「…ああ、あれですか?」
屋敷の主人は少女が指さす方に目を向ける。
「…あれは…えぇ、まぁ…我が家の”家宝”みたいなモノにございます」
ふぅーん、と少女はうなずくと、静かにさっき指差した方へ歩き出した。
あ、ちょっと…と屋敷の主人はうろたえたが、少女は気にせず広間の隅へと向かった。
そこには、奇妙な人影が立っていた。
―足元まである真っ黒な外套を着、頭巾で顔を隠した、少女と同じくらいの人影。
豪奢な屋敷の広間の中で、それはあまりにも異質に見えた。
少女は人影の前まで来ると、後を追ってきた屋敷の主人の方を振り向いた。
「これ…」
「えぇ、まぁ…知り合いから貰ったモノなのですが…」
極まりが悪そうに喋る屋敷の主人から少女は目の前のモノに目を向けると、何を思ったかその頭巾に手をかけた。
「…!」
一瞬のうちにひっぺがえされた頭巾の下から、少年とも少女とも似つかぬ顔が現れた。
その目は驚きで大きく見開かれている。
「…そう、やっぱりね」
少女はそう呟いてニヤリと笑った。
「…コイツ、あの有名な魔術師の”使い魔”でしょう」
…えぇ、と屋敷の主人は小声で答えた。
「しかも貴方はコレの”マスター”ではない…」
「…まぁ、そうですが…どうして…」
屋敷の主人が尋ねると、少女はクスクスと笑いながら答える。
「だって普通の”ヒトのカタチをした”使い魔は、大抵主人のそばにいることが多いでしょう? 貴方のような貴族なら殊更… でも、コイツは広間の隅で放し飼い…ならマスター契約せず、何か適当な魔法石から魔力供給させていると考えるでしょう」
間違っていて?と少女が訊くと、屋敷の主人はいえ…と答えた。