「良かったな、姉ちゃんの勇姿を見られて」
師郎がそう言って琳くんの肩を叩くと、琳くんは照れくさそうにはにかんだ。
それを見てふと、師郎はこう尋ねる。
「…それにしても、お前さん、あの時異能力が発現しただろ」
その言葉に彼はあ、そうですねとうなずく。
2人に近付くわたし達も、そういえばと足を止めた。
「せっかくだから、お前さんの”もう1つの名前”、教えてもらおうか?」
師郎がそう聞くと、琳くんはほんの一瞬瞳を薄黄緑色に光らせた。
「…ぼくのもう1つの名前は”キリン”です」
異能力は”周囲の人間の感情を読み取る”能力、と彼は答えた。
師郎はなるほどな、と腕を組んだ。
「…あ、次で最後の曲だってよ」
不意にネロがイベントスペースのステージとして区切られているエリアを指し示し言う。
おっそうか、と師郎は言うと、琳くんと共にステージの方へ向き直る。
わたし、ネロ、耀平、黎もステージの方へ近付くと、ZIRCONのフリーライブの最後の曲を楽しむ事にした。
〈22.キリン おわり〉
それから何度やってもシオンだけは魔力量精度共に測定不能だった。放課後、魔法学の教員のサポートを受けたがやはり数値は出ず、ついに教員も匙を投げた。
「ただいまリサちゃん、すっごく遅くなっちゃって…こんなにかかると思わなかったよぅ、待たせてごめんね」
「おかえりなさいシオンさん!私は待ちたくて待っているのですからあまりお気になさらず。さ、帰りましょう」
「うん!…あ、待って。お水飲んでいい?」
「ええ、もちろんですわ」
シオンが足早に水道へ行き、おもむろに蛇口を捻ると、いきなり凄い勢いで水が出た。
「うわっ!!」
「どうなさいましたの?」
水圧はどんどん上がっているらしく、水がとんでもない勢いで跳ね、水道から聞いたことのない音が鳴る。
「うわぁ、私もよくわかんないけど…これまずいよ!どうしよう、止められるかな…」
「いえっ!お待ちくださいまし!不用意に近づいてはいけませんわ!」
エリザベスが強くシオンの腕を引く。ふと、溢れ出た水が人の形をとり始めた。
「間違いありません、魔法ですわ」
「確かに、師郎は年下の世話焼くの好きだよなぁ」
おれやネロだけじゃなく、妹の結香吏の同級生の世話も焼いてるし、と耀平もにやにやする。
師郎は、年下だけじゃなく同い年の黎の世話も焼いてるがな!とエスカレーターの手すりに頬杖をついた。
そうしてわたし達が談笑していると、いつの間にかわたし達が乗るエスカレーターの段は1階まで辿り着いていた。
エスカレーターの降り口の目の前のイベントスペースでは、ZIRCONのフリーライブが催されており、多くの人々が集まっていた。
「お、やってるやってる」
ネロがそう呟いていると、わたしは人だかりの端の方に見覚えのある少年を見つけた。
「あ、琳くん」
わたしの言葉に反応して、琳くんはこちらを振り向き笑う。
「楽しんでるかい?」
師郎が歩み寄りながらそう聞くと、琳くんはもちろんですとうなずいた。
どうも。先程、震える手で文芸部入部届に記名した猫町やたろうです。
皆様、四月に入り、新生活を楽しまれていることと思います。
そこで、新生活と同時に新作を投稿します。
情報は下記の通りです。↓
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題名 「廃都鉄道 right」
作 猫町やたろう
投稿 不定期
話数 未定
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
また、私、猫町やたろうの作品は好きに使って頂いて構いません。
作中に出すなり、二次創作なり、ご自由にお使いください。
できれば、タグ又は本文の最後に、使用した猫町作品の題名を付けて頂けると嬉しいです。
その他、質問や感想、リクエスト等は作品や投稿のレスにて承っております。
どなたでもお気軽に書き込んでください。
皆様の執筆活動が捗りますようお祈りしております。
水のように美しく
火のように猛々しく
月のように凛として
木のように気高くて
