『何を覗いているんだ?』
ビー玉を覗き窓辺に座っていると先生が声をかけてきた。
「ビー玉、覗いてるの。上下反対に見えて面白いんだよ?」
『そこからは何が見える?』
ビー玉を通して先生を見る。
「逆さまになって、こっち見てる先生が見える。」
『私は逆さまではない。外がどう見えるのか教えてくれ。』
「そうね〜。校舎が反対になってて、海に浮かんでるみたい。まるで不思議な形の船ね。 校舎についている灯りがキレイよ。」
『楽しそうだな。』
「ビー玉を通した世界の方がキレイに見えるわ。先生も一緒に覗く?」
『ビー玉、ひとつだろう?私はいいさ。』
「先生。私、2つ持ってるよ?」
ポケットからもう一つのビー玉を取り出す。
『用意がいいんだな(笑)。』
「覗くでしょ?(笑) はいっ!」
先生は横に座ってビー玉を覗く。
『今日の君は小学生みたいだな。』
「そう?スプーンとかさ、私達が見ているものと違う景色って面白くて好きなの。」
『確かに、ビー玉の世界は面白いな。』
「でしょ?(笑)」
私は先生を見て笑う。
「少し違う視点から見ると、ずっと見てきたものも新しく見えるんだよ。」
『小学生みたいな顔して大人な事言うんだな(笑)。』
「だって小学生じゃないもん(笑)。」
私達は次のチャイムが鳴るまで、二人でビー玉を覗き込んでいた。
そんなあるとき、新しい家庭教師がお屋敷にやってきました。それまでリズを教えていた家庭教師が結婚して遠くに行ってしまったからでした。
新しい家庭教師はヘンリーという、リズより少し年上の若い男の人でした。ヘンリーはとてもかっこよかったので、ローズとリリーはたちまち彼の虜になりました。2人はヘンリーに気に入ってもらおうと毎日授業に出るようになりました。けれど今までちっとも真面目に勉強してこなかったので、教えられることが何も分からず、2人はすぐに勉強が嫌になってしまいました。そこで2人は授業のあとに、帰ろうとするヘンリーを引き留めてお茶をするようになりました。
ローズとリリーはあからさまな態度でヘンリーにアピールをしましたが、ヘンリーはそんな2人のことを好ましく思っていませんでした。むしろ、恋のことなんか考えもせず、一心不乱に勉強して国の人びとのためになることに 一生懸命な、リズに惹かれていたのです。
勉強の合間に、壁のカレンダーを見るのだ。
1年間全部が載っているもの。
今日は2月17日。
3月、4月…と見ていくと不思議な気持ちになる。
この頃、世界はどうなっているのか、何をしているのだろうか、果たして自分は生きているのだろうか…。
何が起こるか分からない。
楽しみと同時に不安。
でも、今見ているこの未来では笑っていられますように。