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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 22.キリン ㉘

「良かったな、姉ちゃんの勇姿を見られて」
師郎がそう言って琳くんの肩を叩くと、琳くんは照れくさそうにはにかんだ。
それを見てふと、師郎はこう尋ねる。
「…それにしても、お前さん、あの時異能力が発現しただろ」
その言葉に彼はあ、そうですねとうなずく。
2人に近付くわたし達も、そういえばと足を止めた。
「せっかくだから、お前さんの”もう1つの名前”、教えてもらおうか?」
師郎がそう聞くと、琳くんはほんの一瞬瞳を薄黄緑色に光らせた。
「…ぼくのもう1つの名前は”キリン”です」
異能力は”周囲の人間の感情を読み取る”能力、と彼は答えた。
師郎はなるほどな、と腕を組んだ。
「…あ、次で最後の曲だってよ」
不意にネロがイベントスペースのステージとして区切られているエリアを指し示し言う。
おっそうか、と師郎は言うと、琳くんと共にステージの方へ向き直る。
わたし、ネロ、耀平、黎もステージの方へ近付くと、ZIRCONのフリーライブの最後の曲を楽しむ事にした。

〈22.キリン おわり〉

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回復魔法のご利用は適切に!_6

それから何度やってもシオンだけは魔力量精度共に測定不能だった。放課後、魔法学の教員のサポートを受けたがやはり数値は出ず、ついに教員も匙を投げた。
「ただいまリサちゃん、すっごく遅くなっちゃって…こんなにかかると思わなかったよぅ、待たせてごめんね」
「おかえりなさいシオンさん!私は待ちたくて待っているのですからあまりお気になさらず。さ、帰りましょう」
「うん!…あ、待って。お水飲んでいい?」
「ええ、もちろんですわ」
シオンが足早に水道へ行き、おもむろに蛇口を捻ると、いきなり凄い勢いで水が出た。
「うわっ!!」
「どうなさいましたの?」
水圧はどんどん上がっているらしく、水がとんでもない勢いで跳ね、水道から聞いたことのない音が鳴る。
「うわぁ、私もよくわかんないけど…これまずいよ!どうしよう、止められるかな…」
「いえっ!お待ちくださいまし!不用意に近づいてはいけませんわ!」
エリザベスが強くシオンの腕を引く。ふと、溢れ出た水が人の形をとり始めた。
「間違いありません、魔法ですわ」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ㉘

「確かに、師郎は年下の世話焼くの好きだよなぁ」
おれやネロだけじゃなく、妹の結香吏の同級生の世話も焼いてるし、と耀平もにやにやする。
師郎は、年下だけじゃなく同い年の黎の世話も焼いてるがな!とエスカレーターの手すりに頬杖をついた。
そうしてわたし達が談笑していると、いつの間にかわたし達が乗るエスカレーターの段は1階まで辿り着いていた。
エスカレーターの降り口の目の前のイベントスペースでは、ZIRCONのフリーライブが催されており、多くの人々が集まっていた。
「お、やってるやってる」
ネロがそう呟いていると、わたしは人だかりの端の方に見覚えのある少年を見つけた。
「あ、琳くん」
わたしの言葉に反応して、琳くんはこちらを振り向き笑う。
「楽しんでるかい?」
師郎が歩み寄りながらそう聞くと、琳くんはもちろんですとうなずいた。

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御挨拶・新作告知

どうも。先程、震える手で文芸部入部届に記名した猫町やたろうです。

皆様、四月に入り、新生活を楽しまれていることと思います。
そこで、新生活と同時に新作を投稿します。
情報は下記の通りです。↓

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題名 「廃都鉄道 right」
作  猫町やたろう
投稿 不定期
話数 未定
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また、私、猫町やたろうの作品は好きに使って頂いて構いません。
作中に出すなり、二次創作なり、ご自由にお使いください。
できれば、タグ又は本文の最後に、使用した猫町作品の題名を付けて頂けると嬉しいです。
その他、質問や感想、リクエスト等は作品や投稿のレスにて承っております。
どなたでもお気軽に書き込んでください。

皆様の執筆活動が捗りますようお祈りしております。

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祈り

水のように美しく

火のように猛々しく

月のように凛として

木のように気高くて

金のように優しく

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ベルガモット

柑橘のスパイシーな匂いが私の心を踊らせ

あなたの瞳は私の心を掴んだ。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ㉗

そうして、わたし達はネロの元へ戻った。
わたし達が休憩スペースに戻るとそこにはネロの姿しかなく、ヴァンピレスの姿は影も形もなかった。
ネロに尋ねると、彼女は琳くんの元に向かわせていた分身が消えたため、今回は諦めたようだったという。
「まぁでも良かったんじゃね?」
琳は無事だったんだし、と耀平はショッピングモールの下りエスカレーターに乗りながら上段に乗るわたしや黎、師郎の方を見上げる。
「だな」
あの少年が無事お姉さんの元へ行けたのならそれで十分だ、と師郎はうなずく。
その隣で黎も静かにうなずいた。
…とここで、わたしの頭にふと疑問が湧き上がった。
「…そういえば、師郎は何で琳くんに話を聞きに行こうって思ったの?」
やっぱり異能力の気配がしたから?とわたしが尋ねると、1つ下の段に乗る師郎がそうだなぁと振り向く。
「そういうのもあるが…やっぱり、ああいう年下の事は放っとけないからな」
自然と身体が動くんだよ、と師郎は笑う。

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記憶

幼い頃大人を信用出来なかった

傷つけられた記憶しかない

人の手が怖かった

だか

母に抱きしめられたとき

人の手はこんなにも暖かいものだと知った


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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ㉖

「あーよかった無事で」
一時はどうなる事かと思ったぜ、琳くんと師郎はしゃがみ込みながら声をかける。
「大丈夫ですよ」
師郎さんのお陰で助かりましたと琳くんは笑う。
それを聞いてそりゃ良かったと師郎も笑った。
階段を下りてきたわたし達も、よかったねとかよく頑張ったなと声をかける。
「…さて」
お前さん、お姉さんのライブ見に行くんだろ?とここで師郎が琳くんを立たせつつ言う。
それを聞いて琳くんはそうだった…と恥ずかしそうな顔をした。
「もうそろ始まるだろうから行って来い!」
師郎がそう言って琳くんの肩を叩くと、いつの間にか目を光らせるのをやめていた琳くんはうんと大きくうなずいた。

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優しい夜明け

人の幸せが自分の幸せと言うあなた。

愛は絶望を消すと言うあなた。

そんなあなたに私は包まれていたい。

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魔法少女学園都市レピドプテラ あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
企画「魔法少女学園都市レピドプテラ」の開催期間が終わり、参加作品の投稿も落ち着いたということで「あとがき」です。
今回もお付き合いください。

