「…いいなぁかすみ」
2人がその場から離れていくと、キヲンは自らが隠れている商業施設の通路の角からそっとかがんだ状態で顔を出して羨ましがる。
「ボクもナツィに服選んでもらいたい!」
キヲンがそう言いつつ振り向くと、キヲンの傍に立つ露夏はきーちゃんらしいなと笑う。
「でもアイツはツンデレだからなかなか構ってくれないと思うぜ」
「えー、でもナツィとでーとしたい〜」
露夏とキヲンはそう言い合うが、不意に露夏の隣に立つピスケスが…2人とも、と声をかける。
「あの2人、行っちゃうわよ」
ピスケスの言葉でキヲンと露夏はハッとしたように商業施設の通路を見やる。
ナツィとかすみは既に通路の奥へ歩き去っていた。
「あっ、いつの間に!」
「早く追っかけようぜ!」
キヲンと露夏は互いにそう言うと、その場から小走りで移動し始める。
ピスケスは1つため息をついてから、2人のあとを追い始めた。
私の元気の源。
それは人の笑顔だったり優しさだっだりする。
優しくされたら涙が出るくらいに嬉しいから。人の暖かさに触れたら、必ず心から感謝する。
これでもかってくらい優しさを優しさで返す。
それでも足りないんだよね。
私があなたから受けた愛を、その愛を返すことが
私の傍に来てくれた。あなた。
でも、優しいあなたも
私を知ったら、ううん、操られた私を知ったら
きっと去って行く。
それなら初めから来なきゃいい。
私の心があなたを引き裂く前に
あなたが私の心を壊してしまう前に
離れる事を願います
勇気がない私、
勇気があれば声をかけたり、話せたり、行動できるのに
私は0%勇気。
勇気数%だけでもいいからほしい、下さい。
こんなに近くにいるから
この気持ちに気付くことができた
こんなに近くにいるから
この気持ちを伝えることはできない
分かってる
この雨の向こうに――
虹は掛からない
「かすみはかすみなんだから、自分の好きなようにしていい」
その方が俺も気分がいいし、とナツィは腰に両手を当てる。
「なによりいっつも同じような服じゃつまんないしな」
だから今日はちゃんと選べ、とナツィはかすみの目を見やった。
かすみはついまばたきをして、…じゃあとこぼす。
「自分に似合う服を選んでほしいな」
「えっ」
思わぬ回答にナツィは困惑する。
「それ、答えになってなくね…⁇」
「そう?」
正直に言ったつもりなんだけど…とかすみは不思議そうに首を傾げる。
そんなかすみの様子にナツィは呆れてため息をついた。
「仕方ない」
俺が選ぶから、文句は言うなよとナツィはかすみの手を取る。
かすみは…ありがとうと頷き、歩き出した。
私はなんで生きているの?
私はなんのために生まれてきたの?
私はまだ私の存在意義がわからない。
だから私は私の存在意義がわかる日が来るその日まで
生きていよう。
たとえば
他の女の子が脈アリ度0から始めるとき
わたしは脈アリ度−100とかから始める
始めても進まないかもしれない
『美人じゃなくても愛嬌があれば』
『これさえすれば一発で脈アリ』
『仕草と性格で美人と闘える』
それって『他人』だった時の話だよね?
全部完璧じゃないとダメなの
完璧じゃないと
『普通の女の子』と同じ土俵に立つ
希望すら持てないの
最初から存在意義のある人間などいない
否
人間には存在意義が内在している
の方が正しいだろうか
子供の生きている時間など
せいぜい10年や20年
その程度の時間で
人間の存在意義が確定するわけがない
1人の人生がそこまで浅いわけがない
子供でいる期間とは
価値増殖の期間
存在意義は
始めからあるのではない
生きるうえで見つけるものだ
それがいつになるかは分からない
1年後かもしれない
10年後かもしれない
20年後かも 30年後かも分からない
これは綺麗事などではなく
子供は“生きること”が存在意義なのだ
そんなことは分かっていても
生きていていいのか
迷うときはあろうと思う
そうしてキヲン、露夏、ピスケスは、2人きりで出かけるナツィとかすみを追いかけ始めた。
基本的に人工精霊は魔力を探知する能力があるため、ナツィとかすみに気づかれないように3人は距離をとって2人を追いかけていく。
そして路地裏から大通りに出てしばらく歩くうち、人工精霊たちは駅直結の大きな商業施設にやってきた。
「…それで、なんか欲しい系統の服ってないのか?」
平日とはいえそれなりの人々で賑わう商業施設の中を歩きながら、ナツィはかすみに尋ねる。
ナツィの隣を歩くかすみはうーん、と天井を見上げた。
「別に自分はなんでもいいけど…」
「なんでもとか一番困るんだけど」
かすみの呟きにナツィは呆れる。
「今日はかすみの服を買いにきたんだから、かすみの好きなようにすりゃいいんだよ」
ナツィがそう言うと、かすみはそう言われてもと苦笑いする。
「自分はそういうのの好き嫌いがあんまりないしなぁ」
「それが困るんだよ」
ナツィは立ち止まってため息をつき、かすみに向き直った。
私の存在意義。
そんなのどこにあるの?
