万華鏡の中にはキレイなものが
見えますか
望遠鏡の中にはキレイなものが
見えますか
鏡の中は
鏡の向こうは
そんなにもキレイですか
それなら
現実は
自分の言葉は
他人の言葉は
夢は
そんなにも
汚いですか
そんなにも
醜いですか
だったら
一生
鏡の中見てろ
僕が現実見させて
絶望させてやるからさ
(どうすべきか…)
スマホを見ながら、私はぼんやりと考えていた。
内容はもちろん”フェス”のこと。
すでに集まるメンバーのうち2人が、行くことを決定している。
自分も行きたい、けど…
(やっぱり親は許してくれるのか)
多分OKしてはくれないだろう。なにせ私は受験生。ついでに志望校合格すらも少し怪しい。
そんなことを、ここしばらくスマホを見るたびに考えている。
(会場から家が遠かったら、言い訳が付くんだけどな…)
会場から家の最寄駅まで、電車で30分。そこそこの距離だ。行こうと思えば行ける。
(でも、)
そこから先が出てこなかった。
ピロン、とスマホが鳴った。
誰からだ、と思いながら通知を見ると、クラスLINEにメッセージが来ていた。
メッセージの主はクラスの男子、星一登(イチト)だった。
どうやら明日の時間割を教えてほしいとのこと。
なんで学校にいるうちに、明日の時間割確認しないんだよと心の中でつっこんだところで、ふと、昼間のことを思い出した。
給食の最中、星が他の男子とこんなことを話していた。
「俺さ~こないだの模試D判定でさ~」
「おれもD判定。志望校変えるわー」
「マジか! じゃ、星も志望校変えんのか?」
「俺は変えない。やるだけやるつもりさ」
「おいおい、落ちてもいいのかよ」
「落ちないために今から頑張るんだよ! やるだけやって足掻く! 後悔は嫌だし」
「相変わらずのカッコつけめ」
これを横で聞いていた私は、カッコつけてんなぁと心の中で笑ったけど、”やるだけやっておく”のも、いいのかもしれない。
(なんなら、)
フェスのこと、親に言うか。却下されてもいいから、言ってしまおう。公開だけはしたくない。受験だって―
「リイー、ご飯できたわよー」
リビングから、お母さんの声が聞こえる。
ご飯食べながらでも、このことを言ってしまおう。
大丈夫、どうにでもなるさ。本心を伝えればいい。
今行くーと大声で答えながら、私は自室を出た。自分の思いを伝えるためにも。
遅れを取り戻そうと必死です… 明日には全部取り戻すんで! 物語は遂にクライマックス!
クリスマスが近づいて、駅前はイルミネーションで飾られている。
これが”フェス”の会場、東京だと、もっとたくさん光り輝いているのだろう。
フェスに行かないなら、俗に言う「クリぼっち」って呼ばれるのかもな、と俺は思った。別にそう呼ばれてもいいんだけど。
まぁそういう時は、ヘッドフォンでもして、周りの音を遮断すればいい。
ヘッドフォンは現実逃避には格好のアイテムだと思っている。してしまえば、周りの音は大体聴こえない。
そんなことを考えつつ、いつも通り、ヘッドフォンでテキトーな曲を聴いていたのだが、
「痛っ」
しばらくぶりの衝撃。カバンをぶつけてきたのはもちろん―
「よっ!」
カバンをぶつけてきたのは、去年まで同じ部活の先輩だった、光ヶ丘先輩。
「先輩、もうそういうことしないでくださいって言いましたよね?」
俺はヘッドフォンを外しながら言った。
「え~でもさ~ヘッドフォンしてるから、後ろから呼んでも聞こえないかな~って」
「…」
思わず沈黙。さすがにそれは分からなくもないけれど…
「てか、先輩、今日部活だったんですね」
「おっ! よく覚えてるな~」
「前にもこういうことありましたよ?」
この先輩は忘れっぽい、あとアホ。そういうところが後輩から好かれるんだけど…
「でさ~、志望校決まった?」
「よく覚えてますねそんなこと」
「こういうことは忘れないのよね~」
最近は受験のことも考えてるけど、”フェス”のことも考えてる。自分は行くか行かないか考え中だけど、すでに決めている人もいる。そうなるとますます…
「…もしや、フェスのこと考えてる?」
「うぐっ」
「わ~図星だ~っ」
そういえばこの人も、行くみたいなこと言ってたな。去年も行ったみたいだし。
「じゃあさじゃあさ、一緒に行く?」
「…ハイ⁉」
「え~よくない? 会場では別行動でさー」
「他のヤツに見られたらどうするんですか⁉ 絶対面倒なことになりますよ⁉」
「え~その時はその時でさ~」
「断固拒否します」
「あ、もしかしてさ、ウチのコ…」
「んなわけあるか!」
思わずタメ口でツッコミ。そんなこと一切考えてない。というか考えたくないし。
俺はヘッドフォンで耳を塞いだ。それでも先輩は話を止めなかったけど。