今回の企画の世界観は、紆余曲折を経て誕生したものでした。
まず、有名ソシャゲ「ブルーアーカイブ」の情報を何気なく追っていた時に、「ブルアカ」みたくかわいい女の子たちが学園都市で戦う物語を作ってみたいと思ったんです。
しかし「『ブルアカ』のように弾丸の撃ち合いじゃなくて登場人物は「魔法」を使う設定にしよう」と思ったのですが、それ以上は話がイマイチ広がりませんでした。
そのためなにかいいアイデアが見つかったらいいなぁと思って、自作のタイトルに使いたいと思っていた言葉「魔法少女学園都市」という言葉でプチ企画を立てたのが去年の6月頃。
その後、忙しかったこともありますが暫くそのアイデアを放置していました。
ですが去年の終わり頃くらいに、その年の初め頃に思いついたけど没ネタになった「特殊能力を発現した少女たちが閉鎖された学園に集められ、その能力を大人たちによって治安維持に利用される時以外は能力を失うまで外へ出られないお話」の世界観を「魔法少女学園都市」に一部混ぜてみればいいんじゃないかってことに気付いたんです。
それで件の没ネタが「鳥」をモチーフにしていたから今度は「蝶」モチーフにしようとか、学園都市内ではモチーフの蝶の名前を名乗る設定にしよう、「ブルアカ」のように色々な陣営に分かれている設定にしよう、などと設定を膨らませた結果、現在の形になりました。

さて、今回はこれくらいにして。
次の企画も一応用意はしてあるのですが、今回の企画がこうだったので投稿期間の撤廃をしてみようかなと思ってます(だって皆さん忙しいし遅筆でしょうし)。
他にも「こうしたら参加しやすくなるかも」というご意見があればぜひレスからどうぞ。
ちなみに今度の企画は「鳥」をモチーフにするので、参加してみたい方は鳥の学名を調べておいてくださいね。
テトモンよ永遠に!でした〜。

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桜吹雪に遊ばれる主人公の気分

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ㉕

「これってまさか」
わたしがそう呟くと、耀平はポツリと発現、だとこぼした。
その一方、頭を抱えて苦しむヴァンピレスは少し焦ったような顔をした。
「まさか貴方、顕われようとしているの⁈」
ふざけないでよ…!とヴァンピレスは鞭を振り上げる。
わたしは危ない!と思い目を見開くが、わたしの側で師郎が咄嗟にリュックサックを下ろしてそれを投げた。
黒いリュックサックはそのままヴァンピレスに向かって飛んでいき、それにぶち当たる。
その瞬間、ヴァンピレスの姿は霧散するように消えていった。
「琳‼」
ヴァンピレスの姿…分身が消えた所で、師郎は慌てて階段を駆け下り琳くんに近寄る。
琳くんはゆっくり顔を上げた。
「師郎、さん…?」
彼は不思議そうな顔をする。
その瞳は、薄黄緑色だった。

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回復魔法のご利用は適切に!_5

「ま、私のことはいいですわ!大事なのはシオンさんの魔力量と精度ですもの!」
「わぁ切り替え早いんだね」
シオンも見よう見まねでそっと種を手で包む。
「そういえばさ、リサちゃんの固有魔法はどんなのなの?」
「あら、ご興味がありますの?もちろん教えてさしあげますわ!私の固有魔法は『爆破』です。少量の魔力を火薬にして、私が五感で把握できる範囲の中で好きなところを爆発させることができますのよ!正確な精度を求められる魔法でして、一家相伝のものですの!家族もみんな使えますわ」
「へぇ…」
勢いに押されて微妙な反応をしてしまったが、エリザベスは気にせず楽しそうに話を続ける。
「シオンさんはどんな固有魔法をお使いになりますの?」
「うーんと…いや、正確にはわかんないんだよね…治れ〜って思ったら怪我を治せるんだけど、割れちゃったお皿とかも直れ〜って思ったら直るの」
「あら、かなり広範囲に使えますのね」
「うん、そうそう、種に魔法使うとね、育ってお花が_」
言っている途中で、シオンの指の隙間から凄い勢いで蔓が伸びてきた。
「……まあ」

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温度

あんなに突然うまれた約束なんて
どれくらいぶりだったんだろう
私はとうとう一緒にお酒を飲むなんて
そんな実績解除もくすぐったい気持ちだった
それくらいには大人になったから
昔は聞けなかった未来の話まで聞けるようになって
そんなことも少し嬉しかった
大きな背中はずっと大きいまま
私の二つ前を走り続けている
「でも寒くないんでしょ?」
そう何回も笑いながら
君の冬が寒くない事ばかり願い続けている

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円環魔術師録 9

リンネがランプの取手を握ると、ごおっ、と音を立てて、もの凄い勢いで炎が燃え上がり始めた。
ミルも中々の勢いがあったが、リンネとは比べものにならなかった。

「ひょえ〜、今からこいつの調整かよ。」

複雑な顔をしているエルを尻目に、ランプの炎を観察しているミルは、ふと疑問に思ってエルに声をかけた。

「そういえば、ランプの火って何色かに分かれることあるんですか?」

リンネの炎は、赤と青が入り混じっており、紫になっている部分もある。
エルは複雑な顔のまま答えた。

「ない。だからこいつはおかしいんだよ。おかげで調整の面倒なこと面倒なこと…。」

まぁ、杖そのものもおかしいんだけどな、とエルは付け加えた。

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夢の跡

「取り戻さなくては」
レピドは二人の姿が見えなくなるまで見送ってからそう呟く。
「バア・スル・ジュ!いでよ我が最強の下僕!コン・ジン・リン!」
レピドは辺り一帯に散らばる機械を一つにして巨大な人形を作り出し一体化する。
「さぁ、私の闘いの続きを始めよう」
これは後年、『レピドプテラの反乱』と呼ばれる大戦のほんの数時間前の話である。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ㉔

「さぁ、まだ見ぬ異能力者さん、わらわにその記憶を渡して下さる?」
しかしまだ異能力を発現していない琳くんは、困惑したようにど、どういう事…?と後ずさる。
ヴァンピレスはにやにやしながら続けた。
「…貴方、『他人の感情がなだれ込んでくる』のが嫌なんでしょう?」
わらわに”記憶”を明け渡してしまえば、それもすっかりなくなるわとヴァンピレスは言う。
琳くんはえ、と驚く。
「そうすれば楽になれる…だから、わらわと共にいらっしゃい」
そう言って琳くんに近付くヴァンピレスを見て、ダメだ琳‼と思わず師郎は階段の柵から身を乗り出して叫んだ。
その言葉に琳くんはわたし達の方を見上げる。
「その女について行っちゃダメだ!」
お前さん何もかも失うぞ‼と師郎は続ける。
琳くんは再度ヴァンピレスの方を見る。
ヴァンピレスは琳くんを促すように彼の目を見ていた。
「ぼくは…」
琳くんがそう呟きかけた時、不意に彼はうっ、とうめき頭を抱えだした。
わたし達は驚いて息をのむ。

