そろそろ校舎内に立ち入ることもサイアは考えていた。
「そろそろ、頃合いか」
早くしないと我が学園の生徒会長に怒られかねないからな、とサイアは校舎外壁に掲げられた時計を見やる。
「それに、あの魔法少女は早く捕縛せねばなるまい」
なにせあのまま放置すれば有力な学園同士での勢力均衡に影響が出かねん、とサイアは校舎の玄関口に目を向けた。
いつの間にか、サルペたちは玄関の柱の陰に隠れている。それを確認したサイアは周囲に従えた少女たちに対し声を上げた。
「総員に告ぐ!」
「これより……」とサイアが言いかけた時、不意に「サイア‼︎」という声が校舎の玄関から聞こえた。サイアが声のする方を見ると、そこにはサルペとラパエが玄関口から外に出てきていた。
それを見てサイアは驚く。
「どうした、気でも変わったか」
それに対しサルペは「まぁ、そんな所だよ」と返す。
「キミたちに、ピエリス ラパエを引き渡そう」
「……ただし」とサルペは続ける。
「“本物”を見分けられたらだけどね‼︎」
サルペがそう言った途端、周囲の地面に突き刺さった状態で水色の刀が何本も現れる。その直後、玄関の中から大勢の“ラパエ”が現れ、地面に刺さった刀を手に取ってサイアたちの方へ駆け出していった。
「まさか‼︎」
サイアは思わずそう叫ぶ。サイアに従う少女たちは一斉に銃器を構えるが、どの“ラパエ”が本物か分からず引き金を引くことができない。その隙に“ラパエ”たちはサルペの生成した刀で少女たちの銃器を弾き飛ばしていき、あっという間にサイアが従える少女たちの陣形は崩れていった。
しかしサイアはすぐに冷静さを取り戻し、マシンガンで“ラパエ”たちを撃ち抜いていく。“ラパエ”たちは魔力弾を喰らうとすぐに消えていった。
「……それが、ボクの信条だから」
そして彼女は再度刀を構えた。
ラパエは暫く黙っていたが、やがて「……先輩」と呟く。その言葉にサルペが振り向くと、ラパエはお願いがありますとサルペの目を見た。
「あたしも、先輩と一緒に戦いたいです」
ラパエがそう言うと、サルペは「えっ」と驚く。
「でもキミはここに来たばかりでまだメディウムを持ってないじゃないか」
「どうするっていうんだい?」とサルペは尋ねる。するとラパエは「先輩って、刀を作る魔法を使えるんですよね?」と続ける。それに「まぁ、メディウムの効果で使えるんだけど」とサルペが答えると、ラパエは「じゃあそれをいっぱい作ってください!」と言った。
「あとはあたしがなんとかするんで!」
ラパエがそう明るく言うと、少しの沈黙ののちサルペは分かったと頷いた。
「あと、シーア先輩とぐっちゃんも、一緒に戦って欲しいです!」
さらにラパエがシーアとグッタータに目を向けて言うと、グッタータこそ驚いたもののシーアは「お、おうよ!」とサムズアップをしてみせた。
「とにかく皆さん、行きましょう!」
あたしたちの平穏を守るために!とラパエがいうと、サルペはうんと大きく頷いた。
「キミたちはボクが守るんだ」
「でもあたしに原因があるみたいですから!」
「だから先輩はもういいんです!」とラパエはサルペの手を握る。
「あたしが、あの人たちの元へ行けばいいんです」
「それはダメだ!」
ラパエの言葉に、サルペは語気を強める。ラパエ、シーア、グッタータは驚いて目を見開く。
「サイアたち……リーリアメティヘンシューラっていう学園は、このレピドプテラで他の有力な学園と覇権争いをしているような学園だ」
サルペは自らの左手を握るラパエの手に右手を重ねる。
「あの学園は、自分たちの邪魔をしかねない存在は徹底して叩き潰そうとするから、きっとなんらかの理由でキミが自分たちの邪魔になると思って襲撃してきたんだと思う」
でも、とサルペは続ける。
「ボクはそんなリーリアが許せない」
自分たちの邪魔になると思ったら、平気で相手を叩き潰しにかかるような学園だからねとサルペは呟く。
「そういう所があるから、ボクはあの学園で諜報員だったけどそれを抜けて、レピドプテラの闇と関わりの薄いような櫻女学院にやって来たんだ」
でも、とサルペは続ける。
「ボクやその周りの人の平穏を壊そうとする人がいるのなら、例え相手が魔法少女であってもボクは立ち向かう!」
そう言ってサルペはよろよろと立ち上がる。
「有力な学園同士だと小競り合いがあるってことは聞いたことあるけど、うちみたいに大した力もない無名の学園が急に襲われるなんて聞いたことないよ……」
グッタータは不安げに身を震わせた。
一方ラパエは困惑しているような顔をしている。それに気付いたシーアは、大丈夫かラパエと声をかけた。
「あ、ごめんなさい」
多分あたしのせいでこんなことになっちゃったんですよね……とラパエは俯く。シーアは「アンタは悪くないよ」と肩に手を置くが、ラパエは違うんですと首を横に振る。
「あたし、実はここに来る前は外の世界のテロ組織みたいな所で、大人たちのいいように使われてたんです」
あたしの魔法は人を傷つけるのに向いているから、それで目をつけられてずっと……とラパエは続ける。シーアとグッタータは何も言えないまま話を聞いていた。
「だけど、魔法が使える女の子はみんな“魔法少女学園都市”っていう魔法少女の街に行けるって聞いてたから、いつかそこに行けると信じて生きてきたんです」
それでひと月前、組織が国際警察に壊滅させられた時にあたしは保護されて、それでここへやって来たんですよ、とラパエは言う。
「あたし、レピドプテラに憧れてたから、とっても素敵な楽園みたいな所だと思ってたけど、ここでもあたしのせいで人が傷ついて……」
どうしてこんなことに……とラパエは声を震わせる。その様子を見てシーアとグッタータはかける言葉を見つけられなかった。
「ぐっ!」
ラパエたちが黙り込んでいると、不意に玄関口にサルペが転がり込んでくる。それを見てラパエは、サルペ先輩!と思わず駆け寄る。シーアとグッタータも駆け寄ってきた。
サルペはみんな……と呟きながら立ち上がろうとするが、魔力弾でつけられた脚の傷が痛んで思うように立ち上がれない。ラパエは「先輩無理しないで!」と声をかけるが、サルペはいいやと拒否する。
ロノミアが追撃を狙い、ササキア達に向かう。その瞬間、ニファンダの魔法が彼女を捉えた。
(っ……時空干渉! マズい、モリ子の『糸』と違って、こんな単純な結界術でどうこうできる代物じゃない……!)
