仮説「夢の中で眠眠打破を飲む、つまり夢の中で長く起き続けることによって、人は現実(夢の外)で目覚めることが困難になる」
問題点
一・夢の中に眠眠打破が登場したことをどのように証明するか
二・夢の中でどのように時間を計測するか
三・夢の外で時間を計測する場合、睡眠者が眠眠打破を飲んだタイミングを実験者はどうやって判断するか
この問題点を乗り越え、仮説を立証することにより
本日私が「夢の中で眠眠打破を飲んだが故に寝坊した」という事実を明らかにしたい。
期待してしまう
本当かも分からないのに
単純で幼い私
友達からの言葉に一喜一憂
それだけ貴方が好きなんです
適当な鼻歌が
そのうち「あの曲」になって
隣で聞いてた君が吹きだした夜
パーカーはまだ暑いでしょって
強気だった君が肘のあたりを摩ってる
それを腕ごと抱き寄せる
首元の蝶々が羽ばたいた
視線の先には少し欠けた月
名前もない月も君とだったら
満月よりも満足できる
私は大賢者様といつまでも一緒にいたかったのですが、大賢者様は忙しいみたいで春の初めにはどこか遠くへ行くのだということを伝えられました。
桜のつぼみが赤く膨らみ始めたころ、大賢者様は旅立っていかれました。私は大賢者様に一緒に連れて行ってくれと何度も懇願しましたが、やんわりと笑うばかりでやはり駄目でした。その代わり大賢者様は私にいくつかの贈り物をくれました。その一つがまた会いに来るという約束であり、もう一つが一冊の本――大賢者様がマジックアイテムと呼ぶ魔法の道具でした。
この日、私は魔法使いになったのです。
母を喪った痛みも大賢者様と別れた悲しみも見えないように、魔法はすべてを曖昧にして包み込んでくれました。
***
#13更新です。長文の連投すみません。
シオンの過去話です。いわゆる回想シーン。次回はシオンが魔法を撃ってくれそうな気がします。
毎度のことながら反応してくださってありがとうございます。
大賢者様が私の前に現れたのはそんな頃だったように思います。
目を上げるとそこには一人の女性の姿がありました。驚いたのはそのシルエットで、最初に目に着くつばの大きなとんがり帽子と黒い長衣は明らかにこの国の人ではない恰好でした。衣服が黒いから弔問客かとも思いましたが、瞳は私の母を探しているようには見えません。それでこの家の家主の客かと思い至り誰か呼びに行こうとすると、
「君に用がある」
と言って私を引き留めたのでした。そこで女性は自らを大賢者と名乗り、私は自らを̪史音と名乗りました。
どうしてそうなったのかはまるで覚えていませんが、大賢者様と出会った日から長くも短くもない日を一緒に過ごすことになりました。本を読むのもほどほどに、大賢者様と紅葉の上を散歩しました。秋が過ぎ冬になり、大賢者様と一緒に毛布にくるまって一晩を過ごしました。
大賢者様は朗らかに笑いよく喋る、明るいお方でした。私は大賢者様が楽しそうに話すのを聞くことが好きでした。夜ごとに話してくれるお話はどれも魅力に溢れていて、どれ一つとして同じものがありませんでした。大賢者様は永く長く旅を続けてきたと言います。私はそれで初めて、この国の外に広がる世界に思いを馳せました。世界は未知と不思議に満ち溢れていて、またそれと同じくらい優しく愉快でした。
大賢者様と一緒に過ごしたかけがえのない時間は、私を悲しみの底から救い出してくれました。ふと母を想って寂しくはなるものの、その穴を埋めるように大賢者様に甘えるようになり、大賢者様は夜空のような瞳で私を包んでくれるのでした。
小説は母の趣味らしかった。それで母は私がその小説に興味を持ったのが嬉しかったのか、その小説の好きなところや感想などを私の進捗を確認してから話すようになった。疲れ窶れていた母の表情に笑顔が浮かぶようになり、私もそれが嬉しくて母と話すのが楽しみになった。
ちょうど小説のすべてを読み終わったころに、私が生まれるよりもずっと前に始まった戦争は突然終わった。新聞にはこの国が負けたことが重々しい文字で記されていたが、次の日から生活が激変するようなことはなく、失ったものが戻ることもないようだった。
同時期に母が亡くなった。私にとってはそっちの方が大ごとで、動かない母を前にして慟哭し、それが三日ほど続いてから私は泣き止んだ。人を弔う方法も知らないものだから遠く離れた隣家に行くと、とりあえず役所に伝えておきなさいと言われ、そうした。葬儀はその家の人が行い、更には私を引き取ってくれもした。
私は与えられた部屋に引きこもり、母を思い出すように小説を何回も何回も読み返していた。母が好きだと言っていた箇所は特に読み込んだ。物語の楽しみ方としては大きく外れていたが、読むたびに母の笑顔が思い出すことができた。隣家、もとい引き取ってくれた家の人は私になるべく触れないでいてくれた。私はそんな人の親切心に気づくこともなく、季節はすっかり一周していたらしく秋になっていた。
私が生まれたのは、実に百年以上も前のことだった。
そのころ世界は戦火に包まれており、この国も例外ではなく、激しい戦いは国力を根こそぎ枯らし尽くしていた。
新聞を見ればこの国は着実に勝利の道を歩んでいるようだったが、ますます苦しくなる生活の前では虚しいばかりだった。
きっと誰もが疲れ果てていたけど、それを言い出すには大きな勇気と責任が伴った。どこでどんな人が目をつけているか分からなかったから。
みんな頑張っているから。この国のために。平和のために……。
不満を漏らす代わりに吐き出した言葉は、誰へとも知れぬ言い訳のようで。或いは縋る幾束の藁のように、私の母も何度も何度も言い聞かせるように、男性の写る写真の前で手をすり合わせていた。生まれた時には既にいなかったその男性は、母曰くいつか帰って来るらしかったが、ついぞ音に聞くことはなかった。
母子家庭で育った私に遊ぶ兄弟姉妹はおらず、塞ぎ込みがちであったがために友人の一人もできなかったが、私は暇をすることはなかった。書架に並べられていた難しそうな外国語の本の中に、数冊だけ母国語で書かれた小説があったのだ。母に尋ねてみると、今はもう出回っていない翻訳本らしく、私はこれを借り受け、暇な時間を見つけては自室で読み耽った。
本を読むようになってから私はよく空想を広げるようになった。もともとの妄想癖というわけではなく、書架に並ぶ小説が多くなかったからだ。早く続きを読みたいという急いた想いはあったものの、それでも内容を知らない本が減っていくというのも物悲しく、仕方なしに空想を織り交ぜながら焦らすように読み進めていった。
あなたのしたい事がいい事だけなら
嘲笑われ誤解される覚悟をして
だってこの世の中では
そんな奴は奇形児だから
ここでは誰もが真珠に群がる豚になろうとしてる
そして全てが無駄だろうけど
それでも自分だけの秘密にしておいた方がいい
だって他の人と一緒にいて安全かどうかなんて
誰にも分からないから