金のように優しく
そうして、わたし達はネロの元へ戻った。
わたし達が休憩スペースに戻るとそこにはネロの姿しかなく、ヴァンピレスの姿は影も形もなかった。
ネロに尋ねると、彼女は琳くんの元に向かわせていた分身が消えたため、今回は諦めたようだったという。
「まぁでも良かったんじゃね?」
琳は無事だったんだし、と耀平はショッピングモールの下りエスカレーターに乗りながら上段に乗るわたしや黎、師郎の方を見上げる。
「だな」
あの少年が無事お姉さんの元へ行けたのならそれで十分だ、と師郎はうなずく。
その隣で黎も静かにうなずいた。
…とここで、わたしの頭にふと疑問が湧き上がった。
「…そういえば、師郎は何で琳くんに話を聞きに行こうって思ったの?」
やっぱり異能力の気配がしたから?とわたしが尋ねると、1つ下の段に乗る師郎がそうだなぁと振り向く。
「そういうのもあるが…やっぱり、ああいう年下の事は放っとけないからな」
自然と身体が動くんだよ、と師郎は笑う。
幼い頃大人を信用出来なかった
傷つけられた記憶しかない
人の手が怖かった
だか
母に抱きしめられたとき
人の手はこんなにも暖かいものだと知った
「あーよかった無事で」
一時はどうなる事かと思ったぜ、琳くんと師郎はしゃがみ込みながら声をかける。
「大丈夫ですよ」
師郎さんのお陰で助かりましたと琳くんは笑う。
それを聞いてそりゃ良かったと師郎も笑った。
階段を下りてきたわたし達も、よかったねとかよく頑張ったなと声をかける。
「…さて」
お前さん、お姉さんのライブ見に行くんだろ?とここで師郎が琳くんを立たせつつ言う。
それを聞いて琳くんはそうだった…と恥ずかしそうな顔をした。
「もうそろ始まるだろうから行って来い!」
師郎がそう言って琳くんの肩を叩くと、いつの間にか目を光らせるのをやめていた琳くんはうんと大きくうなずいた。
人の幸せが自分の幸せと言うあなた。
愛は絶望を消すと言うあなた。
そんなあなたに私は包まれていたい。
どうも、テトモンよ永遠に!です。
企画「魔法少女学園都市レピドプテラ」の開催期間が終わり、参加作品の投稿も落ち着いたということで「あとがき」です。
今回もお付き合いください。
今回の企画の世界観は、紆余曲折を経て誕生したものでした。
まず、有名ソシャゲ「ブルーアーカイブ」の情報を何気なく追っていた時に、「ブルアカ」みたくかわいい女の子たちが学園都市で戦う物語を作ってみたいと思ったんです。
しかし「『ブルアカ』のように弾丸の撃ち合いじゃなくて登場人物は「魔法」を使う設定にしよう」と思ったのですが、それ以上は話がイマイチ広がりませんでした。
そのためなにかいいアイデアが見つかったらいいなぁと思って、自作のタイトルに使いたいと思っていた言葉「魔法少女学園都市」という言葉でプチ企画を立てたのが去年の6月頃。
その後、忙しかったこともありますが暫くそのアイデアを放置していました。
ですが去年の終わり頃くらいに、その年の初め頃に思いついたけど没ネタになった「特殊能力を発現した少女たちが閉鎖された学園に集められ、その能力を大人たちによって治安維持に利用される時以外は能力を失うまで外へ出られないお話」の世界観を「魔法少女学園都市」に一部混ぜてみればいいんじゃないかってことに気付いたんです。
それで件の没ネタが「鳥」をモチーフにしていたから今度は「蝶」モチーフにしようとか、学園都市内ではモチーフの蝶の名前を名乗る設定にしよう、「ブルアカ」のように色々な陣営に分かれている設定にしよう、などと設定を膨らませた結果、現在の形になりました。
さて、今回はこれくらいにして。
次の企画も一応用意はしてあるのですが、今回の企画がこうだったので投稿期間の撤廃をしてみようかなと思ってます(だって皆さん忙しいし遅筆でしょうし)。
他にも「こうしたら参加しやすくなるかも」というご意見があればぜひレスからどうぞ。
ちなみに今度の企画は「鳥」をモチーフにするので、参加してみたい方は鳥の学名を調べておいてくださいね。
テトモンよ永遠に!でした〜。
「これってまさか」