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短い春

もうそろそろ春が終わってしまうのか
もうピンクと白のたくさんの花が散り始めている
ひらりひらりと風にのっていくはなびら
もう茶色い土台に青々し葉が顔を出している
よいしょっと顔を出し始めている
もうどんどんはなびらが風にのられている
もう終わってしまうのか短い春が
たくさん乗り越えて咲いた花が終幕に近づいている
そしてまた新しく新章が始まる

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魔法原典

「私のメディウム!」
「すまない…だがこれでいい、あの分だとおそらく君達は飲み込まれていた。なり損ないだったからな」
「なりそこない?」
「私も見間違えた代物だが、どうやらアレは『魔法』じゃない。どっちかといえば幻術のほうが近い」
「魔法じゃないってどういう…」
「それ少し説明が難しい…魔法は内なる力を万物に変換して打つ、つまり主導権は自分自身だがこれは違う。これの主導権はあの石だ、使用者の精神力を喰らって魔法という名の幻想を打っている。ややこしいのは質量があるせいで『そう』見えないってことだ。君達はどうやってこんなものを?」
「あの石なら自分の中の魔力を制御できるって先生が」
「魔力が発現したってことか?」
「あの…突然妙なことが起こることになって、それで私達学園に来てこれは魔法だって」
「妙なこと?」
「ある日を境に周りのものが浮いたり、何もしてないのにものが壊れたり…」
「僕なんて、山一つ焼いちゃってVIP待遇で即刻島流しだぜ?」
「暴走…?いや違うまさか…そうだ、ヤツらならやる間違いない」
「あの…よくわからないんですけど…」
「つまり、君たちはここに住んでるのか?」
「まぁ…学園に、寮なんです」
「ふむ…?なんとなく読めてきた。学園は真上だったな?」
「あ…はい」
「明日はそこにいるといい、そこなら安全なはずだ。あ、そういえばまだ通貨はメギストスかい?」
「そうですけど…」
「わかった。エル・メギ・ガド!」
そう言うとレピドは手の上に少し大きめの麻袋を召喚した。
「少ないが持っていくといい、私からの感謝の気持ちだ」
リョウが受け取るとずっしりと重さを感じるもので、隙間から覗く金色の光はそれが通貨なのだろうと察せられるものだった。
「こ…こんなに…?」
「まぁ気持ちばかりで足りないくらいだろうが持っていってくれ」
「ありがとうございます」
二人は頭を下げて、ここに入ってきた道を引き返し始めた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ㉓

ヴァンピレスが現れてから暫く。
わたし、異能力を発動中のコマイヌ、黎、師郎の4人は、ショッピングモールの階段を慌てて駆け下りていた。
「まさかこんな時にヴァンピレスが現れるなんて」
どういう事なんだと耀平は呟く。
「最初から琳を狙っていたのか?」
「さぁ」
師郎と黎はそう言葉を交わす。
「とにかく、ネクロが足止めしてくれている内に琳の元へ行くぞ」
じゃねーとこの前のメイの時みたいになるからな、とコマイヌが続けた所で、不意に階下からうわぁぁぁ‼と聞き覚えのある声が聞こえた。
わたし達が足を止めて階段の柵から下を覗くと、1階の踊り場で琳くんがへたり込んでいる姿が見えた。
そして彼の目の前には、白いミニワンピースにツインテールで赤黒く輝く瞳を持つ少女…ヴァンピレスが立っていた。
「アイツ…分身をいつの間に⁈」
コマイヌは驚きのあまり目を光らせるのをやめながら言う。
ヴァンピレスは手に持つ白い鞭をもう片方の手で引っ張りながら笑っていた。

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気紛怪文書 ―衰退生物学を添えて―

雌の山鳥 散る八重桜
六肢の捥げた黄金蜘蛛
羽搏く家蚕 枕と野犬
腹から浮かぶ錦鯉
山椒魚と 拉げた家守
空へと堕ちる月夜茸
狂い朽ち爆ぜ融け失せて
神代は果てて 今は春

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使い道

全てを守れるだけの力をください。

そうすればありとあらゆる災害、天変地異、紛争、戦争から皆を守れる。

【私は本当の恐怖を知っている】
私が見た景色は大地が割れ、海は荒れ裂ける夢を見た。しかし、この自然のプロセスを経て、太陽の民は人々の中心となり世界を引っ張ってゆくであろう。夢を見た。

【自分の使命】
全てを守ってみせる。

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円環魔術師録 8

「ミル君、次良いかい?」
「はい、どうぞ。」

ミルがランプの前から移動すると、リンネは彼と同じ様にランプの前に立つ。

「うーん、相変わらずだなぁお前は…。」

エルが顔をしかめたのを見て、リンネは目を細めた。

「そういう時は、何も変わってなさそうで何より、って言いなよ。」
「そうだけどよ〜…面倒なんだよお前のは…。」
「何〜?そんな事言うともう帰るよ〜?」
「悪かった、悪かったから。」

ええ、と不服な顔をしながら、リンネはランプの取手を握った。

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『レピドプテラ』

の中に目を凝らしてよく見ると大男は何かにつながれており、それがこの部屋を循環する光の出処のようだった。
「どうしよう!どうしよう!何の機械か知らないけど怒られるだけじゃ済まないよこれ!」
「とりあえずなんとか機械を止めないと」
「どうやって!」
「えっと…あの…えー…そうだ!レイナって確か水出すヤツ持ってたよね、アレぶっかけてみよう!」
「そういう機械なのこれ!?」
「知らないよ!いいからやって!」
「もー!」
レイナは魔石(メディウム)を取り出して念じる、するとその魔石から水流が渦を巻きながら出現して巨大な瓶に向かって一直線に激突した。
「そういうことじゃないんだけど…まぁいいや!」
リョウも魔石を取り出し念じると魔石を握った腕が巨大化し、瓶に向かって特大のパンチを打ち込んだ。
「…リョウ、私それ知らないんだけど。新しいメディウム作ったの?」
「違うよぉ、肉体強化の応用だよこれぇ」
リョウが拳をめり込ませると瓶は音を立てて崩れ去り、それと同時にエネルギーの供給源をなくした機械は自壊を始めて最終的に止まった。
「…なんとかなったな」
「いやぁ…なってるかなぁこれ…」
二人が辺りを見渡すと確かにいろんなものが原型をとどめていなかった。
「とりあえず、これは僕達の秘密ってことで…」
「今回ばかりはそれに賛成だわ…」
二人が肩を落としながら元来た道を歩き出す。
「ま…まて…」
「…ねぇ、今なにか…」
「いや…僕達は何も聞いてない…きっと疲れてるんだ、ワンツーで走ろう」
「そうね…そうしましょう…」
「アプ・ホミ・ケト!よし、まだ魔力は残っているな…二人とも待ってくれ、私を開放してくれたのだろう?ありがとう」
その優しい声に二人は顔を見合わせてから振り返る、そこにはあの瓶の中にいた大男が立っていた。
「私はレピド・プテラ、君たちは一体?」
「レピドプテラ…?学園と同じ名前…!?」
「学園?」
「この上にあるんです、私達その生徒で…」
「魔法か?」
「はい…」
「あのクソジジイ共め…ちょっとまて、君達どうやって魔法を?」
「このメディウムって石で」
「何だこの魔石…?結晶竜の核にしては不安定だ…それに個人と結びついているのか?」
レピドが魔石に触れると一瞬の閃光の後に砕け散った。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ㉒

