「…なんなのよ、あなた達」
不意にすみれがそう言ったので、ピスケスはぴたと足を止めた。
「学会の差し金?」
それとも…とすみれが言いかけた所で、ピスケスは振り向いた。
「私達はただの人工精霊の集団よ」
学会の差し金なんかじゃないわ、とピスケスは言う。
「何よそれ」
意味が分からない、とすみれはこぼす。
ピスケスはふふと笑った。
「まぁ人間には分からないでしょうね」
人工精霊の集団なんて、とピスケスは続ける。
「でも良いじゃない」
そういうのがいたって、とピスケスはまた歩みを進めた。
「私達はそういう“存在”だもの」
ピスケスはそう言って部屋の外へ出た。
「帰るわよ」
ピスケスがそう呼びかけて、ナツィは慌てて立ち上がる。
そして部屋の外に出ていった。
このメッキが剥がれるまで私は演じるの
あなたを愛しているのは本当
でもね信じきれてないのよ
まだまだ足掻かせて
余裕のある私でいさせて
騙されていて
映画みたいに
たった一人から愛されて
たった一人を私は愛する。
笑顔も涙も半分こで
月一くらいで軽い喧嘩を。
2日後にはそんなこと忘れて
一緒にテレビを観て笑いあう。
お互いに傷を庇いあって
慰めあって
世界のひだまりみたいな生き方をする。
「ありがとう」と「ごめんなさい」は
何気なく二人の日常を行き交う。
「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」は
何気なく二人の日常を彩る。
そんな出会いを、まだ知らずに
今日も私は眠りにつく。
「おはよう」
振り返ると君がいる。
おはよ、と返しつつスマホの画面を君に向ける。
「俺の好きなバンドじゃん!知ってるの?」
当たり前でしょ、すすめてきたのは君なんだから。
知ってるよ、と何もなかったように話すけど
つまりは、あの日の会話は忘れられている訳で。
少しだけ、ほんの少しだけ、寂しくなる。
「あぁ!ツアー情報出たんだよね!!!」
分かりやすく高揚する君を愛しく思う。
愛しい、なんて言うと好きな人みたいだけど
いやいや、彼のことは好きだけど、
なんか、そういうのじゃないんだよなあ。
「え、え、いつがいい?」
唐突な君の言葉にえっ、と言葉に詰まる。
一緒に行くの?と可愛げのない返しをする。
「え、行こうよ!」
君のそのありすぎる行動力が苦手という人もいると思うし、正直始めは僕もドン引きだったんだけど。
その行動力に、あの時の僕は救われたから。
溢れるワクワクを抑えるように
チケット、当たるといいけど
って口を尖らせてみた。
「神社通うわ!毎日!!!」
わけのわからない返しをしてきた君と
大好きなバンドのライブへ行って
それがきっかけで音楽にのめり込んで
僕ら2人がギターを持って、ステージに立つのは
もう少し先のお話。
苦しいときは一緒に泣こう
楽しいときは一緒に笑おう
どうかお願いです
あなたを守る盾にならせてください
人型から剥ぎ取った霊体組織を齧りながら、月は人型から示された道を進んでいた。
「うん……食感は良い……けど味は薄すぎるし、何より量が足りない……」
自分の目方の半分程度はある霊体をみるみるうちに腹に収め、最後の一かけらを飲み込む頃、漸く目的地に到着した。
「おー……おっきい家」
固く閉ざされた門を蹴り、施錠を確認してからその上を軽々と跳び越え、前庭に蔓延る雑草を枯れ朽ちさせながら進み、ほぼ何の障害も無く母屋に到着した。
「ノックしてもしもーし。ヤバいのがいるってんでご相伴に与りにきましたー」
引き戸の入り口もまた当然のように施錠されており、月はそれを蹴破って屋内に侵入した。
屋内には幼い少女のすすり泣く声が響き渡っており、月はその音源を探して屋内をしばらく歩き回る。
「ん、ここか。トツゲキー」
やがて音源たる一室を発見した月が、現在彼女が居る廊下と室内を隔てる襖戸を蹴破ると、30畳ほどの広間の中央付近で幼子らしき人影が入り口に背を向けて蹲っていた。先ほどから聞こえてきている泣き声は、その人影から発されているようである。
「……擬餌よ、一つ教えておくと」
月は一足に人影の背後まで跳び、それが振り向く前に頭部らしき部位を捕え、床面に叩きつけ取り押さえた。
「今どき、廃墟で泣き声が聞こえて心配して近付くような奴などいないぞ」
馬鹿も大概にしてほしい。
そろそろウザい。
ほら、周りを見てごらん。
笑っているのはあんただけ。
冷たい視線、白けた視線。
なんでかわかる?わかんないよね。
わかんないならいいよ、知らなくていいよ。
優しさじゃないよ、許しじゃないよ。
あんたに対する、諦めだよ。
傷付いた私に与えられた力
あなたがくれた叶う力
その真意は計り知れないものだった
叶う力の言わんとすること、その力を起こしたことでなにを学んでいくか、叶う力は私にそれをお教えて下さっているのかもしれない
人々の為になにが出来るか、この星達、宇宙に救われた私の命は、創造者にどんな恩返しが出来るか、そのようなことを毎日考えています