わたしがそう呟くと、耀平はポツリと発現、だとこぼした。
その一方、頭を抱えて苦しむヴァンピレスは少し焦ったような顔をした。
「まさか貴方、顕われようとしているの⁈」
ふざけないでよ…!とヴァンピレスは鞭を振り上げる。
わたしは危ない!と思い目を見開くが、わたしの側で師郎が咄嗟にリュックサックを下ろしてそれを投げた。
黒いリュックサックはそのままヴァンピレスに向かって飛んでいき、それにぶち当たる。
その瞬間、ヴァンピレスの姿は霧散するように消えていった。
「琳‼」
ヴァンピレスの姿…分身が消えた所で、師郎は慌てて階段を駆け下り琳くんに近寄る。
琳くんはゆっくり顔を上げた。
「師郎、さん…?」
彼は不思議そうな顔をする。
その瞳は、薄黄緑色だった。
「ま、私のことはいいですわ!大事なのはシオンさんの魔力量と精度ですもの!」
「わぁ切り替え早いんだね」
シオンも見よう見まねでそっと種を手で包む。
「そういえばさ、リサちゃんの固有魔法はどんなのなの?」
「あら、ご興味がありますの?もちろん教えてさしあげますわ!私の固有魔法は『爆破』です。少量の魔力を火薬にして、私が五感で把握できる範囲の中で好きなところを爆発させることができますのよ!正確な精度を求められる魔法でして、一家相伝のものですの!家族もみんな使えますわ」
「へぇ…」
勢いに押されて微妙な反応をしてしまったが、エリザベスは気にせず楽しそうに話を続ける。
「シオンさんはどんな固有魔法をお使いになりますの?」
「うーんと…いや、正確にはわかんないんだよね…治れ〜って思ったら怪我を治せるんだけど、割れちゃったお皿とかも直れ〜って思ったら直るの」
「あら、かなり広範囲に使えますのね」
「うん、そうそう、種に魔法使うとね、育ってお花が_」
言っている途中で、シオンの指の隙間から凄い勢いで蔓が伸びてきた。
「……まあ」
あんなに突然うまれた約束なんて
どれくらいぶりだったんだろう
私はとうとう一緒にお酒を飲むなんて
そんな実績解除もくすぐったい気持ちだった
それくらいには大人になったから
昔は聞けなかった未来の話まで聞けるようになって
そんなことも少し嬉しかった
大きな背中はずっと大きいまま
私の二つ前を走り続けている
「でも寒くないんでしょ?」
そう何回も笑いながら
君の冬が寒くない事ばかり願い続けている
リンネがランプの取手を握ると、ごおっ、と音を立てて、もの凄い勢いで炎が燃え上がり始めた。
ミルも中々の勢いがあったが、リンネとは比べものにならなかった。
「ひょえ〜、今からこいつの調整かよ。」
複雑な顔をしているエルを尻目に、ランプの炎を観察しているミルは、ふと疑問に思ってエルに声をかけた。
「そういえば、ランプの火って何色かに分かれることあるんですか?」
リンネの炎は、赤と青が入り混じっており、紫になっている部分もある。
エルは複雑な顔のまま答えた。
「ない。だからこいつはおかしいんだよ。おかげで調整の面倒なこと面倒なこと…。」
まぁ、杖そのものもおかしいんだけどな、とエルは付け加えた。
「取り戻さなくては」
レピドは二人の姿が見えなくなるまで見送ってからそう呟く。
「バア・スル・ジュ!いでよ我が最強の下僕!コン・ジン・リン!」
レピドは辺り一帯に散らばる機械を一つにして巨大な人形を作り出し一体化する。
「さぁ、私の闘いの続きを始めよう」
これは後年、『レピドプテラの反乱』と呼ばれる大戦のほんの数時間前の話である。
「さぁ、まだ見ぬ異能力者さん、わらわにその記憶を渡して下さる?」
しかしまだ異能力を発現していない琳くんは、困惑したようにど、どういう事…?と後ずさる。
ヴァンピレスはにやにやしながら続けた。
「…貴方、『他人の感情がなだれ込んでくる』のが嫌なんでしょう?」
わらわに”記憶”を明け渡してしまえば、それもすっかりなくなるわとヴァンピレスは言う。
琳くんはえ、と驚く。
「そうすれば楽になれる…だから、わらわと共にいらっしゃい」
そう言って琳くんに近付くヴァンピレスを見て、ダメだ琳‼と思わず師郎は階段の柵から身を乗り出して叫んだ。