体勢を立て直したササキアが、盾で殴りつけようと踏み込んだその時、ロノミアの身体が自由を取り戻し、逆にササキアの動作が一瞬停止する。
(この『絡みつく魔力』……ニファンダの『時空支配』の中でもここまで妨害してくるのか)
ササキアとロノミアの攻撃が衝突し、再び空間が震える。
「……へぇ? 会長」
ニファンダに呼ばれ、ササキアは後退した。
「この『時空間を縛る糸』、犯人はあの双子ちゃんたちみたいだね。私の支配する領域内で、ここまで張り合ってくるなんてびっくりしちゃった」
「ふむ、そうか。なら、そちらから倒そう」
ササキアが注意を双子に向けると、それを庇うようにロノミアが移動する。
「くぁちゃん……どうしよう。あいつの時空間操作、すっごい強いよ」
ボンビクスが不安げに、ロノミアの背中に呼びかける。
「あん? そうかい。で? 駄目ならそこまでだぞ?」
「うっ……だ、大丈夫! だと、思う……」
「ふーん……モリ子、ヤマ子」
「「?」」
「何にせよ、私はお前ら信じるしか無いんだ。……だから、お前らに良いものを見せてやる」
ロノミアが、手にしていた“チゴモリ”と“ヒナギク”を消滅させた。代わりに、一振りの刀が出現する。
その刀は、『刀』と直接形容するには、些か歪であった。
刃渡り75㎝ほどの異常に幅広の刀身は先端に向かう程太く拡大しており、断面は五芒星を膨らませたような奇妙な形状をしている。外見に違わぬ質量のためか、ロノミアは柄こそ握っているものの、刀身の先端は設置させたままでいる。
「ブチカマすぞ、“癖馬”。……なぁ生徒会長、禅問答しようぜぃ。お題は、『制御できない力は“強さ”たり得るか』で」
「フン、逃げるつもりか……撃てぇ‼︎」
サイアがそう声を上げると、彼女が従えている少女たちは一斉に銃器のトリガーを引く。サルペは咄嗟に展開している光壁を横方向に広げ、攻撃の飛んでこない上方向へ飛び上がった。光壁は少女たちが撃った光る弾丸を弾き飛ばす。
空中に飛び上がったサルペは右手に持つ水色の刀と同じ刀を周囲に生成し、地上にいる少女たちに向けて放つ。刀はそのまま少女たちが持つ武器目がけて飛んでいき、銃器を弾き飛ばす。しかしそれを避け切った少女もおり、そういった少女たちは塀から飛び降りて銃口をサルペに向けた。
サルペはそれに気付くと、飛行魔法を使って地上のサイア目がけて飛んでいく。サルペは飛びながら刀を構え、サイアも自身が持つマシンガンを向けてトリガーを引く。しかしサルペはサイアが放つ魔力弾を易々と避け、サイアの懐に入ろうとする。
だがサイアはサルペが自身まで3メートルほどの所まで近付いた時に魔力でできたバリアを展開する。サルペはバリアに弾かれ、小さくうめき声を上げてその場に転がった。
「……やっぱり、そう来るよねぇ」
サルペは立ち上がりながらそう呟く。当たり前だ、とサイアは答えた。
「私とお前は何年同じ学園にいたと思っている」
お前の作戦くらい簡単に分かる、とサイアはサルペにマシンガンを向ける。サルペは咄嗟に空中に飛び上がってそれを避けるが、すぐにサイアは銃口を空に向けて飛び回るサルペを追いかける。サイアが従える少女たちも各々の持つ銃器を空中のサルペに向けた。
「これは……だいぶマズくね⁇」
校門の前から校舎内に退避したシーアは、建物の柱の陰から外の様子を見て思わずこぼす。それに対し、グッタータもうん……と頷く。
「我々はかつて同じ学園の仲間だったじゃないか」
恩を仇で返すとでも?とサイアはサルペに尋ねる。サルペは「……そうだね」と目を逸らす。
「ボクたちはかつて仲間だった」
だけど、とサルペは右手に青い刀身の刀を生成する。
「今のボクはキミたちと同じ諜報員ではない」
だからキミに従う理由はないよ、とサルペはサイアを睨む。
「……それに」
サルペは続ける。
「ボクの友達たちに武器を向ける人の言うことなんて、聞けるわけがないじゃん」
その言葉に驚いてラパエはサルペの方を見る。その視線に気付いたサルペはラパエを見てにこりと笑い、またサイアの方を見た。
「と、いう訳で、マイセリア サイアニス」
キミやその仲間たちにはお引き取り願いたいんだけど、とサルペは笑いかけた。
それを聞いて、サイアは「……そうか」と呟く。
「それなら我々は実力を行使するしかないな」
そう言うと、誰もいなかった学園の敷地を囲む塀の上に黒い軍服のような制服姿で、銃器を構えた少女たちが一斉に現れた。その光景を見たラパエ、シーア、グッタータは思わず身構えるが、サルペはそうかいと答える。
「キミたちが本気を出すというのなら、ボクもそうするしかないね」
そう言うと、サルペは背後にいるラパエたちに目を向けた。
「3人とも、危ないからどこかに隠れてて」
今からちょっと手荒なことをするから、とサルペは言う。それを聞いたラパエたちは頷いて校舎内へ戻り始めた。
「えっ、なに⁈」
真っ白な煙の中、ラパエは慌てて周囲を見回す。グッタータとシーアもなにが起きたのか分からず立ちすくむが、サルペだけは冷静に首のペンダントについた水色で六角柱の宝石のようなアイテム……メディウムを握りしめる。その次の瞬間、煙の外から光る弾丸が飛んでくると共にサルペの周囲から光が放たれた。
「⁈」
光が止んでからラパエ、グッタータ、シーアの3人は恐る恐る顔を上げる。彼女らの目の前では黒と水色のサイバーパンク風ファッションに身を包んだサルペが手を前に出して光の壁を展開していた。
