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うどん屋

帰り道 ふとスマホから顔を上げると
うどん屋がなくなってた

部活帰りに月見うどん食べたな
おっちゃん、あの時サービスしてくれたな

もう味わえない出汁の匂いが舌に甦って
懐かしさを悲しさが追い越すのは
この瞬間だけかもしれない


空きテナントに入ったコンビニで
申し訳程度のうどんを買う

あの時の味はもうしない

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入り口

わたしの世界のど真ん中に
いつもでっかくあなたがいるの
あなたの世界にわたしもいれて

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口裂け女2

逃げ出してから数十秒後、後ろをちらりと振り返ると、『奴』は既にほんの十数mの距離まで迫っていた。その顔からは、既にマスクが剥がれ、耳まで裂けた口が露わになっている。
(む、やはりあの程度ではほんの時間稼ぎにもならなかったか。流石に100mを6秒で駆ける脚力の持ち主なだけはある)
『奴』がぎりぎりまで追いすがって来たのに合わせて、予め脱いで小脇に抱えておいた上着のパーカーを『奴』の顔面目がけて投げつけた。運良く上手いこと顔に絡まったらしく、足を止めて顔にかかったものを剥がそうともがいている。それをちらりと見る程度にして、逃走を再開した。
しかしそれでも、『奴』もまた直ぐに追跡を再開してくる。
運動が得意だったり、スタミナが人並外れていたりするわけではない自分にとっては、時速60kmで走る化け物から逃げ続けるなど、とてもじゃないができることではない。
これは何か策を考えなくてはいけない。

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あめ

金平糖をフライパンの上で転がしたような音
君の泣き声みたいだ
ザラザラと気持ちの悪い手触り
僕の心の中

早送りのビデオのように空が流れてく
水たまりに傘を突き刺す
止まっておくれよ 君に刃を向ける手

些細なことだったんだ
君の知らない僕の涙
僕の知らない君の笑顔
終わりだって悟ったんだ
そう続かないよな
だから雨は嫌いだ

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朝顔

なんの花かわならない種を
あなたはあててごらんと言う
花が咲いてあたってたら
願いをひとつ叶えてあげると
真面目に考えるフリをして
わたしは必死に口角を抑えている

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タイトル

私だけの“タイトル”。
それは“1人ぼっち”。
世の中の誰よりも
私は1人になってしまったかも知れない。

ドロドロする何かの液体に足をとられて
今にも沈んでしまいそう。
真っ黒で何も見えない。
この液体が何なのかも 色さえも
もうわからない。
そんな世界に落ちてしまった。
“助けて”と叫ぼうとしても もう遅かった。
上に浮かぶ光の向こうに
私の声は届かない。

そうだ。私はもうこの世界を歩んでいこう。
狼に喰われるまで。
たとえ 狼が私を襲って来たとしても
私は彼を抱きしめよう。
泣きながら ありがとう と言いながら
私は彼を抱きしめよう。
そして私は1人という世界から脱出しよう。

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夜の雷

夏の開会宣言みたいな
祝砲めいた雷が鳴って
部屋に根をはった蛸足配線
ひとつ残らずショートした
画面の青に鯨を放て
きつく縛った心を許せ
幻も愛し続ければ
いつかは触れられるさ

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レイニー・ブルー

HAっとステキな夢から
覚めたらそこは
レイニー・ブルー・マンデー
眠たい目をこすりながら
“オハヨウ”なんてとても云えない
未完成のホームワーク見るたび
ユーウツな気分になるの

レイニー・ブルー
できるなら眠っていたい
レイニー・ブルー
夢のつづきを見ていたい

HU…とため息ついたら
ドアが閉まった
レイニー・ブルー・トレイン
想いの彼は今日に限って
“オハヨウ”さえも云ってくれない
お気に入りのローファーと心は
ずぶ濡れで泣けてくるの

レイニー・ブルー
このまま揺られていたい
レイニー・ブルー
終点まで連れて行ってよ

レイニー・ブルー
できるなら眠っていたい
レイニー・ブルー
このまま揺られていたい

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モノトーンの季節

傘が重なり合うバスの中
ベタベタした肌と
ムッとした汗のにおいで
息ができないくらい苦しいや
イヤホンから流れる音楽も
今日は雨音のように白黒で
不意に流れ込むシャウトが
心に悲しみを刻むから

いちばん嫌いな季節
でも今日はいつもと違う
振られてしまった…

窓ガラスを流れる街並みが
今日はとても綺麗な白黒で
バスを待つ赤い傘の君が
悲しいほど美しかったから

いちばん好きな季節
でも今日はいつもと違う
振られてしまった…

精一杯の力を込めてボタンを押した
「つぎ、とまります。」