その言葉に琳くんはわたし達の方を見上げる。
「その女について行っちゃダメだ!」
お前さん何もかも失うぞ‼と師郎は続ける。
琳くんは再度ヴァンピレスの方を見る。
ヴァンピレスは琳くんを促すように彼の目を見ていた。
「ぼくは…」
琳くんがそう呟きかけた時、不意に彼はうっ、とうめき頭を抱えだした。
わたし達は驚いて息をのむ。
もうそろそろ春が終わってしまうのか
もうピンクと白のたくさんの花が散り始めている
ひらりひらりと風にのっていくはなびら
もう茶色い土台に青々し葉が顔を出している
よいしょっと顔を出し始めている
もうどんどんはなびらが風にのられている
もう終わってしまうのか短い春が
たくさん乗り越えて咲いた花が終幕に近づいている
そしてまた新しく新章が始まる
「私のメディウム!」
「すまない…だがこれでいい、あの分だとおそらく君達は飲み込まれていた。なり損ないだったからな」
「なりそこない?」
「私も見間違えた代物だが、どうやらアレは『魔法』じゃない。どっちかといえば幻術のほうが近い」
「魔法じゃないってどういう…」
「それ少し説明が難しい…魔法は内なる力を万物に変換して打つ、つまり主導権は自分自身だがこれは違う。これの主導権はあの石だ、使用者の精神力を喰らって魔法という名の幻想を打っている。ややこしいのは質量があるせいで『そう』見えないってことだ。君達はどうやってこんなものを?」
「あの石なら自分の中の魔力を制御できるって先生が」
「魔力が発現したってことか?」
「あの…突然妙なことが起こることになって、それで私達学園に来てこれは魔法だって」
「妙なこと?」
「ある日を境に周りのものが浮いたり、何もしてないのにものが壊れたり…」
「僕なんて、山一つ焼いちゃってVIP待遇で即刻島流しだぜ?」
「暴走…?いや違うまさか…そうだ、ヤツらならやる間違いない」
「あの…よくわからないんですけど…」
「つまり、君たちはここに住んでるのか?」
「まぁ…学園に、寮なんです」
「ふむ…?なんとなく読めてきた。学園は真上だったな?」
「あ…はい」
「明日はそこにいるといい、そこなら安全なはずだ。あ、そういえばまだ通貨はメギストスかい?」
「そうですけど…」
「わかった。エル・メギ・ガド!」
そう言うとレピドは手の上に少し大きめの麻袋を召喚した。
「少ないが持っていくといい、私からの感謝の気持ちだ」
リョウが受け取るとずっしりと重さを感じるもので、隙間から覗く金色の光はそれが通貨なのだろうと察せられるものだった。
「こ…こんなに…?」
「まぁ気持ちばかりで足りないくらいだろうが持っていってくれ」
「ありがとうございます」
二人は頭を下げて、ここに入ってきた道を引き返し始めた。
ヴァンピレスが現れてから暫く。
わたし、異能力を発動中のコマイヌ、黎、師郎の4人は、ショッピングモールの階段を慌てて駆け下りていた。
「まさかこんな時にヴァンピレスが現れるなんて」
どういう事なんだと耀平は呟く。
「最初から琳を狙っていたのか?」
「さぁ」
師郎と黎はそう言葉を交わす。
「とにかく、ネクロが足止めしてくれている内に琳の元へ行くぞ」
じゃねーとこの前のメイの時みたいになるからな、とコマイヌが続けた所で、不意に階下からうわぁぁぁ‼と聞き覚えのある声が聞こえた。
わたし達が足を止めて階段の柵から下を覗くと、1階の踊り場で琳くんがへたり込んでいる姿が見えた。
そして彼の目の前には、白いミニワンピースにツインテールで赤黒く輝く瞳を持つ少女…ヴァンピレスが立っていた。
「アイツ…分身をいつの間に⁈」
コマイヌは驚きのあまり目を光らせるのをやめながら言う。
ヴァンピレスは手に持つ白い鞭をもう片方の手で引っ張りながら笑っていた。
雌の山鳥 散る八重桜
六肢の捥げた黄金蜘蛛
羽搏く家蚕 枕と野犬
腹から浮かぶ錦鯉
山椒魚と 拉げた家守
空へと堕ちる月夜茸
狂い朽ち爆ぜ融け失せて
神代は果てて 今は春
全てを守れるだけの力をください。
そうすればありとあらゆる災害、天変地異、紛争、戦争から皆を守れる。
【私は本当の恐怖を知っている】
