「中々戻って来ないから探したよ」
坂辺さんはそう言いながらこちらへ近付いてくる。
「…あ、ごめん」
トイレが見つからなくて…とわたしは苦笑した。
「そんな事は良いから」
早く行こ?と坂辺さんはわたしの腕を掴む。
「え、ちょっと」
トイレは…とわたしは戸惑う。
「わたし、不見崎さんと一緒にいたいの」
…駄目かな、と坂辺さんはわたしの腕を握りしめた。
「一緒にって…」
わたしが困り顔で言った時、不思議な事が起こった。
背後の壁から突然、少女が飛び込んできたのだ。
「⁈」
飛び込んできた少女は着地するとこちらへ目を向ける。
「…ネロ⁈」
わたしは思わず声を上げる。
「何だよ、アンタ」
ネロは訝し気な顔をする。
…………さて。
俺は今まさに学校から帰ろうとしているわけなんだが。
今日は部活があったから、帰りがそれなりに遅くなってるわけなんだよ。
で、部室の位置と昇降口の位置を鑑みるに、今まさに俺がいる西階段を降りるのが一番手っ取り早いわけなんだ。
……そして今、ちょうど鏡のかかった踊り場で、昨日あいつから聞いた怪談を思い出してしまった。
「…………まあ、一応。一応、確認ってことで」
スマートフォンで時間を見てみる。18時5分。ギリギリセーフ。
あいつめ、脅かしやがって。そう思いながら再び鏡に目をやった。
鏡に映った俺が、にやりと笑った。現実の俺は異常事態に歯を食い縛っているというのに。
鏡に映った俺が、腕をゆっくりと上げ始めた。現実の俺は何もできず腕を垂らしているというのに。
鏡に映った俺が、鏡面の境界をすり抜けてこっちに腕を伸ばしてきた。現実の俺は……とか言ってる場合じゃねえ!
そう頭では分かっていても、戦場暮らしだったわけでも無い人間が咄嗟に動ける訳も無い。腕はすごいスピードでこっちに迫ってくる。
しかし、鏡像の俺の手が俺の首に届くより前に、現実の俺がそれから逃げようと動こうとするより前に、背後から誰かに足払いを受け、派手にすッ転んでしまった。鏡像の腕は空を切り、現実の俺はそのまま階段を転げ落ちていく。
「……痛え…………」
「やあ、生きてるね。それは良かった。お礼を言ってくれても良いんだよ?」
この声は……。
「……なんでここにいるんだ」
このクソッたれの怪談を俺に教えた、我が幼馴染じゃないか。何だかんだで救われたが、それはそれとして許せねえ。
「不法侵入してきた。堂々としてればバレないもんだね」
「大体、俺がこんな目に遭ってるのはお前があんな話したせいだぞ。どうしてくれるんだ」
「どうもしないよ。まぁ、とりあえずは逃げようじゃないか。付き添いぐらいならするよ?」
「そりゃどーも」
階段を安全に歩いて降りてきたあいつに手を貸してもらい立ち上がり、とにかくこの校舎を脱出するために、階段を更に降り始めた。
ダメだ・・・
私は勝てないみたい
チョコレートの甘い誘惑に
だって大好きなんだもん