そして彼女の数メートル前方の校門の前には、青紫の軍服のような服装に身を包むボブカットの少女がマシンガンを携えて立っていた。
「久しぶりだね」
サイア、とサルペは相手を睨みつける。サイアと呼ばれた少女はああ、そうだなと淡々と答える。
「まさかお前がこんな所にいるとは思わなかったが」
我々の邪魔か?とサイアは尋ねる。サルペは「いや、ボクはなにも知らないね」と返す。
「あの学園を去ったボクにとって、キミたち諜報員の動向は最早無関係だよ」
サルペはそう続けるが、サイアはそうかと呟く。
「……なら、そのバリアを解除してほしい」
我々はそこのピエリス ラパエに用があるんだ、とサイアはラパエに目をやる。ラパエは驚いて目を見開いた。
「あ、あたし……?」
なんで……⁇とラパエは困惑する。その言葉に驚いてグッタータとシーアもラパエに目を向けた。
「理由は今ここで言えないが、ピエリスさんには我々についてきてもらいたいのだ」
だから頼むとサイアはサルペの目を見る。暫くの間その場に沈黙が降りたが、やがてサルペが口を開く。
「……残念ながら、ボクにはそれができない」
その言葉を聞いてサイアはなぜ?と聞き返す。
「えーどうして〜?」
シーアが口を尖らせると、ピレタはどうしてってと腕を組む。
「ポリゴニアさんはよくやらかすからよ」
「そ〜う〜?」
シーアは笑いながら首を傾げる。ピレタは呆れたようにため息をついた。
「…とにかく、私はここで留守番してるわ」
やることあるし、とピレタは組んでいる腕を解いた。
それを見てシーアはつまんないの、と呟くが、すぐにサルペとラパエに向き直り「…じゃ、行こうか!」とイスから勢いよく立ち上がる。ラパエも行きましょ〜とイスから立ち、サルペも黄土色の髪の少女も立ち上がって荷物をまとめると、教室から去っていった。
そんなこんなで、ラパエとサルペはピレタ以外の都市伝説同好会の面々と広い校舎内から外へ向かった。
この学園に前々から所属しているシーアと黄土色の髪の少女は複雑な校舎の構造がしっかり頭に入っているらしく、あっという間にラパエとサルペは校舎を抜けて校門の手前まで辿り着いた。
「へー、“グッタータ”だからぐっちゃんなんだ〜」
「はい、その方が呼びやすいとシーア先輩が言ってくれたので」
ラパエの言葉に黄土色の髪の少女は答える。
「先輩はこんな気弱でできないことの方が多いわたしに最初からすっごく優しくしてくれたんです」
だから先輩と同じ同好会に入ったんです、とグッタータは恥ずかしげに言う。それを聞いてシーアは「照れるよぐっちゃ〜ん」と頭を掻いた。
「あたいは困ってる奴を放っとけないだけなんだよー」
ピレタみたいに冷たくないんだし、とシーアは笑う。
…とここでサルペが不意に足を止めた。
「あれ、どうしたんですサルペ先輩」
ラパエが気になって尋ねると、サルペは「……ねぇ」と周囲の少女たちに話しかける。
「あそこ、何かいる」
サルペは学園の敷地を囲む柵の上を指さす。
しかしそこに目を向けるラパエたちには何も見えない。
「なにも……見えないですよ」
「そうですね」
ラパエとグッタータはそれぞれそう答える。シーアも「なにが見えるんだ?」とサルペの方を向いた。
サルペは「いや、それは……」と口ごもるが、その瞬間缶のようなものが投げ込まれる音がした。4人がハッと音のした方を見た瞬間、辺りに煙が立ち込め始めた。
「……なるほど」
アンタたちは転入生で、それで校舎の中で迷子になってたんだねとサイドテールの少女は教室のイスに座りつつ腕を組む。「うん、そうなの」とサイドテールの少女が座るイスの、目の前の席に座るラパエは頷く。
それを聞いてサイドテールの少女は「まーそうだよね〜」と笑う。
「この学園は生徒数の割に敷地が広くて校舎デカいから初見は迷子になりやすいんだよ〜」
あたいも初めてここに来た頃はよく迷子になったし、とサイドテールの少女は頷く。
「ぐっちゃんなんか迷子になり過ぎて泣いてたもんな」
「ちょ、ちょっとシーア先輩〜」
わたし1回しか泣いてないですよーと、サイドテールの少女の隣に座るぐっちゃんと呼ばれた黄土色の髪の少女は恥ずかしそうにする。それに対しシーアと呼ばれたサイドテールの少女は「泣いたこと認めてるじゃん」と笑う。
「……まぁとにかく、グラフィウムさんとピエリスさんは仲良く迷子してる内にこの都市伝説同好会の溜まり場に辿り着いてしまった、と」
話を切り替えるように、少女たちの近くに立つ三つ編みお下げの少女は腕を組んだ。その言葉にシーアは「おいおいピレタ、言葉に棘があるぞぅ」と三つ編みお下げの少女をからかう。ピレタと呼ばれた三つ編みお下げの少女は「そのつもりはありませんよポリゴニアさん」とシーアから目を逸らした。
「……まぁともかく、ボクたちはこの校舎内で迷子になっちゃったんだ」
という訳でここから出るためにキミたちの力を借りたいんだけど、いいかな?とサルペは笑いかける。
それに対しシーアは「いいよ〜」と威勢よく答えた。
「あたいたち暇してたし」
ね、ぐっちゃん?とシーアが黄土色の髪の少女に目をやると、彼女はあ、うんと頷く。しかし不意に私は行かないわとピレタは冷たく答えた。
「いや、そこの教室に誰かいるみたいでさ」
気になるんだよね、とサルペは教室の窓を睨む。ラパエは「えっ」と驚く。
「そこの教室に誰かいるんですか?」
全然分かんないけど……とラパエは教室の方を見ながら目をこする。