「もうすぐZIRCONの単独フリーライブが始まるだろ?」
始めからみたいならさっさと行った方がいいぜ、と師郎は琳くんに笑いかける。
彼の有無を言わさぬ雰囲気に押されて、琳くんは…うんとうなずく。
そして彼はイスから立ち上がると、休憩スペースの後方にある階段へと向かった。
「あら、逃げるの?」
逃さないわよ?と言ってヴァンピレスは自身の周りに分身を生み出す。
すると彼女の分身の内の1体が、琳くんが去っていった方に駆け出した。
しかしその分身に向かって黒い大鎌が飛んできて直撃する。
分身は大鎌と共に消滅した。
「…わらわの邪魔をするの?」
ヴァンピレスは腹立たしげに首を傾げて目を細め、分身たちと共に右手の中に白い鞭の具象体を出す。
「あぁ、そうさ」
アンタに同族の邪魔をされるワケにはいかねぇんだよ!とネロは両目を赤紫色に光らせ、その右手に黒い大鎌を出した。
そしてネクロマンサーは大鎌でヴァンピレスに斬りかかる。
しかしヴァンピレスの周りの分身たちがネクロマンサーの前に立ちはだかり、白い鞭でネクロマンサーの斬撃を妨害する。
ネクロマンサーは一旦飛び下がり、大鎌を構え直しつつわたし達においアンタら‼と声をかけた。
「早くあの琳を追え!」
アイツを1人にしたら危ない‼とネクロマンサーはこちらを見つつ言う。
耀平は分かった‼と答えると、行くぞ!とわたし達の方を見る。
わたし達はそれぞれうなずくと、荷物を持ってその場を離れた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 ロノミア・オブリクァの扱う『刀』一覧

・破城(ハジョウ):全長3m超の斬馬刀。攻撃対象の『防御の意思』に反応し、その防御を破壊する。

・幽鱗(ユウリン):全長90㎝程度の日本刀。刀身の損傷を、表面だけが割れるように剥がれることで完全に修復する。修復の度に刀身自体の耐久力が少しずつ落ちていくので、実質的に修復が使えるのは50回程度。

・血籠(チゴモリ):赤い刀身を持った全長85㎝程度の日本刀。使用者の血液を媒体にして、深紅の流体が刀身の傷を埋める、本質的に不壊の刀。流体の生成効率は、消費した血液の10倍程度。
・異称刀“稚児守”(イショウトウ:チゴモリ):“血籠”の別側面。使用者より年齢の低い者を守る際、刀の耐久力と使用者の身体能力が更に向上する。

・緋薙躯(ヒナギク):赤い刀身を持った全長80㎝程度の日本刀。直刀だが刀身にうねるような刃紋が刻まれている。刀身を自在に伸縮・変形させられる。
・異称刀:否凪駆(イショウトウ:ヒナギク):“緋薙躯”の別側面。この刀を振るった場合、完全に振り抜くまでその斬撃は止まらない。”否凪駆”の能力使用中は、刀身の変形効果は使えない。

・癖馬(クセウマ):奇妙な形状の刀身をもった刀。刃渡り75㎝程度、全長100㎝強。その形状と刀身の密度の僅かな差から、一度振るうと標的を捉えるまで遠心力によって無限に、不規則に回転し続け、速度と威力を増していく。制御は極めて困難であり、十分に勢いの乗った刀身の挙動を読むことは不可能に等しい。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 キャラ紹介・甜花編

ササキア・カロンダ
Sasakia charonda(オオムラサキ)
年齢:17  身長:168㎝
固有魔法:『実力』に『評判』を上乗せする
メディウムの魔法:変身、身体強化、耐久力強化、追加武装、自己回復
説明:甜花学園生徒会会長。自己鍛錬を怠らず、道徳と規律を遵守し、学園生徒からの信頼も篤い。まさしく『正義の人』。その才覚は学園外にも知られているが、本人は自身の魔法を「地味な魔法で、決して大したものでは無い。もっと強い、凄い魔法少女は学園にたくさんいる」と認識している。謙虚な態度も大人気。

ニファンダ・フスカ
Niphanda fusca(クロシジミ)
年齢:16  身長:158㎝
固有魔法:時間と空間を掌握する
メディウムの魔法:変身、発光体の生成
説明:甜花学園の生徒。高等部2年。時空間を自在に支配するという『最強』と呼んで差し支えない魔法を有する『規格外』であり、自身の魔法を恐ろしいものだと認識しているので、普段はあまり使いたがらない。メディウムに封じた魔法は、掌大の光る球体を生成するもの。懐中電灯代わりに便利。趣味は友達の部屋でのお泊り。

エウメタ・ジャポニカ
Eumeta japonica(オオミノガ)
年齢:11  身長:144㎝
固有魔法:『無』を生成する
メディウムの魔法:変身、望遠、魔法障壁展開
説明:甜花学園初等部6年の児童。誕生日は3月中旬。モリヤマ双子の友達。固有魔法は視界範囲内に『無』を生み出すもの。『無』とは真空の上位互換のようなものであり、周囲の空間や物質、エネルギーなど全ての事物は、空間を埋めるために『無』へと引き込まれる。ブラックホールの遠い親戚みたいなものだと思えば何となくのノリとしてはまあまあ合ってる。甜花学園の次代を担うことを期待された『規格外』の1人。

※甜花学園:強力な固有魔法を扱う『規格外』を集め、一か所に隔離することを目的とした学園。圧倒的な強さを保持することで、有事の際の秘密兵器としての運用を期待されており、総務局との繋がりも強い。ネットでその他の学園から叩かれてそう。
ちなみに過去にいた『規格外』の魔法には、時間移動や強力な召喚獣の使役、透過能力や単純な超高火力攻撃など色々ある。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 エピローグ

