「あ、ちょっと…」
屋敷の主人は思わず立ち上がって少女を止めようとしたが、少女は構わず歩き出す。
少女が向かう先には、奇妙な人影が立っていた。
…ぱっと見たところ、人影は少女と同じくらいの背丈だが、屋内なのに足元まである真っ黒な外套を着こんでいる。
外套についている頭巾で顔を隠しているのも相まって、豪奢な広間の中で”それ”は異質なものに見えた。
少女は人影の前まで来ると、後を追ってきた屋敷の主人の方を振り向く。
「こいつ…」
「えぇ、まぁ…知り合いから貰ったものなのですが…」
屋敷の主人は気まずそうに言う。
そう、と少女は呟くと、目の前の人影に向き直った。
そして、何を思ったかその頭巾に手を掛けた。
「…‼」
少女は一息に目の前の人影の頭巾を引き剥がした。
一瞬の内に、頭巾の下から少年とも少女ともつかない顔が現れた。
…”それ”は、突然の出来事に目を真ん丸にしている。
「…やっぱりね」
少女はニヤリと笑う。
「…こいつ、あの有名な魔術師―”ヴンダーリッヒ”の”使い魔”でしょう」
…はい、と屋敷の主人は小声で答える。
どうか貴方の記憶の片隅にでも、
貴方を想うことが生き甲斐だった私を、
遺して頂ければと思うのです。
なんちゃって。
私なんて、君の視界に入ったこともないだろうけど。
もっと側にいられたらなって
ずっと見ていられたらなって
君のたった一人でありたいって
思ってる今の私もいつかきっと
こんな恋もしてたなって
笑われる過去の私になるんだろな。
溜め息を音に変えて
こんな音も出るんだよ、
貴方が一緒に歩きだす
貴方の吐息で音が重なる
これ以上はなにもいらないから
ずっとそばに居る音で居て欲しいな。
Fine.
キニクワナイキニクワナイキレイナダケジャ
キニクワナイキニクワナイアジノシナイアイ
朝起きる 君はもう何も照らせない
日の光 青い空 白い雲は君の天敵
色白い裸足 ホントに何から何まで月みたい
日の当たる世界 うずくまって
また今日も夜が来るから 踊れ
可哀想だなんて誰にも言わせない
照らせ 輝いては
足掻け 喚け こんな嫌な世界
照らしてやんないんだから
何度も何度も屈折して
そっぽ向いたふりをして
月は雨なんて降らせないから