サルペは足音を殺してそっと教室の扉に近付くと、勢いよく扉を開けた。
「わぁっ‼︎」
サルペが開いた扉の向こうからは、3人の少女が転がり出てきた。サルペは軽い身のこなしでそれを避ける。
「ぐえー、ぐっちゃん重い〜」
「そ、そんなこと言わないでくださいよシーア先輩〜」
「あぁもう、アンタたちねぇ……」
廊下の床に倒れる3人を見ながらサルペは微笑み、ラパエはポカンとする。3人の少女たちは暫くうだうだ話していたが、その内の黄土色の髪の少女はが顔を上げてラパエとサルペに気付くと「ひぇっ」と声を上げた。黄土色の髪の少女の下敷きになっていたサイドテールの少女は不思議そうに顔を上げ、そのそばで手と膝をついていた三つ編みお下げの少女は顔を上げてラパエとサルペに気付くと顔をしかめた。
「あなた……」
三つ編みお下げの少女がそう呟くと、サルペは「よっ」と手を小さく上げるとこう尋ねた。
「ちょっとキミたちに訊きたいことがあるんだけどさ」
「いいかな?」とサルペは笑いかける。3人の少女は顔を見合わせた。
(何だ? この子供たちは……こいつの仲間か? しかし、言い分が奇妙だった。『助けに来た』といった直後に、『守って』だと? 不自然だ……)
ササキアが、ニファンダを庇うように前に出る。それと対になるように、ロノミアも双子を後方へ押しやりながら前進した。
「クキキッ、何となーく察してるとは思うがよぉ……生徒会長さんよ?」
「どんな魔法を使おうが、勝つのは“甜花学園”だ」
「どうだろうなァ? あんたなら知ってると思うが……」
ロノミアとササキアが、同時に攻めに入る。ササキアの盾とロノミアの“チゴモリ”がぶつかり合い、静止した空間に火花が飛び散る。
(この威力……これまでの打ち合いと比べて、明らかに『重い』)
「クカハハッ! びっくりしてんな? 生徒会長さんよぉっ!」
ロノミアが“チゴモリ”を振り抜き、ササキアを押し返す。
「あんたなら知ってるはずだ。『守るものがある奴は強い』ってな。そういう能力」
ロノミアの構えた“チゴモリ”の赤い刀身が、どこか神聖さすら感じさせる清らかな輝きを放つ。
「異称刀、“稚児守”」
ニタリと笑い、ロノミアが更に斬撃を叩き込む。ササキアはそれを大盾で受け止めた。その衝撃の余波で、ボンビクスとニファンダによって縛められているはずの空間がビリビリと震える。
「なっ……これも防ぐのかよ!」
「『この程度』で……私は折れん!」
ササキアの啖呵に、ロノミアは再び口角を吊り上げる。
「へェ? そんなら……こっちはどうだ?」
大盾に向けて、ロノミアは更に“ヒナギク”を叩きつける。
(両手で打たれようが……待て、何故『変形効果』で直接狙わない?)
「敵に届くまで、この『生きた刃』は止まらねぇ」
“ヒナギク”の一閃は大盾に衝突して尚停止する事無く、少しずつ前進していく。少しずつ、その一撃の成立を目指して振り抜かれていく。
「異称刀ぉっ!」
遂に、その斬撃は完了した。防御技術により、直接的な殺傷こそ起きなかったものの、ササキアは弾き飛ばされ、後方に控えていたニファンダに受け止められる。
「“否凪駆”」
「……キミも迷子?」
ポニーテールの少女の言葉に、ラパエはついずっこける。
「き、キミ“も”?」
ラパエが聞き返すと、ポニーテールの少女はうんと頷く。
「だってボクも迷子だし」
「えええ⁈」
そう、なんですか……?とラパエが近付くと、ポニーテールの少女は苦笑いする。
「実はボク、今日からこの学園に所属することになってさ、まだ校舎の構造が頭に入ってないんだよね」
「だから迷子に……」とポニーテールの少女は言いかけるが、ラパエは「えっ、あなたも転入生なんですか⁈」と驚く。ポニーテールの少女はあぁ、うん……と答える。
「もしかしてキミも転入生なの?」
「はい! 中等部2年1組のピエリス ラパエですっ‼︎」
ポニーテールの少女の質問に、ラパエは姿勢を正して明るく答える。その様子を見てポニーテールの少女はそんなにかしこまらなくていいよと笑ったが、ラパエは「いえ! 先輩相手に失礼なので‼︎」と背筋を伸ばしたままだ。それを見てポニーテールの少女はふふと微笑む。
「……ボクはグラフィウム サルペドン、高等部2年3組だ」
ボクのことはサルぺと呼んでとポニーテールの少女が言うと、ラパエは「じゃーサルぺ先輩!」と声をかけた。
「一緒にこの校舎から脱出しましょう!」
ラパエは元気よくサルペの両手を取る。サルペはあぁ、そうだねと言ってちらと真横にある教室の扉に目をやった。それに気付いたラパエは「……どうしたんです?」と首を傾げた。
午後3時半、今日の授業が終わって多くの生徒たちが教室を去る頃。
櫻女学院の中等部2年1組の教室もまた、今日の授業を終えた生徒たちが去ってがらんとしている。そんな中、髪を二つ結びした少女・ラパエはリュックサックを背負って教室をあとにした。
「“学園”ってこんな感じなんだ〜」
「広いし綺麗だし、すごーい」と独り言を言いながら、ラパエは校舎の階段を下り、下の階の廊下を歩いていく。
「きっと素敵な魔法少女がいっぱいいて、賑やかな環境なんだろうな〜」
ラパエはそうスキップしながら進むが、不意に立ち止まり辺りを見回した。
「…あれっ?」
「ここ、どこ…?」とラパエは不安げな顔をする。自分は校舎の玄関に向かっていたはずなのに、今は同じような教室がいくつも並ぶ廊下に立っている。1階まで下りたはずなのに、別のフロアで下りてしまったのだろうか。