甜花学園襲撃の翌日、ボンビクスとアンテレアは、友人のエウメタ・ジャポニカを連れてロノミアとの『秘密基地』にやって来ていた。
「へー、ここがモリちゃんとマイちゃんの秘密基地?」
「そうだよー」
「くぁちゃんはもう来ないから、私たちだけの秘密基地なのー」
「くぁちゃん……あ、いつも話してる二人の師匠さん? どうしたの?」
「くぁちゃんはね、魔法がおしまいになったんだって」
「へー」
適当な段差に腰を下ろし、エウメタが口を開いた。
「そういえば、昨日うちの学園に、襲撃が来たんだって。危ないからって、初等部の私たちは早めに帰されちゃった」
「あっ、それくぁちゃんだよ」
ボンビクスがさらりと言う。
「え? じゃあ、あの中等部の校舎真っ二つにしたのも?」
「そうだよ、すごいでしょ!」
「生徒会長さんも倒したんだよ!」
双子が自慢げに胸を張る。
「すごーい! あの人、負けるってことがあり得るんだぁ……で、お師匠さんは今は?」
「総務局に怒られてるの」
「私たちも一緒にいたんだけど、私たちは無罪になったんだって」
「へー、なんで?」
「「さぁ……」」
その後も3人は、他愛も無い世間話をして過ごした。
「あ、そういえば」
ボンビクスが不意に口にする。
「どしたの?」
エウメタの問いかけに、双子はピースサインを向けた。
「私たち、中等部から甜花学園に通うことになったから、よろしくね?」
その言葉に、エウメタは目を輝かせた。
「えっ本当? やったぁ!」
「4月からよろしくねぇ、メタちゃん」
「今から楽しみー」
「うん! 二人ともよろしくね!」

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地下にて

暗がりに水が滴り落ちる音がする、それをかき消すように2つの小さな足音が響いていた。
「ねぇ、やっぱり帰ろうよ…」
「ここまで来てそれはなしだろ」
魔法学園レピドプテラの地下下水道、入るのを禁じられたその場所の最深部にあった扉の前にリョウとレイナは立っていた。
「行くって言ったのはレイナだろ?それにほら、多分僕たちでもこの結界は解除できるぜ」
「そんなことある?私達まだ1年生だよ?」
「まぁまぁ、とりあえずやってみるぞ」
二人は扉に向けて手をかざす、扉が怪しく光り輝き真ん中が回転して何かが外れる音がした。
「ウソ…」
「な?言ったろ?」
リョウは満面の笑顔で扉を押す、するとそれなりに響く音を立てながら開いた。
「お宝かなんかあれば面白いんだけどな」
「あっまってリョウ!」
二人は扉の向こうに駆け出した。
そこそこ長い道を抜けると広いところに出た。
「何だここ?下水を溜めとくってところか?」
「り…リョウ…あれ…!」
レイナが指差す方を見ると大きな瓶のようなモノの中に一人の大男が正座していた。
「な…なんだよコイツ…!」
「や…やっぱり帰らない?これは…私たちは関わっちゃダメなやつじゃないかな」
「き…奇遇だな…僕も今そう思ったところだよ…うわっ!」
リョウが何かにつまずいて尻もちをつく、と同時に振動で何かが噛み合ったような音がした。
「…これ…やばいんじゃ…」
大きな瓶の中に光が灯る、その光が部屋の中のあらゆる所に循環して歯車が動き出した。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑱

ササキアは朦朧とする意識の中、ロノミアを睨みつけていた。霞む視界の中、ロノミアは斬馬刀を振り上げ、次の攻撃に入ろうとしている。しかし、衝撃が彼女の体内を大きく損傷させており、ササキアは既に回避も防御もできない状態にあった。
「さーぁコイツで締めといこうか。せっかくだから、『全部乗せ』だ」
ロノミアもまた、“破城”を握る両手や踏みしめた膝は小刻みに震えており、体力の限界も近い。
「私の懸けた魂の分、全部、ぜーんぶ、ブチ壊し抜け!」
“破城”が振り下ろされる。ロノミアの魔力の全てを乗せた一撃は、一閃の軌道上に深く破壊の痕跡を残し、ササキア達の背後、校舎そのものを両断し、刀身自体も反動によって粉砕した。
「……ヤマ子ぉ」
振り下ろした姿勢のまま動かないロノミアが呼びかける。
「……くぁちゃん?」
「もう、結界消して良いぞ」
「うん」
アンテレアが結界を解除すると同時に、ロノミアの手の中にあった“破城”の残骸も消滅した。
「『時間切れ』だ。……うん、悔いは無い。最後にたっぷり暴れられた」
言いながら、ロノミアはその場に尻餅をついた。
「くぁちゃん?」
ボンビクスが、不安げな表情でロノミアに近付く。
「何だよその顔? 私の魔法はもうおしまい。それだけさ。まぁ……これから総務局にたっぷり怒られることにはなるだろうけど」
軽い口調で言うロノミアに、双子は変身を解いて抱き着いた。
「何だよいきなり」
「……くぁちゃん、もう私たちの師匠やってくれないの?」
「くぁちゃん、捕まっちゃう?」
「変な心配する奴らだなぁ……私に教えられることは全部教えたし、そもそも悪いことしたんだから捕まるのは前提だ。……あぁ、モリ子、ヤマ子」
双子が顔を上げ、ロノミアを見つめる。
「お前らは、何も心配しなくて良い。お前らの処遇については、私に考えがあるから。お前らの師匠からの、最後の贈り物だ。有難く受け取れよ?」

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ㉑

「アンタ、一体何をしに…!」
「何って…そこにいる、まだ見ぬ異能力者の異能力を奪いに来たのよ⁇」
ネロの言葉に対しヴァンピレスは首を傾げる。
何だと…⁈とネロはその声に怒りをにじませながらヴァンピレスに近付こうとする。
しかしここで耀平がネロの肩を掴んでちょっと待てと止める。
ネロはあ⁈とイラついたように振り向くが、耀平はそこの琳はまだ発現してないんだぞ⁈とと小声で言う。
「発現しそうでしてない奴の前で異能力の話をするのはマズい!」
耀平の言葉にネロは…そうだな、とうなずいた。
それを見て師郎は隣に座る琳くんに、おい琳と声をかける。
「お前さんはさっさとここを離れた方が良い」
「え」
琳くんはどういう事です?と驚く。
師郎は深刻な面持ちで、だからさっさと行けと続ける。
「今は取り込み中だから、お前さんはいない方が良い」
それに、と師郎は付け足す。