みんなはどうやって見つけてるの?あるの?
私は不登校で、社会のお荷物。
存在する意味もなくて、社会のお荷物で、どうやって生きていけばいいの?
人間は馬鹿だ。
少し考えればわかることを
感情が邪魔して間違える。
そんなんが溢れるこの世は
綺麗なんかじゃないでしょう
人が生きる意味。
そんなものはない。
心臓が動くから生き、
心臓が止まれば死ぬ。
人生ってそんなもん。
頑なに開かない私のこころ。
開きたいのに人見知りでなかなか開けない私のこころ。
でも話しかけてくれたらちょっとはこころひらく。
こころひらいたら明るいうるさい人間になるよ。
こころひらいたら視野が広がる気がする。
まだまだだけど普段の明るい人間を出してみたい。
理想と現実の差が激しいけど。
くちべただけど。
こころひらきたい。
みんな良いよね。相談相手がいて。
心を許せる人がいるってことでしょ。
勉強でわからないところを教えてくれるんでしょ。
喧嘩したり、慰めあえる人がいるってことでしょ。
でも、私にはそんな相談相手がいない。
友達はいるとしても、
心を許せる友達なんていないし、
勉強を教えてくれる友達なんていないし、
喧嘩したり、慰めあえる友達なんていない。
だからか時々虚しくなる。
そんな友だちがいる人達を羨ましく思う。
私は何もできないただの雑魚だって思う。
悲しい。
この世で一番強い つながり
他のひとのところに行っても
他のだれが想っていても
そのひとは絶対
わたしには勝てない
絶対勝てない
絶対勝てない
わたしの身体の隅々にまで
赤い糸が張り巡らされている
わたしを縛り付けている
「…それで、どうするの2人とも」
不意に後ろから声が飛んできたので2人が振り向くと、青い長髪のコドモが建物の壁に寄りかかっている。
「ナハツェーラーとかすみを追いかけるの?」
「え、そうじゃないの⁇」
青髪のコドモにキヲンは首を傾げた。
「こういう時ってこっそりあとをつけるものなんじゃ…」
ねぇ露夏ちゃん、とキヲンは赤髪のコドモに目を向ける。
露夏と呼ばれた赤髪のコドモはおう、と頷いた。
「2人っきりでいちゃいちゃしてる現場なんてなかなか見られないからな!」
露夏はそう言って右手でサムズアップをする。
青髪のコドモは呆れたようにため息をついた。
「とにかく追いかけよう!」
ピスケス、とキヲンは青髪のコドモの服の裾を引っ張る。
「わかってるわよ」
きーちゃんと露夏だけじゃなにが起きるかわからないからねぇ、と言ってピスケスと呼ばれた青髪のコドモはキヲンの頭を撫でた。
「でもナハツェーラーに怒られるようなことはしないのよ」
「うん‼︎」
ピスケスにそう言われて、キヲンは大きく頷いた。
頭の中が真っ暗の地下の奥底にいるようだ。
なんでだろう…
今日はなにをやっても見ても何にも感じないような…
いつもの自分よりちょっと違う。
おかしいな…
疲れてるからな…
今日の心はあいにくの雨模様?