ラパエはここがどこか分かる手がかりはないかと辺りを見回す。しかし壁に貼ってある掲示物や教室の入り口に下がっている教室名が書かれた看板を見ても、ここが何階なのかは分からなかった。
「わたし、迷子になっちゃったのかな…?」
ラパエは不安そうに俯くが、ここで不意に背後から「おや?」と誰かの声が聞こえてきた。ラパエが振り向くと、そこには黒いパーカーを羽織り髪をポニーテールにした、スポーティーな印象で高校生くらいの少女が立っていた。
救世主が現れた、と言わんばかりにラパエの顔は明るくなる。
よく晴れた春の朝。
白い外壁が特徴的な校舎の学園・櫻女学院の中等部2年1組の教室では、転入生の紹介が行われている。教室の前には桜色のセーラーワンピースの制服を着て、髪を二つ結びにした少女が担任の教師の隣に立っていた。
「えー、今日からうちのクラスで勉強することになったピエリス ラパエさんだ」
みんな仲良くするようにと言ってから、女教師は少女に目くばせして自己紹介するよう促す。少女は「ピエリス ラパエです!」と明るく名乗り、こう続けた。
「あたし、ずっと魔法少女学園都市に憧れてたので、ここに来れてすっごく嬉しいんです‼︎」
「だからよろしくお願いします!」とラパエはおじぎをする。それを見てクラスの生徒たちはどよめいた。
というのも、この櫻女学院がある人工島・レピドプテラは“魔法少女学園都市”とも呼ばれるように、世界各地から“魔法”と呼ばれる一種の特殊能力を発現させた少女たちが集められ、魔法を失うまで隔離される場所なのだ。魔法を失うまで、一度レピドプテラに隔離された魔法少女はまず出ることはできないため、大抵の人間にとってはあまりいいイメージのある場所ではないし、ここにいる魔法少女の多くは自ら望んでここに来た訳ではない。
しかしこのラパエという少女は“魔法少女学園都市に憧れていた”と言うのである。自らの意思でレピドプテラに来た訳ではない多くの魔法少女たちにとって、違和感でしかない発言だった。
「はいはい、騒ぐのはあとにして」
教師は手を叩き、「ピエリス、あなたの席は窓際の1番後ろだからな」とラパエに声をかける。ラパエははーいと返事をして言われた座席に向かった。
「……テンちゃん、まずい」
ビルの屋上で、ボンビクスが呟いた。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「糸を逃れる人がもう1人出てきた。多分、私より『上』から時空を握られてる。どうしよう……くぁちゃんの結界術は私の糸からしか守れないから、やられちゃうかも……」
姉の言葉に、アンテレアは一瞬考え込んでから口を開いた。
「お姉ちゃん、くぁちゃんと初めて会った日のこと、覚えてる?」
「うん。怖い先輩に絡まれてた時に、くぁちゃんがその人をボコボコにしてくれたんだよね!」
「その時にね、くぁちゃんが言ってたの。『お前らがいて都合が良かった』って」
「そういえば言ってたね? でもなんで?」
「私も気になって、あとで聞いたの。何か、くぁちゃんの刀の中に、2個の能力があるやつがあるんだって。『イショートー』だっけ?」
アンテレアが、にぃ、と笑う。
「くぁちゃんの刀の中にね、私たちみたいな子を守ると強くなれるのがあるんだって。だから、お姉ちゃん」
アンテレアの言葉に、ボンビクスは目を輝かせた。
「テンちゃん、行こう! くぁちゃん助けに行くよ! 結界お願い!」
「りょーかい!」
アンテレアが、新たに双子を範囲内に収める小さな結界を生成する。ボンビクスの魔法の発動と同時に、2人は屋上から飛び降りた。
ボンビクスは糸をクッションにして着地し、そのまま甜花学園を覆う結界に突入する。
「これで……自由に糸を使える!」
ボンビクスは双子の身体を糸でまとめ、校舎に向けて糸の先端を射出した。外壁に接着した糸を引き、伸縮性を利用して一気に跳躍する。
「お姉ちゃん、くぁちゃん見つけた!」
「分かった!」
糸を操り、双子はロノミアの前に着地する。
「くぁちゃん、助けに来たよ!」
「くぁちゃん、守って!」
突然の双子の出現に、場が一瞬固まる。
「お……お前ら、何つータイミングでで出てきてんだよ……最悪だ」
ロノミアの言葉に、双子は不安げに振り返る。ロノミアは頭を抱えながらも、口元には笑みを浮かべていた。
「……最高のタイミングだ……!」
「ぐっ……時間が足りない……!」
ササキアが呟きながら、身体を起こす。
「あー? 今のを耐えるのかよ?」
「私は、皆に信頼されている……。それに応えるため、折れるわけにはいかないんだ!」
毅然と言い返し、ササキアは再び盾を構える。受けた刀傷は、既に治癒されていた。
「わーお、治癒能力まで搭載済みかよ……とんだ意地っ張りだ。こりゃ骨が折れるぞ?」
ササキアが盾を前に突き出し、突進を仕掛ける。
「ところで知ってるかい? 生徒会長さんよ」
ロノミアが、左手の刀を掲げる。それ――“緋薙躯”の刀身は根元から失われているように見える。否、正確には『視認困難なほどに細長く伸長している』。
「一度伸ばしたものは、必ず縮めなきゃならないんだよ」
“緋薙躯”の刀身伸長が解除され、超高速で元の長さに縮んでいく。ロノミアは先端付近を変形させ、スパイクを形成することで、縮小の過程でササキアの首を捉えられるようにしていた。スパイクがササキアの首の後ろに迫る。
(獲れる……!)
