日々を きりとって きりとって ぱちり
きらきらの一枚を、僕だけのアルバムにするんだ。
大事な日々を、忘れてしまわないよう。
一度きりの瞬間を、刹那より永く、此処に留めておけるように。
どうやって生きてきたのか わからない。
どうやって生きているのかも わからない。
愛も恋も好き嫌いも、シュミだってコダワリだって、
もうどうだって構わないから。
ただ逃げ出したくて、行先なんて何処でもよかった。
ただ逃げ出すための、行先なんて何処にもなかった。
雨が降り止まなかったって、
読みかけの本がいつまでも終わらなくたって、
時計のねじだけがくるくる解(ほど)けていったって、
いつだって泣きたい気分のまま。
ねぇ、ぼくは
恰好悪くたって、
生きていけるのかな。
「いらっしゃいませ」
「とりあえず生ビールね……あと、やっこある?」
「すみません。ありません」
「じゃあ枝豆」
「すみません。きらしてます」
「なにかできるのは?」
「すみません。なんか適当に買ってきますんで、お客さん、店番しといてください」
「嫌だよ……仕事帰りで疲れてるのに」
「ですよねぇ。あ、ピーナッツならあります」
「乾きものかあ。まあいいか。……その水槽の魚はなんだい?」
「お出ししますか?」
「川魚みたいだね」
「さあ〜、なに魚なんだか。つぶれた店から水槽ごともらったんで」
「そんなわけのわからない魚食べるわけないだろう」
「名前はアイっていうんですよ。わたしがつけたんです」
「ペットを客に出そうとするんじゃないよ」
「へへへ」
「へへへって……ところでどうしてアイなんて名前にしたんだい?」
「コイって魚はいますよね」
「うん」
「でもアイって魚はいないじゃないですか」
「うん」
「だからです」
「うん、さっぱりわからない」
「愛ってなんなんでしょうね」
「生存本能由来の感情だろうな」
「愛って必要なんでしょうか?」
「過剰な愛は排他性を高めるからマイナスだな」
「なにごともほどほどが肝心ってことですかね」
「そうだな。……生ビールおかわり」
「お客さん、なにごともほどほどが肝心ですよ」
「俺の身体に気なんかつかわなくていいんだよ。どれだけ商売っ気ないんだ君は」
「すみません。生ビールそれで終わりです」
「じゃあ瓶ビールでいいよ」
「かしこまりました。すぐ買ってきますんで、店番しといてください」
「会計してくれ」
いろんなことが重なって
いらいらしちゃうけど、
そんな時こそ前向きにがんばろう
一度だけ、ふうと息を吐いたら
にこりと笑ってみせよう
まだゆけるでしょう
私には足がある
ヒールを履いてよろめいても
ただ前を見てゆくのです
きみがいないとさみしい
うそじゃなかった、でももういいの
ボルドーのスカートを身につけて
すっくと背すじを伸ばして
私はゆくのです
そのうちきみの影さえも追い越して
私は自由にゆくのです
私が振り返ったとききみが変な顔をして
ちょっと待ってと言ったなら
さようならと笑いましょう
私はヒールを履いたって前を見てゆけるのです
飴色の把手を回して
踏み入ったのは懺悔室
腰掛けたベンチの隣に
神父様はいらっしゃらない
だって呆れてしまわれた
何度も掛け直した首のロザリオ
貴方に叱って欲しくて信仰を曲げた私を
貴方は見放してしまわれた
いいえごめんなさい
責めるつもりはないのです
詰るつもりもないのです
私はただ、懺悔を。そう、懺悔を。
懺悔をしたかったのです
ごめんなさいと言って
ロザリオを手首へ巻き直したかったのです
天への謝罪は貴方が届けて下さるけれど
貴方への謝罪は何方に願えば届くのかしら
あの時私が君の手を離さなかったら
今も君の隣で笑ってたかな。
あの時もっと我慢していれば
思い出して後悔することなんてなかったかな。