孤独感に覆われてる気がする。
無意識にストレスを溜めてたものが溢れそうなのかな…
無意識にため息が増えてるかな…
無意識に勝手に傷ついてるかな…
孤独と真っ暗な世界に彷徨う僕。
「だから今日はナツィが服選んでくれるんでしょう?」
「うっ」
かすみの思わぬ言葉に、ナツィは思わず焦る。
「そ、それは…」
仕方ねぇだろとナツィは顔を赤らめるが、かすみはふふ、と笑った。
「じゃあ、行こっか」
そう言ってかすみはナツィの手を取ると、そのまま路地を表通りの方へ歩き出す。
ナツィは、あっちょっと…とかすみにそのまま引っ張られていった。
「…」
2人が喫茶店の前から去っていくと、近くの角から白いカチューシャをつけた金髪のコドモとキャップ帽を被った赤髪のコドモがそっと顔を出す。
赤髪のコドモはナツィとかすみが遠ざかっていくのを見ると、傍の金髪のコドモになぁ、と話しかけた。
「アイツらホントにデートするんだな」
「でしょ‼︎」
金髪のコドモは楽しそうに答える。
「この前2人でお出かけしよ〜って話し合ってたからね!」
「へ〜、やるじゃんきーちゃん」
赤髪のコドモがそう褒めると、金髪のコドモ…きーちゃんことキヲンはえへへ〜と照れた。
勇者は強い。
だけど勇者1人だけでは力が発揮出来ない。
魔法使いがいるからバックアップされる。
僧侶がいるから回復出来る。
遊び人がいるから場が和む。
どれも欠かせない。
幸せな夢を見た
お父ちゃんとお母ちゃんが私の顔に擦り寄って来てくれた。夢を見た
嬉しかった
本当に、嬉しかった(*^_^*)
私の家族、愛してる
ふと、すれ違う子供達の笑顔、愛おしい
この世界の人々、みんな、本当に本当に
みんな大好きなんだ。
大切なんだ。
「いいよ、ナツィ」
今度の定休日、空いてるからとジャンパースカート姿のコドモは嬉しそうに返した。
それを聞いてナツィと呼ばれたコドモは驚いたように顔を上げる。
「いい、のか?」
かすみ、とナツィが呟くと、かすみと呼ばれたコドモはもちろんと頷く。
「ナツィが言うのなら」
かすみがそう微笑むと、ナツィはつい頬を赤らめる。
その様子を覗き見ていた金髪のコドモは、その様子を見届けると笑顔でその場を離れていった。
数日後、喫茶店の定休日。
喫茶店の裏口の前では黒髪のコドモ…ナツィがズボンのポケットに両手を突っ込んで、誰かを待つように立っている。
ナツィはちらちらと喫茶店の裏口の扉を見やるが、扉は開く気配がない。
…と、不意に扉がガラリと開いた。
「あっ、待った?」
白いブラウスの上にジャンパースカートを着たコドモ…かすみは、扉の目の前に立っていたナツィを見てそう尋ねる。
ナツィは、別にとそっぽを向くが…ただ、とかすみに視線だけ向けた。
「せっかく出かけるのに、いつもと服装がそんなに変わってないのが気になるだけ」
ナツィはそう呟いてかすみから目を逸らした。
暖かい光が辺りを照らす昼下がり。
路地裏を金髪に白いカチューシャをつけたコドモが、鼻歌交じりにスキップしている。
金髪のコドモはやがて小さな喫茶店が1階に入る建物の裏口の前で立ち止まると、おもむろにその互い違い戸に手をかけ開いた。
そしてなんてことない雰囲気で、コドモは玄関に入り扉を閉めて靴を脱いでから、薄暗い廊下を歩いてその中程にある階段を上っていく。
しかし、金髪のコドモは階段を上がり切って廊下の奥にある物置の手前でぴたと足を止めた。
どうやら中から聞こえる話し声が気になったようである。
「…つまり、自分と一緒に出かけたい、ってこと?」
金髪のコドモが開きかけの物置の扉から中をそっと覗くと、室内には紅茶セットが置かれたテーブルの傍に置かれたイスに短い黒髪でゴスファッションのコドモが座っており、その傍にジャンパースカートにエプロンをつけたコドモが立っていた。
「まぁ、要約すると、そう」
黒髪のコドモは恥ずかしそうに俯く。