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はらり遥か

明日は多分桜が咲いて
ここにあるって落ち着いて
不安は晴れたって飛び跳ねる
頭の中は春騒ぎ
世の中は花はらり
もう一枚
あともう一枚
悔しいってまた地団駄

あなたが教えてくれた春
僕には分からない春
何度見ても分からない
変わってない自分に完敗だって
また他人に負けて他人を愛しむよ

今日は多分桜が咲いて
ここにはないって落ち込んで
でも空は晴れたって飛び跳ねる
心の中は晴る曇り
記憶の中は春籠り
でも一枚
この一枚
嬉しいって地団駄

君が教えてくれなかった晴る
僕にしか分からない晴る
何回見ても思い出す
変わらない自分に乾杯なんて
また自分に負けて自分を愛しむよ

現実なんてつまらない
桜並木の大通り
はらり散っての春吹雪
やっぱりないって
はぁ空想
春が好きって
それがわかるって
何回だって
吐く嘘

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証拠

苦しいのはあなたが今前に進んでいる証拠。

疲れたのはあなたが本気で頑張った証拠。

怒るのはあなたが真剣な証拠。

緊張するのはあなたが本気で向き合ってる証拠。

笑えるのはあなたがそれを乗り越えた証拠。

泣くのはあなたがずっと我慢してきた証拠。

失敗したのはあなたが勇気を出して挑戦した証拠。

悩むのはあなたが成長している証拠。

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円環魔術師録 7

カウンターの奥の部屋はかなり広く、様々な機械が置かれている。
その部屋の中心に位置する台の上には、煌々と光る大きなランプが置かれていた。

「さぁ、先ずはあんただ兄ちゃん。魔力操作を解いて、ランプの取手を握ってみな。」
「魔力操作?えっと…はい。握りました。」

魔力操作を解け、と言うエルの言葉に、若干怪訝な顔をしつつ、ミルがランプの取手を握る。
その瞬間、

「…!うわぁ、凄い…!」

ランプの中の蝋燭が、物凄い勢いで燃え始めた。
更に、色が先程までの無色な炎ではなく、軽く青みがかった灰色の炎に変化した。

「…はぁ〜、こりゃ良いモン持ってんなぁ兄ちゃん。任しとけ、あんたの魂にぴったりの杖を作ってやる。」
「やっぱり。私の見立て通りだね。ミルくん、低級魔術訓練は来週まで。再来週からは特殊魔術の座学にしようか。」
「え?た、魂?来週?」

混乱しているミルを置き去りに、好き勝手に話し出す二人。
そのうち、もう良いよ、とリンネに声をかけられ、ミルはそっとランプから手を離した。

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円環はみだし魔術師録 杖 解説編3

昨日の続きです。
読まずとも本編に影響は御座いませんので御安心ください。

6、杖の作り
大抵の杖は「芯」となるクリスタル、大部分を占める木、留め具や装飾としての金属類で構成されています。
主に木で杖を作り、その先に金具でクリスタルを取り付ける、というデザインが定番です。
定番のデザインはあるものの、使う魔術や本人の特性、職種によってデザインは異なり、多種多様なデザインが存在します。
例えば、対人戦闘の多い騎士団所属の魔術師は、「芯」であるクリスタルの損傷を防ぐため、杖を太めに作り、中を空洞にしてクリスタルを入れる、というデザインを好む人が多い様です。
他には、杖の先に吊り下げる型、杖にはめ込む型などがあります。
杖は基本的にオーダーメイドで作られるため、他者の杖を使うのは至難の業です。
芯であるクリスタルの位置や個体差によって、魔力の流れる方向や流れやすさが異なるためです。

7、杖のシステム
杖のシステムは、持っている部分から魔力を流し、クリスタルを経由させて先端に集める、というのが基本的なシステムです。
杖を使うことのメリットとしては、魔術の照準を合わせやすい、魔力の純度を上げる、などがあります。
また、魔術陣の組み込まれた杖であれば、その魔術の詠唱を省略できます。

8、特殊な杖について
この世界には幾つか特殊な杖が存在しているため、御紹介します。
まずは先述の詠唱省略系の杖です。
こちらは主に召喚魔術の魔術陣が組み込まれている場合が多いです。
理由としては、召喚魔術は時間がかかり、詠唱が長くなりがちで、かつ長時間一定の魔力量を保つ必要があるため、詠唱省略が大きなメリットとなるためです。また、それに付け加え、召喚魔術以外の魔術は基本的に訓練によって無詠唱展開や省略詠唱展開が修得できることも大きな要因です。
次は剣で作られた杖です。
基本的に剣と魔術を同時に使う場合、銀などで作られた魔力伝導率の高い剣を杖代わりにするか、普通の杖を使用した魔術で剣を操るか、の二択となります。
それは、杖のシステムを組み込んだ剣は剣として機能せず、剣の機能を組み込んだ杖は魔力が流れづらかったためです。
しかし、この世界に一振りだけ、どちらの機能も完璧に備えたものが存在します。
その名は「エスト・アンバ」。

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円環はみだし魔術師録 杖 解説編2

先程の続きです。
なお、こちらも先程同様、読まずとも本編をお楽しみ頂けます。

補足:先程、「魔術師イユジュニスタ・ウィディスコの愛用した杖は円盤型であったと言う説がある」という記述の後に「杖の普及は二百年程前」と書かれていますが、これは「杖の『一般への』普及の歴史」であり、杖という呼称ではなく、システムや材料も違うものの、杖に準ずる補助器具自体はそれ以前にも存在していました。分かり辛かったと思います。申し訳ありません。

4、杖の材料1
主に魔力伝導率の高い物を使って作られており、大部分には木が使用される事が多い。
木の魔力伝導率はクリスタルに劣るが、クリスタルで作ると重くて脆くなってしまい、何よりとても高価になってしまうため、木が選ばれている。
また、訓練用であれば、魔力伝導率が低い金属が選ばれる事が多い。
尚、金属製の杖は勿論重いので魔術訓練と同時に筋トレも可能である。
そして多く使用されている木、クリスタル、金属の伝導率は左から高い順に
クリスタル>木>金属 である。但し、銀は木と同程度、物によっては木以上の伝導率を記録する場合がある。
金属にも魔力伝導率の高低があり、上から高い順に、
銀(白銀・黒銀を含む)

青銅

その他の金属          となっている。
更に、魔力を含んだ魔力化金属も存在するが、非常に珍しく、また、魔力の質によっては反発が強く、杖には使えない可能性があるため未知数となっている。
杖に金色を使う魔術師は多いものの、大抵は銀を変色させて金色に見せているだけである。

5、杖の材料2
杖の「芯」となるクリスタルは、人工的に精製された物と、自然にできた天然石がある。
伝導率は全体的に天然石の方が高いものの、特定の魔術においては人工の方が優れている場合がある。
人工のものは、純度が高いもの程伝導率が高いため、敢えて低純度のクリスタルを使用して商品を売り、後日メンテナンスに来た客からメンテナンス代をぼったくる業者が居るので注意が必要。
人工クリスタルは伝導率こそ天然石に劣るが、特定の魔術に特化させることができ、加工も楽で、何より安価なため、最近は純度の高い人工クリスタルを選ぶ魔術師も少なくない。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ⑳