私が見た景色は大地が割れ、海は荒れ裂ける夢を見た。しかし、この自然のプロセスを経て、太陽の民は人々の中心となり世界を引っ張ってゆくであろう。夢を見た。
【自分の使命】
全てを守ってみせる。
「ミル君、次良いかい?」
「はい、どうぞ。」
ミルがランプの前から移動すると、リンネは彼と同じ様にランプの前に立つ。
「うーん、相変わらずだなぁお前は…。」
エルが顔をしかめたのを見て、リンネは目を細めた。
「そういう時は、何も変わってなさそうで何より、って言いなよ。」
「そうだけどよ〜…面倒なんだよお前のは…。」
「何〜?そんな事言うともう帰るよ〜?」
「悪かった、悪かったから。」
ええ、と不服な顔をしながら、リンネはランプの取手を握った。
の中に目を凝らしてよく見ると大男は何かにつながれており、それがこの部屋を循環する光の出処のようだった。
「どうしよう!どうしよう!何の機械か知らないけど怒られるだけじゃ済まないよこれ!」
「とりあえずなんとか機械を止めないと」
「どうやって!」
「えっと…あの…えー…そうだ!レイナって確か水出すヤツ持ってたよね、アレぶっかけてみよう!」
「そういう機械なのこれ!?」
「知らないよ!いいからやって!」
「もー!」
レイナは魔石(メディウム)を取り出して念じる、するとその魔石から水流が渦を巻きながら出現して巨大な瓶に向かって一直線に激突した。
「そういうことじゃないんだけど…まぁいいや!」
リョウも魔石を取り出し念じると魔石を握った腕が巨大化し、瓶に向かって特大のパンチを打ち込んだ。
「…リョウ、私それ知らないんだけど。新しいメディウム作ったの?」
「違うよぉ、肉体強化の応用だよこれぇ」
リョウが拳をめり込ませると瓶は音を立てて崩れ去り、それと同時にエネルギーの供給源をなくした機械は自壊を始めて最終的に止まった。
「…なんとかなったな」
「いやぁ…なってるかなぁこれ…」
二人が辺りを見渡すと確かにいろんなものが原型をとどめていなかった。
「とりあえず、これは僕達の秘密ってことで…」
「今回ばかりはそれに賛成だわ…」
二人が肩を落としながら元来た道を歩き出す。
「ま…まて…」
「…ねぇ、今なにか…」
「いや…僕達は何も聞いてない…きっと疲れてるんだ、ワンツーで走ろう」
「そうね…そうしましょう…」
「アプ・ホミ・ケト!よし、まだ魔力は残っているな…二人とも待ってくれ、私を開放してくれたのだろう?ありがとう」
その優しい声に二人は顔を見合わせてから振り返る、そこにはあの瓶の中にいた大男が立っていた。
「私はレピド・プテラ、君たちは一体?」
「レピドプテラ…?学園と同じ名前…!?」
「学園?」
「この上にあるんです、私達その生徒で…」
「魔法か?」
「はい…」
「あのクソジジイ共め…ちょっとまて、君達どうやって魔法を?」
「このメディウムって石で」
「何だこの魔石…?結晶竜の核にしては不安定だ…それに個人と結びついているのか?」
レピドが魔石に触れると一瞬の閃光の後に砕け散った。
「もうすぐZIRCONの単独フリーライブが始まるだろ?」
始めからみたいならさっさと行った方がいいぜ、と師郎は琳くんに笑いかける。
彼の有無を言わさぬ雰囲気に押されて、琳くんは…うんとうなずく。
そして彼はイスから立ち上がると、休憩スペースの後方にある階段へと向かった。
「あら、逃げるの?」
逃さないわよ?と言ってヴァンピレスは自身の周りに分身を生み出す。
すると彼女の分身の内の1体が、琳くんが去っていった方に駆け出した。
しかしその分身に向かって黒い大鎌が飛んできて直撃する。
分身は大鎌と共に消滅した。
「…わらわの邪魔をするの?」
ヴァンピレスは腹立たしげに首を傾げて目を細め、分身たちと共に右手の中に白い鞭の具象体を出す。
「あぁ、そうさ」
アンタに同族の邪魔をされるワケにはいかねぇんだよ!とネロは両目を赤紫色に光らせ、その右手に黒い大鎌を出した。
そしてネクロマンサーは大鎌でヴァンピレスに斬りかかる。
しかしヴァンピレスの周りの分身たちがネクロマンサーの前に立ちはだかり、白い鞭でネクロマンサーの斬撃を妨害する。
