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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 15.オーベロン ⑨

それから約30分後。
わたし達4人はクレーンゲームの台の前でネロを待っていた。
「…ネロ、戻ってこないな」
「だな」
「うん」
耀平の呟きに対し、師郎とわたしはそう返す。
「アイツ、ホントにトイレに行ったのかな」
耀平が不意にこぼした。
「どうして?」
わたしが思わず尋ねると、耀平はこう返す。
「いや、ネロってたまに黙ってどっか行っちゃう事があるからさ」
7月に新寿々谷に行った時とか、と耀平は付け足す。
「だから今回もそうなのかなって」
耀平はそう言って腕を組む。
「…それで、どうする?」
耀平、と師郎が彼に聞く。
「うーん、そりゃ…」
探しに行くだろ、と耀平は笑う。
「だよな」
そう言って師郎も笑う。
「じゃあ、行こうかね」
そう言って耀平は両目を光らせ歩き出す。
わたし達3人も歩き出した。

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エンドロールを告げる言葉 1

「....はぁ」
私の身長より何倍も大きな門を、今まで何回くぐったのだろう。
あの日、重かった足は、今でも重いままだ。
....こうやって足掻いても、どうにもならないんだ。
私はそう覚悟して、ゆっくりと下駄箱へ歩き出した。


風で飛ばされた桜の花びらが、自慢のストレートヘアー
にかかる。
……邪魔だな、桜なんて。
桜なんて、私の首を絞める紐だ。
それをはらって、私は靴を履き替えた。

階段を上って、廊下を歩く。
そこには、いつも通りの景色が広がっていた。
通り過ぎる教室の扉から、たまに生徒が出てくる。
生徒たちは私をまじまじと見つめて、小さく黄色い歓声をあげた。
……はぁ。面倒くさい。
いつも通り教室に入って、いつも通り黙って席に着く。
私の席は、一年中サボり席。
3年生になってから、一度も変わらなかった。
教室の景色は、いつも通り虹色。
涙ぐむ人、「もう最後だし!」と馬鹿みたいに笑い合う人、卒アルを交換して、熱心に寄せ書きを書く人。
私は、その中の何色にも染まらない、通称「一匹狼」。
つまらなくなって、私は窓の外に目をやった。


目の前には、この学校一大きな、桜の木がある。
枝には沢山の花が咲いていて、もうじきにすずめがやってきそうだ。
……この木を見ていると、貴方を思い出すよ。
ふと、一人の笑顔が、脳裏をよぎった。
爽やかな笑顔。綺麗な二重。天使の輪ができた髪。
貴方は、いつも真っ先に私に話しかけてくれたよね。
女子の黄色い悲鳴を、堂々と無視して、いつも。
だから、あの日、この席で「好きだよ」と私に告げてけれたことが、何よりも嬉しかったこと。貴方は知らないでしょう?
ぽたり、ぽたりと零れていく、大粒の雫(なみだ)。
どんどんと落ちては、窓際に置いてあった、透明のキューブに染み込んでゆく。
中では、貴方がくれた桜の花びらが、いつまでも輝いている。
私はキューブを手に取って、胸の前で握りしめた。
……貴方の声が、聞こえる。