誰よりも自分に厳しくて
誰よりも人に優しい君に
僕が魔法をかけてあげる
痛いのがふわっと消えるよ
やわらかく君を包むよ
僕の魔法はとってもよく効くんだ
幸せがきっと君に訪れる
とびきりのおまじない
「…ですってよ」
通信機の向こうから聞こえるアカネの声を聞いて、レンガ造りの建物の屋根上に座り込むヘッドドレスを身に付けた少女が、隣に座るギリギリ結べる長さの髪を結わいたメガネの少年に目を向ける。
「トウカは見つかったけど、やっぱり襲われちゃったみたい」
今はアイと逃走中ですって、とヘッドドレスを付けた少女は笑う。
「いいわねぇトウカと2人っきりなんて」
「そんなこと言ってる場合ですか」
トウカさんが襲撃されたんですよ、とメガネの少年は立ち上がる。
「よくあることとは言え、緊急事態であることには変わりありません」
僕たちも行きましょう、とメガネの少年はヘッドドレスを付けた少女に目を向ける。
「…もう、“ミドリ”ったら真面目ねぇ」
ヘッドドレスを付けた少女はそう言って微笑む。
「いつも“シオン”がふわふわしているからですよ」
“ミドリ”は“シオン”に冷ややかな目を向けると街中を見下ろす。
そこには黒服に覆面姿のいかにも怪しげな人物が走っていた。
「あら、あの人かしら」
トウカを襲ったのは、とシオンは指さす。
「銃器を持ってますし、そうでしょうね」
さっさと始末しなければ、とミドリは腰に帯びたレイピアに手をかける。
「いつも通り、相手が死なない程度にするのよ」
シオンがそう言うと、分かってますとミドリは言って屋根の上から飛び降りた。
レンガ造りの街の片隅にて。
黒服に覆面姿の人物たちが、銃器片手に走っている。
「マズいぞ」
「奴らに見つかった!」
そう口々に呟きながら覆面を投げ捨てた所で、道の角から眼帯姿の少年が現れた。
「!」
黒服の人物たちは驚いて立ち止まる。
「なんだおま…」
黒服の人物たちの内の1人がそう言いかけた時、背後から銃声が聞こえた。
黒服の人物たちが振り向く間もなく、その内の1人がゴム弾で撃たれて倒れる。
「⁈」
仲間たちが倒れた者に気を取られている隙に、眼帯の少年は腰に帯びた長剣を手に持つと無言で黒服の人物たちに向かって走り出した。
「なっ!」
黒服の人物たちは銃器を構えようとしたが、その暇もなく少年に鞘に納まったままの剣で急所を突かれる。
慣れ親しんだ都を離れ南に向かう前夜、荷造りをしているとスマホに写真が届く。
思わず「いや〜懐かしいなぁ」と笑うと嫁が「何?昔のお友達?」と訊いてきたので「そうだね。君に恋してすぐ,受験に失敗してフィリピンへ留学行ったことがあるんだ。その時の日本人の同級生からね。皆俺と同じで当時は18、19の年でしかも皆首都圏出身でさらに着いた日が1番早い奴が1人,その1週間後に俺ともう1人,そして俺達の翌週に色々あって他の学校に途中で移った奴が着いた。俺と先に来てた奴が同じコースでクラスメイトになりその後2人も合流して歳の近い男4人仲良くなった。一番最後に着いた奴が相性良くて休みの日はいつも一緒だったんだ。ソイツが初めての休み、向こうじゃもう酒呑める歳ってことで近所のバーに連れて行ってもらう筈の先輩に置いて行かれて俺と2人翌日呑み行ったのから始まり、2人でサンセットクルーズツアーに行き引率のスタッフで日韓両語に堪能な人が主催者含めほとんど韓国人ということで韓国語で説明したのをハーフでどちらも分かる俺が同時通訳して通訳いらなくしたり、3タテ不幸4連発事件を目撃させちゃったこともあったな。先生の異動で俺達のキャンパスに集まっていた先生がもう一つの方に行ってしまって枠が残ってなかったソイツは他の学校に行ったんだ。でも,関東4人組の帰国のタイミングが同じことを知って送別会に誘ってその思い出のバーで集合したんだ。そしたら、同じタイミングで帰る日本人が大勢いてみんなで飲みながらその日のナイターの経過を話し合っていたんだ。すると、遅れて合流してきたその別の学校にいた奴が着いた瞬間、巨人はサヨナラホームランで試合終了となり興奮して追加のボトル5本1人で空けてサービスで出た強めのカクテルも飲み干したんだ。その寮で過ごす最後の夜だったし俺以外の3人は皆日付変わってすぐの便で帰国だったから俺が校門前でみんなを見送り、中東の学生と紅茶飲んでデーツ食べて月を見ながら語り明かした。コース違いで接点がなかった日本のJDもその話に交じってたんだけどその人が撮ったその晩の写真が他の3人に来て俺に回ったらしいな」と答えると「思い出話、明日の夜聞かせてよ」と返ってきたので無言で頷く。
そしてベランダへ行き当時と同様に唱歌『ふるさと』の一節を口ずさむ。
当時の晩と同じ、十三夜の朧月が濡れて滲んで見えていた。
Your actions made the matter worse and worse.
完全に心が離れてる。
あんなに近かったのに。
私がそうした?
誰かを傷つけた分、自分に返ってくるもんね。
Did I make the matter worse and worse?
あなたを何かの拍子に思い出すたびにため息が出る。
なんで壊したの。って。
かつ、
私がこの結果を招いたんだ。って。
何が正解?
わかんないね。
私たちにあるのは迷う権利だけ、か…
わかってる。
ちゃんと向き合うよ。
逃げちゃいけないよね。
一度考えたこともあったんだけど、
ため息をつくたびに確信する。
私の中のあなたはあれ以上でも以下でもない。って。
頑張れ私。
きっとできるよ。