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緋い魔女と黒い蝶 Act 2

「久しぶりじゃない」
少女が彼らに近付きながらそう言うと、黒髪の少年は小さく手を振る。
「よぉ、“グレートヒェン”」
元気だったか?と少年は赤毛の少女こと“グレートヒェン”に笑いかける。
「まぁそこそこね」
それよりも“ヨハン”、貴方も来てたのねとグレートヒェンも微笑む。
「そりゃそうさ」
僕も脱走ホムンクルスの捕獲を依頼されたのさ、と“ヨハン”と呼ばれた少年は得意げに言った。
「にしてもグレートヒェン」
ふと思い出したようにヨハンは黒い人物に目を向ける。
「ソイツが噂の…」
「そうよ」
ヨハンに言われてグレートヒェンは黒い人物の方を見る。
「こいつは“ナハツェーラー”」
この間の依頼の報酬でもらったの、とグレートヒェンは“ナハツェーラー”が被る頭巾を取る。
ナハツェーラーは頭巾を取られないよう抵抗したが、それも虚しく顔を出さざるを得なくなってしまった。

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Trans Far East Travelogue56

小山の駅に着いてドアが開いたら、俺が嫁の前に出てコンコースに繋がる階段を駆け上がる。
なぜなら、大回りでは基本的にお世話になる駅であり俺は両毛線前橋方面、宇都宮線大宮方面,水戸線友部方面と大回りで行くことのできる全方向に向かうルートで利用したことがあるため、必然的に駅構内の構造は分かっているためだ。
俺は栃木名物レモン牛乳の中毒性を知っているため,何を血迷ったか売り場にある分はパックの大小を問わず全て買い占めることにした。
金額は見事に5桁を突破したが嫁と割り勘にしたことでなんとか特急券代は2人分確保できたので水戸線勝田行きに乗り換える。
お馴染みE531系の運用で,帰宅ラッシュになりそうなタイミングでボックスシートが1区画だけ空いていたのでそこに座って友部まで乗ることにした。
九州では栃木名物は中々売られていないため馴染みがないのか,嫁は「これ,本当においしいの?」と疑っていたが,一口飲んだ瞬間「どこか懐かしい味がするんだけど。どうしよう,いくらでも飲めるよ」と言ってかつての俺と同様すぐにレモン牛乳の虜になってしまい,それを見て自然と出てきた「飲み過ぎじゃねえのか?やべえよ」という俺の独り言に反応してストローから口を離して「私,そんな食い意地張ってないもん」と言い頬を膨らませているが,まだ電車は最初の停車駅に着いていないのにもう大きなパックが三つ分空になっているので説得力が無い。
何を隠そう,これはかつてセブで俺の送別会をやってもらっている時に日本で同じ時間に行われていた試合でとある控え選手が順位が上で試合で中々勝てない苦手チームを相手に延長10回にサヨナラホームランを打ってくれたことに興奮して一気に酒を飲みまくった時よりもこの嫁のレモン牛乳大飲みの方がハイペースなのに気付いて「おいおい…これ,セブの時の俺よりペース早いぞ」と言って苦笑いを浮かべると「どうしたの?なんでそんなに驚いてるの?」と嫁が訊いてくるので「流石の俺でもそんなにハイペースでは飲めないよ。というか、1分で300ミリって頭おかしいでしょwまだ発車してから五分も経ってないのに500ミリパック3つも空けるのは流石に凄いよ」と言って笑ってると
漸く最初の停車駅,小田林に着いた。
「俺の分、残ってるといいなぁ」という悲壮感漂うつぶやきを乗せたローカル線の電車は夕暮れの茨城県を駆け抜ける。

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教会輝譚スパークラー:プロフェッサーよ手を伸ばせ その⑧

ドローンから聞こえる明晶の指示に従い、剛将と花は脱出のため走り続けた。しかしその足は目の前に現れた大型のカゲに妨げられて止まってしまう。
『お、なかなか大きいのが出たねぇ。君ら、こいつのことは知ってる?』
明晶の問いかけに答えたのは花だった。
「いいえ、初めて見る型です。STIで教えてもらった中にも、こんなのは無かったはずです」
『そっか、それならワタシが勝手に命名しよう。ソレの名前は“ハイドラ”だ』
『”ハイドラ”ぁ? ダゴンじゃ駄目なのか?』
吉代の反応に、明晶はケラケラと笑って答えた。
『だってダゴンの方はちょっと好きなんだもん。そのまま名前使うのは申し訳なくない?』
『知らん』
『っと、今はハイドラだったね。ハナちゃんは足止めを頑張って。ゴーショウくん、ドローンの下にケースがくっついてると思うんだよ。それを開けておくれ』
「あ、はい」
剛将がそれに従いケースを開けると、中には緩衝材に埋もれてガラス製のアンプルが数本並べられていた。
「これは?」
『まあざっくり言うと、光の力を濃縮した燃料だね。義腕の手の甲を開けて、アンプルを中に差し込んで。細い方から入れるんだよ』
「開けるってどうやって」
『開けーって念じたら開くから』
「……あ、本当だ」
アンプルを義腕に差し込むと、手の甲の機構は再び閉じ、鈑金が一瞬大きくほどけ、すぐに元の腕の形に落ち着いた。
『これから使う技は、光の力をかなり消耗する。君の光の力じゃそう気軽に使えるモノじゃないからねぇ。ついでに近接戦にもっていかなきゃならないから覚悟しておいて。さあハナちゃん、一度退いて』
「あ、はい」
花が銃撃を止めて剛将の陰に隠れ、それに続いて剛将はハイドラに向けて飛び出した。