「お前さんがどう考えてるかは知らんが、それを持っているという事は心から姉貴を憎んでいる訳じゃないだろうな」
…そうだろ?と師郎は腕を組む。
琳くんは暫く自分の目の前のキーホルダーを眺めていたが、やがて顔を上げてそうかもしれないとうなずいた。
「なら、ちゃんと姉ちゃんの勇姿を見届けてやるべきだと思うぜ」
師郎がそう言うと、琳くんはうんと明るく返した。
「…ぼく、行ってくるよ」
姉ちゃんのライブに、と琳くんはイスから立ち上がる。
師郎はそうだなと笑った。
「もうそろZIRCONのライブが始まるし…」
しかし師郎がそう言いかけた時、不意にうふふふふふと高笑いが聞こえた。
わたし達が声のする方を見ると、休憩スペースの入口の辺りにツインテールで白いワンピースを着た少女が立っていた。
「アンタは!」
ヴァンピレス‼とネロが立ち上がって声を上げる。
その言葉と共に耀平、黎、師郎は身構え、わたしもいつでも立ち上がれるよう準備する。
しかし琳くんはえっ誰⁇と彼女を見て困惑していた。

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円環はみだし魔術師録 杖 解説編1

杖について解説します。
ぶっちゃけ分からなくても本編には影響無いです。
御安心ください。

1、この世界における杖
まず、この世界において杖は必須ではありません。
東方の国や北方の一部地域では素手で魔術を使うようです。
では、どういう物なのか?
結論から申し上げますと、「補助器具」です。
この世界における杖とは、クリスタルや木、金属などを使って作られた、魔力の充填、射出、魔術の詠唱省略などの機能を持った補助器具を指します。
極論、棒状で無くても上記の機能が備わっていれば「杖」です。
変わった形の杖の例としては、帝国神話における五人の聖騎士の一人、魔術師イユジュニスタ・ウディスコが愛用した杖は円盤型であった、と言う説があります。

2、普及率
そしてこの世界の杖の普及率は八割程度であり、殆どの魔術師が所持・使用している様です。
魔術師校などでも基本的に杖が必須で、ほぼほぼ無くてはならないものもなっています。
また、魔術師校などでは素手撃ちを教えて貰えないため、杖は必須だと思っている人が殆どの様です。
しかし、日常生活で利用する低級魔術は素手で撃つ魔術師も稀に居ます。

3、歴史
杖の歴史は今から二百年程前に遡り、沿岸部の村の若者数名が、帝国神話のワルプルギス島の真相を確かめようと遊びで砂浜を探索。その結果、砂の中から、幾つかの魔術書を含む書物が発見された。
その書物の中に杖の設計図が残されており、当時のウディスコ家当主バストン氏と他数名が再現し、実験を行った。その後杖の有用性が証明され、爆発的に普及。様々な組み合わせや素材、形などが研究され、現在に至る。
なお、ワルプルギス島自体は海底に沈んだ上に呪いの類で近寄れなくなっているため、真相は定かではないが、ワルプルギス島では杖の使用はされておらず、設計の間に島が滅んだと考えられている。

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回復魔法のご利用は適切に!_4

魔力測定。1年生で行い、魔力量、魔力出力の精度をはかる測定だ。今年の測定は魔力を含有した種を別物へ変化させるという方法で行われる。
「_と言われてもわかんないよぅ」
「うーん、そうですわね…まずは私がやっているのをご覧になってくださいまし」
エリザベスは両手で種を包み、数秒経ったのちにシオンを見上げた。
「こうして種に魔力を込めます。魔力の多さ、精度の高さに比例して変化後のものの大きさ、精密さが変わりますわ。魔力量が多く、精度が高ければ大型哺乳類に変化することもありましてよ」
「へぇ〜生き物になることもあるんだね」
「まあそれはレアケースですけれど。私は…」
エリザベスがそっと手を開き、息をのむ。
「!こ、これは!」
「?これはー?」
「まっ!なんてこと…コンロですわ!!」
「ちっちゃーい!可愛いねミニチュアみたいだよ〜。これ火つくのかなぁ」
「…魔力量が少ないってことですわ…」
「わ、落ち込むことないよう、すごいじゃん」

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円環魔術師録 6

「み、右利きです。」

ミルが突然の質問に慌てて答えると、矢継ぎ早に次の質問が飛んでくる。

「そうか…体重は?」
「えっと、40㎏です。」

ええ、そんなに軽かったっけ、とリンネが呟く。
エルがギロリとリンネを睨むと、彼女は慌てて弁解を始めた。

「ちょっと、何その目!私はちゃんと食べさせてるってば!そもそも、きちんと食事をした上でその体重なら問題ないでしょ!体質だよ体質!」
「…そうか?」
「そうだよ!ちゃんと一人前食べてるよ彼は!」

見かねたミルが、きちんと三食食べてますよ、と加勢すると、漸くエルは彼に視線を戻した。

「ま、採寸はこんなとこか。次は魔力量の測定だ。測定器は奥だから、靴脱いで上がってくれ。」
「はい…。」
「ついでに私も測ろうかな。杖の調節お願いするよ。」

三人はカウンターの奥へ上がっていった。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑰

ササキアが反射的に盾を構え直したのとほぼ同時に、『繭』の壁に亀裂が入った。亀裂は深く広く拡大していき、遂に一部が破壊され、その穴から外界の様子が見えるようになった。
「壊した!」
ニファンダの声。
「くぁちゃん、破られた!」
ボンビクスの呼びかけ。
「任せろ!」
ロノミアが“破城”を振るう。ササキアの盾の前に、ニファンダはほぼ反射的に『空間支配能力』によって、不可視の障壁を展開していた。
その『障壁』と大盾に、“破城”が衝突した。

――“破城”。ロノミア・オブリクァの固有魔法によって生成される『刀』の一振り。そして、その全ての『銘』には、能力に基づく意義がある。
『破城槌』という兵器が存在する。これは城壁や城門を衝突により破壊することを目的としたものであり、“破城”の銘もまた、これに由来するのだ。
“破城”の有する能力は、『防御の破壊』。その強度や特性とは無関係に、ただ『防御の意思』を感知し、強制的にそれを破壊するということこそ、“破城”の特殊効果なのだ。

刃は不可視の障壁に触れた瞬間、『空間の歪み』であるはずのそれを粉砕した。その勢いは衰える事無く大盾に直撃し、抵抗なく破壊した。
「なん……ッ!」
咄嗟に腕で受けようとしたササキアだったが、その動作をボンビクスの糸が妨げる。
結果として、ノーガードのササキアを“破城”の刃が捉えた。ササキアは衝撃を受けながらも後方に向けて跳躍したため、致命傷は回避したものの、“破城”の威力も相まって大きく弾き飛ばされ、ニファンダを巻き込んで後方数m、校舎の壁に激突した。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ⑲