直撃の瞬間、スパイクは虚空で不自然に砕かれ、ササキアを傷つける事無く“ヒナギク”は元の形状に収まった。
「あ……?」
「……どうやら、間に合ったようだな。この『絡みつく魔力』が時間をも拘束していたのだろうが……残念だったな。『時空に干渉する』魔法の持ち主程度、この学園にも揃っている」
校舎の2階の窓が開き、1人の魔法少女がふわりと飛び降り着地した。
「会長、ごめんなさい! いきなりのことで対応に時間がかかりました!」
「助かった。奴が下手人だ」
蝶の羽根を思わせるシルエットの和装に身を包んだその魔法少女――ニファンダ・フスカが、ササキアの隣に並ぶ。
「あれが悪い人なんだ? 流石に私が出し惜しみしてる場合じゃないし、本気で行くよ!」
ロノミアは踏み込み過ぎず、離れすぎず、『約1m』の距離を保ちながら、連続攻撃を放つ。ササキアは2枚の盾でそれを捌きながら、反撃の機会を窺う。
(まだ……)
斬撃が止まった一瞬を逃さず、ササキアが盾の側面で殴りつける。ロノミアは二刀を交差させて押し返すように受け止めた。
(まだまだ……)
刀と盾の押し合いは、盾側の優勢となった。ササキアが少しずつ、ロノミアを押し返していく。
(まだまだまだ……!)
突き飛ばされ転がされないように、ロノミアはじりじりと後退していく。それに気付き、ササキアは踏み込みながら盾で弾き飛ばした。ロノミアは後ろ足を大きく引くようにして耐えるが、上半身が大きく仰け反る。
((今!))
攻めに転じたササキアに、ロノミアは“緋薙躯”の切先を向け、伸長効果を発動する。ササキアは首を傾けて回避し、そのまま盾で殴りつける。その瞬間、ロノミアは自身の周囲に展開していた結界を縮小し、自身に薄く纏うように変形させた。
周囲の空間には、ボンビクス・モリの拘束糸が漂っている。ロノミアの結界術があることで、『安定化』の恩恵を失った糸からロノミアは身を守っていたのだ。そして、その影響は近距離で戦闘を繰り広げていたササキアにも及ぶ。
ササキアは彼女の固有魔法によって身体能力を強化していたことで、拘束糸を強引に振り切りながら行動することができていた。そして、彼女の魔法が『無効化』ではなく『強化』であるからこそ、新たに絡みつく不可視の拘束を再び振り切るためには、僅かな『タイムラグ』が生じる。
(この感覚……! 時間が止まったときと同じ、『魔力が絡みつく感覚』! マズい、振り切ることは不可能ではない。しかし、この状況は……)
「おっらああァッ!」
一瞬の隙を逃さず“チゴモリ”が振り下ろされ、ササキアは壁に叩きつけられた。
どうも、テトモンよ永遠に!です。
3月も折り返し地点に達しましたので、現在開催中の企画のリマインドです。
「何それ気になる!」って方はタグ「魔法少女学園都市レピドプテラ」かテトモンよ永遠に!のマイページから企画設定などを探してみてください。
では以下要項の再掲。
だいぶ前の予告通り、企画です。
タイトルは「魔法少女学園都市レピドプテラ」。
“魔法”と呼ばれる特殊能力を持つ少女たち“魔法少女”が集まる学園都市“レピドプテラ”で巻き起こる物語を皆さんに描いて頂く企画です。
開催期間は3/3(月)〜3/31(月)まで(遅刻投稿大歓迎)で、ルールはこの後投稿する設定と公序良俗を守った上でタグ「魔法少女学園都市レピドプテラ」を付けていただければあとはなんでもOKです!
作品形式・分量・数は問いません。
自由に設定に沿った作品を作って投稿し合うだけの企画ですので、よかったら気軽にご参加ください。
ちなみに企画者はまだ参加作品を完成させておりません(笑)
見切り発車で投稿し始めてもうまくいかない気がするので最後まで書き切ってから投稿しようと思ってるのですが…企画期間内に最後まで投稿できるかどうか。
ちなみに今回以降も企画を開催する予定はあるのですが、正直最近の参加者数を鑑みると期間を設けずにやった方がいい気がしてきたのでこの形での企画開催は最後になるかもしれません。
なので「期間を設けた形がいい!」って方はぜひ参加してみましょう(一文だけのポエムでも構いませんので)。
という訳で皆さんのご参加待ってまーす。
ロノミアは左手に握った直刀“ヒナギク”を振り上げ、照準を定めた。その様子に、ササキアは警戒を強める。
(奴の構え……足を止めている? まさか、遠距離からでも当てられる刀なのか?)
ササキアの装備していた大盾が、2枚のやや小さくなった盾に変化し、両手に収まる。
(奴の攻撃力は把握できた。これで十分対応できる)
「駆けろ……“緋薙躯”!」
振り下ろした“ヒナギク”の刀身が伸長し、ササキアに迫った。ササキアは2枚の盾を構え、防御の姿勢を取る。
刀身は盾に衝突する直前、直角に軌道を変え、防御を掻い潜り切先を首に向けた。ササキアは身体を傾けるようにしてその刺突を回避する。
(刀身の『伸長』と『変形』!)
