「あ、ちょっと…」
屋敷の主人は思わず立ち上がって少女を止めようとしたが、少女は構わず歩き出す。
少女が向かう先には、奇妙な人影が立っていた。
…ぱっと見たところ、人影は少女と同じくらいの背丈だが、屋内なのに足元まである真っ黒な外套を着こんでいる。
外套についている頭巾で顔を隠しているのも相まって、豪奢な広間の中で”それ”は異質なものに見えた。
少女は人影の前まで来ると、後を追ってきた屋敷の主人の方を振り向く。
「こいつ…」
「えぇ、まぁ…知り合いから貰ったものなのですが…」
屋敷の主人は気まずそうに言う。
そう、と少女は呟くと、目の前の人影に向き直った。
そして、何を思ったかその頭巾に手を掛けた。
「…‼」
少女は一息に目の前の人影の頭巾を引き剥がした。
一瞬の内に、頭巾の下から少年とも少女ともつかない顔が現れた。
…”それ”は、突然の出来事に目を真ん丸にしている。
「…やっぱりね」
少女はニヤリと笑う。
「…こいつ、あの有名な魔術師―”ヴンダーリッヒ”の”使い魔”でしょう」
…はい、と屋敷の主人は小声で答える。