「最近あんまり2人で出かけてないし、たまにはいいかなって…」
黒髪のコドモは両手の人差し指を突き合わせてモジモジした。
それを見てジャンパースカート姿のコドモはふふと笑う。
二人して黙り込み様子を見ていると、突然下から大きなアリエヌスを貫いてドリルが現れた。
「うおー!!ドリル!!でかい!!」
「先輩のレヴェリテルムだ…!」
ブケファルスとフスはお互い顔を見合わせて安堵のため息をつく。
「あ、連絡。先輩からだ…親分らしきアリエヌスはこちらで片をつける。カウダトゥスを頼む…だって」
「カウダ?なんで…あ、対大型戦だと使えないからか」
「ちょ、言い方!あとそれ間違っても本人に言わないでよ!?後が怖いから、ほんとに」
喚くフスを横目にブケファルスは大きなアリエヌスの方を見る。向こうからカウダが駆けてくることを確認し、改めてアリエヌスを貫いたドリルを見た。
「すげー…ん?」
ドリルに抉られたあたりが何かおかしい。小刻みに震えるように動き、そして。
「うわぁあああ!!分裂しやがった!!」
「はっ!?」
アリエヌスはいきなり真っ二つに割れたと思うと、片方はバランスを崩して地面にぶつかって轟音を立て、もう片方は口らしきものを開けた。
そして走るカウダに向かって凄まじい勢いで滑り込んできた。
あの日あなたは夢の中で、私の部屋にいて
とても優しかった。
私はあなたに好きだと言った。
あなたは頷いた。
あなたは私を抱きしめてくれた。
あの日あなたは夢の中で、私の部屋にいて
とても優しかった。
私はきいた。「抱きしめてもいい?」
あなたは無邪気に笑って受け入れてくれた。
あの日あなたは夢の中で、
ああ……優しかったかしら。
「何しても嫌がらないでくれる?」
「うん」
私は間違えてしまった……
あなたは私を拒絶した。
何度やっても全部
あなたは私の知ってるあなたなの。
だからこわいの。
愛されて生まれてきたんだよ、私。
お父ちゃん、お母ちゃんが愛でてくれたんだ。
いっぱいおもちゃ買ってくれたね。
いつも食卓は皆で囲んで、楽しいね。
私の心はたくさん満たされていたんだ。
風邪をひく。
体が元気という名のものが限界を迎えたのかな
心は元気なんだけど、
体がどうしても元気になれない
なぜなんだろう。
体の元気が戻ったら沢山のエネルギーが舞い込むのかな
そこまで待つのは、
苦痛を乗り越えなきゃいけない
そこまで待つ
体が元気になるまで。
ああ 叫び声が聞こえる
ああ 誰かに裏切られる
ああ どうやっても癒せやしない
ああ どうやったら どうしたら
もとに戻るんだろう
喜怒哀楽が感情を操作してる
あのときは怒りが多かった
だから叫ばれるわけ。
そんなん誰にでも嫌われるよね
そんなことを何も知らない昔のあの時あの時間
その様子を見て霞さんはふふふと笑うが、ここでわたしがさっき思った事を思い出す。
「…そう言えば、霞さんって異能力者だったんですね」
わたし、全然気付かなかったですとわたしは言うと、霞さんはそうだろうねと頭をかいた。
「君が一般人だから言わなかったけど、ネロちゃんが堂々と異能力を使っているのを見て大丈夫だと思ったからさ」
だからあの通り使ったんだ、と霞さんは一瞬両目を菫色に光らせる。
「ちなみに、僕のもう1つの名前は”オウリュウ”だよ」
霞さんの言葉に対し、わたしはそうだったんですねとうなずいた。
「…まぁ、そんなことは置いといて」
そろそろ駅へ向かおうぜ、とここで師郎が手を叩いてわたし達の注目を集める。
「そろそろ霞も帰らなきゃだろ?」
師郎がそう言うと、霞さんはそうだねと答えた。
わたしと黎もうなずき、ネロは耀平に近付いて、行こうよーと腕を引っ張る。
耀平は不満そうな顔をしていたが、うんとうなずくと駅へ向かって歩き出した。
辺りはもうすっかり日が暮れ切っていた。
〈23.オウリュウ おわり〉