ネクロマンサーは一旦飛び下がり、大鎌を構え直しつつわたし達においアンタら‼と声をかけた。
「早くあの琳を追え!」
アイツを1人にしたら危ない‼とネクロマンサーはこちらを見つつ言う。
耀平は分かった‼と答えると、行くぞ!とわたし達の方を見る。
わたし達はそれぞれうなずくと、荷物を持ってその場を離れた。
・破城(ハジョウ):全長3m超の斬馬刀。攻撃対象の『防御の意思』に反応し、その防御を破壊する。
・幽鱗(ユウリン):全長90㎝程度の日本刀。刀身の損傷を、表面だけが割れるように剥がれることで完全に修復する。修復の度に刀身自体の耐久力が少しずつ落ちていくので、実質的に修復が使えるのは50回程度。
・血籠(チゴモリ):赤い刀身を持った全長85㎝程度の日本刀。使用者の血液を媒体にして、深紅の流体が刀身の傷を埋める、本質的に不壊の刀。流体の生成効率は、消費した血液の10倍程度。
・異称刀“稚児守”(イショウトウ:チゴモリ):“血籠”の別側面。使用者より年齢の低い者を守る際、刀の耐久力と使用者の身体能力が更に向上する。
・緋薙躯(ヒナギク):赤い刀身を持った全長80㎝程度の日本刀。直刀だが刀身にうねるような刃紋が刻まれている。刀身を自在に伸縮・変形させられる。
・異称刀:否凪駆(イショウトウ:ヒナギク):“緋薙躯”の別側面。この刀を振るった場合、完全に振り抜くまでその斬撃は止まらない。”否凪駆”の能力使用中は、刀身の変形効果は使えない。
・癖馬(クセウマ):奇妙な形状の刀身をもった刀。刃渡り75㎝程度、全長100㎝強。その形状と刀身の密度の僅かな差から、一度振るうと標的を捉えるまで遠心力によって無限に、不規則に回転し続け、速度と威力を増していく。制御は極めて困難であり、十分に勢いの乗った刀身の挙動を読むことは不可能に等しい。
ササキア・カロンダ
Sasakia charonda(オオムラサキ)
年齢:17 身長:168㎝
固有魔法:『実力』に『評判』を上乗せする
メディウムの魔法:変身、身体強化、耐久力強化、追加武装、自己回復
説明:甜花学園生徒会会長。自己鍛錬を怠らず、道徳と規律を遵守し、学園生徒からの信頼も篤い。まさしく『正義の人』。その才覚は学園外にも知られているが、本人は自身の魔法を「地味な魔法で、決して大したものでは無い。もっと強い、凄い魔法少女は学園にたくさんいる」と認識している。謙虚な態度も大人気。
ニファンダ・フスカ
Niphanda fusca(クロシジミ)
年齢:16 身長:158㎝
固有魔法:時間と空間を掌握する
メディウムの魔法:変身、発光体の生成
説明:甜花学園の生徒。高等部2年。時空間を自在に支配するという『最強』と呼んで差し支えない魔法を有する『規格外』であり、自身の魔法を恐ろしいものだと認識しているので、普段はあまり使いたがらない。メディウムに封じた魔法は、掌大の光る球体を生成するもの。懐中電灯代わりに便利。趣味は友達の部屋でのお泊り。
エウメタ・ジャポニカ
Eumeta japonica(オオミノガ)
年齢:11 身長:144㎝
固有魔法:『無』を生成する
メディウムの魔法:変身、望遠、魔法障壁展開
説明:甜花学園初等部6年の児童。誕生日は3月中旬。モリヤマ双子の友達。固有魔法は視界範囲内に『無』を生み出すもの。『無』とは真空の上位互換のようなものであり、周囲の空間や物質、エネルギーなど全ての事物は、空間を埋めるために『無』へと引き込まれる。ブラックホールの遠い親戚みたいなものだと思えば何となくのノリとしてはまあまあ合ってる。甜花学園の次代を担うことを期待された『規格外』の1人。
※甜花学園:強力な固有魔法を扱う『規格外』を集め、一か所に隔離することを目的とした学園。圧倒的な強さを保持することで、有事の際の秘密兵器としての運用を期待されており、総務局との繋がりも強い。ネットでその他の学園から叩かれてそう。
ちなみに過去にいた『規格外』の魔法には、時間移動や強力な召喚獣の使役、透過能力や単純な超高火力攻撃など色々ある。