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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その⑤

落葉の厚く降り積もった地面を踏みながら、種枚は人の目の届かない公園の最奥で立ち止まった。
「……私、この場所好きなんだ。落葉って踏んでると楽しいだろ?」
「わぁ感性が幼児」
「うっさい」
「まあ、わたしもこのガサガサの感触は好きだけども」
「お前もじゃねーかシラカミメイ」
2人の会話は、何でも無い雑談から始まった。
「あ、そういやシラカミィ」
「何だいねクサビラさん」
「お前、歳はいくつだい?」
2人の周囲の空気が張り詰める。
「んー? メイさんは大学1年生だから、お酒も飲めないピチピチの19歳ですよー」
「嘘が下手糞だな」
2人の放つ殺気が一層色濃くなる。
「……ウソとは?」
「人に化けられる『妖怪』が、たった2桁の年齢なわけ無エだろうがよ。なァ、“雷獣”?」
「ありゃりゃ…………バレちゃってましたかー」
「ああ、一目見て分かった。なんでそんな奴がただの人間の『お友達』なんかやってンだ?」
「……人外は人間と友情を育んじゃ駄目だと思ってる派の人?」
「まあ、そうだね。人間の居場所に踏み込んだ奴らは全員死んじまえと思ってるよ」
「荒っぽいなぁ……。じゃあわたしも?」
「察しが良くて助かるよ」
種枚の姿が消えた。

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たぶん悪夢

「起きたばっかりなのに何か疲れた……」

                  「寝汗ひどいよ。シャワー浴びてきたら?」

「うん行ってくる……」

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唯一の活路

「みんなで力を合わせてハッピーエンド」なんてのは、別に架空の物語でも絵空事でも、綺麗事でも何でもない。
無知で馬鹿で脆弱で愚かな人間って生き物が少しでもマシな道を掴むためのただ一つのやり方なんだ。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ⑭

「…あ」
不意に雪葉が声を上げたので、わたし達は顔を上げる。
立ち上がる雪葉が目を向けている方を見ると、見慣れない小柄な小学生位の少年がこちらに近付いてきていた。
「榮(えい)」
雪葉はそう言って彼に駆け寄ろうとするが、榮と呼ばれた少年は気まずそうに立ち止まる。
「あれ、どうし…」
雪葉が不思議そうに呟いた時、榮は両目をエメラルドグリーンに光らせた。
「!」
雪葉が驚いたような反応を見せた瞬間、榮の姿は見えなくなった。
そしてわたし達の目の前から走り去るような足音だけが聞こえた。
「エインセル‼」
雪葉はそう叫んで走り出す。
「追うわよ、ネクロマンサーとコマイヌ!」
穂積も立ち上がって走り出す。
「ボクはネロだっつーの!」
ネロは両目を赤紫色に光らせると、同じく両目を光らせた耀平と共に駆け出す。
わたしや黎、師郎もそのあとを追った。

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明日

明日なんて来なきゃいいのにと思う今日だって昨日の明日なんだから。

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深夜の迷子 宵

せんちゃんに手を引かれ、歩きだすこと10ちょっと。不意にせんちゃんが振り向いた。
「…そういえば、怪我とかしてない?腹減ってない?」
ゆずは「えっ」と声をあげ、困惑して目を逸らす。
「えっと、」
ぐるるる…次の言葉を続けようとしたとき、お腹が鳴った。
「…お腹空いた」
「なにか食べるか…食い物持ってくる」
「んーん、それは大丈夫!お菓子持ってるの」
「そか。じゃあとりあえずそこで食べな」
せんちゃんに誘導されるまま脇道に逸れ、ゆずはちょこんと座りこむ。
お菓子を取り出しつつ、ちらっとせんちゃんを見上げると、鋭い視線で辺りを見回していた。
「…せんちゃん?」
せんちゃんがゆずを見下ろす。その目に先ほどの鋭さはない。
「んっ?」
「…いや、なんか怖い表情してたから…」
「それは…気にすることないよ」
「そう?」
不審に思いながら、お菓子を口に運ぶ。
_その一口と、せんちゃんの手がゆずの腕を掴むのは同時だった。