後退し、ササキアは双盾を構え直した。その隙に距離を詰めていたロノミアが、右手に握った太刀“チゴモリ”で斬りつける。ササキアは双盾で挟み込むように受け止め、そのまま刀身をへし折った。
「あ、テメ! よくもやってくれたな……!」
ロノミアがササキアを睨みながら距離を取り、“チゴモリ”の柄を強く握ると、鎺の隙間から赤い流体が溢れ出し、折れた刀身を埋めるように再形成した。
(あの刀も修復効果があるのか……)
「くそぅ……こいつを直すの、しんどいんだぞ? だから……」
ロノミアが両手の刀を真上に放り上げる。二振りは回転しながら上空で交差し、再び諸手に収まった。“ヒナギク”は刀身の変形効果によって“チゴモリ”と区別のつかない形状に変化している。
「これで、どっちがどっちか分かんないだろ」
「どちらが何であれ、防ぎ、砕く。それだけだ」
「良い答えじゃん」
ロノミアが二振りの刀を提げたまま、再び突撃する。
ロノミアが斬馬刀を振り上げたその時。
「お前ッ! 何をしている!」
背後からかけられた怒声が、彼女の攻撃を引き留めた。
「…………へェ? この領域内で、自由に動けるヤツがいるとは思わなかった」
ロノミアが振り返ると、数m先に軍服風の衣装に身を包んだ魔法少女が立っていた。
「お前がここで一番強いヤツか? それなら朗報だ。『私を倒せば、この学園の異常は解決する』」
ロノミアの言葉に、魔法少女は眉を顰めた。
「……私より強い魔法少女なら、この学園に山ほどいる。私はこの甜花学園の生徒会長、ササキア・カロンダ。皆の信頼に報いるため、お前は必ず倒す!」
「やってみろよ」
ロノミアは“破城”を消し、代わりに一振りの日本刀を生成した。
「“幽鱗”、やるぞ」
身体強化による高速移動で距離を詰め、斬りつける。ササキアは大盾を生成し、それを受け止めた。金属製の硬質な防御に超高速で打ち付けられたことで、刀身に亀裂が走る。
「ははっ! 上手く防ぐじゃんか!」
「この程度の速度で、私を破ろうとしていたのか?」
「いやァ? ……けど、困ったなァ……刀にヒビが入っちまった」
ロノミアが“幽鱗”を掲げると、刀身の罅が全体に広がり、パリンと音を立てて割れてしまった。そして、その下から無傷の刀身が新たに現れる。
(……刀身の損傷を修復した? そういう魔法か)
ササキアが盾を構えると、ロノミアは“幽鱗”を消滅させた。
(何故消した? 損傷は修復できるはず……)
一瞬の思考の後、ササキアは口を開く。
「……今の刀、『修復』の回数は有限なんだな?」
「だったら何だ? どうせ『刀』は他にもある。“チゴモリ”、“ヒナギク”」
ロノミアが新たに、刀身の赤い二振りの日本刀を生成する。
落下しながらビルの外壁を蹴り、ロノミアは一気にアンテレアの結界領域内に飛び込む。同時に、メディウムに封じられた結界術の効果で自身を取り囲む半径1m程度の小さな結界を展開するのと同時に、敷地内の地面に着地した。
「さて……もう始まってっかな? あいつらの魔法が発動しちまうと、どうしようも無いからな……」
ロノミアが飛び降りた直後、ボンビクスは固有魔法を発動していた。
ボンビクスの魔法は、『糸による拘束』。肉眼で捉えられないほど細い、透明な糸を展開し、対象を拘束するものである。
本来、ボンビクスの生成する細糸はその直径故に極めて耐久性に乏しく、出力も不安定なため、実用に足るものではない。
しかし、メディウムに設定した魔法によって固有魔法を強化することで、糸自体の強度を飛躍的に増強すると同時に、その糸が『捕える』対象を概念的なものにまで拡大する。
彼女の放つ『糸』は、その特性を最大限に強化したことで、不安定さも数倍に上昇したのと引き換えに、時空すら絡め取り縛めることが可能となったのだ。
しかし、魔法効果の不安定性自体は据え置きどころか更に悪化しており、ボンビクス一人では自身の強さを発揮できないという、致命的な欠点がある。
それを補うのが、双子の妹であるアンテレア・ヤママイの固有魔法である。彼女の魔法で円形に展開される結界は、領域内において作用している魔法を強化し、更に安定させる。範囲内にさえいれば例外なく効果が適用されるため、味方以外を強化してしまうリスクもある。
しかし、ボンビクスの糸は『時空すら縛める』。領域内にボンビクスの魔法効果が存在する場合、全ての存在及び概念は、安定化しリスクの消滅した拘束糸によって自由を喪失するのだ。
ロノミアが展開した結界内は『双子の領域』から独立した空間となるため、拘束糸は安定性を失う。唯一領域内で安全に活動できるロノミアは、悠然と無警戒に校舎に近付き、魔法を発動し、手の中に全長3m超の斬馬刀を出現させた。
「キッヒッヒ……やるぞォ“破城”。犯行予告のお陰で『守り』は固めてるだろうからな。お前が役に立つはずだ」
翌日、陽が西に傾きつつある中、3人は甜花学園を見下ろす位置にあるビルの屋上から、校舎の様子を眺めていた。
「くぁちゃん、どんな作戦で行くの?」
ボンビクスが尋ねる。
「そんなん決まってんだろー? お前ら双子の魔法で『学園全体』を対象に捕える。あとは私が好き勝手暴れて制圧。完璧だ」
「おー……」
「それよりも、だ。お前ら、本当に良いんだな? 友達もいるんだろ?」
「友達、もう帰ってる時間だと思うよ?」
「あーそっかー……なら問題無いな。残ってるのは中等以上だけだし、多少は手応えもあんだろ。そういやさ、果たし状も送ったんだぜぃ? ちょうど今日の朝に着くよう計算して郵送したから、多分今頃厳戒態勢だろうなァ……」
ニタリと笑い、ロノミアは双子に振り向いた。
「覚悟の用意は?」
双子はサムズアップを返した。
「それじゃ、始めようか。散り行く私の、少し気の早い弔い合戦」
「「了解!」」
双子は同時に首飾りのメディウムを握り、強く念じる。
「「変身!」」
ボンビクスは白色、アンテレアは薄緑色のケープコート姿に変身する。
「いくよ、テンちゃん! サポートよろしく!」