「姉ちゃんがアイドルになってから、親は姉ちゃんのことでつきっきりで…」
ぼくの事なんて心配してくれなかった、と琳くんはうつむく。
「それに周りの皆は『姉ちゃんはすごいのに、弟は』って比べてばっかで…」
誰も見てくれなかったんだ、と琳くんは震える声で続ける。
「だから姉ちゃんとはできるだけ関わりたくなかったんだ」
それなのに、と琳くんは両手で顔を覆う。
「今日はZIRCON結成2周年ライブだからって、親が無理矢理ぼくを連れ出して…」
琳くんはそう言って肩を震わせる。
暫しの間わたし達は静かに彼の姿を見ていたが、ふと師郎が…じゃあと呟いた。
「何でその姉ちゃんのグッズを持っているんだ?」
琳くんは…え、と顔を上げる。
「姉ちゃんに劣等感を抱いて関わりたくないと思うなら、そのキーホルダーを持ち歩かなきゃ良いんじゃねぇか⁇」
師郎は琳くんの目を見る。
琳くんは思わず目の前のテーブルの上に置いた濃いピンク色のキーホルダーを見やった。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑯

(私がこいつに見せていない『刀』は0。……全ての手札が割れている……いや、一振りだけ、『能力は』見せていない刀があったな。となると……決めるなら“破城”しか無いな)
ササキアの手刀が手首に直撃し、ロノミアは“血籠”を取り落とした。
「ぐッ……!」
続いて放たれた拳を、ロノミアは無事な片手で受け流した。カウンターで肘鉄を打つが、ササキアはそれをわけも無く受け流し、隙だらけの背中に膝蹴りを叩き込む。
「ぐあっ……!」
更に続くササキアの攻撃を、ロノミアは転がるように回避し、距離を取った。
「クソっ、痛ってぇ……」
(……粘るな。何が目的だ? とにかく、こいつを倒すか、やり過ごさねば、元凶であるあの双子を倒せない。……恐らく、こいつは私の盾を破壊したことで、『追加武装』がもう無いと考えている。決めるなら、『あの盾』だな)
ササキアは連続で蹴りを放ちながら、ロノミアを追い詰めていく。
2人の戦闘は徒手による格闘に変わり、ササキアの優勢で激しく動き回りながら打ち合う。その間にも糸の帯は数を増していき、領域内は複雑な地形を成していく。
「っ……」
ダメージの蓄積により、ロノミアが膝を屈した。その隙を逃さず、ササキアが蹴りの姿勢に入る。
その時、ボンビクスの糸束が、ササキアの軸足に固く絡みついた。即座に、ロノミアがやや前のめりに重心をずらす。
((……今!))
ササキアは持ち上げていた足を素早くその場に振り下ろし、右腕に『追加武装』を出現させた。十字架を膨らませたような形状の、全長2m程度の金属製の大盾。その側面は、刃のように加工されている。正しく『大剣』の様相である。
対するロノミアは、膝をついた姿勢のまま、巨大な斬馬刀“破城”を手の中に生成した。
2人がほぼ同時に武器を振り、直撃する寸前。
「モリ子ぉっ!」
ロノミアの掛け声で、別の糸束が彼女を捕え、ボンビクスの方向へと引き戻した。それにより、ササキアの攻撃は空を切る。
糸束から解放されたロノミアは、慣性によって領域内壁に着地し、即座に跳躍した。ロノミアは更にササキアの後方に張られた糸帯に着地し、慣性に任せて深く膝を折る。
(来る!)
ササキアが大盾を構える。しかし、攻撃が来ない。ササキアが盾を僅かにずらすと、ロノミアは糸帯に垂直に着地した態勢のまま、“破城”を構えていた。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ⑱

「…それにしても、皆が身内の事を考えてる事の何が嫌なんだ?」
ふとここで、耀平が頬杖をつくのをやめながら尋ねる。
ネロも確かにとうなずき、黎も静かに首を縦に振った。
「やっぱり、恥ずかしいのか?」
「えっ、あっ、いや…」
耀平の質問に琳くんは慌てる。
それを見た師郎はまぁまぁ…となだめた。
「誰だって身内の事で思い悩む事はあるからな」
俺だってそうだったし、と師郎は笑う。
それを見て、そうだったんですか…?と琳くんが驚く。
「まぁな」
これでも我が家は家族が多いから、自分の思い通りにならん事ばっかでな…と師郎は目を細める。
琳くんは目をぱちくりさせ、師郎はそんな彼の様子に気付いてあぁすまんな、こっちの話してと謝る。
しかし琳くんは神妙な面持ちになって前を向いた。
「…ぼくもそうですよ」
急な発言にわたし達は琳くんに視線を向ける。
琳くんはそのまま続けた。

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ハル泥棒

春を盗りにきた もう一度あの頃に戻りたくて もう二度とあの頃に戻れなくて
晴るを撮りに来た 上の景色が明るすぎて 下の景色が暗すぎて
桜が散るころあなたはどこにいますか
あと何回春がきたら君を忘れられますか
桜の葉がゆらゆらと落ちて
言の葉がゆらゆらと揺らいで
あなたは舞っている桜の葉のように掴むことができない
掴もうと必死に手を伸ばしてもひらりと逃げる
春が嫌いと言った君は笑顔だった
桜の葉はいつか地面に追いつくけど
僕はあなたに追いつけない
そんなことを思いながら今日も歩く
いつか追いつけるように

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 23.キリン ⑰

「姉、ちゃん…?」
ネロが不思議そうにこぼすと、師郎はもしかしてと頬杖をつく。
「お前の姉ちゃん、ZIRCONの鹿苑 蘭(しかぞの らん)か…?」
「あ、あ、うん」
師郎の質問に、琳くんはうなずく。
話を聞いているわたし達は顔を合わせたり目をぱちくりさせたりした。
「…なるほど、そういうことか」
師郎はそう言って上着のポケットから何かを取り出す。
それは琳くんが師郎にぶつかった際落としていった、”ZIRCON”のロゴが入った濃いピンク色のキーホルダーだった。
「これ、明らかに鹿苑 蘭の担当カラーだなと思ってたけど、まさか身内だったから持ってたのか」
なるほどなーと師郎は言うが、琳くんはえっいつの間に…⁈と驚いた顔をする。
それに気付いた師郎は、あぁすまんなと返す。
「さっきぶつかった時に落としていったからな」
そのままにしておくワケにいかなかったし、と師郎はキーホルダーを琳くんに渡す。
琳くんはあ、ありがとう…とそれを受け取った。