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悪霊の指揮者

榛名千ユリ(ハルナ・チユリ)
年齢:青葉とタメ  性別:女性  身長:145㎝前後
好きなもの:家族、自分、悪霊、飴
嫌いなもの:反抗的な無能、調子に乗ってる無能、身の程を弁えない無能、果汁入りの飴
悪霊遣いの少女。両手の十指に1体ずつ悪霊を封じ、その霊体と霊障を自在に操る能力を持っている。当然霊感もある。現在の手持ちは右手親指に封じた無数の手の霊“草分”、右手中指に封じた大鎧と刀で武装した武者の霊“野武士”、右手小指に封じた暗紫色の炎を纏った左眼だけ嵌まった頭蓋骨の霊“邪視”、左手薬指に封じた身長約2.4mの女性霊“私の愛しいエイト・フィート”の4体。
家族が大好きで心の底から尊敬している。特に名付け親でもあり、霊感があることから経験してきた様々な怪異の話を寝物語として語ってくれた母方のお祖母ちゃんには滅茶苦茶懐いている。“私の愛しいエイト・フィート”もお祖母ちゃんの因縁から受け継いだもの。
家族が大好きなので、家族から血や縁や名や才や姿やその他様々なものを受け継いで生まれ育ってきた自分の事も大好き。
そこまでは良いのだが、家族愛が過ぎて自分の認めた相手以外のことは見下しているところがある。
以上の理由で性格はきわめて悪い。他人と会話する時高確率で罵倒か軽蔑か軽視が含まれてる。教師や大人相手でも態度が変わらねえってんだから大したものです。
普段から身に付けているウエストポーチには、飴ちゃんが大量に入っている。その理由については彼女曰く「アタシは軍師だから頭たくさん使うの」とのこと。他人に分けてくれることはほぼ無い。
ちなみに名前の「ユリ」の部分だけ片仮名なのは「千百合」だと「せんひゃくごう」と区別がつきにくいと思ったお祖母ちゃんの意思。千ユリ本人はちょっと変わっているので気に入っている。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その③

エベルソルが口を開く。するとその奥から、無数のぬらぬらとした質感の触手が伸びてきた。理宇はスティックでそれらを叩き落としながら、少しずつ距離を詰めていく。
(ロキ先輩の弾幕は、タマモ先輩のと違って自由に曲がるから、私が壁になってても大丈夫なはず。こいつの意識を、私だけに集中させるんだ!)
僅か2mほどの位置まで接近し、両足を踏ん張って触手の撃墜を続ける。その隙に、ロキが生成したインキの光弾が回り込むようにしてエベルソルの胴体に命中していく。
光弾のうち1発が深くエベルソルに突き刺さり、体内に到達した。
その穴を押し広げるようにして、体内から更に大量の細い触手が伸び上がり、理宇に襲い掛かる。
「えっ、待っ」
突然倍化した攻撃に動揺しながらも、理宇は冷静に防御を続ける。
「……リウ」
不意に、ロキが呼びかけた。
「えっ、先ぱ、うわぁっ⁉」
そちらに一瞬意識が割かれたためか、あるいは単純な注意不足のためか、足下に忍び寄っていた1本の触手に対応できず、左足首を絡め取られ高く逆さ吊りにされてしまった。
「わあぁっ⁉ ろ、ロキ先輩、助けっあああああ⁉」
エベルソルは理宇を大きく振り回し、レースゲームの筐体に向けて投げつけた。
「リウ、無事?」
「っ……がっ、はぁっ……はぁっ……! ど、どうにか……って、うわあっ!」
理宇に再び向かってきた無数の触手を転がりながら回避し、ゲームの筐体の隙間を駆け抜けた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ⑬

わたしが自分のそっくりさんを目撃してから30分程。
わたし達はいつもの駄菓子屋の前に座り込んでいた。
「…ねぇ、”人を呼ぶ”って言ってたけど、まだなのか?」
ココアシガレットをくわえながらネロが呟く。
「まだだよ」
相手も色々あるみたいだし、と雪葉は駄菓子屋と路地を挟んで反対側の建物の前でしゃがみ込みつつ両手で頬杖を突きながら答える。
「そうなの~?」
ネロは思わず口を尖らせた。
…”わたしのそっくりさん”に心当たりがあると言った雪葉が誰かに電話をかけてから、わたし達は駄菓子屋の店先でその人を待っていた。
ネロや耀平はヴァンピレスではないかと不安がっていたが、雪葉が違うと言った事、そもそも雪葉にとってもヴァンピレスは厄介な異能力者である事から、その可能性は低いと思われた。
とにかく、わたし達は謎の人物によって待ちぼうけを喰らっていたのだ。

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崩壊世界見聞録 1

ガガガと音を立て、
今にもぶっ壊れて発火しそうな自動車が、
崩壊したビル群の中を走り抜けて行く。
運転しているのは、10代半ば位の少女。
名前はカナ。
そして助手席には、大きな猫。
名はエミィと言う。
車を運転する少女と猫。
これだけでも充分異様な光景だが、
何より目を引くのは、少女カナの顔である。
物凄い美人、又は不細工、と言う訳ではない。
ただ、左頬に炎の様な跡があるのだ。
そう。ちょうど、火傷でもしたかの様に。
キィ、とブレーキ音を鳴らして、車が止まる。

「ここにしようか。」

カナが呟く。

「うむ」

と答えるエミィ。
カナは車から荷を降ろし、
手早く野営の支度に取り掛かる。