ロノミアは踏み込み過ぎず、離れすぎず、『約1m』の距離を保ちながら、連続攻撃を放つ。ササキアは2枚の盾でそれを捌きながら、反撃の機会を窺う。
(まだ……)
斬撃が止まった一瞬を逃さず、ササキアが盾の側面で殴りつける。ロノミアは二刀を交差させて押し返すように受け止めた。
(まだまだ……)
刀と盾の押し合いは、盾側の優勢となった。ササキアが少しずつ、ロノミアを押し返していく。
(まだまだまだ……!)
突き飛ばされ転がされないように、ロノミアはじりじりと後退していく。それに気付き、ササキアは踏み込みながら盾で弾き飛ばした。ロノミアは後ろ足を大きく引くようにして耐えるが、上半身が大きく仰け反る。
((今!))
攻めに転じたササキアに、ロノミアは“緋薙躯”の切先を向け、伸長効果を発動する。ササキアは首を傾けて回避し、そのまま盾で殴りつける。その瞬間、ロノミアは自身の周囲に展開していた結界を縮小し、自身に薄く纏うように変形させた。
周囲の空間には、ボンビクス・モリの拘束糸が漂っている。ロノミアの結界術があることで、『安定化』の恩恵を失った糸からロノミアは身を守っていたのだ。そして、その影響は近距離で戦闘を繰り広げていたササキアにも及ぶ。
ササキアは彼女の固有魔法によって身体能力を強化していたことで、拘束糸を強引に振り切りながら行動することができていた。そして、彼女の魔法が『無効化』ではなく『強化』であるからこそ、新たに絡みつく不可視の拘束を再び振り切るためには、僅かな『タイムラグ』が生じる。
(この感覚……! 時間が止まったときと同じ、『魔力が絡みつく感覚』! マズい、振り切ることは不可能ではない。しかし、この状況は……)
「おっらああァッ!」
一瞬の隙を逃さず“チゴモリ”が振り下ろされ、ササキアは壁に叩きつけられた。