「任せてお姉ちゃん!」
アンテレアが手を前に翳すと、薄緑色に輝く光の輪が生成され、学園敷地に向けて射出された。光の輪は敷地全体を取り囲むように広く地面に拡大する。
「お姉ちゃん、準備オッケー! くぁちゃんも行って大丈夫だよ!」
「よくやったぞヤマ子ぉ。モリ子、私のことは気にするな、全力でブチかませ!」
メディウムを握りしめ、ロノミアは屋上から飛び降りた。
「うん、良いよ」
ロノミアの言葉に真っ先に頷いたのは、双子の姉、ボンビクスだった。
「でも、何するの?」
双子の妹、アンテレアもそれに続く。
「うひひっ。悪い子に育ってくれて私は嬉しいよ。流石は初等低学年の頃から魔法に目覚めるような才覚の持ち主なだけはある」
ロノミアの言葉に、双子は誇らしげに胸を張った。
「で、『何をするか』だったか? 簡単だよ。“襲撃”さ」
「楽しそう! いつ?」
「面白そう! どこ?」
積極的な二人の反応に、ロノミアは満足げに頷いた。
「決行は明日。そして、ターゲットは……」
一度言葉を切り、ロノミアは焦らすように視線を双子に向ける。2人は前のめりになって言葉の続きを待っていた。再びニタリと笑い、ロノミアは口を開く。
「“甜花学園”。ここの隣の学区の学園さ」
その言葉に、双子の表情がぱっと輝いた。
「知ってる! 友達が通ってるよ!」
「何度か行ったこともあるよ!」
「ははっ! そいつぁ都合が良いや! 明日の放課後、お前らがここに来たら、そのまま突っ込む。覚悟の準備をしとけよぉ?」
放課後、ボンビクス・モリとアンテレア・ヤママイの双子は、寮の部屋にランドセルを放り投げると、すぐに街に飛び出した。
目指す場所は、アーケード街の一角、小さな駄菓子屋。その脇の人一人通るにも苦労するような細い隙間に、身体をねじ込むようにして潜り込み、建物の裏に出る。
そこから壁の配管を伝って屋根に上がると、彼女らの目当ての人物、魔法少女ロノミア・オブリクァが仰向けになって日光浴をしていた。
「くぁちゃん、来たよ!」
「こんにちは!」
2人の元気な挨拶に、ロノミアは目だけを向けた。
「ん、来たな? ちゃんと見られずに来れたか?」
「うん!」
「ちゃんと見られてないかキョロキョロしてから来たよ!」
「なら良し」
ニタリと笑い、ロノミアは身体を起こした。
「あぁそうだ……モリ子、ヤマ子。自慢話してやろうか」
「なになに?」
「聞きたい!」
「実は私なぁ、明日20歳になるんだよ」
「へー、おめでとー!」
「明日誕生日!」
「んにゃ、誕生日は明後日」
「「…………?」」
首を傾げる2人を見て、ロノミアはケタケタと笑った。
「それでなぁ? 自分の身体だから分かるんだけどさ。多分、近いうちに私は魔法を失う。これまで色々と楽しませてもらったし、別に惜しくはないんだけどさ……最後に1つぐらい、ドカンと派手に暴れたいだろ?」
ずい、とロノミアが前のめりになる。
「そこでだ。我が愛弟子の2人に、私の最後の大舞台に付き合ってもらいたいのさ」
ロノミア・オブリクァ
Lonomia obliqua(ベネズエラヤママユガ)
年齢:19 身長:168㎝
固有魔法:「刀」の生成
メディウムの魔法:変身、結界術、身体強化、壁や天井への接地
説明:もうすぐ20歳になる魔法少女。自分の魔法の消失を予感しており、最後に何かド派手にバカやりたいと思っている。双子からの渾名は「くぁちゃん」。
ボンビクス・モリ
Bombyx mori(カイコガ)
年齢:12 身長:140㎝
固有魔法:糸による拘束
メディウムの魔法:変身、耐熱性強化、耐寒性強化、固有魔法強化
説明:アンテレアとは双子。こっちがお姉ちゃん。本名は華燦(カサン)。妹と一緒に悪い大人(くぁちゃん)に捕まり、今日も元気に悪さしています。くぁちゃんからの渾名は「モリ子」。
アンテレア・ヤママイ
Antheraea yamamai(ヤママユガ)
年齢:12 身長:140㎝
固有魔法:結界の展開
メディウムの魔法:変身、耐熱性強化、耐寒性強化、固有魔法強化
説明:ボンビクスとは双子。こっちが妹。本名は纏燦(テンサン)。姉貴と一緒に悪い大人(くぁちゃん)に捕まり、どんどん悪いことを覚えていっています。くぁちゃんからの渾名は「ヤマ子」。
・学園 Academy
“レピドプテラ”に暮らす“魔法少女”が通う教育機関。
“魔法少女”は基本的に10代の少女たちであり、“魔法”を失えば“レピドプテラ”の外へ戻ることができるため、故郷に戻った時に生活で困らないよう設立された。
“レピドプテラ”の外の企業や機関によって設立されており、それぞれが特色ある教育を行なっている。
基本6・3・3制(しかし初等教育の前半部に当たる“魔法少女”はほとんどいない)で、1学期は9月始まり(世界的に見ればそっちの方がメジャーだもんね)。
“学園”ごとに“学区”が存在しており、ある“学園”に通う者はその“学園”の“学区”内に住んでいないといけない。
ある“学園”所属の“魔法少女”が他の“学園”の“学区”に出入りすることは自由だが、仲の悪い“学園”同士だとトラブルに発展しかねないので注意が必要。
一部の“学園”は“レピドプテラ”内で“レピドプテラ総務局”をしのぐ程の勢力を持つ。
・レピドプテラ総務局 General affair office of Lepidoptera
“レピドプテラ”の政治や治安維持、“魔法少女”の管理などを担う機関。
“レピドプテラ”の中心街にある。
トップは市長でその下に市議会がある。
・ヒオドシ本舗 Hiodoshi Store
“レピドプテラ”内で有名な雑貨店。
“レピドプテラ”の中心街にあり、この街の“魔法少女”の必須アイテム“メディウム”の受注販売を行なっていることで有名。
店主は大人になっても“魔法”が使える人間・ニンファリス クサントメラスである。
これにて〈設定〉は以上になります。
何か分からないことがあればレスからお願いします。