人気のない野原にぽつんと生える大木の影、3つの人影が立っていた。
その内1つは木の根元で座り込んでいる。
「…」
せっかく外に出たのに日陰にいるルシファーを見ながら、アモンは呆れた顔をした。
「お前いつまでそこに座り込んでるんだよ」
そう言われてルシファーはちらとアモンの方に目を向ける。
「別に良いじゃん」
「ンな事言われても」
アモンはそう返したが、ルシファーは足元で動かない。
「…いくら襲撃が怖いからって、ずっと外に出ないのは問題あるだろ」
アモンにそう言われて、ルシファーはムッとした顔をする。
「わたしの過去なんかよく知らない癖に」
そう言われて、アモンはうぐっとうろたえた。
「どーせわたしが堕ちた経緯ぐらいしか知らないのでしょう」
それ以前にどんな暮らしを天上でしていたかなんてあなたは知らないだろうし、とルシファーは膝に顔を埋める。
アモンは微妙な顔をした。
確かにルシファーの言う通り、アモンはこの堕天使の過去をよく分かっていない。
せいぜい知っててここへやって来るまでのまでの経緯ぐらいだ。
「それでも…」
そう言いかけた時、その場から離れていたベリアルが小走りでこちらに戻ってきた。
「ぼす! ねぇあれ見て!」
ベリアルは慌てた様子で空を指さす。
空には白い鳥が何羽か飛んでいる。
「一体どうしたって言うんだ?」
アモンがそう聞いた時、ルシファーが何やら呟いた。
「…まずい」
「え?」
アモンが思わず聞き返したその時、上空から何かが降ってきた。
「⁈」
すんでの所で避けると、背後の木に無数の矢が刺さっていた。
「…おいおいマジかよ」
アモンは思わず呟く。
「逃げるよ」
いつの間にか立ち上がっていたルシファーはそう言った。
「…だな」
アモンは静かにうなずいた。
終わりを意識できないから
走りきってしまえ
そんなんじゃ辛いから
沈みながら笑みたまえ
あいみすゆー美味しそうなニオイ
あいらぶゆークサめのセリフ
あいにーでゅ依存してみたい
馬鹿みたいって言えるの
きっとまだ蜜を知らないから
他人の不幸は蜜の味
そんなにがっつかないことネ
口の端についた蜜を拭いもせず
夢中になるほど毒々なお味
あなたもきっと虜になるワ
何をしているの
何を考えているの
何も分からないから
想像するしかできないんだけど
一度だけでいいから
一瞬だけでいいから
………………………
天使の涙 悪魔の涙 堕天使の涙 人間の涙
それぞれ力や能力の差はあれど
決して無視してはならないだろう
そんなことがあれば 世界は均衡を失う
世界は混沌へ還る 世界は崩れ滅びゆく
その時 涙を拭い笑うのは誰なのだろうね?
今日もまた 高みの見物といこうじゃないか
「あなたは学校の屋上で桐谷さんと倒れているのを発見され3時間ほど眠り続けていたんです。」
もはやどんな言葉も雑音にしか感じられず、内容は微塵も入って来なかった。
“だって…俺はあの時…白い光に包まれて…”
しかしその光のあとの記憶がまったくなかった。
そうやって回想するのを医者と看護師は待っているようだったが、その沈黙を突き破るように喪黒の母が病室に乱入する。
「闇子!なんで人様に迷惑かけるの!」
問答無用の怒号が飛んだ。
わかりやすい恐怖を感じてるわけではないがひたすらに理不尽に晒されるのもここまでくると新手の悪夢である。
「まぁまぁ、お母さん、娘さんもおそらく倒れた衝撃で記憶が混濁しているのでしょうし、ここはひとつ我々にお任せいただけないでしょうか」
自分がその怒号の対象者であることすら忘れて完全な他人のヒステリーを見ている気分で、医者の対応に感心していた。
しかしその瞬間に当事者に引き戻される。
「すみません、先生、あんたも!頭下げなさい!」
「っつ…」
頭を捕まれ起き上がったばかりの体が強く曲げられた。
どうにかその場は収まる形に収まり、
その後俺、もとい、私は脳への影響の懸念からMRIなどの検査を受けて、1泊だけ入院し翌日、あのヒステリー母に連れられる形で退院した。
自分が別人になっているというこの状況は到底受け入れられるものではなかった、それでも、形はどうあれ生きられただけでも良かったと思うことにすることでどうにかやり過ごした…つもりだった。
しかし、次の日学校に行くとそこには
いつもと変わらない生活を送る俺の姿があった。
“あれは…一体…誰なんだ?”
to be continued…
新快速の通過に
ぼーっとしてた心が破られて
意味もなく見つめていた
ローファーが照れる、と呟く
ふと見上げた大空に
泳ぐ雲たちと目が合って
はためいたスカートが
青い春を連れてくる。