スーパーから出ると雨だった。傘はなかった。レジ袋を両手にさげ、濡れながら歩いていると、街路樹の根元に、妖精がうずくまっているのを見つけた。若い雌の妖精だった。羽根が濡れて、飛べなくなっていたのだ。周囲を見回し、誰もいないことを確認してから妖精をポケットに入れ、持ち帰った。
濡れた服を脱いでから、妖精の身体をタオルで拭いた。妖精は、美しかった。八頭身で。バストは小ぶりだった。たしか成長しすぎるとシンメトリー度がそこなわれるため、大きいバストの妖精は敬遠され、選択淘汰で小ぶりの種が主流になったのだときいたことがある。
妖精は何を食べるのだろう。まあ人間と同じものを食べるのだろうとドーナツを与えたら、顔の何倍もの大きさのそれをぺろりと平らげた。きっと甘いものが好きなのだ。指についた砂糖をなめると、横になり、眠ってしまった。妖精の胸が上下するのを見ながら、僕も眠った。
妖精との蜜月は半年ほど続いた。妖精だけを眺めて暮らす日々だった。スマホも、テレビも見なかった。
ある日、元カノから連絡があった。近くに来ているから会いたいと。元カノには未練があった。僕は会った。再び、つき合うことになった。
帰宅すると、妖精がぐったりしていた。何も食べなかった。体温が低くなっていた。妖精は、僕の手のひらの上で、ふーっと長い息を吐くと消えてしまった。
悲しくはなかった。当たり前だ。僕が看取ったのだから。ただもう、生きものを飼うことはないだろう。
私を引き寄せる
熱の篭ったしなやかな腕
清潔なにおいのするシャツからは
たしかな愛情をかんじるのです
肩越しに見える景色は輝いて
この一瞬だけは許された気がした
泣いたのは、寂しかったからじゃない。
胸がつまったのは、大好きだったから。